期待のネット新技術
10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年6月16日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
前回紹介したように、10GBASEで使われているトランシーバーモジュールの規格は、XENPAK→X2→XFP→SFP+の順で利用された。今回はその後編となる。
10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」はZENPAKやX2から小型化
XFPの機械的形状は、前回も掲載した右の図に示した通り、モジュールをケージアセンブリーに装着。そこにヒートシンクが装着されるかたちとなる。モジュール寸法は48~71.1×18.35×8.5mmと、ZENPAKやX2と比較して一回り小さい。
重量に関しては特に規定はなく、実際市販されている製品でもほとんどが数十gで、100gを超えるものはそう多くない。もっとも前回も紹介した「XFP Twinax Cable」」といった製品のように、ケーブルとモジュールを一体化して提供される製品も少なくなかったので、重量への規定はあまり意味がないのかもしれない。
一見すると簡単に着脱できそうな構成で、ZENPAKやX2とは異なりフロントパネルへのねじ止めもできないため、すぐ抜けてしまう心配がある。だが、内部にはラッチ機構が設けられている。その部分は少し凹んでおり、ケージ側から爪(というかラッチ)がせり出すかたちで緩み止めとなる仕組みだ。ラッチは6Nの力が掛かると外れるようになっている。
さて「XFP MSA」であるが、2003年に「XFP Revision 3.1 Adapted Revision」をリリースしており、2004年4月13日に「Revision 4.0」、2005年8月31日に「Revision 4.5」がリリースされている。
ただ、XFP MSAとしての活動は、どうもこのRevision 4.5をリリースした2005年8月が最後のもののようだ。XFP MSAのプレスリリースは2002年に3本出されたにとどまっており、XFP MSAのサイトでも、配布されているのはRevision 3.1までである(ウェブサイト自体は2009年まで存続していた)。もっとも、3.0以降の変更は以下のようなもので、あまり大きな変更はない。
- 3.0 Adapted Specification
(合意された正式版) - 3.1 Modified Copyright Statement
(コピーライト表示のみ修正) - 4.0 Updated CRC R/W, Updated Designations, and Updated Registers Nomenclature
(若干の仕様の修正と不明確な点の明示化) - 4.1 I2C Errata,S-parameters adjustment,Annex E3,Correcting mixed mode equation of Annex C4, Annex for BER 1E-15, address role over
(仕様の誤りの修正) - 4.5 Non-EQJ Jitter definition, Annex E3, and Bail Color.
(不明確な点の明示化)
そして、4.0以降のリリースについては、XFP MSAではなくSFF Committee(その後にSFF-SIGとなり、現在はSNIAに統合されている)が配布を行うこととなり、これにあたって「INF-8077i」というドキュメント番号も付いた。
仕様の策定はあくまでもXFP MSAが行い、SFF Committeeは配布を行うだけ、というかたちではあったが、要するにXFP MSAが店じまいするので、ドキュメントの配布をほかに任せた、というのが正確なところではないかと思う。最新版となるRevision 4.5は、SNIAの「SFF Specifications」から入手可能だ。
20ピンコネクタを維持しながら10Gbpsに対応した「SFP+」、XFPを置き換え
続く「SFP+(Small Formfactor Plugglable Plus)」は、XFPを次第に置き換えていった規格であり、現在も広く使われている。このSFP+は、やはりSFF Committeeの「SFF-8431」として、まず2006年6月に「Public Draft Revision 1.0」がリリースされ、最終的に標準化が完了した「Revision 4.1」が2009年7月に発表された。その後「Revision 4.1 Addendum」が2013年9月に追加されている。
SFP+の仕様策定を行ったのはSFF Committee自身だ。その仕様策定に関わったメンバー企業には、AMCC、Amphenol、Arista Networks、Avago、Broadcom、Cinch、Clariphy、Cortina Systems、EMC、Emulex、ETRI、Finisar、Foxconn、Fujitsu CPA、Hewlett Packard、Hitachi GST、JDS Uniphase、Luxtera、Molex、NetLogic uSyst、OpNext、Panduit、Picolight、QLogic、Samsung、Sumitomo、Sun Microsystems、Tyco、Vitesse Semiconductor、W.L.Goreといったメーカーが名前を連ねている。
ちなみにSFF-8431はあくまでもモジュールの機械/電気的特性を定めた規格であり、これとは別に「SFF-8472」としてSFP+の管理用インターフェースに関する定義が定められており、この両方の仕様を満たす必要がある。
さて、SFP+と書くからには、その元になるSFPについては、以前に本連載の『10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで』で紹介したとおりだ。
その仕様によれば、サイズは56.5×13.7×8.6mm(ちなみにケージへの挿入部分は45×13.7×8.6mm)と、XFPよりややスリムな程度だ。電気的なインターフェースは、100MbpsではRMIIを、1GbpsではSGMIIを利用しているが、これによって20ピンコネクタを維持しながら、1GbpsのEthernetを利用可能としている。
SFP+は、このSFPモジュールと互換性を保ちながら、10Gbpsを通せるように工夫した規格ということになる。ZENPAK/X2/XFPはいずれも独自規格で、既存の100M/1Gのトランシーバーとは互換性がなかった。ここに互換性を持たせることで、エンドユーザーの利便性を図ろうというわけだ。
なので、機械的形状とコネクタ配置はSFPと同じままで、通す信号だけがSFIとなった。SFIというのは“ホストとSFP+モジュールの間を繋ぐ高速信号の名称”と、SFF-8431では定義されているが、要するにXFIのことだ。
SFIは、FR4基板の上で最大300mm程度引っ張り回せるインピーダンス100Ωの信号であり、電気的特性はXFIと事実上同じだ。XFIはXFPの用語であって、SFP+としては自身でもう一度定義し直す必要があったため、SFIという名前にしたというところだろうか。
幸いだったのは、XFPのお陰でXFIを利用してのモジュールに関して、メーカーなどには既に一定の知見が蓄積されていたことで、これもあってSFP+の開発はそれほど難しくなかったようだ。
もっとも、例えばスイッチを開発しているメーカーは、SGMIIとXFI(と、必要ならさらにRGMII)の信号を、装着されたトランシーバーに応じて切り替える機構が必要となるので、単にモジュールだけ作ればいいというわけではない。このため、必ずしも楽に移行できたということでもないだろう。
XFPに比べ、さらに厳しかったのは消費電力だ。「Power Level I Module」と「Power Level II Module」の2つあり、前者は1W、後者は1.5Wでしかない。実はもうこの時点で、2009年当時の10GBASE-Tモジュールは、コントローラーだけで2~3W消費するために全滅なのだが、逆に光モジュールに関しては、これで対応できると判断されたようだ。
10GBASE-CXをSFP+で扱う「10GSFP+CU」、消費電力減が実現しつつある10GBASE-T普及までの中継ぎに
余談になるが、このSFP+はまだDraftの段階で“10GSFP+CU”がオプションで追加された。『同軸ベースの「10GBASE-CX4」、SFP採用の「10GSFP+CU」が先んじて普及』で紹介した、10GBASE-CXをSFP+で扱うためのものである。
これは、SFF-8431のAppendix Eに収められているが、2007年8月に発行された「Revision 2.1」では、まだAppendix Eそのものが空白であり、2007年12月の「Revision 2.2」である程度まで追加され、2008年5月の「Revision 3.0」でブラッシュアップされた。
以前の記事では「実は2008年の終わりから2009年にかけ、いくつかのベンダーは10GBASE-T対応製品を中止あるいは凍結し、代わりに10GSFP+CUでの製品提供をアナウンスし始めた」と書いたが、これはこのRevision 3.0をベースにしたものだった。これが普及したことで、10GBASE-Tの普及までの中継ぎとして、10GBASE-CXが利用できるようになったことは大きな功績ではないかと思う。
もう1つ余談を書いておくと、最近、10GBASE-Tコントローラーの消費電力が下がったことで、SFP+モジュールに収まるものが出てきたが、その中には2.5GBASE-T/5GBASE-Tにも対応した製品がある(例えばMikrotikの「S+RJ10」)。
この場合、SFIのスピードを落とさないと帳尻が合わないことになるが、少なくともSFF-8431には、今のところそうしたオプションがない(Appendix Fで1.25GBd Optionは追加されているが、これだと性能的にマッチしない)。
当面は特定メーカーの独自規格として提供される(から対応できるスイッチも限られる)というかたちになりそうだが、その2.5GBASE-Tや5GBASE-Tは、特にWi-Fi 6/6Eのアクセスポイント向けに急速に普及を始めており、そろそろ何かありそうな気もする。
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