期待のネット新技術
200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年7月27日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
100G×8での送受信はOK、200G×8の1.6Tや、200G×4の800Gには問題が山積み
前回に続いて、「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group」の動向を見ていこう。1月のミーティングにおいて、200Gの光では、2km以内なら800Gは堅いとしつつ、1.6Tが"Uncertain"となっている。
これは、「とりあえず」100G×8構成を取れば、800Gは確実にDirect Detection、つまりNRZなりPAM変調なりで送受信できる一方で、200G×8の1.6T(または200G×4の800G)に関しては、そもそもDirect Detectionができるかどうかも現時点では怪しい、としているわけだ。
コヒーレントは、到達距離が10km以上になるとますます増えており、1.6Tや200G×4の800Gでは、ひょっとするとコヒーレントで通信することになるかも、とStudy Groupも半ば覚悟をしはじめているように見える。
コヒーレント光を使った通信は400ZRで採用されている。『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』で簡単に説明したように、性能面でのヘッドルームは十分あるものの、送受信モジュールが高コストになる点が大きな問題となる。
このコストを、現在のVCSELベースの光モジュール並みに下げられれば、一気にコヒーレントへ雪崩を打って移行するのだろうが、全くそれどころではなく、まだ桁が違うレベルというあたりが難しいところだ。それも歯切れが悪い表現につながっている。
PAM6では1回の転送が2.5bit相当に
この状況は2月になっても変わらず、いくつかプレゼンテーションは示されたものの、本質的にはここまで説明してきた内容の繰り返しに終始した。これが多少変わったのは、オンラインで合計4回開催された3月のミーティングである。トータルで16ものプレゼンテーションが公開されたうち、いくつかの興味あるものが示されたので紹介しよう。
まずはGoogleのCedric Lam/Xiang zhou/Hong Liu氏による"200G per Lane for beyond 400GbE"。前半は100G×8ではなく200G×4の構成の必要性をマーケットデータから説明する内容であるが、後半は"200G Optical Lane Technical Feasibilities"として、実際に200GのOpticalが可能なのか、その技術的な妥当性が検証されている。
以下の表は100Gと200Gのレーンの違いで、PAM4を維持したまま200Gへ引き上げるとどうなるかを示したものだ。FECとDSPに余分な電力が必要になり、到達距離は1km未満になるとしている。
その上で、PAM4と、6値の変調で信号を6段階に変化させるPAM6を比較したのが以下だ。1回の転送では2bit(2.58bit)相当にしかならないが、2回の転送なら6^2=36なので5bit(5.17bit)相当になる。つまり3回であれば7bit(7.75bit)、4回なら10bit(10.34bit)...と、何回かの転送をまとめて処理すれば、転送回数のおよそ2.5倍のデータを転送でき、おおむね1回の転送が2.5bit相当となる仕組みだ。
これによるメリットは、転送レートそのものを減らせることになる。上の表でも、Baud rateはPAM4の113Gbaudに対し、PAM6は90Gbaudと、25%ほど下がることになる。PAM4をPAM6とすると、マージンが減る分、50~55GHz BWでのSensitivity Penaltyはむしろ増えているが、その一方で45GHzであれば、マージン減少によるペナルティよりも、転送レートを減らすことによるマージン増加が上回るようで、PAM4に比べて1.6dBも改善する計算となっている。
PAM4/PAM6で200Gを送受信できるのは1ベンダーの試作品のみ今後2年間の特性改良で3ベンダーに?
Googleは実際に、送受信に利用するコンポーネントに関し、3~5のベンダーから見積もりを取り、その結果をまとめている。比較対象は以下の6項目だ。
- InP EML(Indium Phosphide Electro-absorption Modulator Laser)
リン化インジウム利用の電界吸収型変調器レーザー - InP EMLドライバー
InP EML素子のドライバー - SiPh-MZM(Silicon Photonics Mach-Zehnder Modulators)
シリコンフォトニクス利用のマッハツェンダー型変調器 - SiPh-MZMドライバー
SiPh-MZM素子のドライバー - PD+TIA(Photo Detector+Transimpedance Amplifiers)
光受光素子+フォトダイオード電流を電圧に変換するコンバーター - CMOS DAC and ADC
送信側の光源として、「InP EML」と「SiPh-MZM」の2つが並んでいるのは、現時点ではまだどちらをできるか見極められていないためだろう。各項目で要求は異なるものの、その結果をまとめたのが以下の表だ。
表を分かりやすくまとめてみたのが以下となる。
現時点でプロトタイプが条件を満たすベンダー数 | 2年後に要求を満たしそうなベンダー数 | |
InP EML | 1 | 2 |
InP EMLドライバー | 1 | 3 |
SiPh-MZM | 1 | 2 |
SiPh-MZMドライバー | 3 | 4 |
PD+TIA | 1 | 3 |
CMOS DAC and ADC | 3(5nm)※ |
※3nmは消費電力の観点では要求を満たすが、速度性能は未判断
つまり現状では、1~2社の最新の試作品だけが辛うじてPAM4ないしPAM6での200Gの送受信が可能なレベルであるが、今後2年間で特性が改良され、3社以上から量産品が入手可能になる「らしい」というのが、Googleによる想定となるわけだ。
到達距離500mの「DR4」と1kmの「CWDM4」も2023年に活用可能に?
これを到達距離が500mの「DR4」と1kmの「CWDM4」の2種類を想定し、当てはめてみたのが以下の表だ。
量産品を使う限り現時点では全く無理で、試作品レベルであれば辛うじてというものだが、2023年まで待てば、これらの要素が揃う見込み、というのがGoogleの結論だ。
そして、似たようなレポートは、光学材料や半導体のベンダーであるII-VIに所属するVipul Bhatt氏の"Optical PMD Considerations for 200G Lanes"でもみられた。氏のレポートによれば、PAM6/PAM8には不利な点も多く、「帯域的に許されるのであれば」PAM4のままの方が有利とした上で、EML素子であれば60GHzを過ぎても-3dBを維持可能であり、若干のバイアス制御を行う程度で利用可能としている。
DMLについても、II-VIでは75GHzを超えるModulation Bandwidthを持つ素子を既に試作しており、バイアス制御を行うことで、40~70GHzにおける特性を改善できるとしている。
一方、PDは現時点で既に供給可能な状態であり、TIAやドライバーについても実現可能性に目途が付いているとされ、2023年あたりには量産品が提供されそうな勢いである。
II-VIによるレポートは、あくまでもII-VIが提供する製品の話なので、これを当てにして仕様を策定してしまうと、II-VIの素子しか使えなくなってしまうことになるので、これはこれで問題なのだが、Googleのプレゼンテーションには複数ベンダー(II-VIも間違いなくこのうちの1社だろう)が2023年には200Gに耐える基幹部品を提供できる目途が立っているとしているあたり、3月のミーティングによって、議論はずいぶん前向きになったように思う。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー