期待のネット新技術
IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年11月17日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
IEEE標準ではない光Ethernet規格が増加帯域高速化への要求増が標準化に要する時間を上回る
前回までで、IEEEで標準化が行われている光Ethernetの規格に関してほぼ網羅したが、実はこのようにはIEEEで標準化されていない光Ethernetの規格というものも存在する。
存在するというより、昨今は急速に増え始めているという方が正しい。『アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」』や、『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』で解説した「400ZR」などがその好例で、OIF Forumが管理している規格だ。
その理由は非常に簡単なもので、IEEEの標準化プロセスに、おそろしく時間が掛かり過ぎるためだ。例えば、「IEEE P802.3bs」のタイムラインは以下となるが、実際にはTask Force結成の前にStudy Groupがあるわけで、IEEE 802.3bsの場合は"IEEE 802.3 400 Gb/s Ethernet Study Group"が2013年5月17日に初のミーティングを開いている。
その後、2014年5月にTask Forceが結成。同年9月にDraft 1.0が出て、そこから何度も投票を繰り返しつつ、2017年12月6日に「IEEE 802.3bs-2017」として標準化が完了しているわけで、Study Groupから数えると3年半余り、Task Force結成から数えても2年半ちょっと要している。
これは、IEEEの標準化プロセスではごく一般的なもので、ここまで手間をかけることへの理由はちゃんとあるのだが、「そんなに待っていられるか」という声があるのも事実だ。
特にバックボーン向けは、利用する帯域がほぼ毎年のように増えてゆき、これに伴って無理やりEthernetのポートを増やしていく対応を余儀なくされている。「3年待てば速度が2倍の規格が標準化される。それまで待て」と言われても、悠長には待っていられないわけだ。
しかも運がいい(悪い?)ことに、トランシーバーモジュールの標準化が急速に進んだ。標準化といっても、以前こちらで触れたように多数の規格があるので、どれを選ぶかという話はある。だが、どれを選んでも規格はすでに定まっている。
そもそもトランシーバーモジュールは、以下の図の赤枠で示した部分なので、上位層から見たときには、200GMIIなり400GMIIで接続されていさえすれば、中身がどうなっているかは原則無縁である。
であれば「200GMIIや400GMIIをきちんとサポートしていれば、中身はIEEE標準でなくてもいいよね?」という機運が沸き起こることになる。かくして、IEEE標準ではないEthernetが登場することとなった。
100G/400G/800Gで登場しているIEEE標準ではない光Ethernet規格
そしておそらく、こうしたものが最初に登場し始めたのは100Gbpsの時代だ。筆者が知っているだけで以下がある(ほかにもあるかもしれない)。やや毛色は違うが、ここに冒頭で名前が出た「OIF Forum」を追加してもいい気もする。
- SWDM Alliance:100G-SWDM4、40G-SWDM4
- 100G PSM4 MSA:100G-PSM4
- CWDM4 MSA:100G-CWDM4
- 4WDM MSA:100G-4WDM4
- 100GLambda MSA:100G-FR-2、100G-LR-10
- OIF Forum:MSA-100GLH
同様に400G Ethernetに関してもがすでに以下の各規格が標準化されていて、モジュールも出ている。
- CWDM8 MSA:400G-CWDM8-2、400G-CWDM8-10
- 100GLambda MSA:400G-FR4-2、400G-LR4-10
- 400G BiDi MSA:400G-BD4.2
- OIF Forum:400ZR
さらに言えば、まだIEEEが標準化を始めていない800G Ethernetについても以下の規格が存在しており、OSFPなどはすでに800G Capableのモジュール規格(100G×8、400G×2など)を用意している。このあたりのスピード感は、明らかにIEEEの標準規格よりも上だ。
- QSFP-DD800 MSA:(現状はHardware Module Specificationのみ)
- 800G Pluggable MSA:800G-PSM8
- Ethernet Technology Consortium:800GBASE-R
IEEEでも800G Ethernetに関する議論を開始、標準化完了は2024年以降か
ここで少し脇にそれるが、IEEEは800G Ethernetを無視しているわけではない。すでにIEEEの802.3は"Beyond 400 Gb/s Ethernet"というCall for interestを受け取っており、これに関する電話会議が2020年11月9日~19日(つまりまさに今)行われている最中である。
最終的にどんな話になるかは、電話会議の結果がまとめられるまでは分からないが、Call for Interestのプレゼンテーションを見る限り、当初はレーンあたり100Gbpsだが、これに続いてレーンあたり200Gbpsも視野に入れ、トータルで800Gbps~1.6Tbpsを狙う規格の策定を狙っているようだ。
ただ今からStudy Groupを結成するとして、そこからTask Forceへと移るのは2021年末~2022年初頭、標準化が完了するのは早くて2024年かそれ以降になると思われる。ところがユーザーが欲しいのは今すぐなのであり、このミスマッチを埋めるのが、独自規格のEthernetということになる。
このあたりはEthernet Allianceのロードマップを見ても分かる内容だ。以降のスライドは2020年ロードマップからの抜粋であるが、Etheret Allianceは800G/1.6Tの標準化が完了するのは2023年頃を想定しているように思える。以下を見る限り、標準化された規格は2023年あたりまで出てこない、というのが現状の想定である。
その一方、現在標準化されている独自規格の一覧(左)を見ると、すでにさまざまな独自規格が登場していることが分かる。ここには800G/1600GBASEの規格の欄はまだないが、おそらく2021年あたりのロードマップには、まず800GBASEの欄が追加されるのではないかと思われる。
ここで話を戻そう。こうした独自規格が広く利用されるようになると、相互接続性の保証などは、原則としてそのMSAなりAllianceなりが担保することになる。ただ、現実問題として、複数メーカーのトランシーバーモジュールを混在させるケースはあまりなかったりする。
さらに言えば、こうした高速なEthernetを運用する場合、まず送受信を行うスイッチがこうした規格に対応している必要があって、逆に言えば、そのスイッチが対応している規格から選ぶということになる。
そのスイッチにしても、例えばCiscoのようにスイッチとモジュールの両方を手掛けているベンダーであれば、結局そのベンダーのトランシーバーモジュールを選ぶということになりがちで、実際にはあまり問題は発生しなかったりする(さすがに自社の製品同士の相互接続性はメーカーが保証してくれるはずだ)。
このため、こうしたあたりに気を付ければ問題ない、という割り切りがユーザーの側にもあるようで、IEEEの標準化を待たずにこうしたMSAのモジュールを導入・運用するケースがずいぶん増えてきたように思う。
ということで、次回からは、こうした独自規格を紹介していきたい。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
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- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
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