期待のネット新技術
1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年8月24日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
前回の2021年4月分ミーティングに引き続き、今回は「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group」の5月分の内容を見ていこう。まず議長から発表された今後のタイムライン見込みが以下のスライドだ。
その前提となるのが以下の点であり、今後はこれに向けて議論を収束させていく作業が行われる予定となった。
- 6月のミーティングが仕様拡張の提案に関するデッドライン
- 同時に6月のミーティングにおいて、2021年11月の総会に向けた再提案を実施
- 9月にStudy Groupは終了し、PAR/CSD/Objectiveなどのドキュメントを承認
その後、問題がなければ11月の総会でStudy Groupの提案が承認されてTask Forceを形成。2022年1月から標準化の作業がスタートされることになる。
エラー自体の頻度より、エラーパケットをフラグなしで通過させる頻度が問題
さて5月の投票では先送りとなったBERに関する議論については、2つの発表が行われた。1つ目はCiscoのMark Gustin氏による"Thoughts on the BER Objective"である。
まず、前回までの簡単な振り返りの後、BERの議論に際してはエラー率そのものではなく、誤パケットの平均受信間隔を表す「MTTFPA(Mean Time To False Packet Acceptance)」を利用して判断すべしとした。
そして、10GbE以降はBERよりもMTTFPAを中心にして設計がなされており、BERを必要以上に下げなくても、MTTFPAは十分確保できる(ラフに言えば、BERを1.0E-9あたりにすれば、MTTFPAは1.0E10年となり、宇宙の歴史(おおよそ138億年というのが現在の説らしい)とほぼ同等(100億年)ほどになるとしている。
要するに、Ethernetのとある1bitがエラーとなる頻度よりも、どの程度の頻度でエラーのあるパケットをエラーフラグなしで通過させてしまうかが問題になるというわけだ。
ちなみに、最後の段落に出てくる"Rick Walker and company set the bar"の個所は、IEEE P802.3ae Task Forceの2000年7月のミーティングでAgilentのRick Walker氏ほかが提示した"64b/66b PCS updated 6/30/2000 state machines modified 7/17/2000"というプレゼンテーションの中で、BERが10E-9未満であれば高い確率でFrame Syncが成立しているので、MTTFPAイベントが発生しても迅速に対応できるが、BERが10E-4以上であればCRCエラーによるパケットの誤認識を防止するためにFrame Syncを無効にする必要があると説明している。
ここでWalker氏はMTTFPAイベントとしているが、要するにエラーが発生してフレーム再送を行う(必然的にこの時点でFrame Syncが外れるので、再同期を掛ける必要がある)ため、これがある程度以上の頻度になるようなら、Frame Syncを外した方がいいという意図である。
BERは1.0E-13程度に抑えられれば、MTTFPAは1.0E10年を維持
話を戻すと、こちらで触れた「IEEE 802.3ae」では、BERのターゲットを1.0E-9程度に設定し、これでうまくMTTFPAが1.0E10年となる、となっていたわけだ。
ただ、これは「10GBASE-R」での話で、800Gではそのまま適用するのは無理。では、800Gで同じくMTTFPAを1.0E10にするために、BERをどの程度にすべきかとの試算が以下だ。
結論から言えば、RS(544,514)FECを利用するのなら、BERは1.0E-13程度に抑えられれば、MTTFPAは1.0E10年を維持できる、としている。
この試算を基に、BERは1.0E-13をターゲットにすれば十分であり、より低いBERをターゲットにするのは消費電力の観点から好ましくないとして、バランスを重視すべきだと結論。Study Groupに対しては、BERターゲットを1.0E-13以上とし、より低いBERターゲットを設定するかどうかはTask Forceでの課題にすべきと提言した。
ちなみに、より低いBERターゲットが必要かどうかは、FECの構成やオーバーヘッド、BER改善のトータルコストなどをきちんと試算する必要があるとしており、Study Groupではそこまで踏み込まないことを念頭においた提言となっている。
1.0E-14のBER Target実現には高コストで強力なFECが必要
さて、BERではもう1つ、Xiang He、Hao Ren、Xinyuan Wangの各氏(いずれもHuawei)による"FEC Architecture of B400GbE to Support BER Objective"というプレゼンテーションも行われた。前回で紹介したStraw Poll #5/#6の結果からも分かるように、BERについては、まだ意見を決めかねている状態だ。その理由は以下に集約されるとしている。
- BERが1.0E-13ではエラーが多すぎる
- BERが1.0E-14だと強力なFECが必要になり、そのコストが無視できない
そこで、いくつかの強力なFECを利用した場合の実際のコストを試算した結果が示されている。具体的には、3グループ計12種類の組み合わせで試算が行われた。ちなみに、この12種類については、実際にどこからどこまでをFECでカバーするか、も検討する余地があるとしている。
さて、まずOverallを見ると、とりあえずFECなしではSNRが20dBでもBERは5.0E-5といったところで話にならない。RS単独だと17.5dBあたりでやっとBERが1.0E-13、2-way RS+HD BCHで16.5dB、という具合に(当たり前だが)FECを強化するほどSNRが低くてもBERで1.0E-13を達成しやすくなる。
ただし、最も強力な2-way RS+SD BCHでも15.7dB程度が必要というあたり、単にBERターゲットを満たすSNRだけで判断するのは難しい。つまり、FECを強化しても、SNRのマージンの増え方がそれほど大きくないため、どこでバランスを取るか? という問題になってくる。
ということで、以下6つのスライドが実際の組み合わせだ。最後の「3-3,Segmented FEC」は800GBASE-FR/LR向けで、「1×800G」とは記されているが、実際にはWDMを使った(8×100Gと4×200Gの両方を想定している)構成だと思われる。
さて、100G×8ではBERが1.0E-13で十分との結果になっており、これはまあ当然のことである。問題はOptical BER(光ファイバー経路でのBER)やPost-FEC BER(FECを通し終わった後のBER)によっては、大丈夫とは言い切れないケースがあること。これは光ファイバーに何を使うか、実装をどうするかといった点に影響を与えることになる。
それはともかく、この6枚の結果をまとめたのが下記の表だ。中央の青い枠が、FECに絡むエリアサイズ(7nm相当のプロセスで実装した場合の回路面積)と、FECにおけるトータルのレイテンシーが最も低い組み合わせである。
つまり、ラフに言えば 「2-way RS(544,514)にSD BCHを組み合わせるのが、コスト的にもLatency的にも適切」 ということになる。
HD BCHはレイテンシーこそ53.6nsとやや少ないし、エリアサイズは4.05平方mmと相対的に小さい一方で、BER Targetで1.0E-14は厳しい(1.0E-13なら可能)というあたり、BER Targetが1.0E-13で決定されない限り、選択肢からは外れそうだ。
ちなみにBER Targetの1.0E-13と1.0E-14の違いが以下のスライドだ。要するにFECに入る前の、光ファイバーのノイズ(AWGN:Additive White Gaussian noise、日本語では「加算性白色ガウス雑音」と呼ぶが、自然界のランダムノイズを模したノイズモデル)に起因するBERを2.60E-03から2.37E-03まで下げれば、トータルでのBERが1.0E-14を実現できる、としている。
このプレゼンテーションでは特に提言は出ていないが、FECを工夫すればBER Targetとして1.0E-14を指定することそのものは可能、としている。
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