期待のネット新技術
「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみに、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年12月7日 06:00
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
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- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
100GBASE-ER2が考慮されていなかったのは、100GBASE-ER4がすでに標準化したからか
今回は、これまですっかり落としていた「IEEE 802.3cn-2019」について。最終的な規格としては、以下の3つが標準化されている。
- 50GBASE-ER:50Gbps・1レーン・SMFで到達距離40km
- 200GBASE-ER:200Gbps・4レーンWDM・SMFで到達距離40km
- 400GBASE-ER:400Gbps・8レーンWDM・SMFで到達距離40km
ただ、Task Forceの初期のドキュメントを読むと、当初はこれに加えて以下の2つも検討の俎上に上がっていた。
- 100GBASE-AR:100Gbps・1レーンDWDM・SMFで到達距離80km
- 400GBASE-AR:400Gbps・1レーンDWDM・SMFで到達距離80km
ちなみに、「AR」というのは初出であるが、これは当時の命名規則に80kmに達するものがないため、新たに"Amplified"の頭文字を取ってARとしよう、という提案である。
当時のIEEEには、DWDMシステムを利用する規格が存在しなかった一方で、独自規格の中には既にZを使うものが存在した。加えて「I」「O」は数字の「1」や「0」と紛らわしいので、Aを選んだという話であった。
DWDMについての話は後にして、ちょっと面白いのは「100GBASE-ER2」がないことだろうか。Study Groupまで遡ってObjectiveを見ても、PMDに関して挙げられているのは以下の5つで、当初から100GBASE-ER2は考慮されていなかったようだ。
- 50Gで40km SMF
- 100Gで80km DWDM
- 200Gで40km SMF
- 400Gで40km SMF
- 400Gで80km DWDM
おそらくは、すでにIEEE 802.3ba-2010で100GBASE-ER4がとっくに標準化されており、これを今さら「100GBASE-ER2」にしたところでメリットが薄い(どちらもWDMだからファイバーの数は1対だし、性能そのものは変わらないからアップグレードの意味がない)ため、200/400Gのみを策定した格好かと思われる。
「IEEE 802.3cn-2019」での規格は若干のパラメーター変更
さて、それではIEEE 802.3cn-2019で定められた3つの規格であるが、「50GBASE-ER」は「50GBASE-FR/LR」から若干のパラメーター変更を行っただけだ。「200GBASE-ER」と「400GBASE-ER」も同様で、「200GBASE-FR/LR」や「400GBASE-FR/LR」からパラメーターを若干変更しただけというかたちでまとまった。
50GBASE-ERは、到達距離が30km以上で、利用する光ファイバーの減衰量がIEC 60793-2-50のType B1.1/Type B1.3/Type 6で定められた値より少ない場合は40kmまで可能、としている。
上図のtransmit Characteristicsでは、やはり到達距離が2kmの50GBASE-FRや10kmの50GBASE-LRに比べ、Average launch powerを始め、全ての数値が大きめになっている。Average launch powerの最大が6.6dBmということは4.6mWほどで、これは50GBASE-LR(2.6mW)の倍まではいかないが、結構出力を上げている感じだ。
ただ、距離が最大4倍なのに出力が倍では追い付かないのが当然で、receive characteristicsを見ると、Average receive powerは4.2dBm(2.6mW)から-3.4dBm(0.46mW)となっており、受信電力がほぼ1/6になると考えられている。当然これは受光素子の感度を猛烈に引き上げてやる必要があるわけだ。ただ、これによってBERが悪化したりはしないという見込みのようで、特にFECの方式が変わったりはしていない。
この50GBASE-ERを4対(200G)ないし8対(400G)まとめてWDM化したのが200GBASE-ER/400GBASE-ERであり、当然仕様も200GBASE-FR/LR、あるいは400GBASE-FR/LRに準ずることになる。
利用する波長は下図の通りで、既存の200GBASE-FR/LRおよび400GBASE-FR/LRと全くいっしょだ。到達距離も50GBASE-ER同様に通常のSMFなら最大30km、低減衰のSMFを使うと最大40kmとなっている。
当然ながら信号特性も同じものになる。200GBASE-ERや400GBASE-ERのtransmit characteristicsは50GBASE-ERのそれとほぼ同じだし、receive characteristicsも200GBASE-ERや400GBASE-ERのものは50GBASE-ERのそれとかなり近い。さすがに400Gの場合は8レーンの干渉が大きくなる(&波長分散が広がる)関係か、送信出力が多少落とされ、その分受信感度を高める方向に振っているのは、止むを得ないと思う。
もう1つ挙げるとすれば、receive characteristicsのDamage threshold, each lanesの数値を見ると、FR/LRが5.2~6.3dBm(3.3~4.3mW)と比較的高めなのに対し、ERでは-2.4~-3.4dBm(0.46~0.58mW)と一桁小さいことだろう。
それだけ頑張って受信感度を引き上げたから、Damage thresholdが下がっているということだと思うが、その分ちょっと取り扱い注意という感じになっているだろうが、全体としては比較的順当に仕様が定まったと思う。
PAM4ベースの標準化は好意的な一方、DWDMについては議論が行われていない模様
さて問題はDWDMの方である。Task Force 2回目のミーティング(2017年11月)には、DWDMに関して"Considerations on X00M Gb/s 40-80km interfaces with appropriate support for DWDM systems"なども示された。その後に行われたStraw Pollの結果が以下となる。
【Straw Poll #2】50Gb/s PAM4を利用した到達距離40kmの規格は技術的に見て妥当か?
50Gb/s
- 賛成:56票
- 反対:0票
- もっと情報が必要:6票
200Gb/s
- 賛成:41票
- 反対:1票
- もっと情報が必要:17票
400Gb/s
- 賛成:24票
- 反対:3票
- もっと情報が必要:34票
この結果を見ると、PAM4ベースの標準化は好意的に受け止められた(400Gはさすがに慎重派が多くなっているが、反対しているわけではない)一方、DWDMについてはまだ議論が行われていない。
ちなみに、400ZRのスペックなども示されて、DWDM以外にCoherentの方式もあり得る、という技術的可能性は示されたものの、以下のように、Task Forceでの雰囲気は否定的であった。
【Straw Poll #5】200 Gb/sの40kmの規格について、4×50Gb/s PAM4とcoherentの両方にマーケットがあるか?
- 賛成:0票
- 反対:23票
- もっと情報が必要:28票
明けて2018年1月に開催された3回目のミーティングでは、"Considerations on objectives for Beyond 10km Ethernet Optical PHYs running over a point-to-point DWDM system"や、"Further considerations on objectives for PHYs running over point-to-point DWDM systems"なども示されたが、Straw PollやMotionは行われていない。
そして、この3回目のミーティングで行われた投票の結果が以下となる。
【Straw Poll #6】Coherent/DWDMに関して、技術的あるいはターゲットアプリケーションに関する情報がさらに必要か?
- 賛成:35票
- 反対:5票
この結果から強いて言うなら、本当に80kmの到達距離の規格が必要かを判断しかねていた感じである。これを受け、2018年に行われた第4回目のミーティングでは、80kmの到達距離はレーンあたりの速度を100Gb/sに増やした上で改めて検討する、というMotionが出て、これが決議されてしまった。この時点で80kmの規格は少なくともIEEE 802.3cn-2019からは落ちる格好となった。
個人的に言えば、80kmクラスになるともうOIFの400ZRでいいじゃん、という気はするし、それをIEEEに取り込むメリットもあまりないように感じられる。そんなわけで、少なくとも現時点では100GBASE-AR/400GBASE-ARは、幻の規格となったままである。
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