期待のネット新技術

SMF1対で最大100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」と、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

SMF1対で最大100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」「100G-FR/LR」との違いは伝達距離

 「100G Lambda MSA」は、前回紹介した「100G-FR/LR」に続いて、「400G-FR」を2018年9月に、「400G-LR」を2020年9月に、そして「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」を2020年12月に発表している。

 この順番で行けば、400Gの話が先になるわけだが、説明の関係上、100Gの方をまず紹介したい。その100G-LR1-20/ER1-30/ER1-40、日付は2020年11月17日となっているが、Specificationがアナウンスされたのは12月7日であり、その意味ではまだ公開されたばかりの規格である。

 さて、100Gと付くことから分かる通り、基本的には1対のSMFを利用して100Gbpsを通す点は100G-FR/LRと同じだが、違うのは伝達距離で、以下のようになっている。

規格伝達距離
100G-LR1-202m~20km
100G-ER1-302m~30km
100G-ER1-402m~40km

 やけに細かく刻んできたな、という気もしなくはないが、前回でも説明したように10kmですら信号レベルの面ではかなりのチャレンジなので、あまり急激に距離を延ばすのは難しいと判断したようだ。

光源波長を絞ってピンポイントで最適化が図られた送信側パラメーター

 以下の表は、transmit characteristicsを100G-FR/LRと比較したもので、まず波長が異なることが分かるだろうか。

右が「100G-LR1-20/ER1-30/ER1-40」、左が「100G-FR/LR」のtransmit characteristics。出典は"100G-FR and 100G-LR Technical Specs rev2.0"と"100G LR1-20 ER1-30 ER1-40 Technical Specs rev 1p0"のそれぞれTable 2-2

 100G-FR/LRと100G-LR1-20が、1311nmを中心に±6.5nmの範囲の光源の波長を許容するのに対し、100G-ER1-30/ER1-40は1309.14nm±1.05nmと、かなり範囲を絞っているのが特徴だ。それだけ光源の波長を絞ってピンポイントで最適化する必要があったということだろう。

 また、Average launch powerも、100G-FR/LRの4~4.5dBmに対して5.6~7.1dBmと、全体的に出力が上がっている。以下のようにダイナミックレンジそのものはあまり増えてはいないが、Average launch power(min)も、-2.4~-1.4dBmに対し、-0.2dBm~1.5dBmと大幅に高めた点も特徴的である。

規格ダイナミックレンジ(dB)
100G-FR6.4
100G-LR5.9
100G-LR1-206.8
100G-ER1-305.6
100G-ER1-405.6

 これは、ノイズなどへ対応するために信号レベルそのものを引き上げる必要があったと考えられる。また、そもそもパラメーターが増えていて、例えば「Transmitter over/under-shoot(max)」などは今回初めて追加されている。ここからも、それだけ信号伝達が厳しくなっていることを伺わせる。

感度を猛烈に引き上げた受信側パラメーター

 受信側のパラメーターには、さらに大きな違いが見られる。100G-LR-20に関しては常識的というか、100G-LRの延長といったものだが、100G-ER1-30/40の方が凄まじい。Average receive powerがmaxで4.5dBmに対して-3.4dBm、minが-6.4/-7.7dBmに対して-14.7/-16.2dBmというのは、要するに受信側は最大でも0.45mW、最小だと0.034mWないし0.024mWしかないということだ。

右が「100G-LR1-20/ER1-30/ER1-40」、左が「100G-FR/LR」のrecieve characteristics。出典は"100G-FR and 100G-LR Technical Specs rev2.0"と"100G LR1-20 ER1-30 ER1-40 Technical Specs rev 1p0"のTable 2-2

 先ほども書いたが、送信出力は最大で5.6dBm(3.6mW)ないし7.1dBm(5.1mW)だから、壮絶な減衰を前提として、受信感度を猛烈に引き上げていることになる。そもそもDamage threshold(min)が、5.5dBmに対して100G-LR1-20では7.6dBmとなっており、これは試験的に非常に短い(仕様上は最小2m)距離で接続したとき、光信号がほとんど減衰していなくても大丈夫という話だが、100G-ER1-30/40の-2.4dBmというのは、短距離をそのまま繋ぐと受光素子が壊れてしまうので、間にアッテネーターなどを挟まないと、2mでは受信できないことになる。

 また、こちらもパラメーターがいくつか新たに追加されており、全体的に条件がさらに厳しくなっている中で、何とか動作する領域をきちんと定義した、というものとなっている。

鍵は受光素子? 100G-ER1-30/40対応製品は2022年後半以降に登場か?

 100GBASE-FR/LRも同様だが、鍵になるのはおそらく受光素子の側であり、減衰しまくって0.02~0.03mW(というか20~30μWと書いた方が分かりやすいか?)しかない光信号を正しく受信できるだけの性能を実現できるかどうかで、製品が決まることとなる。

 これもおそらくMSAのメンバー企業のうち少なくとも1社以上が、これに耐える製品を出荷できる(現在出荷していなくても、近い将来リリースできる目途が立っている)ことを前提に仕様が組み立てられたのだろう。先のDamage threshold(min)が妙に低いのも、そうした高感度の受光素子であることが前提ではないかと思われる。

 IEEEのTask Forceなら審議中のドキュメントがかなり公開されているので後からでも追跡できるのだが、MSAの場合はそうしたことが期待できないので、このあたりの詳細は確認できない。ただ100G-FR/LRの場合、仕様策定から製品出荷まで2年ほどかかったことを考えると、100G-LR1-20はともかく、100G-ER1-30/40はかなり時間を要するような気がするし、そうなると製品の市場投入は2022年後半以降になるだろう。

 余談だが、Specificationを見ていると、本文中のほとんどの部分で「100G-LR1-20/100G-ER1-30/100G-ER1-40」と記されている中、“うっかり”「100GBASE-ER1-30/100GBASE-ER1-40」なる文言が残って(?)いる。その上の100G-LR1-20がそのまま(「100GBASE-LR1-20」ではない)というあたり、うっかりミスなのだろうが、内部的には100GBASE-FR/LR/LR1-20/ER1-30/ER1-40と呼ばれていたのではないかとも考えられる。

赤の下線は筆者によるもの。出典は"100G LR1-20 ER1-30 ER1-40 Technical Specs rev 1p0"

「400G-FR」の構造は100G-FRを4つ並べただけ

 そして400Gの規格は、そもそも100G Lambda MSAの結成当時から、「1レーンで100Gなら4レーンで400Gは普通に狙える」というものだった。実際、100G-FR/LRを4つ束ねれば400Gになるわけで、狙わない方がどうかしているとすら言える。そんなわけで400G-FRは、100G-FR/LRと同じタイミングで発表された。

 その400G-FRの構造が以下だ。相変わらず1本のファイバーで通すことを前提に、WDMのMux/DeMuxを挟んではいるが、基本的な構造は100G-FRを4つ並べただけである。

400G世代では、やっとレーンあたり50Gbpsが一般化したおかげで、100G-FRと異なり4:2のGearboxを挟む必要がなくなった。出典は"400G-FR4 Technical Spec D2p0"のFigure 1-1

 変調方式も同様だ。レーンあたり50Gの「PAM-4」で100G(正確に言えばSignaling Rateが53.125Gbps、Data Rateが106.25Gbpsだが、FECそのほかを取り去ると100Gbpsになる)となる。ホストとのインターフェースが50G×8という点も同じだが、400Gのスイッチの場合は50Gが一般化したこともあり、そのままモジュール化できている。

 モジュールそのものの規定はSpecificationには含まれないため、400Gに対応するなら何でもいいのだが、多くのケースでは、こちらの記事などでも紹介している「WDM」が採用されているようだ。

 WDMの採用では、波長そのものの変更が必要となる。それもあって400G-FRでは以下4つの波長を利用するよう改定された。

レーン波長(nm)
L01271(1264.5~1277.5)
L11291(1284.5~1297.5)
L21311(1304.5~1317.5)
L31331(1324.5~1337.5)

 波長が20nm刻みとなっているあたりは、DWDMではなくCWDMの範疇に入る。

【お詫びと訂正 1月6日 12:06】
 記事初出時、400Gに対応する規格の記述に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

 誤:QSFP-DD
 正:WDM

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/