期待のネット新技術
SMF1対で最大100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」と、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
2021年1月5日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
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- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
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- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
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- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
SMF1対で最大100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」「100G-FR/LR」との違いは伝達距離
「100G Lambda MSA」は、前回紹介した「100G-FR/LR」に続いて、「400G-FR」を2018年9月に、「400G-LR」を2020年9月に、そして「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」を2020年12月に発表している。
この順番で行けば、400Gの話が先になるわけだが、説明の関係上、100Gの方をまず紹介したい。その100G-LR1-20/ER1-30/ER1-40、日付は2020年11月17日となっているが、Specificationがアナウンスされたのは12月7日であり、その意味ではまだ公開されたばかりの規格である。
さて、100Gと付くことから分かる通り、基本的には1対のSMFを利用して100Gbpsを通す点は100G-FR/LRと同じだが、違うのは伝達距離で、以下のようになっている。
規格 | 伝達距離 |
100G-LR1-20 | 2m~20km |
100G-ER1-30 | 2m~30km |
100G-ER1-40 | 2m~40km |
やけに細かく刻んできたな、という気もしなくはないが、前回でも説明したように10kmですら信号レベルの面ではかなりのチャレンジなので、あまり急激に距離を延ばすのは難しいと判断したようだ。
光源波長を絞ってピンポイントで最適化が図られた送信側パラメーター
以下の表は、transmit characteristicsを100G-FR/LRと比較したもので、まず波長が異なることが分かるだろうか。
100G-FR/LRと100G-LR1-20が、1311nmを中心に±6.5nmの範囲の光源の波長を許容するのに対し、100G-ER1-30/ER1-40は1309.14nm±1.05nmと、かなり範囲を絞っているのが特徴だ。それだけ光源の波長を絞ってピンポイントで最適化する必要があったということだろう。
また、Average launch powerも、100G-FR/LRの4~4.5dBmに対して5.6~7.1dBmと、全体的に出力が上がっている。以下のようにダイナミックレンジそのものはあまり増えてはいないが、Average launch power(min)も、-2.4~-1.4dBmに対し、-0.2dBm~1.5dBmと大幅に高めた点も特徴的である。
規格 | ダイナミックレンジ(dB) |
100G-FR | 6.4 |
100G-LR | 5.9 |
100G-LR1-20 | 6.8 |
100G-ER1-30 | 5.6 |
100G-ER1-40 | 5.6 |
これは、ノイズなどへ対応するために信号レベルそのものを引き上げる必要があったと考えられる。また、そもそもパラメーターが増えていて、例えば「Transmitter over/under-shoot(max)」などは今回初めて追加されている。ここからも、それだけ信号伝達が厳しくなっていることを伺わせる。
感度を猛烈に引き上げた受信側パラメーター
受信側のパラメーターには、さらに大きな違いが見られる。100G-LR-20に関しては常識的というか、100G-LRの延長といったものだが、100G-ER1-30/40の方が凄まじい。Average receive powerがmaxで4.5dBmに対して-3.4dBm、minが-6.4/-7.7dBmに対して-14.7/-16.2dBmというのは、要するに受信側は最大でも0.45mW、最小だと0.034mWないし0.024mWしかないということだ。
先ほども書いたが、送信出力は最大で5.6dBm(3.6mW)ないし7.1dBm(5.1mW)だから、壮絶な減衰を前提として、受信感度を猛烈に引き上げていることになる。そもそもDamage threshold(min)が、5.5dBmに対して100G-LR1-20では7.6dBmとなっており、これは試験的に非常に短い(仕様上は最小2m)距離で接続したとき、光信号がほとんど減衰していなくても大丈夫という話だが、100G-ER1-30/40の-2.4dBmというのは、短距離をそのまま繋ぐと受光素子が壊れてしまうので、間にアッテネーターなどを挟まないと、2mでは受信できないことになる。
また、こちらもパラメーターがいくつか新たに追加されており、全体的に条件がさらに厳しくなっている中で、何とか動作する領域をきちんと定義した、というものとなっている。
鍵は受光素子? 100G-ER1-30/40対応製品は2022年後半以降に登場か?
100GBASE-FR/LRも同様だが、鍵になるのはおそらく受光素子の側であり、減衰しまくって0.02~0.03mW(というか20~30μWと書いた方が分かりやすいか?)しかない光信号を正しく受信できるだけの性能を実現できるかどうかで、製品が決まることとなる。
これもおそらくMSAのメンバー企業のうち少なくとも1社以上が、これに耐える製品を出荷できる(現在出荷していなくても、近い将来リリースできる目途が立っている)ことを前提に仕様が組み立てられたのだろう。先のDamage threshold(min)が妙に低いのも、そうした高感度の受光素子であることが前提ではないかと思われる。
IEEEのTask Forceなら審議中のドキュメントがかなり公開されているので後からでも追跡できるのだが、MSAの場合はそうしたことが期待できないので、このあたりの詳細は確認できない。ただ100G-FR/LRの場合、仕様策定から製品出荷まで2年ほどかかったことを考えると、100G-LR1-20はともかく、100G-ER1-30/40はかなり時間を要するような気がするし、そうなると製品の市場投入は2022年後半以降になるだろう。
余談だが、Specificationを見ていると、本文中のほとんどの部分で「100G-LR1-20/100G-ER1-30/100G-ER1-40」と記されている中、“うっかり”「100GBASE-ER1-30/100GBASE-ER1-40」なる文言が残って(?)いる。その上の100G-LR1-20がそのまま(「100GBASE-LR1-20」ではない)というあたり、うっかりミスなのだろうが、内部的には100GBASE-FR/LR/LR1-20/ER1-30/ER1-40と呼ばれていたのではないかとも考えられる。
「400G-FR」の構造は100G-FRを4つ並べただけ
そして400Gの規格は、そもそも100G Lambda MSAの結成当時から、「1レーンで100Gなら4レーンで400Gは普通に狙える」というものだった。実際、100G-FR/LRを4つ束ねれば400Gになるわけで、狙わない方がどうかしているとすら言える。そんなわけで400G-FRは、100G-FR/LRと同じタイミングで発表された。
その400G-FRの構造が以下だ。相変わらず1本のファイバーで通すことを前提に、WDMのMux/DeMuxを挟んではいるが、基本的な構造は100G-FRを4つ並べただけである。
変調方式も同様だ。レーンあたり50Gの「PAM-4」で100G(正確に言えばSignaling Rateが53.125Gbps、Data Rateが106.25Gbpsだが、FECそのほかを取り去ると100Gbpsになる)となる。ホストとのインターフェースが50G×8という点も同じだが、400Gのスイッチの場合は50Gが一般化したこともあり、そのままモジュール化できている。
モジュールそのものの規定はSpecificationには含まれないため、400Gに対応するなら何でもいいのだが、多くのケースでは、こちらの記事などでも紹介している「WDM」が採用されているようだ。
WDMの採用では、波長そのものの変更が必要となる。それもあって400G-FRでは以下4つの波長を利用するよう改定された。
レーン | 波長(nm) |
L0 | 1271(1264.5~1277.5) |
L1 | 1291(1284.5~1297.5) |
L2 | 1311(1304.5~1317.5) |
L3 | 1331(1324.5~1337.5) |
波長が20nm刻みとなっているあたりは、DWDMではなくCWDMの範疇に入る。
【お詫びと訂正 1月6日 12:06】
記事初出時、400Gに対応する規格の記述に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
誤:QSFP-DD
正:WDM
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