期待のネット新技術
最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年1月19日 12:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
ネットワークモジュールの電気/機械的な仕様を定めた「MSA-100GLH」
以前の本連載『IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場』で紹介した非IEEE 802規格のうち、100Gに関してはOIF(Optical Internetworking Forum)の「MSA-100GLH」が残るのみだ。これはやや毛色が違う規格ではあるのだが、参考までに一応紹介しておきたい。
OIFそのものは、IEEE P802.3ctに絡んで400ZRnについても触れた『アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」』の中で紹介しているので割愛するが、MSA-100GLHというのは、100GのLong-Haul向けDWDM Transmission ModuleのElectromechanicalに関するIA(Implementation Agreement)である。
SpecificationではなくIA、あくまでもAgreementという点がポイントである。とは言え、参加企業は当然このAgreementに沿ってImplementationを行うわけで、エンジニアから見ればSpecificationと読み替えても、特に問題はない。
それはともかく、MSA-100GLHはネットワークの規格そのものではなく、ネットワークモジュールの電気/機械的な仕様を定めたものである。ではその上で利用されるネットワークはといえば「100G Ultra Long Haul DWDM」を念頭に置いたものだった。
「MSA-100GLH」が念頭に置いた「100G Ultra Long Haul DWDM」、1000~1500kmの長距離伝達が前提
実はこの100G Ultra Long Haul DWDM、OIFからFrameworkに関するホワイトぺーパーが出ている。これがSpecificationでもIAでもなくホワイトぺーパーという点が、実は大問題なのだ。
実際、ホワイトぺーパー冒頭のExecutive Summaryに、"Creating common technologies can provide a basis for interoperability, but this project does not include full interoperability of system level implementations within its scope."((このプロジェクトは)相互運用性の基盤となる共通の技術を作るが、プロジェクトの目的には、完全な相互運用性の実装は含まれていない)などと書かれている時点で、これを利用してネットワークを構築するのがかなり困難であることが分かる。
では、このホワイトペーパーは何を狙ったものかというと、Ultra Long Haul(超長距離)の100G BackboneをDWDMを利用して構築することである。具体的に言えば、1000~1500kmの長距離伝達を前提としたネットワークだ。
もちろん、これをいきなりPeer-to-Peerで繋ぐというのはあり得ない。通常はこの距離だと、最低でも6つ程度のROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)を挟むのが普通とされている。
余談になるが、ROADMというのは以下の図のような、ネットワークの交差点(というか、ラウンドロビン?)構成を取る仕組みだ。中央の灰色のリングはWDM構成になっている。
個々のROADMユニットは、別に設けられたコントローラーから指令を受け、特定の波長の光だけを受け取ったり逆に外から来た波長の光をそのままWDMのリングに流したりできる。下の図で言えば、λ1は左から来て中央下に、λ2は右から左に、それぞれ送り出すわけだ。
こうした仕組みにより、いちいち光信号を電気信号へ変換してからスイッチングするのではなく、光信号のままスイッチング(というか、行き先変更)できるためにレイテンシーを低く抑えられ、消費電力も相対的に低くなるほか、帯域割り当てやルーティングなどを後から簡単に調整できる。こうした柔軟性も高く評価されている。
一方で、DWDM(100GHzや50GHzごと、などというケースもある)環境の中で、目的の波長を選び出すのはなかなか難易度の高いシステムとなるわけで、機材が相対的に高額になるデメリットもある。
話を戻すと、都市内のバックボーンの場合は、このROADMの集積点(上の図で言うところのWDMのリング)が20などに達する場合もある一方で、都市間接続であれば間にROADMの集積点が6つ程度挟まることとなる。ROADM間の距離は、都市内なら数~数10kmだろうが、都市間接続では200~250km程度が想定されているわけだ。
50Gの「DP-QPSK」を採用し、最大100Gbpsで250kmを伝送
ということで話を戻すと、「100G Ultra Long Haul DWDM」は最大で250kmくらいの距離を伝送する100Gbpsの手法である。ROADMを通すということはDWDMを通るということなので、必然的に1対の光ファイバーになるし、この上でWDM、というわけにも行かない(ROADMのWDMを経由させるのがものすごく大変になる)。
従って、100Gを1波長で通さないといけないわけだ。そもそも目的の中には、現在利用されている10G 50GHz Transport(光の周波数を50GHzおきとしたDWDM網で、各々10Gbpsを通す)を再利用するかたちで100Gを通そうという話なので、方式そのものが非常に限られることになる。
これを実現するために選択したのが、50Gの「DP-QPSK(Dual-Polarization Quadrature Phase Shift Keying)」である。QPSKは、搬送波の位相を変化させることでデータを送信する方法として広く知られており、無線などで広く使われている技法であるが、光の場合はコヒーレント光を使ってこれを実現している。
これは『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』で説明した400ZRと同じ仕組みだ。ただ、400ZRの場合は400Gbpsを実現するために16QAMを採用し、極あたり4bit分の伝送が必要になったが、100G Ultra Long Haul DWDMでは極あたり1bitで十分となるので、普通にQPSKというかたちとなる。要するに、50GT/sec×2bit/Transfer=100Gbps、というわけだ。
さて、ホワイトペーパーそのものには、具体的に200kmを超える距離を到達させるために必要な光源出力や受像素子の感度、あるいはもろもろのパラメーターについての規定は一切なかったりする。ただし、これだけの長距離となると当然エラー訂正がなければ無理だろうということで、後追いであるがエラー訂正に関するホワイトペーパーが、やはりリリースされている。
送受信最大10bit幅の168ピンコネクタ、巨大なモジュールサイズと消費電力で採用進まず
やっとこれでMSA-100GLHに話が戻ってきた。MSA-100GLHは、この100G Ultra Long Haul DWDMをFEC付きで実現するために必要なモジュールの電気/機械的形状に関する仕様だ。もっとも、ここで定められているのはホスト側とのインターフェースと、モジュールの物理的形状となる。
まず、ホストとのインターフェースに関しては、コネクタは168ピンのものを利用。送受信ともに最大10bit幅となっていて、信号速度はそれぞれ10Gbpsとなる。「最大」というのは、オプションで40Gのケースも想定されており、この場合は4bit分だけを使うことになっている(速度そのものは10Gbpsで変わらず)ためだ。実際には、上の図で言えばFEC ENCの前に10:2の、FEC DECの後ろには2:10のGearboxが入る格好となる。
モジュールのサイズ(幅×奥行×高さ)は127×177.8×17mmとかなり大きめで、しかもコネクタは後端ではなく本体底面に設けられるという、非常にユニークな形状だ。
電源は、モジュールの内部構造概略にもあるように+12Vが供給されるが、ピンは合計12本で、それぞれ最大750mAまで、合計では最大8Aまでだ。そして、Power Dissipationは最大80Wといった代物だ。サーバールーム用と異なり、Long Haul用だから、このくらいの電力は必要なのかもしれない。
このMSA-100GLHは、2011年9月20日にOIFによって承認された(IEEEで言えば、標準化の完了に相当)が、2013年に一度改定され(Version 2.0)、最終的には2015年3月31日に「Gen.2 MSA-100GLH」がリリースされている。
もっとも、機能的な追加などは一切なく、細かい修正のほかは、以下の2点が主な変更点となっている。
- 40Gbpsのオプションを廃止
- 供給電力を最大4Aへ、Power Dissipationを45Wへ下げる(ピンあたり750mAは変わらず)
このMSA-100GLHであるが、使われているかというと、全く使われていない、というのが正確なところである。
そもそもOIF自身がもうMSA-100GLHを"Obsolete Implementation Agreements"扱いにしているあたりからも、それが伺える。
2010年当時は、まだ光源の効率も悪かったし、FECの回路やDSPなども消費電力が大きかったため消費電力はそれなりに多く、これを安定して稼働させるにはこのくらい馬鹿でかいモジュールにしないと追い付かないということはあっただろう。しかし、その後の急速な半導体や光源の進化は、MSA-100GLHのような巨大なモジュールを不要にした、ということだろう。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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