期待のネット新技術

200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

 さらに引き続き802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Groupの2021年5月のミーティングの内容を見ていこう。

 前回、Opticに関してはあまり提案がなかったと書いたものの、HuaweiのMaxim Kuschnerov氏とLin Youxi氏によって、200GのレーンにおけるPAM4とPAM6の比較結果が示された。

 PAM4とPAM6については、『200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?』で紹介した3月のミーティングにおけるGoogleのプレゼンテーションでも、以下のように比較されていた。5月のミーティングで出されたのは、これをもう少し細かくシミュレーションをした結果となる。

3月のミーティングでは、“もしPAM6が消費電力を低く抑えられれば、PAM4とPAM6の使い分けも可能”とされていた

技術的な可能性が明確化され、PAM4ベースの200G実現が一歩前進

 では、5月のミーティングにおける200GのレーンにおけるPAM4とPAM6の比較結果を見ていこう。

4次のBessel Filter、2次のGaussian Filterを掛けた際のPAM4とPAM6の比較

 まず、受信側のBERまわりのシミュレーションから。以下は、4次のBessel Filterおよび2次のGaussian Filterを掛けた結果のグラフだ。PAM4はPAM6に比べ、Bessel Filterで2dBほど、Gaussian Filterで1.5dBほどのsensitivity(感度というか、受信電力)がある。つまり、BERが同じなら、受信電力が1.5~2dBほど低くできるのが、PAM4のメリットというわけだ。

Bessel Filterのグラフの縦軸はBERで、例えばPAM4でBandwidth 40GHzだとROPが0dBmあたりでBERは5.0E-5前後。同じ条件でPAM6だと1.0E-4前後になる

EMLとMZMの発光素子でPAM4/PAM6を実装した場合のBER

 次が送信側だ。200G世代では、EMLとMZMの2種類の発光素子が有望視されているのは先にも挙げた3月のミーティングで触れた通りだが、それぞれの発光素子でPAM4/PAM6を実装した場合のBERを評価したのが以下のスライドだ。

 このうち左のMZMにおけるBERは、大きくは違わないものの、ややPAM4の方がマシといったところ。ただ、脚注にもあるように、EMLとの比較ではやや非線形な傾向があり、PAM6の方が、この傾向の影響を受けやすいとしている。

 一方、EMLを使った場合(以下右)は、BERの乖離がかなり大きい。PAM4だとROPが増えるほどBERは下がり、B2Bでは5.0E-5あたり、5kmでも1.0E-4程度まで下がるのに対し、PAM6では5.0E-3あたりで留まっている。

 しかも脚注にあるように、今後コンポーネントの開発が進んで、DACやEMLの帯域が広がれば、PAM4とPAM6のBERの差はむしろ広がると考えられるとしている。

ちなみに波長は1550nmでの測定なので光ファイバー経由は1kmになったが、それが無ければ次のEML同様に5kmで測定したかったところだろう
PAM6を利用するためには、もう少し効率のいいFECが必要、とされる

複数のリンクつないだ際の損失を比較する「MPIペナルティ」でも、PAM4なら許容範囲内に

 次が「MPI(Multipath Interference)ペナルティ」で、要するに以下のスライド右上の図のように、複数のLinkをpatch codeでつないだ場合の損失比較である。

 今一つグラフのトレンドが理解できない(縦軸がsensitivity penaltyなので、MPI penaltyが少ないほどsensitivity penaltyが少ないなら理解できるが、グラフは逆)あたりに謎は残るが、Kuschnerov氏らの説明によれば、PAM4ならTriple linkでのpenaltyもぎりぎり許容範囲内(要するにpatch codeの損失次第)であるが、PAM6だとTriple linkはMPI損失が大きくなり過ぎて不可能、という話であった。

 以下右のスライドは、224GbpsでPAM4を利用した際のCD(Chromatic Dispersion:色分散)特性を比較したものだ。1270nmあるいは1330nmの波長だと特性の分散がやや大きくなり過ぎ、修正には5次のFFE程度では十分ではないという内容だ。逆に言えば、1300~1324nmの波長であれば、特性値がITU-Tの定める分散の範囲(左の「Table 1」)に収まる見込み、ということである。

グラフの凡例の青と緑は、説明が逆な気がする(逆ならグラフを普通に理解できるのだが)
要するに、利用光源の波長のずれに起因する特性の変化だ。ここまでの出典は"Technical feasibility of 200G/lane optical"

 ここまでの結果を受けたKuschnerov氏らの結論をまとめたのが以下となる。

  • 送信側の帯域幅が限られているにも関わらず、PAM6はPAM4より優れた性能を発揮することが示されている
  • この差は、製品ではさらに広がると予測される
  • PAM6はMPIペナルティが高いためにTriple link接続は実現不能で、2kmのFR4向けの用途では厳しい制限がある
  • 4×200GのCWDM4 PAM4ではCDペナルティがあるため、リファレンス・イコライザーの変更が必要になる可能性がある
  • シミュレーションおよび測定により、PAM4を用いたレーンあたり200Gの光伝送は、実現可能な技術であることが示されている

 結論から言えば、3月のミーティングにおけるGoogleのプレゼンテーション内容を追認したようなものだが、ここからもう少し技術的可能性が明確になったことで、PAM4ベースの200Gの実現に一歩進んだと言うべきだろう。

200Gを43G×6で実現できる「PAM6」のさらなる検討を求めるGoogle

 ところで、ここから2つほど余談を。1つ目はGoogleが「200Gbps Passive Copper Cable」のリクエストを出してきたことだ。その動機は、既にデータセンター内で、Edge Aggregation Blockやラックの内部では、「DAC(Direct Attach Copper)、つまり銅配線のEthernetを広く利用していることにある。

 DACの速度がレーンあたり50Gbpsに留まっている関係でトレンドに追従できなくなっているが、レーンあたり200Gbpsの規格が策定されれば、完全には追随できないとはいえ、ずれをかなり減らすことができる。特に、大規模データセンターで光のみというのは、コストも消費電力の面でも厳しいのは理解できる。

要するに、Googleのデータセンターでは、すでに少なからぬ割合でDACを使っているという話であろう
「100GBASE-KR1/CR1」は「IEEE P802.3ck」において策定作業中で、現在Draft 2.2。標準化完了は2022年7月の予定である。ということで、ややトレンドとしても間に合わない

 これを実現するために、ケーブルそのもの、PCB(プリント基板上の配線)、コネクタ、VIA(貫通端子)やパッケージ、パッケージ内の配線などを一新することで、トータルのロスが43GHzならば36dBほど、53GHzなら50dBほどになるとしている。

サーバー―ブレード間を全て光で、というのを、できれば避けたい気持ちは理解できる
ケーブルは、配線長を1mに限った上で、特に次世代ケーブルでは53GHzにおける損失を4dB以上減らすとしている(具体的にどうするのかは不明)
PCB(プリント基板上の配線)に関しても、特に53GHzでの損失を、現在の43GHzより減らすとする
コネクタは43GHz/53GHzともに、現行製品より2dBずつ減らすとする。コネクタはケーブルの両端に付くので、トータルで4dBの損失を削減できるとしている
PCB viasはプリント基板で別の配線を跨ぐときなどに利用される。BGA, package viasはLSIそのものや内蔵モジュールなどの損失。こちらは53GHzで3dB近く減らすとしている
こちらも、53GHzで現在の43GHzでの損失よりも1dB近く(43GHzの場合は2dB)減らすという、かなり意欲的なもの。パッケージもケーブルの両端に付くので、それぞれ2倍減らせる

 ところで、200G(実際にはFECの分も含むため200Gオーバー)を実現するには、PAM4であれば53G×4(これは暫定値なので、検討の結果次第では56Gなどさらに高いかもしれない)となるが、PAM6なら43G×6で実現できる。この36dBの損失を前提にすれば、逆にかなり現実的となるPAM6を、もう少し検討して欲しいというのがGoogleの主張だ。

このグラフは“Next Gen”という要素を積み上げた結果なので、その“Next Gen”で想定通りに損失が減らないと成立しない議論だ
もちろんこれはこれで茨の道なのだが、速度を上げずに同軸ケーブルを細くすることで、1モジュールあたりの帯域を増やす、という解はないのか、やや疑問に思ってしまう。ここまでの出典は"Technical Feasibility of Passive Copper Cables at 200Gbps/lane"

200G×16で3.2Tまで視野に入れた新コネクタ規格「OSFP-XD」

 もう1つの余談は、『800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向』でも以前触れている、OSFPの動向だ。

 少なくとも現行のRev 4.0では、800Gまではカバーできるものの1.6Tに関してはノータッチだし、Signal Rateも100Gbpsまでの想定となっていた。ところが仕様化の作業は現在まだ進行中で、「OSFP-XD(eXtra Density)」という新たなコネクタ規格が予定されているらしい。

33Wという電源容量もなかなか意欲的。後方互換性もあるそうだが、どこに信号ピンを追加するつもりなのだろう? 出典は「Hot Interconnects 28」におけるAndy Bechtolsheim氏の"What is Next for Optics?"

 実はこれ、どこで聞いたかというと、「Hot Interconnects 28」の2日目に行われたAndy Bechtolsheim氏(Arista Networks創業者兼Chief Development Officerで、Sun Microsystemsの創業者兼Chief System Architectという方が有名であろうか)の基調講演である。

 OSFP-XDは、そもそも16レーンの信号が利用可能になる上、レーンあたりは200Gbpsまで、つまり1.6Tや、さらにその先の3.2Tまで視野に入れた意欲的な仕様となっている。実は、OSFPからは一切リリースが出されておらず気が付かなかったのだが、2021年6月に行われた「OFC 2021」のワークショップで、最初に公開された模様だ。

 現状「いつ」という話は一切されていないので何とも言えないが、例えば1.6T Ethernetについて、少なくともモジュールレベルでは100G×16という、ちょっと頭の悪いソリューションが可能になったというのは、興味深いところである。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/