期待のネット新技術
200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年9月7日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
さらに引き続き802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Groupの2021年5月のミーティングの内容を見ていこう。
前回、Opticに関してはあまり提案がなかったと書いたものの、HuaweiのMaxim Kuschnerov氏とLin Youxi氏によって、200GのレーンにおけるPAM4とPAM6の比較結果が示された。
PAM4とPAM6については、『200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?』で紹介した3月のミーティングにおけるGoogleのプレゼンテーションでも、以下のように比較されていた。5月のミーティングで出されたのは、これをもう少し細かくシミュレーションをした結果となる。
技術的な可能性が明確化され、PAM4ベースの200G実現が一歩前進
では、5月のミーティングにおける200GのレーンにおけるPAM4とPAM6の比較結果を見ていこう。
4次のBessel Filter、2次のGaussian Filterを掛けた際のPAM4とPAM6の比較
まず、受信側のBERまわりのシミュレーションから。以下は、4次のBessel Filterおよび2次のGaussian Filterを掛けた結果のグラフだ。PAM4はPAM6に比べ、Bessel Filterで2dBほど、Gaussian Filterで1.5dBほどのsensitivity(感度というか、受信電力)がある。つまり、BERが同じなら、受信電力が1.5~2dBほど低くできるのが、PAM4のメリットというわけだ。
EMLとMZMの発光素子でPAM4/PAM6を実装した場合のBER
次が送信側だ。200G世代では、EMLとMZMの2種類の発光素子が有望視されているのは先にも挙げた3月のミーティングで触れた通りだが、それぞれの発光素子でPAM4/PAM6を実装した場合のBERを評価したのが以下のスライドだ。
このうち左のMZMにおけるBERは、大きくは違わないものの、ややPAM4の方がマシといったところ。ただ、脚注にもあるように、EMLとの比較ではやや非線形な傾向があり、PAM6の方が、この傾向の影響を受けやすいとしている。
一方、EMLを使った場合(以下右)は、BERの乖離がかなり大きい。PAM4だとROPが増えるほどBERは下がり、B2Bでは5.0E-5あたり、5kmでも1.0E-4程度まで下がるのに対し、PAM6では5.0E-3あたりで留まっている。
しかも脚注にあるように、今後コンポーネントの開発が進んで、DACやEMLの帯域が広がれば、PAM4とPAM6のBERの差はむしろ広がると考えられるとしている。
複数のリンクつないだ際の損失を比較する「MPIペナルティ」でも、PAM4なら許容範囲内に
次が「MPI(Multipath Interference)ペナルティ」で、要するに以下のスライド右上の図のように、複数のLinkをpatch codeでつないだ場合の損失比較である。
今一つグラフのトレンドが理解できない(縦軸がsensitivity penaltyなので、MPI penaltyが少ないほどsensitivity penaltyが少ないなら理解できるが、グラフは逆)あたりに謎は残るが、Kuschnerov氏らの説明によれば、PAM4ならTriple linkでのpenaltyもぎりぎり許容範囲内(要するにpatch codeの損失次第)であるが、PAM6だとTriple linkはMPI損失が大きくなり過ぎて不可能、という話であった。
以下右のスライドは、224GbpsでPAM4を利用した際のCD(Chromatic Dispersion:色分散)特性を比較したものだ。1270nmあるいは1330nmの波長だと特性の分散がやや大きくなり過ぎ、修正には5次のFFE程度では十分ではないという内容だ。逆に言えば、1300~1324nmの波長であれば、特性値がITU-Tの定める分散の範囲(左の「Table 1」)に収まる見込み、ということである。
ここまでの結果を受けたKuschnerov氏らの結論をまとめたのが以下となる。
- 送信側の帯域幅が限られているにも関わらず、PAM6はPAM4より優れた性能を発揮することが示されている
- この差は、製品ではさらに広がると予測される
- PAM6はMPIペナルティが高いためにTriple link接続は実現不能で、2kmのFR4向けの用途では厳しい制限がある
- 4×200GのCWDM4 PAM4ではCDペナルティがあるため、リファレンス・イコライザーの変更が必要になる可能性がある
- シミュレーションおよび測定により、PAM4を用いたレーンあたり200Gの光伝送は、実現可能な技術であることが示されている
結論から言えば、3月のミーティングにおけるGoogleのプレゼンテーション内容を追認したようなものだが、ここからもう少し技術的可能性が明確になったことで、PAM4ベースの200Gの実現に一歩進んだと言うべきだろう。
200Gを43G×6で実現できる「PAM6」のさらなる検討を求めるGoogle
ところで、ここから2つほど余談を。1つ目はGoogleが「200Gbps Passive Copper Cable」のリクエストを出してきたことだ。その動機は、既にデータセンター内で、Edge Aggregation Blockやラックの内部では、「DAC(Direct Attach Copper)、つまり銅配線のEthernetを広く利用していることにある。
DACの速度がレーンあたり50Gbpsに留まっている関係でトレンドに追従できなくなっているが、レーンあたり200Gbpsの規格が策定されれば、完全には追随できないとはいえ、ずれをかなり減らすことができる。特に、大規模データセンターで光のみというのは、コストも消費電力の面でも厳しいのは理解できる。
これを実現するために、ケーブルそのもの、PCB(プリント基板上の配線)、コネクタ、VIA(貫通端子)やパッケージ、パッケージ内の配線などを一新することで、トータルのロスが43GHzならば36dBほど、53GHzなら50dBほどになるとしている。
ところで、200G(実際にはFECの分も含むため200Gオーバー)を実現するには、PAM4であれば53G×4(これは暫定値なので、検討の結果次第では56Gなどさらに高いかもしれない)となるが、PAM6なら43G×6で実現できる。この36dBの損失を前提にすれば、逆にかなり現実的となるPAM6を、もう少し検討して欲しいというのがGoogleの主張だ。
200G×16で3.2Tまで視野に入れた新コネクタ規格「OSFP-XD」
もう1つの余談は、『800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向』でも以前触れている、OSFPの動向だ。
少なくとも現行のRev 4.0では、800Gまではカバーできるものの1.6Tに関してはノータッチだし、Signal Rateも100Gbpsまでの想定となっていた。ところが仕様化の作業は現在まだ進行中で、「OSFP-XD(eXtra Density)」という新たなコネクタ規格が予定されているらしい。
実はこれ、どこで聞いたかというと、「Hot Interconnects 28」の2日目に行われたAndy Bechtolsheim氏(Arista Networks創業者兼Chief Development Officerで、Sun Microsystemsの創業者兼Chief System Architectという方が有名であろうか)の基調講演である。
OSFP-XDは、そもそも16レーンの信号が利用可能になる上、レーンあたりは200Gbpsまで、つまり1.6Tや、さらにその先の3.2Tまで視野に入れた意欲的な仕様となっている。実は、OSFPからは一切リリースが出されておらず気が付かなかったのだが、2021年6月に行われた「OFC 2021」のワークショップで、最初に公開された模様だ。
現状「いつ」という話は一切されていないので何とも言えないが、例えば1.6T Ethernetについて、少なくともモジュールレベルでは100G×16という、ちょっと頭の悪いソリューションが可能になったというのは、興味深いところである。
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