期待のネット新技術
最大100Gbpsを実現、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年6月30日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
2008年結成の「P802.3ba Task Force」、10Gbpsを束ねて40/100Gbpsを目指す
IEEEでは2008年1月に「P802.3ba Task Force」を結成するが、これに先立ち、業界では"Road to 100G Alliance"を結成していた。結成メンバーはBay Microsystems, Inc、Enigma Semiconductor、Integrated Device Technology、IP Infusion、Lattice Semiconductorの5社であった。
Lattice Semiconductorの名前に「?」と思われる方もおられるかもしれない。同社は、SFP+のモジュールですら収まるような、非常に小さなFPGA(2007年当時、Lattice XP2シリーズは8×8mmとなる132ball csのBGAパッケージを用意)をリリースしていて、これが10G Ethernetモジュールで広範に使われていたから、実はEthernet業界にも縁が深かった。
この5社は、2007年6月にシカゴで行われた「NXTcomm 2007」でこのアライアンスを発表。その後Mintera、Sprint、NetLogicといった企業も加盟し、2008年にはTechnical Committeeを立ち上げている。このRoad to 100G Allianceは、最終的には2018年11月にEthernet Allianceと合併することとなり、その短い生涯を終えることになった。
それはそれとして、2009年に承認されたP802.3ba Task Forceの目的は以下のようなものだった。SMFとMMFのほかに、短いながらも銅配線やバックプレーンにも対応しながら、40Gおよび100Gをサポートする、というものになっている。
以下の左上が最初のミーティングにおける推定タイムラインだったが、この段階ではあらゆるものがまだ決まっておらず、ほか3枚のスライドのように、さまざまな議論が出ることとなった。
そして、ほぼ1年後となる2008年11月のミーティングで、それでもDraft 1.0がリリースされる。
その直前にあったミーティングのレポートを読むと、例えば4×10Gと1×40Gのコントローラーの比較では、「OC-192のSerDesの価格とOC-768のSerDesの価格を比べると、2003年の時点でも8倍以上高価で、量産効果が効いていない。OC-768のSerDesの価格は1年あたり約28%下がっているが、OC-192の域には届かない」とした上で、40GのSerDesの価格は10GのSerDesの6倍以上になることを指摘し、標準化案は4×10Gで行くべきだと締めくくっている。逆に2×20Gは悪くないオプションになる可能性が高いなど、多様な議論が出ていた。
が、最終的には無難な4×10Gと10×10G、および4×25Gというかたちで、Draft 1.0が完成する。ここから、Working GroupとLMSC(LAN/MAN Standard Committee)での投票を経て、Draft 3.2をベースとした標準化が無事に行われた。
ケーブル4本で40Gbpsを実現する「40GBASE-SR4」、10本で100Gbpsの「100GBASE-SR10」
さてそのIEEE 802.3baだが、この段階で標準化されたのは以下の8規格で、40GBASE-ER4は後送りとなった。
- 40GBASE-KR4(CL82/84)
- 40GBASE-CR4(CL82/85)
- 100GBASE-CR10(CL85)
- 40GBASE-SR4(CL82/86)
- 100GBASE-SR10(CL82/86)
- 40GBASE-LR4(CL82/87)
- 100GBASE-LR4(CL88)
- 100GBASE-ER4(CL88)
このうち、「40GBASE-SR4」と「100GBASE-SR10」はほぼ同じ規格で、4本なら前者で40G、10本なら後者で100Gというかたちだ。ほかの規格にはもう少しいろいろな違いがある。IEEEとしては利用用途別として分類していて、これで当初の目的を一通りカバーできたとしていた。
この一連の規格には共通した部分があり、符号化は全て64B/66Bとなっていて、銅配線を使う40GBASE-CR4/100GBASE-CR10と40GBASE-KR4以外はFECも不要で済んでいる。また、物理層のインターフェースも、CGMIIまたはXLGMIIとなっている。この違いは以降で解説しよう。
銅配線の話は少しおくとして、まず40GBASE-SR4と100GBASE-SR10について。もうこれは力業であって、上り下りそれぞれ4本ないし10本のケーブルを束ねることで、40Gbpsないし100Gbpsを実現するという仕組みだ。
逆に、1対ずつの仕様だけをみれば、限りなく10GBASE-SRに近い。実際、仕様では850nmの光源を利用し、50/125μmのOM3ないしOM4ファイバーを束ねて送受信を行っていて、OM3では最大100m、OM4では最大150mの到達距離を持つ。違いを強いて言えば、10GBASE-SRでサポートされていたOM1/OM2が、40/100GBASE-SRではサポートされないあたりだろう。
ただ、ケーブルそのもののスペックは同じでも、既存の敷設されたケーブルを使えるわけではないから、新規に敷設する限りにおいて、OM1/OM2の未サポートは問題にはならなかったものと思われる。信号速度は10.3125Gbpsで、64B/66Bエンコードを外せば、ちょうど10Gbpsなので、4xで40Gbps、10xで100Gbpsとなる計算だ。
ファイバーの本数増に対応する「MPO光コネクタ」
余談ながら、これだけファイバーの本数が多いと、それに対応するコネクタが必要になる。このために広く使われているのが「MPO光コネクタ」だ。
40GBASE-SR4の場合は12本のファイバーの左右4本ずつ、100GBASE-SR10の場合は両端1本ずつを余らして、中央の10本をそれぞれ利用して接続するようになっていた。
光ファイバーそのものは、何せクラッド径が125μmだから、コーティングと薄いサポートを追加した上で20本束ねても、直径は1mmになるか、という程度でしかない。ただ、多少曲げにくくはなった気がする(筆者の感想であって、実際に曲げ強度を測定したわけではない)。
一方、長距離用となるためか、ケーブルを4本ないし10本へと増やすことは、さすがに許容されなかった。そもそもこの場合、既に敷設済ケーブルの再利用を強く求められることが多いので、既存のケーブルそのままでの動作が必須である。このため、WDMを使って1本のケーブルに複数波長を通すというかたちの実装にならざるを得ない。この時点で、10GBASE-LRとの互換性は放棄したわけだ。
そして、40GBASE-LR4では、以下4つの波長を利用するかたちとなる。
- 1271nm(1264.5~1277.5nm)
- 1291nm(1284.5~1297.5nm)
- 1331nm(1304.5~1317.5nm)
- 1331nm(1324.5~1337.5nm)
到達距離はSMFでは2~10kmで、信号速度波長あたり10.3125Gbps、エンコードを外すと40Gbpsとなる計算だ。ちなみにPower Budgetは10GBASE-LRが9.4dBである、40GBASE-LR4が9.3dBとなっており、ほぼ同等となる。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー