期待のネット新技術

最大100Gbpsを実現、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

2008年結成の「P802.3ba Task Force」、10Gbpsを束ねて40/100Gbpsを目指す

 IEEEでは2008年1月に「P802.3ba Task Force」を結成するが、これに先立ち、業界では"Road to 100G Alliance"を結成していた。結成メンバーはBay Microsystems, Inc、Enigma Semiconductor、Integrated Device Technology、IP Infusion、Lattice Semiconductorの5社であった。

 Lattice Semiconductorの名前に「?」と思われる方もおられるかもしれない。同社は、SFP+のモジュールですら収まるような、非常に小さなFPGA(2007年当時、Lattice XP2シリーズは8×8mmとなる132ball csのBGAパッケージを用意)をリリースしていて、これが10G Ethernetモジュールで広範に使われていたから、実はEthernet業界にも縁が深かった。

 この5社は、2007年6月にシカゴで行われた「NXTcomm 2007」でこのアライアンスを発表。その後Mintera、Sprint、NetLogicといった企業も加盟し、2008年にはTechnical Committeeを立ち上げている。このRoad to 100G Allianceは、最終的には2018年11月にEthernet Allianceと合併することとなり、その短い生涯を終えることになった。

 それはそれとして、2009年に承認されたP802.3ba Task Forceの目的は以下のようなものだった。SMFとMMFのほかに、短いながらも銅配線やバックプレーンにも対応しながら、40Gおよび100Gをサポートする、というものになっている。

既存の802.3と互換性を保ちつつ、40Gbpsおよび100Gbpsで伝送できる仕組みを制定するという、これそのものは特におかしくもない目標だ。出典は"IEEE P802.3ba Objectives"(PDF)

 以下の左上が最初のミーティングにおける推定タイムラインだったが、この段階ではあらゆるものがまだ決まっておらず、ほか3枚のスライドのように、さまざまな議論が出ることとなった。

最終的にIEEE 802.3ba-2010は2010年6月に標準化が完了しているので、ほぼロードマップ通りとなる
このあたりの基本的なところから議論がスタートするのは当然か。出典は"The IEEE P802.3ba Task Force"
40Gの銅配線に関しては原則10G×4の方向だが、100Gは別議論となった
光ファイバーも、この段階ではまだ100Gのシリアルも候補になっていた。4×25Gも、かなり真剣に検討されていたようだ

 そして、ほぼ1年後となる2008年11月のミーティングで、それでもDraft 1.0がリリースされる。

 その直前にあったミーティングのレポートを読むと、例えば4×10Gと1×40Gのコントローラーの比較では、「OC-192のSerDesの価格とOC-768のSerDesの価格を比べると、2003年の時点でも8倍以上高価で、量産効果が効いていない。OC-768のSerDesの価格は1年あたり約28%下がっているが、OC-192の域には届かない」とした上で、40GのSerDesの価格は10GのSerDesの6倍以上になることを指摘し、標準化案は4×10Gで行くべきだと締めくくっている。逆に2×20Gは悪くないオプションになる可能性が高いなど、多様な議論が出ていた。

この当時は、10Gを超えるSerDesに関しては、まだ技術的に熟していない時期だった、という問題は確かにあった。出典は"4x10G vs Serial 40G SerDes Maturity and Cost"
20Gは40Gに比べ実現可能性も高く、25Gよりも消費電力も低い。40Gなら2×20G、100Gは5×20Gというオプションになり得るという議論。ちなみに40GBASE-LR2は正式採択されなかった。出典は"Improved specifications for 40GBASE-LR2 40 Gb/s PMD for 10 km duplex SMF"

 が、最終的には無難な4×10Gと10×10G、および4×25Gというかたちで、Draft 1.0が完成する。ここから、Working GroupとLMSC(LAN/MAN Standard Committee)での投票を経て、Draft 3.2をベースとした標準化が無事に行われた。

ケーブル4本で40Gbpsを実現する「40GBASE-SR4」、10本で100Gbpsの「100GBASE-SR10」

 さてそのIEEE 802.3baだが、この段階で標準化されたのは以下の8規格で、40GBASE-ER4は後送りとなった。

この資料からは、100Gのバックプレーンはとりあえず見送ったことや、100mのSRはまだしも10kmのLRで10波長は許容されなかったことなど、いろいろ透けて見える。出典は"Chief Editor's Report"
  • 40GBASE-KR4(CL82/84)
  • 40GBASE-CR4(CL82/85)
  • 100GBASE-CR10(CL85)
  • 40GBASE-SR4(CL82/86)
  • 100GBASE-SR10(CL82/86)
  • 40GBASE-LR4(CL82/87)
  • 100GBASE-LR4(CL88)
  • 100GBASE-ER4(CL88)
さすがに銅配線でFECなしは無理だったようだ。出典は"Chief Editor's Report"

 このうち、「40GBASE-SR4」と「100GBASE-SR10」はほぼ同じ規格で、4本なら前者で40G、10本なら後者で100Gというかたちだ。ほかの規格にはもう少しいろいろな違いがある。IEEEとしては利用用途別として分類していて、これで当初の目的を一通りカバーできたとしていた。

 この一連の規格には共通した部分があり、符号化は全て64B/66Bとなっていて、銅配線を使う40GBASE-CR4/100GBASE-CR10と40GBASE-KR4以外はFECも不要で済んでいる。また、物理層のインターフェースも、CGMIIまたはXLGMIIとなっている。この違いは以降で解説しよう。

40GBASE-SR4で8本、100GBASE-SR10では20本ものファイバーを束ねるわけで、それもあって通常の光ファイバーケーブルよりやや太い。出典は"Proposal for a PMD for 100GBASE-SR10 and 40GBASE-SR4 and Related Specifications"

 銅配線の話は少しおくとして、まず40GBASE-SR4と100GBASE-SR10について。もうこれは力業であって、上り下りそれぞれ4本ないし10本のケーブルを束ねることで、40Gbpsないし100Gbpsを実現するという仕組みだ。

 逆に、1対ずつの仕様だけをみれば、限りなく10GBASE-SRに近い。実際、仕様では850nmの光源を利用し、50/125μmのOM3ないしOM4ファイバーを束ねて送受信を行っていて、OM3では最大100m、OM4では最大150mの到達距離を持つ。違いを強いて言えば、10GBASE-SRでサポートされていたOM1/OM2が、40/100GBASE-SRではサポートされないあたりだろう。

 ただ、ケーブルそのもののスペックは同じでも、既存の敷設されたケーブルを使えるわけではないから、新規に敷設する限りにおいて、OM1/OM2の未サポートは問題にはならなかったものと思われる。信号速度は10.3125Gbpsで、64B/66Bエンコードを外せば、ちょうど10Gbpsなので、4xで40Gbps、10xで100Gbpsとなる計算だ。

ファイバーの本数増に対応する「MPO光コネクタ」

MPOコネクタのウェブページ(住友電気工業)にあるのは12本の「MPO12」というタイプだが、上下2列で12本ずつの「MPO24」というものもある

 余談ながら、これだけファイバーの本数が多いと、それに対応するコネクタが必要になる。このために広く使われているのが「MPO光コネクタ」だ。

 40GBASE-SR4の場合は12本のファイバーの左右4本ずつ、100GBASE-SR10の場合は両端1本ずつを余らして、中央の10本をそれぞれ利用して接続するようになっていた。

 光ファイバーそのものは、何せクラッド径が125μmだから、コーティングと薄いサポートを追加した上で20本束ねても、直径は1mmになるか、という程度でしかない。ただ、多少曲げにくくはなった気がする(筆者の感想であって、実際に曲げ強度を測定したわけではない)。

 一方、長距離用となるためか、ケーブルを4本ないし10本へと増やすことは、さすがに許容されなかった。そもそもこの場合、既に敷設済ケーブルの再利用を強く求められることが多いので、既存のケーブルそのままでの動作が必須である。このため、WDMを使って1本のケーブルに複数波長を通すというかたちの実装にならざるを得ない。この時点で、10GBASE-LRとの互換性は放棄したわけだ。

 そして、40GBASE-LR4では、以下4つの波長を利用するかたちとなる。

ちなみにReTimer機能は、この仕様の中には含まれない。ReTimerとは、要するに信号を長距離に伸ばすためのバッファーだ。出典は「IEEE 802.3-2018」のFigure 87-2
  • 1271nm(1264.5~1277.5nm)
  • 1291nm(1284.5~1297.5nm)
  • 1331nm(1304.5~1317.5nm)
  • 1331nm(1324.5~1337.5nm)

 到達距離はSMFでは2~10kmで、信号速度波長あたり10.3125Gbps、エンコードを外すと40Gbpsとなる計算だ。ちなみにPower Budgetは10GBASE-LRが9.4dBである、40GBASE-LR4が9.3dBとなっており、ほぼ同等となる。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/