期待のネット新技術

「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

8月のミーティングで初出のProject Document

 8月のミーティングでもう1つ話し合われたのは、Project Documentに関するものだ。このとき初めて、Project DocumentのDraftが出てきた。

 Project Documentとは、要するにStudy Groupの成果物としてIEEEに提示するドキュメントのことだ。その中には、PARやCSD(Criteria for Standards Development)なども含まれていて、Task Forceの立ち上げに必要な情報が全て含まれている。

 このドキュメントをIEEE SAが受け取り、Study GroupからTask Forceへ移行するか、Study Group止まりでTask Forceへの移行はしない(つまり、標準化作業を行わない)かを判断するための判断資料というべきか。

 さすがに今回標準化が行われない、という事はないとは思うが、フォーマットがきちんと決まっているので、それに沿って内容を埋める必要がある。

Project Numberは「IEEE P802.3df」、規格のうち26が検討項目に

 さて、とりあえず叩き台として出てきたもの(=未承認のDraft)が"Draft Project Documentation"であるが、いくつか興味あるポイントを挙げよう。

 まず、Project Numberは、やはり「IEEE P802.3df」となるようだ。これが正式に標準化されれば、「IEEE 802.3df」として含まれることになる。

後述するように「IEEE P802.3df」だけで済むとは思えないのだが。出典はIEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet Study Group Aug 2021 Electronic Sessionの"Draft Project Documentation"

 問題は、対象となる規格である。ここまで説明してきたように、恐ろしく多くの方式が、その対象となっている。内訳は、200Gb/sが3つ、400Gb/sが2つ。800Gb/sは100Gb/s×8が6つ、200Gb/s×4が4つあり、さらにLR/ER向けのものが2つ。そして1.6Tb/sについては、200G×8が3つとなる。

 つまり、合計20もの方式が検討項目に挙がっている格好だ。厳密に言えば、AUIのインターフェースも全部で6種類あるから、トータルでは26である。

pendingとなっている同軸ケーブルを利用したCUに関しては、まだ伝送方式を詰め切れていない

 さすがに「これは多すぎないか?」との声が上がったようだ。この話には、また後で触れたいと思う。

Technical FeasibilityやEconomic Feasibilityはもう少し議論の余地が

もっとも、4.3は4.2が決まると半ば自動的に決まる(というか、今は自動的に決めている)感じである。つまり、IEEE SAにDraftをいつ上げられそうかで決まっている格好だ

 また、この先のタイムラインの最初の原案も出てきた。Task Forceでの作業を完了させ、最初にIEEE SAにDraftを提示するのは2024年9月、標準化完了時期は2025年9月の予定となっている。

 PARについては、このDraftではまだあまり埋まっていないが、Project scopeは比較的はっきり述べており、ここに関しては意思統一がなされた格好だ。同様にCSDも、トップこそきちっと書かれている。

まぁここは機械的に決まる
とりあえず1.6Tb/sもターゲットにすることが明確に示された

 市場性(Market Potential)や互換性(Compatibility)に関してはあまり問題はなさそうだが、Technical FeasibilityとかEconomic Feasibilityに関しては今後のDraftで手が入りそうな気もする。

Market Potentialは、それほど問題にならずにこのままいきそうだ
Compatibilityは、当然ながら互換性を保つように規格が決められることになるだろう
Technical Feasibilityはやや包括し過ぎというか、もう少し個別にBreakdownする必要がありそうに思える。もっとも、ほかの規格のものを読んでも、各方式個別の技術的実現可能性に細かく触れたりはしていないので、この程度でいいのかもしれない
Economic Feasibilityは割と楽天的というか、レーンあたり200Gb/s実現のためのコストが、やや低めに見積もられている気がしなくはない

 これはもちろん叩き台なので、特に投票もなく、各メンバーが持ち帰って検討を行うことになった。

時間が限られる中で技術的な課題は多い

 さて、続いては9月のミーティングであるが、ここで早速Draft Project Documentに対する意見が表明された。まずはCiscoのMark Nowell氏による"Project documentation for 802.3df - timeline considerations"のプレゼンテーションには、Study Group議長であるHuaweiのJohn D'Ambrosia氏も名前を連ねている。

 Nowell氏はまず、「やるべきことは多いが時間は限られており、2022年早々から作業を開始しないといけない」と述べた。

IEEE 802.3 WGへの提案は10月28日(実はこの原稿を書いている当日で、時差を考えればあと数時間で始まる)に行われ、問題がなければ11月の802.3 WGと802 ECでこれが承認され、12月にIEEE SAでの承認を受けた上で、2022年早々から作業が始まる格好だ
とりあえず100Gb/sと200Gb/sの2種類があるのがそもそも混乱の原因、と言えなくもない。出典は"Project documentation for 802.3df - timeline considerations"

 一方で技術的課題も多く、これを時間通りに進めるのは難しいとしている。

これは一例であるが、FECが用途に応じて何種類も出てくるのは間違いない

物理規格の分割を提案、過去にも事例あり

 そこで、「基本的な技術的要素に関しての標準化を終えた後で」、物理規格を複数に分割する事を提案している。

当初の目的では、これら全てを1つのPARでカバーする予定だったが、さすがにいろいろと無理がある

 規格の分割(IEEEの用語で言うならPARの分割)は、別に珍しい話ではない。過去に紹介した例では、IEEE P802.3ctから400GBASE-ZRがIEEE P802.3cwに分割したケース『「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割、「IEEE P802.3cw」で策定へ』がある。

 このプレゼンテーションでは、実際にIEEE P802.3cn→IEEE P802.3cn+IEEE P802.3ct→IEEE P802.3cn+IEEE P802.3ct+IEEE P802.3cwと、3つの規格へ分割された例が紹介されている。

まずDWDMをP802.3cnから、次いで400Gb/sをP802.3cwから分離した格好になる

 このPARの分割は、IEEE 802 Operations Manualに規定された正規の方法であり、スムーズに仕様策定作業を進めるには欠かせない手法の1つだ。

 個人的な感想で言えば、まずレーンあたり100Gb/sと200Gb/sはPARを分割すべきだと思うし、200Gb/sについても仮にCoherentなりSHDなりを本当に規格化するのであれば、これも分割した方が仕様策定作業が迅速に進むように思える。

 Nowell氏が同じように考えているかどうかは不明だが、実際に分割した場合のシナリオとして提案されているのが以下となる。

200Gに関しては、光ファイバーと銅(同軸)配線では変わる点が多いため、Coherentまで含めて3つ以上に分割される可能性もありそうだ

 普通に考えれば、レーンあたり100Gb/sは光ファイバーと銅配線のどちらも既に標準化作業が進行中の規格だから、単にこれを8レーン構成にすれば実現するわけで、技術的検討を要する項目はそう多くなく、比較的サクサクと作業が進みそうだ。

 もう一方のレーンあたり200Gb/sは、技術的可能性は見えているとはいえ、製品レベルでの実現にはまだ足りていないことが多い。これはCoherent/SHDも同じで、製品レベルに持っていくために検討すべき項目は多そうだ。

 ところが、これらを全て同じPARの下で検討をしようとした場合、作業時間が足りなくなる可能性がある。こうしたケースでは、PARを分割することで、作業時間を確保できることになる。

PARが承認されてからRevCom(Standards Review Committeeの審議)までは最長4年という制約があり、これを超えることはできない。PAR分割はこれに対する1つの解決案となる

 実際、IEEE P802.3ct(むしろ既にIEEE 802.3ctとして標準化が完了している)の場合、以下の表のようになっており、PARを分割したことで、それぞれの作業期限が後ろにずれている。

PAR承認標準化予定日標準化完了日
IEEE P802.3cn2018年9月2020年6月2019年11月
IEEE P802.3ct2019年2月2021年9月2021年6月
IEEE P802.3cw2020年2月2023年8月(現在作業中)

 だから、まず全ての規格で共通となる仕様に関して先行して作業を行い、これが終わった段階でPAR分割をすることで、手間がかかるもの(今回で言えば200Gb/s LaneやCoherent)を別のPARへと分割することで、共通仕様に関しては審議が終わり、手間のかかる部分に専念するかたちで仕様を検討できることになる。

 その一方で、実現可能性が高い(今回で言えば100Gb/s Link)仕様に関しては、手間がかかる仕様の策定を待つことなく先に標準化が完了するわけで、これは都合の良い仕組みである。

 こうしたことを踏まえて、IEEE P802.3dfは複数のPARに分割すべき、というのがこの提案である。

これはあくまで提案であり、まだPAR分割は決まった話ではないと念を押しているあたりは、やはりこの方針にさまざまな異論を持つ人がいるのかもしれない

 ちなみに、この提案に対してもStraw PollやMotionは特に行われていない。このあたりは、最終的にDraft Project Documentへ反映されるかたちになるかと思う。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/