期待のネット新技術
「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年11月9日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
8月のミーティングで初出のProject Document
8月のミーティングでもう1つ話し合われたのは、Project Documentに関するものだ。このとき初めて、Project DocumentのDraftが出てきた。
Project Documentとは、要するにStudy Groupの成果物としてIEEEに提示するドキュメントのことだ。その中には、PARやCSD(Criteria for Standards Development)なども含まれていて、Task Forceの立ち上げに必要な情報が全て含まれている。
このドキュメントをIEEE SAが受け取り、Study GroupからTask Forceへ移行するか、Study Group止まりでTask Forceへの移行はしない(つまり、標準化作業を行わない)かを判断するための判断資料というべきか。
さすがに今回標準化が行われない、という事はないとは思うが、フォーマットがきちんと決まっているので、それに沿って内容を埋める必要がある。
Project Numberは「IEEE P802.3df」、規格のうち26が検討項目に
さて、とりあえず叩き台として出てきたもの(=未承認のDraft)が"Draft Project Documentation"であるが、いくつか興味あるポイントを挙げよう。
まず、Project Numberは、やはり「IEEE P802.3df」となるようだ。これが正式に標準化されれば、「IEEE 802.3df」として含まれることになる。
問題は、対象となる規格である。ここまで説明してきたように、恐ろしく多くの方式が、その対象となっている。内訳は、200Gb/sが3つ、400Gb/sが2つ。800Gb/sは100Gb/s×8が6つ、200Gb/s×4が4つあり、さらにLR/ER向けのものが2つ。そして1.6Tb/sについては、200G×8が3つとなる。
つまり、合計20もの方式が検討項目に挙がっている格好だ。厳密に言えば、AUIのインターフェースも全部で6種類あるから、トータルでは26である。
さすがに「これは多すぎないか?」との声が上がったようだ。この話には、また後で触れたいと思う。
Technical FeasibilityやEconomic Feasibilityはもう少し議論の余地が
また、この先のタイムラインの最初の原案も出てきた。Task Forceでの作業を完了させ、最初にIEEE SAにDraftを提示するのは2024年9月、標準化完了時期は2025年9月の予定となっている。
PARについては、このDraftではまだあまり埋まっていないが、Project scopeは比較的はっきり述べており、ここに関しては意思統一がなされた格好だ。同様にCSDも、トップこそきちっと書かれている。
市場性(Market Potential)や互換性(Compatibility)に関してはあまり問題はなさそうだが、Technical FeasibilityとかEconomic Feasibilityに関しては今後のDraftで手が入りそうな気もする。
これはもちろん叩き台なので、特に投票もなく、各メンバーが持ち帰って検討を行うことになった。
時間が限られる中で技術的な課題は多い
さて、続いては9月のミーティングであるが、ここで早速Draft Project Documentに対する意見が表明された。まずはCiscoのMark Nowell氏による"Project documentation for 802.3df - timeline considerations"のプレゼンテーションには、Study Group議長であるHuaweiのJohn D'Ambrosia氏も名前を連ねている。
Nowell氏はまず、「やるべきことは多いが時間は限られており、2022年早々から作業を開始しないといけない」と述べた。
一方で技術的課題も多く、これを時間通りに進めるのは難しいとしている。
物理規格の分割を提案、過去にも事例あり
そこで、「基本的な技術的要素に関しての標準化を終えた後で」、物理規格を複数に分割する事を提案している。
規格の分割(IEEEの用語で言うならPARの分割)は、別に珍しい話ではない。過去に紹介した例では、IEEE P802.3ctから400GBASE-ZRがIEEE P802.3cwに分割したケース『「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割、「IEEE P802.3cw」で策定へ』がある。
このプレゼンテーションでは、実際にIEEE P802.3cn→IEEE P802.3cn+IEEE P802.3ct→IEEE P802.3cn+IEEE P802.3ct+IEEE P802.3cwと、3つの規格へ分割された例が紹介されている。
このPARの分割は、IEEE 802 Operations Manualに規定された正規の方法であり、スムーズに仕様策定作業を進めるには欠かせない手法の1つだ。
個人的な感想で言えば、まずレーンあたり100Gb/sと200Gb/sはPARを分割すべきだと思うし、200Gb/sについても仮にCoherentなりSHDなりを本当に規格化するのであれば、これも分割した方が仕様策定作業が迅速に進むように思える。
Nowell氏が同じように考えているかどうかは不明だが、実際に分割した場合のシナリオとして提案されているのが以下となる。
普通に考えれば、レーンあたり100Gb/sは光ファイバーと銅配線のどちらも既に標準化作業が進行中の規格だから、単にこれを8レーン構成にすれば実現するわけで、技術的検討を要する項目はそう多くなく、比較的サクサクと作業が進みそうだ。
もう一方のレーンあたり200Gb/sは、技術的可能性は見えているとはいえ、製品レベルでの実現にはまだ足りていないことが多い。これはCoherent/SHDも同じで、製品レベルに持っていくために検討すべき項目は多そうだ。
ところが、これらを全て同じPARの下で検討をしようとした場合、作業時間が足りなくなる可能性がある。こうしたケースでは、PARを分割することで、作業時間を確保できることになる。
実際、IEEE P802.3ct(むしろ既にIEEE 802.3ctとして標準化が完了している)の場合、以下の表のようになっており、PARを分割したことで、それぞれの作業期限が後ろにずれている。
PAR承認 | 標準化予定日 | 標準化完了日 | |
IEEE P802.3cn | 2018年9月 | 2020年6月 | 2019年11月 |
IEEE P802.3ct | 2019年2月 | 2021年9月 | 2021年6月 |
IEEE P802.3cw | 2020年2月 | 2023年8月 | (現在作業中) |
だから、まず全ての規格で共通となる仕様に関して先行して作業を行い、これが終わった段階でPAR分割をすることで、手間がかかるもの(今回で言えば200Gb/s LaneやCoherent)を別のPARへと分割することで、共通仕様に関しては審議が終わり、手間のかかる部分に専念するかたちで仕様を検討できることになる。
その一方で、実現可能性が高い(今回で言えば100Gb/s Link)仕様に関しては、手間がかかる仕様の策定を待つことなく先に標準化が完了するわけで、これは都合の良い仕組みである。
こうしたことを踏まえて、IEEE P802.3dfは複数のPARに分割すべき、というのがこの提案である。
ちなみに、この提案に対してもStraw PollやMotionは特に行われていない。このあたりは、最終的にDraft Project Documentへ反映されるかたちになるかと思う。
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