期待のネット新技術
10BASE-T同様の仕組みに光ファイバーを用いて最大2kmを実現した「10BASE-F」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年3月31日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
ツイストペアの主流はいまだに10GBASE-TCAT 8.1/8.2ケーブルは25/40GBASE-Tへ向けた先行用途向け
実を言えば、2019年6月に「COMPUTEX TAIPEI 2020」を取材した際、ケーブルメーカーがCAT 8.1/8.2のLANケーブルを意外なほどラインアップしており、「案外普及は早いのかもしれない」などと思っていたのだが、今のところ全く普及の兆しが見えていない。
中には、25GBASE-TのDACをラインアップしているメーカーもなくはなかったが、その存在は少数にとどまっており、どうやら現状では、CAT 8.1/8.2のケーブルは「将来25/40GBASE-Tを通すときのために、先行して敷設しておこう」といった用途に使われているだけのようだ。
ちなみに、CAT 8/8.1/8.2はいずれも正式な規格だが、CAT 8は「ANSI/TIA-588-C.2-1」として標準化されたもので、端的に言えば米国のみの規格である。一方のCAT 8.1/8.2は「ISO/IEC 11801」として標準化されている。
CAT 8.1は従来のCAT 5~6Aと後方互換性を持ち、具体的に言えばRJ45コネクタを採用したものだ。CAT 8.2は、より伝達特性のいいコネクタを採用している。ただ、現実問題としてCAT 8.2は40GBASE-T専用に近く、コネクタも異なるため、これを敷設してしまうと既存のEthernetに接続できないということもあって、CAT 8.1が選ばれる例は多いようだ。
そんなわけでツイストペアに関しては、いまだに10GBASE-Tが一番普及している規格ということになる。その10GBASE-Tもまだ普及途上という状況で、成熟には程遠いから、25G/40GBASE-Tの普及がはるか先になるのは、疑う余地もない。
最初に標準化された光Ethernet「IEEE 802.3d」最大ケーブル長2.5km、工場などの複数建屋間を接続
その一方で、光ファイバーを使ったEthernetは、既に200Gbpsが普及段階であり、まだ標準化も終わっていないにもかかわらず、すでにさまざまなメーカーが400Gbpsに向けた準備を始めているという有様だ。アクセス回線などはともかく、コアネットワークの接続には、もはや光ケーブルしか考えられない状況となっている。
そもそもEthernetが1983年に「10BASE5」として登場し、次いで1988年に「10BASE2」が追加されたわけだが、光Ethernetが世に出たのは、さらにそこからもう少し後のことだ。
光Ethernetとして最初に標準化がなされたのは、「IEEE 802.3d」、通称「FOIRL(Fiber-Optic Inter-Repeater Link)」である。実は10BASE5が世の中に出た直後から、「500mでは足りない」という声が結構あった。例えば、複数の建屋にまたがる工場などで、それぞれの建屋の中のEthernetのケーブル長は100mにも満たない(1980年代だから、事務所くらいにしかEthernetの口を持つ機器は置かれない)が、建屋の間が数100mあったりすると、10BASE5ではどうしようもないということになる。
実は10BASE5の場合、セグメント長(1本の10BASE5ケーブルの最大長)は500mだが、コリジョンドメイン(CDMA/CDで衝突を検出できる最大長)は2500mなので、間にリピーターを4つ介することで、2.5kmまでは延長ができた。しかし、そうした正攻法とは別に、以下の図1のように、2つのEthernetのセグメントを光ファイバーで繋いでしまう、一種のExtenderが独自に発売されていたりした。
この理屈は簡単で、単にMAU(Medium Attachment Unit)を間に挟んで電気信号と光信号の双方向変換を行うだけだ。ネットワーク面から見ると、2つの10BASE5のセグメントが繋がって1本になっているように見えるかたちとなる。
ここでミソなのは、光ファイバーを使えば、10BASE5のケーブルに比べて信号伝達が高速に行えるということだ。ご存じの通り、光の速度は秒速30万kmほどであるが、銅配線内ではここまでのスピードが出ず、おおむね60~75%となる秒速18~23万km程度となる。逆に言えば、銅配線を光ファイバーに置き換えれば、1セグメントの最大長を670~830mほどまでに伸ばせるということだ。
実際にはMAUを挟むことによる遅延などもあるから、もう少し減るとは思うが、それでも到達距離が延びるのは大きなメリットだ。さらに言えば、10BASE5のケーブルは直径1cmで、しかも非常に曲げにくいものなので、細かい取り回しが大変不便だった。これを光ファイバーに置き換えると、曲げにくい(曲げ半径が大きい)のは10BASE5と大して変わらないのでさほどデメリットとはならず、むしろファイバーそのものが細く軽いことがメリットとなった。
ただ、この独自Extenderは、やはり1セグメントを無理やり拡張するという点もあり、いろいろ問題があった。実際にある程度の距離を延ばしたときに通信障害を不規則に引き起こしたりする弊害や、独自規格がゆえにベンダー間の互換性がないことが問題視され、広く普及するには至らなかった。とは言いつつも、拠点間を光ファイバーで結ぶというアイデアにニーズがあることが認められたためか、きちんと標準化しようという機運が持ち上がった。
こうして標準化されたのが「IEEE 802.3d」である。先の独自Extenderとの違いは、リピーターがきちんと間に入ったことである。速度はもちろん10Mbpsとなるが、距離は最大で1kmまで到達可能であり、それこそ拠点間の接続などに十分活用できた。
10BASE-Tと同様の仕組みで光ファイバーを利用「10BASE-F」、1993年に「IEEE 802.3j」として標準化
ただ、このIEEEE 802.3dはあまり長くは使われなかった。はるかに構成が容易な「10BASE-T」が、10BASE2に続いて1990年に「IEEE 802.3i」として標準化され、これが普及したためである。ただ、10BASE-Tの配線は最大でも100mまでに限られていて、これを超える距離へのニーズは確実に存在した。そこで、10BASE-Tと同様の仕組みながら光ファイバーを利用する接続方法として、1993年に「10BASE-F」が「IEEE 802.3j」として標準化された。
この10BASE-Fだが、実際には10BASE-FL/10BASE-FB/10BASE-FPの3種類の規格に分かれていた。ただ、どの規格もマルチモード光ファイバー2本で構成され、850nmのレーザー光を利用する点は共通していた。最大到達距離は“原則として”2kmとなっていたが、それぞれの詳細などは以下の通りだ。
- 10BASE-FL
ノード間の直接接続などのほか、FOIRLの後継としても利用される。FOIRLの場合はやはり図2のように、「Repeater+MAU」の構成となる。FOIRL対応の機器をそのまま利用できるメリットがあるが、その場合の最大到達距離は、FOIRLにあわせて1kmまでに制限された - 10BASE-FB
"Fiber Backbone"でハブ―スイッチ間を繋ぐ目的で利用され、ノード間の接続には利用されない。同期型通信を行うことで、10BASE-FLを利用する場合に比べてレイテンシが減るメリットがある。また、10BASE-Tや10BASE-FLと異なり、最大セグメント数の5を超えての接続も可能だ(これはレイテンシの削減で可能となった)。 - 10BASE-FP
"Fiber Passive"で、パッシブハブ向けの規格。最大33のノードを接続できる。最大到達距離は500m
ただ、10BASE-FPは標準化こそ完了したものの、これを採用したデバイスは筆者が知る限り皆無だ。10BASE-FBも、あまり広く使われたとは言い難く、この世代では結局のところ、10BASE-FLが最も使われた規格となった。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー