期待のネット新技術
Wi-Fiで増える6GHz帯、日本ではしばらく利用不可? 次世代「Wi-Fi 7」では必須?
11ax後継「IEEE 802.11be」では6GHz帯がほぼ必須、2022年に採用なるか?【周波数帯を拡張するWi-Fi 6E】
2020年3月24日 06:00
InfiniBandも一段落したところで、休憩がてら、2018年4~7月にかけて全15回を掲載した【Wi-Fi高速化への道】」について、現時点までのアップデートも兼ね、Wi-Fi関連の動向をお伝えしよう。まず、Wi-Fi 6Eについては、Wi-Fi Alliance発表時の記事からの動きを順次補足しながら、現状の動向を紹介していく。
5GHz帯で19ch分が国内利用可能に、2019年7月の電波法改正で
Wi-Fi 6Eで利用される6GHz帯について、前回の通り、欧米では2019年後半に免許不要で利用可能とするメドが付いてきた。その一方で日本の動向を見ると、やや動きが渋いと言える。まず現状(とは言っても2019年3月だが)の周波数割り当ては、総務省の「我が国の電波の使用状況」(総務省、PDF)によれば、以下のようになっている。
ただ、この後に少しだけ動きがあった。総務省は2019年7月、「電波法施行規則等の一部を改正する省令(令和元年総務省令第27号)」を公布し、5GHz帯を利用する「IEEE 802.11ax」などの無線LANで、W56として利用できる周波数帯の拡張利用(5150~5350MHz→5150~5350MHz、5470~5730MHz)を可能にした。
元々5GHz帯は日本の場合、独自のJ52(5160~5240MHz)が、世界共通のW52(5170~5250MHz)に置き換えられ、次いで2005年にW53(5250~5330MHz)が追加されたことで、合計8ch分が利用可能となった。次いで2007年1月に5470~5725MHzが利用可能になり、W56(5490~5710MHz)として11ch分、トータルでは19ch分が利用可能の状況となっていた。
それが今回の改正により、W56として5490~5730MHzまでが利用可能となった関係で、これまで日本では利用できなかった144チャネル(中心周波数が5720MHz)を有効化できるようになった。結果、W56だけで12ch分を確保できたため、以下のように、特に40/80MHzの帯域を利用するケースで利用可能なチャネルが増え、ユーザー側のメリットは大きくなった。
帯域幅 | 改正により使用可能になるch数 |
20MHz | 19ch→20ch |
40MHz | 9ch→10ch |
80MHz | 4ch→5ch |
160MHz | 2ch |
国内での6GHz帯利用、令和2年版周波数再編アクションプランに盛り込まれず
ただ、これはあくまでも5GHz帯の拡張という話であって、6GHz帯については音沙汰なしである。総務省が2019年9月に公表した「周波数再編アクションプラン(令和元年度改定版)」に対する寄せられた意見とこれに対する総務省の見解の中の「39-1」に、IEEE 802.11ahへの対応に加え、IEEE 802.11axの6GHz帯への対応を求める意見が入っている。
だが、これに対する返答としては「頂いたご意見については、本改定案への賛同意見として承るとともに、今後の施策の検討の際に参考とさせていただきます」とある。さらにIEEE 802.11ahについては「小電力無線システム[915~930MHz]への制度整備等」として、すでにアクションプランに盛り込まれていこともあって「賛同意見」とされている。また、IEEE 802.11axの6GHz帯対応については、後半で「今後の施策の検討の際に参考とさせていただきます」とされている。これは、少なくとも「令和2年版のアクションプラン」には盛り込まれないという意味である。
実際、5.85~23.6GHz帯についての基本的な方針は、「高マイクロ波帯の未利用周波数帯の利用を一層促進するために、基盤技術や新たな電波利用システムの開発等を推進する」となっていて、特に「7~10GHz帯の屋内利用に限定されている超広帯域(UWB)無線システムについて、屋外利用が可能となるよう技術的条件を検討する」とされ、具体的に行う制度整備は以下の5つとなっている。
- 超広帯域(UWB)無線システム[7~10GHz帯]
- 次世代高機能レーダー[9GHz帯]
- 超高精細度テレビジョン放送(4K・8K放送)[12GHz帯]
- 衛星コンステレーション[Ku/Ka帯]
- ケーブルテレビ事業用無線伝送システム[23GHz帯]
今後取り組むべき課題としても、以下が挙がっているに過ぎず、現状見えている範囲で言う限り、Wi-Fiの6GHz帯利用に関しては検討もなされていないことになる。
- 航空機などでのブロードバンド接続のためのKa帯を利用した衛星ブロードバンド通信
- そのKa帯を利用した衛星ブロードバンド通信向け高機能アンテナの等の開発の推進
- 9GHz帯で既存無線局システムと周波数を強要するための技術/運用の検討
幸いなのは、周波数再編アクションプランはほぼ毎年検討が行われていることで、現在ベンダー各社が水面下でさまざまな働きかけをスタートしているとは聞くので、早ければ令和3年度改訂版あたりには、何かしら目に見える変化があるかもしれない。
11ax後継の「IEEE 802.11be」は6GHz帯の利用が前提国内で電波割り当てがなければWi-Fiの進化が止まる?
時期を考えると、おそらく2020年末までには米国で解禁になるであろうWi-Fi 6Eが日本で利用できるようになるのは、早くて2021年以降、現実的には2022年あたりになるのではないかと思う。そして少なくとも「6GHz帯は解禁されない」ということにはならないだろう。
その理由は、その6GHz帯まで使うことを前提に、IEEE 802.11axの後継規格であるIEEE 802.11beの標準化作業が既にスタートしているためだ。こちらはEHT(Extremely High Throughput)とされ(IEEE 802.11axはHEW:High Efficiency Wireless)、2018年9月にStudy Groupが形成。2019年1月にはPARやCSDのドラフトが出てきており、5月には提案版が完成している。
ちなみに提案版のCSDを読むと、以下のようになかなかアグレッシブな項目が並んでいる。
- PHYの最大スループットは最低でも30Gbps
- 320MHz Bandをサポート
- 16MIMOをサポート
- 不連続のバンドでのリンクアグリゲーション(例えば2.4GHz帯と5GHz帯と6GHz帯の全て利用するなどのサポート)
- リンク確立や再送のための新しいプロトコルの構築(例えばHARQ:Hybrid Automatic Repeat Request)
このStudy Groupは、2019年5月にTask Groupに昇格しており、現在はまさに作業中である。現在の予定ではDraft 0.1が2020年9月、Draft 1.0が2021年5月頃を予定しており、標準化作業が終わるのは2024年あたりになるだろうか。
何せ、320MHz Bandのサポートという時点で、もう6GHz帯を利用しないというのは絶対に不可能だ。だから仮に日本が6GHz帯をWi-Fiに割り当てなかったとすれば、日本ではWi-Fi 6で進化が止まり、Wi-Fi 6EやWi-Fi 7(に多分なると思われる)が使えないという状況に陥ってしまう。
おそらくベンダー各社では、現在こうした動向も含めたかたちでアピールを行っていると思われる。そんなわけで、欧米にはやや遅れるかもしれないが、日本でもいずれWi-Fi 6Eが利用できるようになるだろう。
【お詫びと訂正 3月27日 11:39】
記事初出時、2019年7月の電波法改正で拡張された周波数帯の記載内容に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
誤:(5470~5725MHz→5470~5904MHz)
正:(5150~5350MHz→5150~5350MHz・5470~5730MHz)
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