期待のネット新技術

Wi-Fi 6Eで拡張される6GHz帯を利用可能にする3つの電力クラス

【周波数帯を拡張するWi-Fi 6E】

 Wi-Fi AllianceがWi-Fi 6Eの最新状況についてオンライン発表会を開催した。重複する部分もあるかとは思うが、2020年に公開した2本の記事をアップデートする意味でも、その内容を紹介していこう。

 その発表内容は、Regulatory Update、Wi-Fi 6E Update、WBA Wi-Fi 6E trialsの3つに分かれていた。

世界各国とも6GHz帯利用の法整備へ前向きWi-Fi 7こと「IEEE P802.11be」とも利用周波数帯は共通

 まず今回はRegulatory Updateについて。説明を行なったのはWi-Fi AllianceのAlex Roytblat氏(Vice President, Worldwide Regulatory Affairs)だ。

前向きなのは、あくまでも"基本的には"であり、どの程度かは当然国によって異なる

 同氏は、各国政府とも"基本的には"Wi-Fiの重要性を理解しており、それもあって6GHz帯の開放に前向き、とした。

 その6GHz帯、『Wi-Fi 6Eの6GHz帯、2019年後半に欧米で免許不要利用にメド』で以前説明した通り、これそのものはIEEE 802.11axの拡張というかたちで作業が行われており、これは最終的に「IEEE 802.11ax-2021」として、今年2月9日に標準化が完了した。

 余談だが、IEEE 802.11 Working GroupのTimelineによれば、2021年3月6日現在はまだIEEE 802.11axは審議中ということになっている。単に反映が間に合ってないだけと思われるが、当初は2020年11月に標準化完了の予定だったので、やや遅れた格好だ。

 これに続くものとしては、IEEE 802.11axに対する"Enhancements for Extremely High Throughput(EHT)"向けの規格として現在「IEEE Std P802.11be」のTask Forceが立ち上がっている。厳密に言えばETH SG(Study Group)と、RTA SG(Real Time Application SG)の両方を吸収するかたちで立ち上がったもので、PARは2019年3月に承認され、2019年5月からミーティングがスタートしている。

 このIEEE P802.11beはWi-Fi AllianceではWi-Fi 7となる予定で、30Gbpsの転送速度を目標としている。2020年9月にDraft 0.1がリリースされているが、最終的な標準化完了の予定時期は2024年5月である。

 今のスケジュールだとDraft 1.0が2021年5月、Draft 2.0の反映が2022年5月、3.0が2022年11月なので、まだ考慮するのは早いというか当分先の話である。とはいえ利用周波数帯は同じなので、法整備に対してのアプローチは、今のうちから行っておく必要がある。

6GHz帯認可済みは7カ国、500MHzのEUほかに対し、米国、日本は1200MHzを利用へ

 ということで周波数帯の話へ移ろう。現状、EUなどは5925~6425MHz帯、つまり500MHz幅のみの開放となっている一方、米国などでは5925~7125MHzまで、1200MHzの広い範囲の開放が実現している。

320MHzはWi-Fi 7で追加予定であるが、そもそも既存の5GHz帯ではその帯域を取れないので、6GHz帯専用である

 この6GHz帯の検討を行なっているのは、現時点で以下の17カ国。このうち、既に認可を下したのが黄色の枠で囲った7カ国となる。

EU、英国、アラブ首長国連邦が500MHz幅、米国、韓国、ブラジル、チリが1200MHz幅

 そのほかの国は、現在まさに検討中という段階だ。例えば日本の場合、総務省が「周波数再編アクションプラン(令和2年度第2次改定版)」を2020年11月13日に公開している。

 これによれば、5.85~23.6GHz帯における「今後取り組むべき課題」の中に「家庭内やオフィス、学校等でのさらなる高速通信への利用ニーズに対応するため、IEEE や諸外国における検討状況等を踏まえながら、令和2年度中に無線LANの6GHz帯(5925-7125MHz)への周波数帯域の拡張に係る技術的条件について検討を開始する。」という文言が追加されている。

 あくまで「検討を開始する」だけなので、まだどうなるか分からないというのが正直なところだ。1200MHz幅で行けるかどうかはまだ不明だが、さすがに「対応しない」にはならないだろうと思う。

 ちなみに、同じく検討中であるカナダの例だと、2020年11月にIESD(Innovation, Science and Economic Development Canada)がBnしており、これに対するコメントを2021年1月19日まで募集、そのコメントに対する返答を2021年2月22日まで受け付けており、もうしばらくすると状況を整理した上での方針が出てくると思われる。

既存の通信に影響を与えないよう送信電力を絞る3つの電力クラス

 さて、以前も掲載した以下の図の通り、そもそもこの5.925~7.125GHzという周波数帯は、さまざまな用途で利用されている。

FCC Proposes More Spectrum for Unlicensed Use」のFigure 1から。この周波数帯をU-NII-5~U-NII-8の4つに分けていることが分かる

 こうした特定用途向けのものを取り上げるわけにはいかないので、基本的な方針は「現在利用されている通信に影響を与えないように使う」ということになる。というより各国とも、「既存の通信には影響を与えない」ことを前提に認可を与えようとしているわけで、その意味では「技術的に既存の通信に影響を与えない」ことを担保しなければ却下されることになる。

 既存の通信に影響を与えない具体的な方法には、とにかく送信電力を絞るというものがある。3つの電力クラスを設け、上のクラスになるほど制約を付けるかたちだ。

ここには衛星通信向けと地上のマイクロ波回線が主な用途して並んでいるが、実際はほかにもいろいろある。ただ、技術的な分類としては衛星通信向け以外は全部FSとして扱えるということだろう
3つの電力クラス。なぜStandard Power deviceだけ略語がないのだろうか?

最も省電力かつ屋外でも利用できる「VLP Class」

 このうち、まず利用場所などの制約が小さいものが、最も省電力の「VLP Class」(以下)だ。

 屋外利用に制限が一切付かないのは唯一このクラスだけで、屋外でも利用されるスマートフォンやモバイルPC、さらに厳密に言えば屋内かどうかは微妙だが、実質的には屋外扱いとせざるを得ない自動車やバス、電車そのほかのモビリティ向けも、このクラスを使うことになる。アクセスポイントも、Wi-Fi 6E対応のモバイルルーターなどがこの範疇に入るだろう。

これを全部モデムに設定してやる必要があるのだから、実装する方も大変である。しかも将来対応国が増えると、更にこうした細かな設定が増えそうだ

 さてこのVLP Class、EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power:等価等方輻射電力)は14~17dBm(25~50mW)とかなり抑えめだが、それよりもEIRP Densityが-8~1dBm/MHz(0.16~1.3mW/MHz)とさらに厳しいのが問題である。

 ここまで出力を抑え込めば、仮に近隣に既にマイクロ波の受信設備があっても、干渉する恐れはないだろう、という話だ。またここまで出力が少なければ、衛星側の受信機への干渉も考えずに済みそうだ。

 ちなみに、ここは国別に異なる制約がいろいろと入っており、米国も現状では-8dBm/MHzのみ(1dBm/MHzはまだ許可されていない)とかなり厳しい。これにはいいこともあって、チャネル間の干渉の影響は、Wi-Fi 6よりも多分に少ないだろう。

屋内のみで利用可能な「LPI Class」

 次が「LPI Class」で、屋内のみで利用可能という制約付きのもの。家庭用や、業務用でもオフィス向けのWi-Fiルーターがここに該当するだろうし、屋外へ持ち出せないデスクトップPC内蔵用のPCIe接続Wi-Fiアダプターなどであれば、このクラスでの利用が可能だろう。

下から3段目のMaximum Client EIRP、単位がdBm/MHzになっているが、これはdBmの間違いだと思われる

 アクセスポイントEIRPは23~30dBm(200mW~1W)と大幅に引き上げられており、EIRP Densityも最も厳しい韓国で2dBm/MHz(1.6mW/MHz)、一番緩いEUで10dBm/MHz(10mW/MHz)と、VLPに比べて大分マシになっている。クライアント向けはやや小さめで、EIRPは24dBm(251mW)、EIRP Densityは-1dBm/MHz(794μW/MHz)に抑えられているが、それでもほとんどのケースでVLPよりもマシだ。こちらもDensityは地域によって結構違いがあるので、ファームウェアの設定は大変そうではある。

「AFC」の仕組みが前提、屋内のみ利用可で出力大の「Standard Power」

 さて、このVLPおよびLPIの認可がほぼ世界中で下りているのに対し、今のところ北米のみとなっているのが「Standard Power」だ。

 こちらは2021年1月に仕様が発表された「AFC(Automated Frequency Coordination)」という仕組みが前提として要求されており、その下での利用となる。

今のところ認可が下りているのは米国のみで、他地域は検討中というあたり、現実問題としてどこまで普及するのか疑わしい。もっとも、公共施設でも例えばコンサートホールとかスタジアムなどではこのクラスの出力が欲しいというニーズがあるため、米国と同じように許認可制の下での利用という格好になるかもしれない

 出力そのものは極端に大きく、アクセスポイントが36dBm、3-dBm/MHz(4W、200mW/MHz)、クライアントは30dBm、17dBm/MHz(1W、50mW/MHz)だから、かなり到達距離は稼げそうだ。ただし、AFCの管理下ということで、運用面はいろいろと大変になるだろう。次回はこのAFCまわりについて紹介したい。

「利便性を向上するWi-Fi規格」記事一覧

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/