期待のネット新技術
「IEEE 802.11ax」対応チップベンダーとクライアントの製品動向
【Wi-Fi高速化への道】(第10回)
2018年6月12日 06:00
現在、高速なWi-Fiアクセスポイントとして普及が進んでいる「IEEE 802.11ac」の最大転送速度は、8ストリーム時の理論値で6.9Gbpsとなっているが、国内で販売されているWi-Fiアクセスポイントは4ストリームまでの対応で最大2167Mbps、クライアント側は2ストリームまでで最大867Mbpsの転送速度となっているのが現状だ。
一方、理論値では最大転送速度が9.6Gbpsに達し、混雑下での速度向上も目指す「IEEE 802.11ax」が現在策定中だ。このドラフト規格に対応し、最大2.4GbpsのWi-Fiアクセスポイント機能を備えたホームゲートウェイが、KDDIが3月より提供を開始した「auひかり ホーム10ギガ/5ギガ」のユーザーに向けて、すでに提供されている。
2.4GHz帯と5GHz帯を用いる11axに対し、60GHz帯を用いて最大転送速度6.8Gbpsを実現している「IEEE 802.11ad」に対応する機器も、すでにネットギアジャパンから販売されている。
スマートフォンやPCなど、Wi-Fi子機向けの11ax対応チップについては、IntelやQualcomm、東芝が2018年度の出荷などを発表している。
そこで今回は、Wi-Fiルーターなどのアクセスポイント側と、ノートPCやスマートフォンなどのクライアント側のそれぞれについて、「IEEE 802.11ax」に対応した製品の動向を解説する。(編集部)
「Wi-Fi高速化への道」記事一覧
- 20年前、最初のWi-Fiは1Mbpsだった……「IEEE 802.11/a」
- ノートPCへの搭載で、ついにWi-Fi本格普及へ「IEEE 802.11b/g」
- 最大600Mbpsの「IEEE 802.11n」、MIMO規格分裂で策定に遅れ
- 1300Mbpsに到達した「IEEE 802.11ac」、2013年に最初の標準化
- 「IEEE 802.11ac」のOptional規格、理論値最大6933Mbps
- 「IEEE 802.11ac」でスループット大幅増、2012年に国内向け製品登場
- 11ac Wave 2認証と、ビームフォーミングの実装状況
- 「IEEE 802.11ad」普及進まず、「IEEE 802.11ax」標準化進む
- 「IEEE 802.11ax」は8ユーザーの同時通信可能、OFDMAも採用
- 「IEEE 802.11ax」チップベンダーとクライアントの製品動向
- 11ad同様に60GHz帯を用いる「WiGig」、UWBの失敗を糧に標準化へ
- 最大7GbpsのWiGig対応チップセットは11adとの両対応に
- 11adの推進役はIntelからQualcommへ
- 次世代の60GHz帯無線LAN規格「IEEE 802.11ay」
- 60GHz帯の次世代規格「IEEE 802.11ay」の機能要件
IEEE 802.11acとIEEE 802.11axの技術的な主な違いは、前回までに紹介した通りだ。もちろん既存のIEEE 802.11acや、それ以前のIEEE 802.11a/b/g/nとの互換性は保つことになるため、どちらかといえばIEEE 802.11ac互換のチップセットに、新たにIEEE 802.11ax対応を付け加えたかたちになるというのが、実情に近いかもしれない。
基本的には、技術的に大きなジャンプはないものの、例えば、サブキャリアの幅が78.125KHzになるということは、周波数フィルターの性能もこれに合わせないといけなかったり、前回解説したOFDMAへの対応や、1024QAMへの対応も追加する必要がある点が違いで、これらの実装は「簡単」とは言い難いとか。
とは言え、以下のようにチップセット各社では、11axに対応する製品の投入に前向きである。
チップセットベンダー各社の11ax製品動向
Broadcomは2017年8月、「Max Wi-Fi」というブランド名で、11axに対応する3製品を発表している。そのラインアップが、家庭向けアクセスポイント用の「BCM43684」、企業向けアクセスポイント用の「BCM43694」、スマートフォン向けコンボチップの「BCM4375」だ。
Celeno Communicationsは2018年1月、11ax対応となる「Everest」チップセットを発表した。詳細は明らかにされていないが、同社が既に出荷中のIEEE 802.11ac対応チップセット「CL2400」シリーズと同構成とのことで、おそらくアクセスポイントとクライアントの両対応になると思われる。
Intelは、11ax対応チップセットを2018年中に発表することを2018年1月開催のCES 2018で明らかにした。ラインアップは明らかにされていないが、最低でも、メインストリーム向けの2×2 MIMO構成と、ゲートウェイ向けの4×4構成の2つが投入されると見られている。ちなみにこの製品は、Intelが2015年に買収した独Lantiqの製品群をベースにしているようで、既に出荷中の11ac対応チップセット「WAV500」を11axに対応させたものになると見られる。
Marvellは2017年11月、11ax対応3製品を発表。ラインアップは企業向けアクセスポイント用の8×8構成となる「88W9068」、同じく企業向けアクセスポイント用で4×4構成の「88W9064」、および家庭向けアクセスポイント用で4×4構成の「88W9064S」となっている。
Qualcommは、2018年2月にクライアント向けの「WCN3998」を、2018年3月にアクセスポイント向けとして、4×4構成の「IPQ8072」と、8×8構成の「IPQ8074」の11ax対応チップをそれぞれ発表している。
Quantenna Communicationsは、2017年1月のCESにおいて、アクセスポイント向けとなる4×4構成の「QSR5G-AX」を発表。2017年9月には、Cortina Accessと共同で、10G-EPONとIEEE 802.11axを組み合わせたゲートウェイのデモも行っている。
おそらく2018年中には、中国や台湾のベンダーからも、さらにいくつか11ax対応チップセットが追加されることになるはずだ。これらはいずれもDraft 2.0をベースとした製品であり、今後Draftに大きな変更がない限りは、このまま製品化に向けてトラクションが掛かっていくと思われる。QuantennaのQSR5Gだけはちょっと怪しいが、こちらもDraft 2.0準拠となるだろう。
11ax対応アクセスポイント、海外を中心に出荷始まる
既に、これらのチップセットを搭載した製品も海外では発表、あるいは出荷が始まりつつある。ASUSの「RT-AX88U」、「RT-AX95U」、Arris「NVG578」、D-Link「DIR-X6060」、H3C「WA6528」の各製品がBroadcomのチップセットを、ASUS「GT-AX6000」、Huawei「AP7060DN」の2つがQualcommのチップセットを採用していることが明らかとなっている。
KDDIへのインタビューでは、ゲートウェイとして出荷しているNECプラットフォームズ製の「BL1000HW」が、Qualcommのチップセットを採用していることが明らかにされたが、これが今のところ国内では唯一の製品だ。ただし、各社とも現在製品化を進めているはずなので、夏ごろには、ほかの製品が登場してくるのではないかと思われる。
11ax対応ノートPC/スマホの出荷は早くても秋ごろ?
むしろ遅れているのはクライアント側だ。ノートPCについては2018年の夏商戦には間に合わず、秋から冬にかけての製品で何とか対応できる見込みという話だ。スマートフォンについては、既にQualcommが「WCN3998」のサンプル出荷を開始しているが、量産に入って実際に搭載された製品が出てくるのは、早くて秋ごろだろうとみられる。
例えばMediaTekなど、ほかのチップセットベンダーは現状、IEEE 802.11axのアナウンスをしていない。AppleはIntelのモデムを搭載するとされており、順序から言えばiPhone 9にあたるとみられる次期製品が対応するかもしれないが、その時期は秋以降になりそうだ。
というわけで、今年の夏から秋ごろにも、IEEE 802.11axが現実的に使えるという状況になってきそうである。
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- 次世代の60GHz帯無線LAN規格「IEEE 802.11ay」
- 60GHz帯の次世代規格「IEEE 802.11ay」の機能要件
次回は、60GHz帯を用いる「WiGig」の標準化に至る経緯について解説していきます。