期待のネット新技術

公衆Wi-Fiアクセスポイント向けの「Wi-Fi CERTIFIED Vantage」、11ac+Passpointから拡充へ

【利便性を向上するWi-Fi規格】(第27回)

 利便性を向上するWi-Fi規格では、Wi-Fiに関する最新動向について、メッシュネットワ ークや暗号化、WPSなどの利便性を向上する規格や、フリーWi-Fiスポット向けの接続規格を紹介してきた。

 ここまでで、そうしたものの説明もおおむね終わったのだが、Wi-Fi Allianceでは、ほかにもさまざまな標準規格を制定している。最後に、そうしたものをまとめて紹介していこう。

 今回は、公衆Wi-Fiアクセスポイント向け製品認証プログラムである「Wi-Fi CERTIFIED Vantage」について解説していく。(編集部)

Wi-Fi CERTIFIED ac+Passpoint=「Wi-Fi CERTIFIED Vantage」

 そろそろWi-Fiにまつわるさまざまな規格についても、ほぼ紹介し終えた感がある。今回紹介する「Wi-Fi CERTIFIED Vantage」は、2016年11月にWi-Fi Allianceが発表した新たな認証プログラムとなるが、実は新技術は一切ないものだ。

 日本語のリリースをみると、「Wi-Fi VantageはWi-Fi CERTIFIED acやPasspointなどのテクノロジーを基盤に構築されていますが、今後のリリースでは厳しいネットワーク環境に対応する高度なWi-Fi CERTIFIED機能をサポートしていきます。これからもWi-Fi Vantageは絶え間ない進化を続け、デバイスのパフォーマンス向上、スピードアップ、ネットワークの干渉の軽減、接続時間の短縮を実現します。Wi-Fi Vantageネットワークは、ライセンスが不要な帯域を最適に活用することで、たとえ混雑していたりユーザー負荷が高い環境でも、質の高いWi-Fiエクスペリエンスを提供します。」とある。しかし、この一文に目を通しても分かったような分からないような、何を提供するのかがさっぱり見当が付かないCERTIFICATIONとは言えるかもしれない。

 実はこのWi-Fi CERTIFIED Vantage、2016年11月時点においては、以下2つのCERTIFICATIONを取得した機器ならば、取得することができた。つまり、Wi-Fi CERTIFIED Vantageの要件が、この2つのCERTIFICATION取得とされていたのだ。

  • Wi-Fi CERTIFIED ac
  • Wi-Fi CERTIFIED Passpoint

 では、Wi-Fi CERTIFIED Vantageの認証を取得するメリットは? というと、要は、通信事業者側にとっては「Wi-Fi CERTIFIED Vantage対応アクセスポイントを持ってこい」とメーカーに言うだけで、Wi-Fi CERTIFIED acとWi-Fi CERTIFIED Passpointに対応し、少なくとも2016年時点においては、公衆Wi-Fiアクセスポイント向けて最適な製品が届くという点だろう。

 ただ、Wi-Fi CERTIFIED acとWi-Fi CERTIFIED Passpointだけでは、5Gを使った通信と、一貫した認証が提供されるだけで、混雑時の接続性の改善に関しては、IEEE 802.11acで提供される以上のものはない。これでは何というか、単にWi-Fi AllianceがCERTIFICATIONの費用を稼ぐ手段、という気もしなくはない。

 なお、Wi-Fi CERTIFIED acとWi-Fi CERTIFIED Passpointを取得しても、自動的にWi-Fi CERTIFIED Vantageの認証を取得できるわけではなく、CERTIFICATIONを別途取得する必要がある模様だ。

2つの要件が追加されたWi-Fi Vantage Version 2

 もっとも、その辺りはWi-Fi Allianceも重々理解しているようで、2016年に発表されたものはWi-Fi VantageのVersion 1と位置付けられ、続くVersion 2やその先のロードマップも提供する、としていた。

 そのVersion 2であるが、2017年9月に発表されていて、以下の2つがCERTIFICATIONの要件として新たに追加された。

  • Wi-Fi Agile Multiband
     (2017年12月にWi-Fi CERTIFIED Agile Multibandへ)
  • Wi-Fi Optimized Connectivity
     (2018年2月にWi-Fi CERTIFIED Optimized Connectibityへ)

 このVersion 2のCERTIFICATIONが発表される前の2017年7月、国内でも説明会が開催されている。このときWi-Fi CERTIFIED Vantageの特徴として説明された内容はVersion 1のもので、今後の予定として示された以下の項目のうち、アジャイルマルチバンド運用、クライアントステアリングなどがWi-Fi Agile Multiband、スティッキークライアントの振る舞い抑制、シームレスローミング、ハンドオフなどがWi-Fi Optimized Connectivityの機能となるわけだ。

2017年7月の国内説明会で示されたWi-Fi CERTIFIED Vantageの特徴はVersion 1のもの
Wi-Fi CERTIFIED Vantageにおける今後の提供予定は、Version 2を想定したもの

 基本的なポリシーはVersion 1と同じだが、より多くのCERTIFICATIONが必要になったかたちと言えるだろうか。現在はAgile MultibandおよびOptimized Connectivity両方の認証プログラムがスタートしたことを受け、これらのCERTIFICATIONが必須要件となっている。

11axのWi-Fi Vantage Version 3が2019年中にも登場?

 おそらく次に来るのは「IEEE 802.11ax」(Wi-Fi 6)への対応であろう。実際、2017年7月の説明会で、Wi-Fi Allianceのケヴィン・ロビンソン氏が「(2020年には)IEEE 802.11axも普及し、さらに高いモビリティと、高密度環境でのすぐれたエクスペリエンスを提供できる」と説明していることからも明らかだ。

Wi-Fi Allianceマーケティング担当バイス・プレジデントのケビン・ロビンソン氏(2017年7月国内説明会での登壇時)

 既に2018年10月、Wi-Fi Allianceでは「Wi-Fi CERTIFIED 6」を発表しており、下地は整っていると言える。残念ながら現段階ではIEEE 802.11axに対応したクライアントはない状況のため、すぐにVersion 3をリリースする可能性は低いとは思うが、2019年中にリリースされてもおかしくはない。

 もっとも、これに業界がどう反応しているかというと、Product Finderによれば、Wi-Fi CERTIFIED Vantage(Version 1)の取得製品は388とそれなりにあるが、Version 2となると、いまだに25しかない

 これは、Wi-Fi CERTIFIED Optimized Connectivityの実装が遅れていることと無縁ではないだろう。また、Wi-Fi CERTIFIED acとWi-Fi Passpointの両方を取得している製品が711あるのに対し、Wi-Fi CERTIFIED Vantage Version 1を取得したものが半分しかないのは、「Vantageの認証にわざわざコストを掛ける意味がない」とメーカー側に判断されたのではないだろうか。実際、先の例で言えば、「Passpoint 2に対応したIEEE 802.11acアクセスポイントを持ってこい」で話は済んでしまう。

 Wi-Fi Allianceとして、“Vantage”というブランドを作り上げたいと考えているのだとは思うが、うまく行くかどうかは正直はっきり見えない。現状を見る限り、Vantageの認知度は低いと言わざるを得ないし、Vantageの認証を取得しないデメリットも、事実上皆無だからだ。このあたりをどう扱っていけるかが、Vantageという取り組みがうまく行くかどうかの鍵を握っていると言えるだろう。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/