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2020年へ向けた5G時代にWi-Fiの接続性を強化、アクセスポイントを切り替えながらVoIP通話を継続可能に
2017年7月26日 17:11
Wi-Fi Allianceは、無線LAN認定プログラム「Wi-Fi CERTIFIED Vantage」最新機能と5GにおけるWi-Fiの役割を解説する記者説明会を開催した。
Wi-Fi Allianceは、「Wi-Fi」の認定プログラムにより、Wi-Fiの相互運用性とベストなユーザーエクスペリエンスを提供している団体。700以上の組織が参加しており、国内でも110のメンバー企業がいる。
Wi-Fi Allianceのマーケティング担当ヴァイス・プレジデントであるケヴィン・ロビンソン氏は、「いつどこでもだれとでも繋がれる」とのWi-Fi Allianceのビジョンを紹介。Wi-Fiチップセットの出荷台数では、すでにIEEE 802.11ac対応製品が多くを占めており、年間30億台が出荷され、2021年には40億台を超え、そのころにはIEEE 802.11ax/Wi-Gig対応チップセットの普及も進んでいる見通しだという。
一方、Wi-Fi搭載デバイスの累積出荷台数はこれまでに80億台を超え、2021年までに320億台に達する見込みだ。このように、Wi-Fiはグローバルな通信インフラの中枢を担っており、インターネットトラフィックの半分以上を占めているとのことだ。ロビンソン氏はこうしたWi-Fiの普及について「技術的なイノベーションを継続したおかげ」とした。
一方、国内に目を向けても、Wi-Fiはユーザーにとっては「どこにいてもすぐに使える、アクセスしやすい技術で、容易にアクセスできる環境を当然に感じている」とした。例えば日本航空では飛行機内で、都営バスでもWi-Fi接続サービスが無料で提供されている。政府では2020年までに学校、官公庁など3万カ所に公共無線LAN設置を目標にしている。
しかし、課題もある。例えば、今年2月5日に開催されたアメリカンフットボール「NFL」の頂上決戦「スーパーボウル」では、「試合前後の3時間で、観客により12TBもの大量のデータトラフィックがあり、課題もあった」という。そして「オリンピックでも同様に、開催中の数週間のうちに、数十万の観光客がさまざまな会場で通信を行うため、データの需要が高まる」とした。
そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックを「Wi-Fi接続性の模範を提供する素晴らしい機会」と位置付け、公衆無線LAN事業者に対しては、多くの人々で混雑した環境において、数多くのデバイスの同時接続をサポートし、ユーザーのパフォーマンスを損なうことなく、セキュアな接続が求められているとした。
最新の無線通信技術としては、セルラー通信における“5G”も注目を集めており、2020~2035年までに3.5兆ドルの経済効果があるとされるという。「しかし、Wi-Fiは成功している小型セルテクノロジーで、5Gで必要なさまざまな基盤技術は、すでに実現できている」とした。
例えば、60GHz帯を用いるWiGigでは、マルチギガビットへの対応や、低レイテンシがすでに実現されている。また、MU-MIMOでも、ネットワークアグリゲーションなどさまざまな機能を実現しており、「1マクロノードに対して50のスモールノードを提供できる5Gに技術的に対応可能なアーキテクチャをWi-Fiはすでに持っている」とし、「(2020年には)IEEE 802.11axも普及し、さらに高いモビリティと、高密度環境でのすぐれたエクスペリエンスを提供できる」とした。
そして、「ユーザーは関与せずにどこでもWi-Fiにつながる環境を期待する。密度が向上するに連れ、マネージドの役割の重要性が増す」と指摘。使いやすい容易なメカニズムを提供するWi-Fi CERTIFIED Vantageの認定プログラムによって提供されるマネージドWi-Fiネットワークにより、「ネットワークで最大の能力を活用するために必要な能力のショートカットをISPやプロバイダーなどの事業者に提供するとした。例えば「Passpoint」と「Wi-Fi CERTIFIED ac」による容易な認証とセキュアなアクセスなどがこれにあたり、「(ユーザーにとっては)シームレスな認証と接続が可能になる」とした。
Wi-Fi CERTIFIED Vantageのロードマップでは、今後の進化も予定されている。その一例として、まもなく提供される新機能「アジャイルマルチバンド」が紹介された。ネットワーク側からクライアントに帯域やチャネルなどの情報が提供され、最適な環境にアクセス可能になるもので、例えば「東京で電車に乗って駅に着くと、多数のアクセスポイントから迅速に効率的にハンドオフを行い、VoIPの通話などを中断せずにアクセスポイントへの接続をスイッチングしながら継続できる」とした。
また、最適なアクセスポイントではなく、前から接続しているアクセスポイントに接続し続ける状況を指す「スティッキークライアント」のふるまいも排除できるという。
このほか、最近開始した2つの認定プログラムについても紹介した。1つは「Wi-Fi CERTIFIED Miracast」だ。すでに7000製品以上のデバイスが認証を受けている。優れた視聴体験提供のためにレイテンシやAV性能において厳しい基準を設けており、認定を受けたMiracastデバイスでは、多くのデバイスで4K動画をWi-Fiによるワイヤレス接続で表示可能になるという。
ソニー、パナソニック、トヨタ、シャープ、エプソンなどの国内メーカーからも支持を得ているとのことだ。そしてロビンソン氏は、「新たなビデオやオーディオのコーデックに対応することで、バッテリー駆動時間が延長される」点を普及のカギとして挙げた
もう1つが、複数デバイス間で時刻同期を行う「Wi-Fi CERTIFIED TimeSync」だ。主にワイヤレススピーカーでの利用が想定されており、精度の高い同期を行うことで、ドリフトやリップシンクの問題を回避できるほか、複数のスピーカーを同時にWi-Fi接続して使用する環境でエコーの心配がなくなるという。
また、カバーエリア全体で高品質なオーディオ機能を提供できる点も強みだとし、相互運用性の高さも特徴に挙げた。そしてワイヤレススピーカー以外の用途として、共通のタイムベースを必要とするIoT、自動車、医療、工業などを挙げた。
発表会に登壇した無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)会長の小林忠男氏は、「この1年で(普及している)携帯電話キャリアのWi-Fiスポットに加え、自治体やホテル、学校などで、政府の援助もあり急拡大し、“光の先のWi-Fi”が当たり前になった」とした。そして、「現在はacがメインだが、今後はad、ax、ahなど新しいものが出てくる。Wi-Fiはもうすでに5Gを実現してることをここにいる人に認識してほしい」と述べた。
個人的意見としながら、格安SIMの普及にもWi-Fiが一役買っているとし、「Wi-Fiスポットが今のようにコンビニや駅、空港、喫茶店で利用できなければ、(格安SIMに)こんなに大きなユーザーがつかなかった。多くのユーザーが、大量の通信はWi-Fiでやればいいと考えるからこそではないか」と述べた。
さらに「Wi-Fiはモバイル、光とともに必須な情報通信基盤になったことは間違いない。5Gと騒がれているが、新しいワイヤレスの時代は5GとWi-Fiがセットになって利用される」と述べ、セルラーとWi-Fiは補完的役割であることを強調した。