期待のネット新技術

「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格に続き、1対のSMFで100Gbpsの「100G PAM-4」が実現へ

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

「IEEE 802.3cd-2018」で定義された7つの100/200Gbps対応規格

 50Gbpsの方式が定まれば、必然的にそのまま100G/200Gbpsについても定まることになる。「IEEE 802.3cd-2018」では、以下7つの規格が定義されている。

規格構成
100GBASE-CR250GBASE-CR×2
100GBASE-KR250GBASE-KR×2
100GBASE-SR250GBASE-SR×2
100GBASE-DR後述
200GBASE-CR450GBASE-CR×4
200GBASE-KR450GBASE-KR×4
200GBASE-SR450GBASE-SR×4

 「100GBASE-DR」以外はあまり考えるまでもなく、それぞれが「50GBASE-CR/KR/SR」の延長であり、単にケーブルなり配線の数を増やすだけだから、もともとの25G Ethernet Consortiumが想定した通りの構成であり、これは理解しやすい。

BERがこんなに高くていいのか? という気もするが、補正前ならこんなものだろう。出典は"100GBase-DR2: A Baseline Proposal for the 100G 500m Two Lane Objective"

 ちょっと違う方向に行ったのが100GBASE-DRである。もともとは「P802.3cd Task Force」の2回目のミーティングの際に"100GBase-DR2: A Baseline Proposal for the 100G 500m Two Lane Objective"として提案がなされたのが元だ。ただし、この段階での提案は50Gbps×2という、ほかと同じものであった。

 「100GBASE-SR2」とは、SMFを利用する点が違いで、これに伴って光源などもSMF向けになってはいるものの、要するにその程度でしかなかった。

1対のSMFで100Gbpsを実現する「100G PAM-4」

 ただ、実はこれと並行し、「50G PAM-4」ではなく「100G PAM-4」に関する議論も、Task Forceの中では盛んに行なわれていた。

 例えばP802.3cd Task Forceにおける3回目のミーティングでは、LumentumやCiscoなどのグループが、100G PAM-4のマーケットデマンドが有望であることを語り(以下左)、IntelとMacom、Keysightのグループは、試作した106GbpsのPAM-4 Optical Linkの評価結果を示して(以下右)、100G PAM-4が現実的なものであることをアピールした。

これはアウトラインのみであるが、全体を通して「100G PAM-4は将来性も有望だし、大きなデマンドがある」との基調で説明が行われている。出典は"Broad Market Potential & Economic Feasibility: 100G Single λ PAM-4 500m"
こんなEYEで大丈夫なのか?と思わざるを得ないが、これでもBERが1.35×10^-6を実現できるとしているのだからすごい。出典は"Technical Feasibility Study of 106 Gb/s PAM-4 Optical Link"

 この背景には、P802.3cdのTask Forceに先んじて活動していたP802.3bsの"200Gb/s and 400Gb/s Ethernet Task Force"の動向がからんでいる。その名の通り、200/400Gbps Ethernetの標準化策定を行っているチーム(この話はもう少し後で)なのだが、ここで「400GBASE-DR4」がほぼ行ける、という目途が立ったことが大きい。これは、4対のSMFで400Gbpsを達成する、つまり1対のSMFあたりで100Gbpsを実現できることが、ほぼ確実になったということだ。

 このP802.3bs Task Forceが2016年7月のミーティングでリリースしたDraft 2.0の内容を基に、100G PAM-4を利用する100GBASE-DRが(「100GBASE-DR2」に代えて)急きょ提案されたというわけだ。

 ちなみにP802.3bsの方でも、100GのPAM-4を使うのは400GBASE-DR4のみだ。これには、50G PAM-4ですら大変なのに、100Gになるとさらに厳しくなり、伝達特性に劣るMMFではまともに信号が伝達できず、SMFの場合でも距離が延びると厳しい、という事情がある。

 このあたりを鑑みて、P802.3cd Task Forceでも100GBASE-DR以外は全て「25G PAM-4」のままとし、50G PAM-4の採用を検討したりはしなかった。賢明な態度と言えるだろう。

 やや不思議なのは、「200GBASE-DR2」が検討されなかったことだ。実は「200GBASE-DR4」はP802.3bsの方で仕様が策定され、最終的に標準化までが行われている。こちらは25GのPAM-4を4対で200Gという構成で、これを50G PAM-4に置き換えれば2対のファイバーで済むはずなのだが、そうしたニーズは案外多くなかったようだ。

PAM-4の変調はモジュール側で行うのが既定路線に

 さて、次はモジュール向けインターフェースである。「25GBASE-R」に関しては、PHYとのインターフェースは25GMIIになっている(以下左)が、仕様によれば25GMIIはオプション扱いだ(以下右)。25GMIIは現実問題として、390.625MHz×32bit(双方向なので実際には64bit)幅となり、チップ内や基板上の配線はともかく、モジュールの接続には適さない。結局のところPMAの部分で繋ぐことになる。

25Gの場合はFECはオプション扱いとなる。出典はIEEE 802.3cd-2018のFigure 109-1
RSとPCSの仕様は決まっているから、それが満たされれば、25GMIIである必要は特にないのだが

 ただ25Gbpsの25GBASE-Rに関しては以前『最大200Gbpsを見据えた「CFP2」、サイズはCFPの半分に、さらに小型化を果たした「CFP4」も』で説明したように、SFP28をそのまま利用することができる。レーンあたり25Gの信号が1対だけだから、これはそれほど問題はない。

 では50Gは? というのが次の問題となるわけだ。これはPAM-4の変調をどこでやるのか、という問題ともからんでくる。仮にチップセット側(つまりモジュールの手前)でPAM-4の変調を行ってしまえば、信号速度そのものは25GT/secだから、SFP28でも理論上はいけることになる。

 もっとも、光ファイバーを前提にしたPAM-4で変調した信号を、そのままSFP28用のコネクタや基板上の配線を通して支障がないかというと、現実問題としては甚だ疑問だ。そうしたこともあってか、PAM-4の変調はモジュール側で行うのが既定路線となった。これは当然ではあろう。

50Gbpsの信号速度を扱う6種類のモジュール規格

 そうなると、信号速度としては50Gbpsを扱う必要があり、これはSFP/SFP+ではカバーできない。そこで、これに向けて6種類(厳密に言うとさらにもう1つあり7種類)のモジュール規格が登場した。具体的には以下が一般的なモジュールである。

 ほかに、Consortium for On-Board Opticsの策定する「COBO」という規格も、一応モジュール規格としていいだろう。それぞれのモジュールの構造の概略をまとめたのが以下だが、規格は乱立していると言える。

Ethernet Allianceの2019年ロードマップにある「BackSide」の右下に掲載された「FORM FACTORS」の左側にある4-16 Lane Interfacesのうち、「OBO(On Board Optics)」がCOBOに相当する

 このうち、CFPについては『40G/100Gへ向けIEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバーの規格』で、SFP-DDとQSFPについては40Gbpsの「QSFP+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」』で、それぞれご紹介しているので繰り返さない。

 ちなみにこの記事では"SFP56"と説明しており、確かに通り名として使われることもあるのだが、公式名称(?)は一応"SFP-DD 56"である。おそらくQSFP56と区別が付きにくいためだろう。

 SFP-DDの場合、1レーンあたり25Gbpsとすれば2レーンでは50Gbpsとなり、「50GBASE-R」がそのまま収容できることになる。モジュールの消費電力としてはPower Class 1~8が定義され、うち1~5が1.0/1.5/2.0/3.5/5.0Wとなっている(6と7は未使用で、Class 8は別途Management Register経由での定義とされる)。PAM-4 PHYを入れて5Wというのは、かなりギリギリのところではないかと思う。

 一方、QSFPの場合は信号が4対あるので、信号レベルを12.5Gbpsへ落とすことが可能で、実際にSFF-8683 QSFP+ 14Gb/s Cageという仕様もある。だが、それだとわざわざ1:4のGearboxを挟む必要があって、あまり意味がない。

 なので、4対のうち2対だけを使って25Gbpsを通す方がマシ、という割と現実的な判断が下された。もっともそうなると「どのピンを使うか」がちゃんと規定されないと混乱が発生しそうだが、Specificationにはそれが明記されていない。

 なので、50GBASE-RをサポートするQSFP28モジュールはごくわずかに存在するが、それはスイッチメーカーがQSFPで製品のポートを統一していて、ここにどうしても50GBASE-Rを繋げたいという、非常に限られた用途向けになる。このため特定メーカーが自社の特定製品での動作のみをサポートする、というかたちであって、一般的とは言い難いものとなっている。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/