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25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

第1世代は10Gbps×10、第2世代は25Gbps×4、第3世代は50Gbps×2の構成で100Gbpsを実現

 前回、「QSFP28」まで説明が終わったところで、規格の話に戻りたい。

 光Ethernetに関しては、100Gbpsが3世代存在する。第1世代が「IEEE 802.3ba-2010」で、これは10Gbps×10だ。第2世代が「IEEE 802.3bm-2015」で25Gbps×4、これに続く第3世代の「IEEE 802.3cd-2018」では、50Gbps×2の構成であり、「100GBASE-SR2/100GBASE-DR」が追加されている。

 100Gbps×1には、どうやってもならなかった(実際は100Gbps×1も現在は可能なのだが……)あたりについては、少し説明が必要だろう。

 IEEEとしては、もちろん100Gbpsの標準化で満足しているわけではなかった。そもそも実質は、「100GBASE-SR10」では10Gbps、「100GBASE-SR4」でも25Gbpsでしかないわけで、1対あたりの速度をどうやって高めるかが、それぞれの規格策定中も模索され続けていた。

 もう1つはトータルとしての帯域向上である。例えばEthernet Allianceは、以下の2014年ロードマップにおいて、2017年には400GbEが実用化されるとの見通しを示していた。

まだのどかというか、この後の多数の派生規格を生む状況が予想できない段階でのロードマップ。出典は"Ethernet Alliance Technology Roadmap"

 実際、初の400Gbpsの規格だった「400GBASE-SR16」の標準化は2017年末に完了したので、ぎりぎりロードマップは守られた。ちなみに、2018年におけるロードマップは以下で、派生規格がいきなり湧くことになった。

2018年のロードマップは解像度が荒く、この部分は全く同一なので2020年版から抜粋した。出典は"2020 Ethernet Roadmap"

 具体的は派生規格は以下のようなものだ。

IEEE 802.3bs200Gbps200GBASE-DR4
200GBASE-FR4
200GBASE-LR4
200GAUI-4
200GAUI-8
400Gbps400GBASE-SR16
400GBASE-DR4
400GBASE-FR8
400GBASE-LR8
400GAUI-8
400GAUI-16
IEEE 802.3by25Gbps25GBASE-CR
25GBASE-CR-S
25GBASE-KR
25GBASE-KR-S
25GBASE-SR
IEEE 802.3cc(IEEE 802.3by)25Gbps25GBASE-LR
25GBASE-ER
IEEE 802.3cd50Gbps50GBASE-CR
50GBASE-KR
50GBASE-SR
50GBASE-LR
50GBASE-FR
IEEE 802.3cm400Gbps400GBASE-SR8
400GBASE-SR4.2
IEEE 802.3cn50Gbps50GBASE-ER
200Gbps200GBASE-ER
400Gbps400GBASE-ER

 メインストリーム(?)は100Gbpsから200/400Gbpsまでとなるが、まずは25/50Gbps Ethernetについて、今回は紹介しよう。

25G Ethernet Consortium結成、「P802.3by」で「25GBASE-CR/KR」として標準化

 2014年7月、25G Ethernet Consortiumという業界標準団体が結成される。メンバーはArista、Broadcom、Mellanox Technologies、Google、Microsoftの5社だ。前から3社はともかく、ネットワークの提供側ではなく利用者側であるGoogleとMicrosoftが加わっているのが目を引く。

 利用側から見れば、いつまでも10Gbpsベースのままでは埒が明かないし、かといって100Gbpsはなかなか出てこないため、自分たちの欲しいネットワーク規格を自ら策定しようということだと思われる。この25G Ethernet Consortiumは、その後で素早くSpecificationもリリースする。

 ぶっちゃけると、この25G Ethernetは100GBASE-SR4を1レーン、つまり25Gbps分だけ利用する規格なので、ほぼIEEE 802.3bjの策定作業が終盤を迎えていた2014年段階のドラフトをベースにすれば仕様策定は難しくなかっただろう。それもあって、2014年10月には早くもVerification IP(システム検証用のIP)がCadenceから発表されたという有様だ。

 ちなみに、25G Ethernet Consortiumという名前ながら、Specificationは25Gbpsと50Gbpsの両方を包括するものとなっている。この50Gbpsの方の規格は100GBASE-SR4の半分という単純なものではない。

 それもあってSpecificationもややチャレンジャブルなものであるが、IEEEと異なり、さっさとSpecificationを定められる(問題があればSpecificationをReviseすればいい)というあたり、業界標準団体のいいところだ。2017年には、もう25G/50Gモジュールを利用したPlugFestが開催されている。

 ただ、25G Ethernet Consortiumにも最後まで独自仕様のままで通すつもりはなく、Consortium結成の直後からIEEEに働きかけてTask Forceを構成する。「P802.3by」としてナンバリングされたこの25G EthernetのPARは、2014年末に承認され、2015年から仕様策定作業に入った。

 ただし、基本的な考え方は既にある25G PHYを単独で利用しようというもので、その意味では特に目新しい話はなかった。実際、4レーンから1レーンに減らすことで、信号のフォーマットが変わったりはしないからだ。

まぁ100GBASE-KR4/CR4/SR4を1レーンで使う、という以上の話ではない。出典は"Brief Overview of the 802.3by draft standard"

 ちなみに上の一覧で見ると、「25GBASE-CR-S」および「25GBASE-KR-S」という、見慣れない"-S"付きの規格がある。これはRS-FECをサポート“しない”ものだ。25G Ethernetの構造は以下の通りだが、FECについては"条件次第で利用"となっている。

元の図は「IEEE-802.3by-2016」のFigure 105-1だと思われる。出典は"Brief Overview of the 802.3by draft standard"

 実際、25GBASE-CRは銅ケーブル、25GBASE-KRはバックプレーン向けとなるので、「FEC(RS-FEC)」を利用する方が一般的だとは思うが、中にはFECなしで行けるという(超短距離向けなどだろうか?)用途向けに、RS-FECのない規格も入っている。逆にいえばその程度の違いでしかない。

 そんなわけなので、こちらはあまり問題もなく、2016年3月にはDraft 3.1も出て、これをベースに標準化が完了している。

「P802.3cc」で標準化された「25GBASE-LR/ER」、1対のSMFで10/40kmの到達距離を実現

 それを追いかけるように、2016年5月にTask Forceが構成されたのが「P802.3cc」であり、「25GBASE-LR」および「25GBASE-ER」の標準化が行われた。こちらは「100GBASE-LR4」および「100GBASE-ER4」を1レーンのみで運用するという構成だ。

ここでの"initial 25Gb/s Ethernet specification"とはIEEE 802.3byのこと。出典は"P802.3cc 25GSMF:CSD Responses"

 特性などは100GBASE-LR4および100GBASE-ER4と変わらず、単に1対というだけだ。これは先の25GBASE-SRも同じだ。どちらも1本のSMFで接続され、25GBASE-LRが10km、25GBASE-ERが40kmという到達距離となる。

 ただ、25GBASE-SRに対するニーズはまだ分かるが、この到達距離であれば一気に100GBASE-LR4/ER4へ行くのでは? という気はしなくもない。ただ、説明によれば「コアネットワークは100Gbpsで運用されるが、そこから分岐する先は、100Gbpsでなくて構わないにせよ10Gbpsよりは高速なことが求められており、25Gbpsへの移行は自然な流れ」としている。

なんとなく強弁が過ぎる気もしなくはない。出典は"P802.3cc 25GSMF:CSD Responses"

 そしてメーカーとしても商機を見出しているので、標準化を進めて欲しいということだろう。IEEE 802.3byよりも、検討すべき事象がさらに少ない(銅配線やバックプレーンに関する議論をしなくて済んだ点も大きい)と思われることもあってか、2017年末に「IEEE 802.3cc」として標準化が完了している。

 さて、25G Ethernetはそんなわけで比較的スムーズに終わったわけだが、こちらは技術的に言えば第2世代にあたる、レーンあたり25Gbpsだったからという話でもある。これに対し、続く50G Ethernetは第3世代に属するもので、技術的な面での飛躍が必要となったために、そう簡単には進まなかった。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/