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100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

受信側だけに手を加え、10kmの到達距離を実現した最大100Gbpsの「100G 4WDM-10」

 前回書いた通り「100G 4WDM-10」は、送信側には一切手を付けずに、受信側だけで何とかした。前回も掲載した以下の図が示すように、送信出力そのものは全く変わらないし、特性もほぼ同じだ。

送信側には手を付けずに、受信側だけで何とかした「100G 4WDM-10」。出典は"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"と"100G 4WDM-10 MSA Technical Specification Release 1.0"のTable 2-3同士

 では受信側は?というのが以下であり、Receive sensivityを-10dBmから-11.5dBmに引き下げている。

Average receive powerも1.5dB減って-13.0dBまで落ちている。-11.5dBmがおおよそ70μW、-13dBmだと50μWほどの計算だ。出典は"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"と"100G 4WDM-10 MSA Technical Specification Release 1.0"のTable 2-4同士

 100G 4WDM-10において利用できるSMFは、「IEC 60793-2-50」のtype B1.1、type B1.3、type B6_aのいずれか準拠したものとされるが、但し書きがあり、上の規格を満たしていても減衰が0.5dB/kmのものはサポートされない、としている。なので実際は、最大でも0.47dB/km以内に収まっている格好だ。

 ちなみにこの減衰の数字は、光源が1264.5nmの場合のもの。『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』でも示した以下のグラフでも分かるように、100G 4WDM-10が利用する1310nm付近では、もう少し減衰が減り、おおむね0.3~0.4dB/km程度に収まっている。

 0.3dB/kmだとすると2→10kmで2.4dB、0.4dB/kmだと3.2dBになるから、感度を1.5dB上げたくらいでは帳尻が合わないのだが、恐らく2kmのときの-10dBmはかなりマージンを取った値で、10kmの-11.5dBmはマージンギリギリというあたりとすれば理解ができる。逆に言えば、送信側の光源出力を上げない限り、10kmがギリギリ、ということになる。

1990年以前に設置されていたSMFの測定例。出典はITU-Tの「G.694.1」のFigure 10-2

光源の変更で20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-20/40」

 そうしたこともあり、20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-20/40」では、光源そのものを変更した。まず、利用する波長は、以下の通りほぼ800GHzおきとなった。

波長(nm)周波数(THz)
L01295.56(1294.53~1296.59)231.56
L11300.05(1299.02~1301.09)230.76
L21304.58(1303.54~1305.63)229.95
L31309.14(1308.09~1310.19)229.15

 この段階で、CWDMというにはやや密度が高いが、DWDMというほどには高くない波長へと切り替えている。その理由として挙げられるのは、波長が広く分散することによる減衰の違いを最小限にしたかった、ということだろう。

 「100G PSM4」や「100G 4WDM-10」の場合で1271~1331nmとなるが、先に挙げた減衰の測定例でも分かるように、1271nmと1330nmではかなり減衰率が異なる。こうしたケースでは当然、減衰率の高い1271nmの方がボトルネックになるわけで、到達距離はこちらを基準に考える必要が出てくる。

 だからといって、20nm刻みの波長を維持したまま、例えばL0を1331nmにすれば、L1は1351nm、L2は1371nm、L3が1391nmとなってしまい、極端に減衰の多いピークに被ってしまうことになる。従ってL3は1320~1330nmあたりを下限にせざるを得ず、それでいてL0とL3の減衰率がそれほど大きく違わないようにするとなると、波長の間隔を狭めざるを得ない。

 幸いそうした用途向けには、こちらの記事で紹介した「400GBASE-FR8/LR8」が既に存在(というかこの時点では仕様策定へ向け作業中というのが正確)しており、これに向けて各社が開発していた光源や受光素子をそのまま流用しよう、というのが基本的な発想だったらしい。

PAM-4を使った「400GBASE-FR8/LR8」に対し、NRZの採用と受信感度・出力の向上で低コスト化

 異なるのは、400GBASE-FR8/LR8や、そのサブセットである「200GBASE-FR4/LR4」がPAM-4を使ってレーンあたり50Gbpsを狙ったのに対し、4WDM-20/40ではこれをNRZのままに留めておくことで、低コスト化を狙ったようだ。

 ちなみに、400GBASE-FR/LRとの違いはほかにもある。400GBASE-FRは2km、400GBASE-LRは10kmの到達距離を狙った規格だが、100G 4WDM-20/40は20/40kmだから、もちろんそのままでは信号が減衰して届かない。それもあって、「出力を上げる」と「受信感度を上げる」の両面で変更が行われた。

 以下は400GBASE-FR/LRと100G 4WDM-20/40のTransmit characteristicsの比較であるが、400GBASE-FR/LRは8レーン合計のLaunch powerが13.2dBm、1レーンあたりのLaunch powerが5.3dBmなのに対し、100G 4WDM-20/40では4レーン合計のLaunch powerが10.5/12.5dBm、1レーンあたりのLaunch powerが4.5/6.5dBmとなっている。全体的に100G 4WDM-20/40の方が1レーンあたりの出力が大きいわけだ。

ちなみに4レーンの200GBASE-FR4/LR4の場合、Total average launch powerは10.7/11.3dBm、レーンごとのAvelage launch powerは4.7/5.3dBmとなっている。出典はIEEE 802.3-2018のTable 122-10と、"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"と"100G 4WDM-20 & 4WDM-40 MSA Technical Specifications Release 1.0"のTable 2-3

 加えて言えば、400GBASE-FR/LRはPAM-4、つまり4レベルの信号を通さないといけないから、NRZの100G 4WDM-20/40よりもマージンがきつくなる。それを考えると、かなりのパワーアップと言える。

 ただ、これでも当然まだ足りない。上でもちょっと書いたが、光ファイバーの損失は0.3~0.4dB/kmであり、20kmなら6~8dB、40kmだと12~16dBの損失となる。仮にフルパワーで出力したとして、100G 4WDM-20だと受信側の信号強度は-1.5~-3.5dBm、100 4WDM-40だと-5.5~-9.5dBmになる計算である。

 このあたりを受け、100G 4WDM-20/40では受信側の感度を大幅に強化している。100G 4WDM-20でレーンあたり最小で-14.5dBm、100G 4WDM-40だと-20.5dBmまで感度を引き上げることで、信号強度の減衰に対応したかたちだ。

レーンごとのAvelage receive powerの-20.5dBmにはさすがにびっくりした。出典はIEEE 802.3-2018のTable 122-12と、"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"、"100G 4WDM-20 & 4WDM-40 MSA Technical Specifications Release 1.0"のTable 2-4

 これは、400GBASE-FR8/LR8における-7.5dBm/-9.1dBmから、およそ7~10dB以上の強化である。これはおそらく、この感度を実現できる受光素子を提供できるベンダーがメンバー企業内に存在していたからこそ実現できた規格で、多数のメンバー企業が入り乱れた状態での標準化を推進するIEEEでは、まず不可能な規格だった(もしくは、多数の企業がこの感度の受光素子を用意できるまで標準化が遅れた)のではないかと個人的には思う。

 ちなみに、100G 4WDM-10/20/40はいずれもホストとの接続(というかPMA)が25Gbpsの「CAUI-4」ということで、モジュールにはQSFP28を利用することが多く、実際100G 4WDM-10/20/40モジュールのほとんどは、QSFP28でリリースされている。

 さて、4WDM MSA自身の活動は、まず100G 4WDM-10を2017年3月に、続いて100G 4WDM-20/40を2017年9月にリリースした時点でほぼ完了したようで、その後は目立った活動などは一切なく、CWDM4 MSA→4WDM MSAのときのように、続いて別の規格策定に入るといった動きも特に見られない。

 この後で出てくる「CWDM8 MSA」とは、活動時期そのものは完全に重なっている。100G 4WDM-20/40完成のリリースが2017年9月18日である一方、CWDM8 MSAの結成は同年9月17日なので、あるいは4WDM MSA→8CWDM MSAという動きか?とも思ったのだが、創業メンバー企業が全く異なる上、規格の面も少し異なるので、両MSAは直接リンクしていないと思われる。CWDM8 MSAについては、もう少し後で紹介したい。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/