期待のネット新技術
100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年12月15日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
受信側だけに手を加え、10kmの到達距離を実現した最大100Gbpsの「100G 4WDM-10」
前回書いた通り「100G 4WDM-10」は、送信側には一切手を付けずに、受信側だけで何とかした。前回も掲載した以下の図が示すように、送信出力そのものは全く変わらないし、特性もほぼ同じだ。
では受信側は?というのが以下であり、Receive sensivityを-10dBmから-11.5dBmに引き下げている。
100G 4WDM-10において利用できるSMFは、「IEC 60793-2-50」のtype B1.1、type B1.3、type B6_aのいずれか準拠したものとされるが、但し書きがあり、上の規格を満たしていても減衰が0.5dB/kmのものはサポートされない、としている。なので実際は、最大でも0.47dB/km以内に収まっている格好だ。
ちなみにこの減衰の数字は、光源が1264.5nmの場合のもの。『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』でも示した以下のグラフでも分かるように、100G 4WDM-10が利用する1310nm付近では、もう少し減衰が減り、おおむね0.3~0.4dB/km程度に収まっている。
0.3dB/kmだとすると2→10kmで2.4dB、0.4dB/kmだと3.2dBになるから、感度を1.5dB上げたくらいでは帳尻が合わないのだが、恐らく2kmのときの-10dBmはかなりマージンを取った値で、10kmの-11.5dBmはマージンギリギリというあたりとすれば理解ができる。逆に言えば、送信側の光源出力を上げない限り、10kmがギリギリ、ということになる。
光源の変更で20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-20/40」
そうしたこともあり、20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-20/40」では、光源そのものを変更した。まず、利用する波長は、以下の通りほぼ800GHzおきとなった。
波長(nm) | 周波数(THz) | |
L0 | 1295.56(1294.53~1296.59) | 231.56 |
L1 | 1300.05(1299.02~1301.09) | 230.76 |
L2 | 1304.58(1303.54~1305.63) | 229.95 |
L3 | 1309.14(1308.09~1310.19) | 229.15 |
この段階で、CWDMというにはやや密度が高いが、DWDMというほどには高くない波長へと切り替えている。その理由として挙げられるのは、波長が広く分散することによる減衰の違いを最小限にしたかった、ということだろう。
「100G PSM4」や「100G 4WDM-10」の場合で1271~1331nmとなるが、先に挙げた減衰の測定例でも分かるように、1271nmと1330nmではかなり減衰率が異なる。こうしたケースでは当然、減衰率の高い1271nmの方がボトルネックになるわけで、到達距離はこちらを基準に考える必要が出てくる。
だからといって、20nm刻みの波長を維持したまま、例えばL0を1331nmにすれば、L1は1351nm、L2は1371nm、L3が1391nmとなってしまい、極端に減衰の多いピークに被ってしまうことになる。従ってL3は1320~1330nmあたりを下限にせざるを得ず、それでいてL0とL3の減衰率がそれほど大きく違わないようにするとなると、波長の間隔を狭めざるを得ない。
幸いそうした用途向けには、こちらの記事で紹介した「400GBASE-FR8/LR8」が既に存在(というかこの時点では仕様策定へ向け作業中というのが正確)しており、これに向けて各社が開発していた光源や受光素子をそのまま流用しよう、というのが基本的な発想だったらしい。
PAM-4を使った「400GBASE-FR8/LR8」に対し、NRZの採用と受信感度・出力の向上で低コスト化
異なるのは、400GBASE-FR8/LR8や、そのサブセットである「200GBASE-FR4/LR4」がPAM-4を使ってレーンあたり50Gbpsを狙ったのに対し、4WDM-20/40ではこれをNRZのままに留めておくことで、低コスト化を狙ったようだ。
ちなみに、400GBASE-FR/LRとの違いはほかにもある。400GBASE-FRは2km、400GBASE-LRは10kmの到達距離を狙った規格だが、100G 4WDM-20/40は20/40kmだから、もちろんそのままでは信号が減衰して届かない。それもあって、「出力を上げる」と「受信感度を上げる」の両面で変更が行われた。
以下は400GBASE-FR/LRと100G 4WDM-20/40のTransmit characteristicsの比較であるが、400GBASE-FR/LRは8レーン合計のLaunch powerが13.2dBm、1レーンあたりのLaunch powerが5.3dBmなのに対し、100G 4WDM-20/40では4レーン合計のLaunch powerが10.5/12.5dBm、1レーンあたりのLaunch powerが4.5/6.5dBmとなっている。全体的に100G 4WDM-20/40の方が1レーンあたりの出力が大きいわけだ。
加えて言えば、400GBASE-FR/LRはPAM-4、つまり4レベルの信号を通さないといけないから、NRZの100G 4WDM-20/40よりもマージンがきつくなる。それを考えると、かなりのパワーアップと言える。
ただ、これでも当然まだ足りない。上でもちょっと書いたが、光ファイバーの損失は0.3~0.4dB/kmであり、20kmなら6~8dB、40kmだと12~16dBの損失となる。仮にフルパワーで出力したとして、100G 4WDM-20だと受信側の信号強度は-1.5~-3.5dBm、100 4WDM-40だと-5.5~-9.5dBmになる計算である。
このあたりを受け、100G 4WDM-20/40では受信側の感度を大幅に強化している。100G 4WDM-20でレーンあたり最小で-14.5dBm、100G 4WDM-40だと-20.5dBmまで感度を引き上げることで、信号強度の減衰に対応したかたちだ。
これは、400GBASE-FR8/LR8における-7.5dBm/-9.1dBmから、およそ7~10dB以上の強化である。これはおそらく、この感度を実現できる受光素子を提供できるベンダーがメンバー企業内に存在していたからこそ実現できた規格で、多数のメンバー企業が入り乱れた状態での標準化を推進するIEEEでは、まず不可能な規格だった(もしくは、多数の企業がこの感度の受光素子を用意できるまで標準化が遅れた)のではないかと個人的には思う。
ちなみに、100G 4WDM-10/20/40はいずれもホストとの接続(というかPMA)が25Gbpsの「CAUI-4」ということで、モジュールにはQSFP28を利用することが多く、実際100G 4WDM-10/20/40モジュールのほとんどは、QSFP28でリリースされている。
さて、4WDM MSA自身の活動は、まず100G 4WDM-10を2017年3月に、続いて100G 4WDM-20/40を2017年9月にリリースした時点でほぼ完了したようで、その後は目立った活動などは一切なく、CWDM4 MSA→4WDM MSAのときのように、続いて別の規格策定に入るといった動きも特に見られない。
この後で出てくる「CWDM8 MSA」とは、活動時期そのものは完全に重なっている。100G 4WDM-20/40完成のリリースが2017年9月18日である一方、CWDM8 MSAの結成は同年9月17日なので、あるいは4WDM MSA→8CWDM MSAという動きか?とも思ったのだが、創業メンバー企業が全く異なる上、規格の面も少し異なるので、両MSAは直接リンクしていないと思われる。CWDM8 MSAについては、もう少し後で紹介したい。
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