期待のネット新技術

銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

「100GBASE-KR1/CR1」をベースに、銅配線で8レーン800Gを規格化

 光Ethernetとは直接無関係ではあるが、8月のミーティングでは銅配線に関しても2つほどプレゼンテーションがあったので、まとめて説明しておきたい。

 まず1つは、AmphenolのSam Kocsis氏による"Consensus Support for 800GbE over 8-Lanes based on 100GEL"。見て分かる通り、銅配線を利用した8レーンで800Gの規格だ。

 まず、レーンあたり100Gの銅配線規格では、「IEEE P802.3ck Task Force」で現在作業中(現状はDraft 2.2の段階。予定では2022年7月に標準化完了)である「100GBASE-KR1/CR1」と、これを束ねた「200GBASE-KR2/CR2」、「400GBASE-KR4/CR4」が標準化に向けて進んでいるとする。

KR1/2/4はバックプレーン向けにPCB上の銅配線を、CR1/2/4はDirect Attach向けで1対の同軸ケーブルを、それぞれ1レーンとして利用する方式である

 100Gの100GBASE-KR1/CR1が技術的なベースであり、これを2対にすると200G、4対で400Gとなるわけだが、QSFP+などでは8レーンの信号は通せないということから「IEEE P802.3ck」は400G止まりであり、それ以上の審議はなされていない。

OSFPはともかくQSFP-DD800は、2019年9月にMSAが立ち上がっているので、IEEE P802.3ck Task Forceの審議にぎりぎり間に合っていた気もするのだが、8レーン構成は審議対象外に

 ただ、実際にはOSFPやQSFP-DD800を利用すれば8レーンの信号を扱うことは可能だし、業界では「400GBASE-CR8/KR8」が広く普及していることも考えれば、8レーンの標準規格には意味がある、としている。

1.6Tb/sはレーンあたり200Gまで引き上げられれば、という前提なのだが、これが可能か? の議論がまず先な気もする。

 実際、例えばArista Networkの"Transceivers & Cables"を見てみると、下の方に「400G Copper OSFP」という製品があることが分かる。

400G to 400G以外に400G to 2×200G/4×100G/8×50Gが並んでいるあたり、最大で3mなのでラック内接続用ではあるが、ニーズをきちんとカバーしているというべきか。それはそれとして「400GBASE-CR8」を名乗っていいのだろうか? 出典はArista Networksの製品ページ

 こうした動向を踏まえると、既に8レーンのモジュールは市場で受け入れ可能という判断だろう。

 しかも互換性に関しては、既に400GまではIEEE P802.3ckで標準化予定になっている。これを2本束ねれば、800Gとしても2×400Gとしても利用できる、とする。

逆に言えば、800Gも400Gと互換性を保てるように構成するのは難しくない、と判断しているようだ

 以上を前提に、Study GroupにおいてはObjectiveに800GのCR/KRを定義すべきだ、というのが、このプレゼンテーションにおける提案となる。

最低2mの到達距離は「400GBASE-CR4」の、26.56GHzで挿入損失28dB以下は、「400GBASE-KR4」の要求であり、これをそのまま持ってきた格好だ

【Straw Poll #1】800Gb/sで8レーンの同軸ケーブル(各2本)で最低2m以上の到達距離を持つ物理層を定義すべきか?

  • Yes:70票
  • No:3票
  • もっと情報が必要:3票
  • 棄権:12票

【Straw Poll #2】800Gb/sで8レーン、26.56GHzで挿入損失が28dB以下のバックプレーン向けの物理層を定義すべきか?

  • Yes:60票
  • No:1票
  • もっと情報が必要:3票
  • 棄権:22票

【Motion #1】800Gb/s CRの物理層を定義する(75%)

  • 満場一致で承認

【Motion #2】800Gb/s KRの物理層を定義する(75%)

  • 満場一致で承認

 ということで、この提案はStudy GroupのObjectiveへ入れられることが決まった。

「SE PAM4」の変調方式採用で、銅配線でも200Gを実現?

 次が、200Gb/sのCRについて。HuaweiのYuchun LUら4氏による"Further consideration on 200G per lane CR electrical links"というプレゼンテーション。こちらは、200Gを銅配線というか、同軸ケーブルで通すことの妥当性を簡単に確認したものだ。

 この200Gの銅配線(というか、電気信号)については『200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ』で紹介していて、変調方式に「SE PAM4(Single Ended PAM4)」を利用すれば可能、という話になっていた。

上がケーブル直結、下がケーブルを切り離せるタイプの接続である。ここでは1m程度のケーブルを想定している

 これに関して、実際のモデルをベースとして周波数軸での特性を見る限り、クロストークの影響はあまりない(信号と比べてクロストークノイズは50dB以上低くできる)とする。

左は2本の信号線のクロストークの影響のシミュレーション、右がフィルターを通した後の信号とクロストークノイズの信号

 また時間軸方向の特性についても、フィルターなしだと信号波形(左側の黒)にやや遅れてクロストーク(赤/青)が発生しているが、フィルターを通した後だと信号波形だけが通過し、クロストークが消えていることが分かる。

フィルターを伝送路の前に入れても後に入れても、同様の効果が得られるとする

 この結果から、PAM4のままでも200G KR/CRの目標は達成できるし、SE PAM4におけるクロストーク削減も効果的であるとした上で、レーンあたり200GのCRについてはObjectiveに含むべきだ、としている。

以前の議論ではSE PAM4が推されていたが、ここではPAM4かSE PAM4かの議論はされていない。このあたりはもう少し精査が必要と判断してのことだろう

 さてこのプレゼンテーションに関するStraw PollとMotionであるが

【Straw Poll #3】

4対の同軸ケーブルで800G/sの速度で、到達距離1mの物理層を規定すべき

  • Yes:44票
  • No:5票
  • 棄権:10票

4対の同軸ケーブルで800G/sの速度で、到達距離1.25mの物理層を規定すべき

  • Yes:22票
  • No:23票
  • 棄権:15票

4対の同軸ケーブルで800G/sの速度で、到達距離1.5mの物理層を規定すべき

  • Yes:14票
  • No:28票
  • 棄権:17票

【Motion #3】

  • 200Gb/sで1対の同軸ケーブルを利用した到達距離1m以上の物理層を定義
  • 400Gb/sで2対の同軸ケーブルを利用した到達距離1m以上の物理層を定義
  • 800Gb/sで4対の同軸ケーブルを利用した到達距離1m以上の物理層を定義
  • 1.6Tb/sで8対の同軸ケーブルを利用した到達距離1m以上の物理層を定義(75%)

 満場一致で承認ということになり、少なくともCRに関しては、レーンあたり200Gb/sの規格(到達距離1m)が含まれることが確定した格好だ。

Passive Cableで到達距離1.5mは厳しいが、1mだと配線に難

 ちなみに、この8月のミーティングでは、"Addressing possible 800G copper cable objective"という、Active Cableを利用する場合に標準化の対象にするか否かの考察(過去には標準化対象には入っていなかったActive Cableも、そろそろ標準化の対象にすべきではないか?という問題提起)と、800GでDual-purpose port(光Ethernetと銅配線Ethernetの両対応ポート)を実装する場合に、両方のシステムソリューションを統合して考える必要があるという指摘が行われた。

 また、"Broadened Consensus for a 200GEL Copper Cable Objective"は、光と銅配線で相互運用性を持たせるUniversal Port(Dual-purposeは光と銅配線の2つの動作モードを持つという意味であり相互運用性はない)の実装をどうするべきかという問題提起と、200G/400G/800G/1.6TのCRで1.5mの到達距離を実現することを提案した。

 ただし、この到達距離1.5mについては、【Straw Poll #3】でほぼ否決されており、それもあって【Motion #3】としては出てきていない。

 技術的には、Passive Cableで1.5mはかなり厳しいように思われるが、その一方で1mだとラックの上から下までの配線すらできない。

 なぜなら、例えば50Uのラックだと高さが2.35mほどとなり、ということはTOR(Top of Rack)にスイッチを置いても、1mだと全体の3分の1くらいまでしか届かないことになる。

 むしろ、高さ3分の1と3分の2あたりの位置にスイッチを置き、そこから上下に配線するという、あまり例のない配線方法を強いられることになりそうで、これはこれでどうだろう? という気もちょっとする。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/