期待のネット新技術
IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年3月2日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
IEEE P802.3cmが標準化を進める「400GBASE-SR8」「400GBASE-SR4.2」の2規格
前回に続いて、IEEE P802.3cm Task Forceの話をしていこう。初回のミーティング(2018年5月)で提案された「400GBASE-SR8」は、要するに1方向あたり8本のファイバーを用意し、それぞれ50G PAM4で信号を通せば400Gという計算だ。WDMによる送受信の多重などは一切行わない力業である。
光ファイバーは送受信で16本に達するが、過去には1方向あたり10本の「100GBASE-SR10」という、さらに力業の規格があったため、これに比べればマシだろう。上の図にもあるように、IEEE 802.3cd-2018で標準化されたこちらで紹介した「200GBASE-SR4」を2つ並べたような構造とすることで、確実に標準化が達成できる方策を採った、というべきだろうか。
ただ、2018年7月のミーティングでは、いよいよ「400GBASE-SR4.2」につながるbaseline proposalが登場する。上のスライドの通りMotivationは実に分かりやすく、要するに「既に1方向あたり4レーンのMMFが数多く設置されているのに、いまさら片方向8レーンは……」というわけだ。
400GBASE-SR8は確実に実用化できる技法であり、これに反対はしないものの、それだけではなくBiDiを利用した400GBASE-SR4.2も検討すべき、というアピールである。
「400GBASE-SR4.2」の中身は400G BiDi MSA策定の「400G-BD4.2」と一致
当初提案された波長は、初回のミーティングで提案された850nmと880nmではなく、850nmと910nmの2波長となった。やはり880nmだと2つの波長が接近し過ぎていて、分離のためのフィルターが高コストになりそうなことと、既に910nmでも実績があることを挙げている。
Transmit/Receive characteristicsも示されていたが、あくまでもこれは叩き台だから、当然と言えば当然なのだが、中身は当然400G-BD4.2と完全に一致している。ちなみにこのProposal、発表の後の投票で、賛成38、反対2、棄権28という結果となり、以後はTask Forceで400GBASE-SR8と400GBASE-SR4.2の両方について検討することが決まった。
ただ、このときのProposalでは、Lane assignment(つまり以下の図でいうところのBiDi方式かCoDi方式か)に関しては言及されておらず、これは次の2018年9月のミーティングで示されることになった。そのLine Alignmentであるが、初回ミーティングのプレゼンテーションで推されていたCoDi方式から一転、BiDi方式となった。
CoDi方式ではなくBiDi方式が推された理由は正直なところ不明だ。400G-BiDiとの互換性を考えればBiDi方式がいいのは明白だが、そうなると、初回のミーティングでトランシーバーモジュール内部での信号のクロストーク軽減を考えるとCoDi方式が有利、という説明は何だったのか?という話になる。
このプレゼンテーションの後で行われた議論の要約では、BiDi方式は既存の40GBASE-SR4や100GBASE-SR4と同じフォームファクターであり、こちらの記事で紹介した「400GBASE-DR4」とも光ファイバーやモジュールの互換性が取れる、という説明があったようだ。ただこの時点では、まだ採択は行われていない。
ちなみに、この2018年9月のミーティングでは、400GBASE-SR4.2に対するTDECQ/SECQの手法に関する説明も行われ、その中でMeasurement bandwidthを-3dBeにする、という提案が賛成多数で可決している。この時点で提案された内容を元にDraft 1.0を作成するという提案も出され、こちらも全員一致で可決されている。つまり、採択はされていないと言いつつ、Draft 1.0におけるLane assignmentsはBiDi方式のまま通ったかたちだ。
これに続くミーティングの記録にも、このLane assignmentに関する異論は特に見当たらない。むしろ、SR4.2のPower Budgetやノイズに関して、シミュレーションや実験結果からの変更提案があったり、変なところでは図版の修正の提案があったりした。
ただ、こうした提案はほぼスケジュール通りに収まり、2019年11月のミーティングでTask Forceの作業は終了。2020年1月30日に「IEEE 802.3cm-2020」として標準化を果たしている。
「400GBASE-SR8」と「400GBASE-SR4.2」はわずかに異なるも、相互互換性は確保
そのIEEE 802.3cm-2020で標準化されたのが、400GBASE-SR8と400GBASE-SR4.2の2つの規格である。ただ、前者に関しては、かなりの部分が50GBASE-SR/100GBASE-SR2/200GBASE-SR4と共通することもあり、Clause 138へ追加されるかたちとなった。そして後者については、Clause 150にまとめられている。
ということで、400GBASE-SR4.2について見ていこう。送受信の波長は、以下の表のように400G-BD4.2と同じだ。
送信波長 | 受信波長 | |
TR | 844~863nm | 900~918nm |
RT | 900~918nm | 844~863nm |
到達距離はOM3で0.5~70m、OM4で0.5~100m、OM5で0.5~150mとなっている。実は、Power Budgetの議論では、OM5で300mの場合のシミュレーション結果なども出ていたが、仕様としては最大150mまでの範囲に収まっている。
ただ、送受信のパラメーターは異なる部分もある。下図はTransmit charasteristicsを比較したものだが、右の400GBASE-SR4.2と左の400GBASE-SR8との間で、RMS spectral widthの最大値が波長によって変化しているほか、Average launch powerの最小値も0.3dB引き上げられている。
また、Transmitter Transition timeの最大値も34psから31psへ短縮されている。このうちRMS spectral widthは、光源として利用されるVCSELの特性上、910nmではスペクトルの幅が多少広がることに対応したものだ。
同様にReceive charasteristicsを比較したのが下の図である。大きな違いはAverage receive powerで、最小値が-8.5dBmから-8.2dBmへ上がっている。これはAverage launch powerを0.3dB引き上げたことが、そのまま影響しているのだろう。
やや面白いのがPower budgetだろうか。Specificationで比較する限り、850nmにおけるEffective modal bandwidthは同等だが、910nmの場合は400G-BD4.2の方が全体的に低めで、Power Budgetも400G-BD4.2の方がやや低めに見積もられている。
Additional insertion lossのマージンも0.1dBほど低いが、これが400G BiDi MSAでは厳しめに見積もったのか、それともIEEEの方ではきちんとテストを行って、想定よりもマージンがあると判断して反映したのか。おそらくはその両方ではないかと思う。
おそらくその結果、通常の利用では400GBASE-SR4.2と400G-BD4.2では運用の相互互換性がほぼ保たれていると考えていい。厳しいのは、それこそOM5で150mオーバーとか、OM3で70mぎりぎりとか、そうした仕様の限界にチャレンジしている環境だろう。
そうした場合は相互互換性が保ちきれない可能性はある。とはいえ、ほぼほぼ400G-BD4.2の仕様が保たれたとしていいかと思う。
ちなみにIEEE 802.3cm-2020の方では、400G-BD4.2のSpecificationで省かれている細かな仕様がきちんと反映されている。その意味でも、400G BiDi MSAはとりあえず実績を作るために400G-BD4.2の仕様策定を急ぎ、きちんとした仕様は400GBASE-SR4.2で策定する腹積もりで、それがきちんと果たされた、ということかもしれない。
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