期待のネット新技術
40G/100Gへ向けIEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバーの規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年7月7日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
IEEE 802.3baで定義された「CGMII」と「XLGMII」のInterconnect
今回はまず、「IEEE 802.3ba」で定義された2種類のInterconnectである「CGMII」と「XLGMII」について説明しておきたい。前回も掲載した以下左のスライドのように、CGMIIおよびXLGMIIはホスト(というかSoCというか、要はコントローラーの上位)と物理層のインターフェースとなるが、これそのものは論理的な定義であって、物理的な定義は「CAUI」または「XLAUI」となる。
そのCGMIIとXLGMIIの設計目標をみると、最低でも90nmプロセスなら製造できる、という条件となったようだ。その一方で、物理的なインターフェースであるCAUI/XLAUIについては、4/10レーンで64B/66Bエンコードを利用することになった。
そこでまず、CGMIIとXLGMIIだが、ともにIEEE 802.3baでは、データ64bit/制御信号8bitの双方向と規定されており、ここからクロック信号(TX_CLK/RX_CLK)は40Gで625MHz、100Gで1.5625GHzと言う計算になる。
ただし、これは必ずしも必須ではなく、仕様で定められているのは以下の5項目のみであり、これをサポートしていれば、必ずしも64bit+8bitという構成である必要がない。
- XLGMIIは40Gb/secをサポート
- CGMIIは100Gb/secをサポート
- データおよびデリミッターはリファレンスクロックに同期
- 独立した64bitの送信/受信パスの提供
- 全二重のみをサポート
実際、例えばHighTech Globalという企業の「Dual Mode 40/100Gig Ethernet MAC & PCS IP Core」の場合、データバス幅が320bitになっており、クロックは40Gで125MHz、100Gでも312.5MHzとなっている。
要するに、見かけ上だけでも64bit幅での送信ができれば、例えば実際は512bit幅でも1024bit幅でもよく、逆に時分割で32bitに押し込めても(スピードが間に合うとは思えないが)構わないというわけだ。
このあたりは、要はPLSとPCSがお互いに通信できて、上に挙げた5つの項目を満たしていれば、実装は割と何でもいいかたちとなっている。
5Gbps×20レーンの「CAUI」、10Gbpsの仮想レーンが4本の「XLAUI」
これに対してCAUI/XLAUIは、そういうわけにはいかない。こちらはきちんとバス幅が決められることになった。
ただ、ちょっと面白い構成になっている。そのCAUI/XLAUIの構成が以下左のスライドで、CAUIの場合は片方あたり20本、XLAUIの場合は4本の「Virtual Lane」(仮想レーン)を実装することになっている。
つまり、CAUIならば5Gbps×20、XLAUIだと10Gbps×4ということだ。ここがVirtual Laneというのがポイントで、物理的にはもっと少なくても構わないとされる。
そんなわけで実際の信号レートとしては、10.3125Gbpsで64B/66Bエンコードというかたちになり、40Gならば4対、100Gなら10対という構成になった。その結果として、パケットは以下右のように、やや複雑な分配のされ方になる。
これは100GBASE-LR4のケースということになるが、MLDからはVL0~VL19まで20本のVirtual Laneへそれぞれデータが渡されるかたちとなり、CAUIを経由するときに10本にシリアライズされる。これがPHYの中でさらに4つのレーンに集約されて渡され、受信側はこれと逆の操作を行って20本のVirtual Laneに、それもきちんとパケットの順番をそろえて渡す必要がある。
MACからは20レーンで渡され、それが途中で10レーンに絞られる(ここはVirtual Laneの仕組み)が、その先では、これをさらに4レーンに絞るかたちとなる。ただし、これはレーンを4本に絞るというより、20→10→1→4といった動きになる、というのが正解である。
外からはレーン数変換に見える「MLD」
具体的には右のように、いったん1レーンの(つまりBlockを全部まとめる)かたちで並べた後、この場合なら4本の物理レーンに分配して順次送ることになる。ただTX PCS→RX PCSの間は、実際には光ファイバーだったり銅配線だったりするので、レーンによって送信が遅延したり再送が掛かることがあり得る。
そこで、定期的に挟み込んだAlignment Blockで同期を取る、つまり全てのレーンでAlignment Blockが伝達されれば同期が取れたことが分かるので、その後はAlignment Blockを削除し、並び替えを行ってから上位に渡す。
この機能のことを「MLD(Multi-lane Distribution)」、つまりマルチレーン振り分けと呼ぶが、これはIEEE 802.3baで新たに追加されたものだ。これを入れることで、将来さらに異なる構成(例えば2レーンや8レーンなど)とした場合にも、対応が容易になるわけだ。
このMLDの回路は、外部からはレーン数変換に見えることになる。「100GBASE-SR10」なら、10レーンのCAUIで出力も10レーンの光ファイバーとなるため1対1だが、「100GBASE-LR4」だと10レーンのCAUIから4レーンの光ファイバーとなるので、10から4への変換となる。
このように見えることもあって、これを「Gear Box」と呼ばれることも多い(最近はこの用語が200~800G Ethernet向けにごく一般的に使われるようになっている)。
ちなみに、従来の10G Ethernetと同様、こちらもモジュールのかたちで実装したいとのニーズは当然多かった。そんなわけで、インターフェースはCAUIあるいはXLAUIとなったわけだ。
ピン不足をカバーする40G/100G対応のトランシーバー規格
ただし、10Gbps×4または10Gbps×10では信号の本数が多く、既存のモジュールではピンが足りないため、当然そのままというわけにはいかなかった。これに関しては、業界団体であるCFP MSAが仕様を策定した。CFPはC Form-factor Pluggableの、MSAはMulti-Source Agreementの略である。
要するに100Gのプラグイン可能なトランシーバーモジュールについて、複数メーカーで共通仕様を策定し、これを遵守しようという話だ。このあたりは『XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格』で紹介した「XENPAK MSA」や「X2 MSA」の場合と同じだ。
2009年3月、Finisar Corporation、Opnext, Inc、住友電工とその子会社のExcelight Communications, Incは、共同でCFP MSAを設立し、40G/100Gのトランシーバー規格を定めることを発表した。そして翌2010年6月、Avago Technologiesをメンバー企業に加えるとともに、CFP MSA Revision 1.4のSpecificationを発表している。
CFPモジュールの寸法図をみると、最初に定義されたのが一番左のCFPである。最初に定義されたCFPは、XENPAK並みというか、厚みこそXENPAKよりやや薄いが、大きさそのものはXENPAK2つ分よりもまだかなり大きいものだったが、SFP+のモジュール10個分よりは小さく、その意味ではスペースの節約にはなっていた。
そのモジュールは148ピンの構成だ。やけに3.3Vが多いと思われるかもしれないが、この初代CFPの場合はPower Classが1~4まで定義されていて、1で8W以下、2が16W以下、3が24W以下、4で32W以下となっている。32Wということは、3.3V電源だとほぼ10Aほどが流れる計算なので、余裕を見て(というか、安全性を高めるために)ピンあたり500mAほどに抑えるとすると、20ピンほどが必要なのは、仕方ないところだろう。
ちなみに信号電圧は、いくつかの制御ピンを除くと1.2Vだし、送受信の10対の信号は当然ディファレンシャルである。この10対の信号ピン全てを使えば100Gを、4対だけでも40Gを伝送できるわけだ。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー