期待のネット新技術
レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年9月29日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
25Gbpsを16対32本束ねて400Gbpsを実現する「400GBASE-SR16」
「IEEE 802.3bs」で最もシンプルなのは「400GBASE-SR16」だろう。25Gbpsのレーンを16対32本束ねて400Gbpsのレーンを作る、というのは、力業以外の何物でもない。
何故こんな力業の規格が通ったかというと、要するにコストである。こちらで紹介した「100GBASE-SR4」の技術や部品がそのまま使えるし、電気的にも「CDAUI-16」を利用すればGearBoxの必要もない。また、今後登場する(400Gbps対応の)アプリケーションがそのまま対応できることになる。
とにかく開発費を最小に抑えられる(=製品価格への転嫁分が最小になる)し、既に量産効果のお陰で安価に入手できる25Gの光源や受光器も使えるため、製品コストも低く抑えられるハズ、というわけだ。
実際に提案を見ても、送受信特性やLink Power Budgetとして、以下左にあるように、100GBASE-SR4のものが使えるとしているあたり、コストだけではなく規格に対する審議をも簡略化しようとしている気もする。もっとも、全部が全部一緒というわけにもいかない。例えばコネクタは16対32本だから、既存のMDIは利用できないため、以下右のように新たにMPO-16を利用するとしている。
もちろん全く作業がないわけではない。BERを5×10^-5以下に抑えられることの確認や、16レーンに跨ってデータを分配することで増えるSkewのマージンを確認するといった作業は必要になるとされている。だが、実際の作業はその程度である。
最終的には、上のPMD Optical specitficationsのスライドにあるように、Clause 95を再利用するかたちではなく、Clause 123というかたちで定義された。ただ、Transmitter Optical Specification(123.7.1)やReceive Optical Specification(123.7.2)などは「100GBASE-SR4」と同じと定義されており、その意味ではうまく再利用ができたということになる。ちなみに、100GBASE-SR4のTransmitter Optical Specificationは以下で、これをそのまま継承する。
Signaling rate, each lane (range) | 25.78125±100ppm(GBd) |
Center wavelength(range) | 840nm~860nm |
RMS Spectral Width(max) | 0.6nm |
Average Launch Power | 2.4dBm |
差があるのは利用できるファイバーで、100GBASE-SR4が「OM3」(0.5~70m)と「OM4」(0.5~100m)の2つなのに対し、400GBASE-SR16では「OM5」(0.5~100m)が追加されるかたちだ。
ちなみにOM5は「IEC 60793-2-10 Type A1a.4」で追加されたもの。100GBASE-SR4が追加された「IEEE 802.3bm-2015」の策定時点における最新版は「IEC 60793-2-10:2015(Edition 5.0)」で、これにはOM4までが定義されている。ところがその後、「IEC 60793-2-10:2017(Edition 6.0)」が2017年8月に出ており、これにOM5が追加された。このため、IEEE 802.3bsではOM5もサポートすることにしたのだろうと思われる。
26.5625G PAM4でレーンあたり50Gbpsを実現する「200GBASE-FR4/LR4」「400GBASE-FR8/LR8」
次に「200GBASE-FR4」「200GBASE-LR4」「400GBASE-FR8」「400GBASE-LR8」をまとめて紹介しよう。これらはいずれも26.5625G PAM4を利用し、レーンあたり50Gbpsを実現する規格で、4レーンで200Gbps、8レーンなら400Gbpsになるわけだ。
もっとも、規格策定の様子を見ていると、まずは400Gbpsの仕様検討が行われ、後追いで200Gbpsが付け加えられた格好になっている。実際、2016年1月のMeetingでは右のような提案が出され、了承されてCSDやPARが改定されることになった。
そんなわけで、最初に議論の対象になった400GBASE-FR8/400GBASE-LR8、というかSMFを利用した100G×4のPMDも、決して一筋縄では行かなかった。
2014年7月のミーティングでは"400G & 4x100G SMF PMD Alternatives Study"という発表が行われているが、そもそもレーンあたりの速度と変調方式にいくつかの選択肢があり、実際に特性比較が示されている。これだけ見ていれば、56GのPAM-4が一番望ましい選択肢、というのが理解できる。
ちなみに、NRZの51.6GがPAM-4の56GよりもBERが高いのは、信号速度自体が2倍(PAM-4 56Gの場合、信号そのものは28Gになる)となって、波形がその分乱れやすいためだろう。実際Eyeのかたちを見てみると、NRZ 51.6GよりもPAM-4 56Gの方がきれいだ。
同じ2014年7月のミーティングでは、PAM-4 vs DMTの比較も発表されており、どちらの方式を使っても10kmまでの到達距離は何とかカバーできそう、という結論となっていた。
ただ、審議はこの後も続き、最終的に2015年の9月のミーティングで技術的な仕様策定作業がほぼ完了したときにはDMTが落ち、56G PAM-4で行くという方針が決まったのは、先のEye Diagramを見ると非常に納得できるものがある。
この2015年9月時点での決定事項に基づいてDraft 1.0が策定され、以後はDraftの改定作業が続くこととなる。新機能の提案は2016年5月のミーティングが最終期限だったが、ミーティングのレポートを見る限りは特に新提案はなかったようで、これを基に2016年7月にDraft 2.0がリリースされた。このDraft 2.0がIEEE 802.3cd-2018の100GBASE-DRに影響を与えた、という話はこちらに書いた通りだ。
さて、その400GBASE-FR8/400GBASE-LR8であるが、レーンそのものは8本ながら、実際の光ファイバーそのものはWDMを利用して1対2本に集約されている。これはそもそもが既存の敷設されたファイバーの再利用を考えている以上、8対なんて論外という話であるし、距離が遠ければWDMを入れるコストよりファイバーの方が高く付くから、方式としては妥当であろう(200GBASE-FR4/LR4の場合は4波長のWDM)。
そして400GBASE-FR8/LR8の場合は、光源の波長として以下の8つを利用している。
レーン | 400GBASE-FR8 | 400GBASE-LR8 |
L0 | 1273.54nm(1272.55~1274.54nm) | |
L1 | 1277.89nm(1276.89~1278.89nm) | |
L2 | 1282.26nm(1281.25~1283.27nm) | |
L3 | 1286.66nm(1285.65~1287.68nm) | |
L4 | 1295.56nm(1294.53~1296.59nm) | |
L5 | 1300.05nm(1299.02~1301.09nm) | |
L6 | 1304.58nm(1303.54~1305.63nm) | |
L7 | 1309.14nm(1308.09~1310.19nm) |
一方、これを半分に減らした200GBASE-FR4/LR4の場合、200GBASE-LR4は400GBASE-LR8のL4~L7をそのまま使っているのに対し、なぜか200GBASE-FR4は微妙にずらした別の周波数ちなっている。
レーン | 200GBASE-FR4 | 200GBASE-LR4 |
L0 | 1271nm(1264.5~1277.5nm) | 1295.56nm(1294.53~1296.59nm) |
L1 | 1291nm(1284.5~1297.5nm) | 1300.05nm(1299.02~1301.09nm) |
L2 | 1311nm(1304.5~1317.5nm) | 1304.58nm(1303.54~1305.63nm) |
L3 | 1331nm(1324.5~1337.5nm) | 1309.14nm(1308.09~1310.19nm) |
いずれの場合も、信号速度は26.5265±100ppm(GBd)である。上に書いたように、ファイバーは1対2本のSMFで、200GBASE-FR4と400GBASE-FR8が2m~2km、200GBASE-LR4と400GBASE-LR8が2m~10kmの到達距離となっている。
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