期待のネット新技術

レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

25Gbpsを16対32本束ねて400Gbpsを実現する「400GBASE-SR16」

 「IEEE 802.3bs」で最もシンプルなのは「400GBASE-SR16」だろう。25Gbpsのレーンを16対32本束ねて400Gbpsのレーンを作る、というのは、力業以外の何物でもない。

 何故こんな力業の規格が通ったかというと、要するにコストである。こちらで紹介した「100GBASE-SR4」の技術や部品がそのまま使えるし、電気的にも「CDAUI-16」を利用すればGearBoxの必要もない。また、今後登場する(400Gbps対応の)アプリケーションがそのまま対応できることになる。

 とにかく開発費を最小に抑えられる(=製品価格への転嫁分が最小になる)し、既に量産効果のお陰で安価に入手できる25Gの光源や受光器も使えるため、製品コストも低く抑えられるハズ、というわけだ。

「400GBASE-SR16」のプロポーザル。シンプル極まりない構図だ
確かに既存技術の組み合わせだけで実現できるので、その意味で最も安価。だが、16対32本のケーブルは安価とはならない気もする

 実際に提案を見ても、送受信特性やLink Power Budgetとして、以下左にあるように、100GBASE-SR4のものが使えるとしているあたり、コストだけではなく規格に対する審議をも簡略化しようとしている気もする。もっとも、全部が全部一緒というわけにもいかない。例えばコネクタは16対32本だから、既存のMDIは利用できないため、以下右のように新たにMPO-16を利用するとしている。

ここを変更すると100GBASE-SR4向けの部品が一切使えなくなるから同じにする必要があり、すると仕様も自動的にそのまま使い回せるというわけだ
コネクタが16対32本並ぶ「MPO-16」、なかなか壮観ではある

 もちろん全く作業がないわけではない。BERを5×10^-5以下に抑えられることの確認や、16レーンに跨ってデータを分配することで増えるSkewのマージンを確認するといった作業は必要になるとされている。だが、実際の作業はその程度である。

BERはともかくSkewの方は確かにきちんと検証する必要があるだろう。ここまでのスライドの出典は"400Gb/s 100m MMF reach objective draft baseline proposal"

 最終的には、上のPMD Optical specitficationsのスライドにあるように、Clause 95を再利用するかたちではなく、Clause 123というかたちで定義された。ただ、Transmitter Optical Specification(123.7.1)やReceive Optical Specification(123.7.2)などは「100GBASE-SR4」と同じと定義されており、その意味ではうまく再利用ができたということになる。ちなみに、100GBASE-SR4のTransmitter Optical Specificationは以下で、これをそのまま継承する。

Signaling rate, each lane (range)25.78125±100ppm(GBd)
Center wavelength(range)840nm~860nm
RMS Spectral Width(max)0.6nm
Average Launch Power2.4dBm

 差があるのは利用できるファイバーで、100GBASE-SR4が「OM3」(0.5~70m)と「OM4」(0.5~100m)の2つなのに対し、400GBASE-SR16では「OM5」(0.5~100m)が追加されるかたちだ。

 ちなみにOM5は「IEC 60793-2-10 Type A1a.4」で追加されたもの。100GBASE-SR4が追加された「IEEE 802.3bm-2015」の策定時点における最新版は「IEC 60793-2-10:2015(Edition 5.0)」で、これにはOM4までが定義されている。ところがその後、「IEC 60793-2-10:2017(Edition 6.0)」が2017年8月に出ており、これにOM5が追加された。このため、IEEE 802.3bsではOM5もサポートすることにしたのだろうと思われる。

26.5625G PAM4でレーンあたり50Gbpsを実現する「200GBASE-FR4/LR4」「400GBASE-FR8/LR8」

 次に「200GBASE-FR4」「200GBASE-LR4」「400GBASE-FR8」「400GBASE-LR8」をまとめて紹介しよう。これらはいずれも26.5625G PAM4を利用し、レーンあたり50Gbpsを実現する規格で、4レーンで200Gbps、8レーンなら400Gbpsになるわけだ。

要するに"400Gb/sec"の前に"200Gb/sec and"を付け加えた格好だ。出典は"PROPOSED MODIFICATIONS:802.3bs PROJECT DOCUMENTATION IEEE 802.3 Next Gen 100 GbE / 200GbE Study Group"

 もっとも、規格策定の様子を見ていると、まずは400Gbpsの仕様検討が行われ、後追いで200Gbpsが付け加えられた格好になっている。実際、2016年1月のMeetingでは右のような提案が出され、了承されてCSDやPARが改定されることになった。

 そんなわけで、最初に議論の対象になった400GBASE-FR8/400GBASE-LR8、というかSMFを利用した100G×4のPMDも、決して一筋縄では行かなかった。

 2014年7月のミーティングでは"400G & 4x100G SMF PMD Alternatives Study"という発表が行われているが、そもそもレーンあたりの速度と変調方式にいくつかの選択肢があり、実際に特性比較が示されている。これだけ見ていれば、56GのPAM-4が一番望ましい選択肢、というのが理解できる。

DMT(Discrete MultiTone:離散マルチトーン変調)は初期段階では検討対象になっていたが、ここではなぜか候補から除外されている。PAM-4とDMTの比較という別の発表があったためだろうか?
TDPはTransmitter and Dispersion Penalty(送信器・分散ペナルティ)の略。どれだけReference(黄緑)にBERを近づけられるかであるが、NRZ 51.6Gでは、同じ送信出力の場合ReferenceよりBERがおおむね1けた高い
PAM-4 56Gだと、出力が大きいときのBERはやや大きめとなるが、出力が小さいとさほど差がない。FFE EQの有無で特性があまり変わらないのも面白い
BERがお話にならないレベル。右のEye Diagramを見ればそれも納得だろう。このスライド4点の出典は"400G & 4x100G SMF PMD Alternatives Study"

 ちなみに、NRZの51.6GがPAM-4の56GよりもBERが高いのは、信号速度自体が2倍(PAM-4 56Gの場合、信号そのものは28Gになる)となって、波形がその分乱れやすいためだろう。実際Eyeのかたちを見てみると、NRZ 51.6GよりもPAM-4 56Gの方がきれいだ。

 同じ2014年7月のミーティングでは、PAM-4 vs DMTの比較も発表されており、どちらの方式を使っても10kmまでの到達距離は何とかカバーできそう、という結論となっていた。

56G PAM-4の場合。10kmの距離でも何とかBERの目標を達成できそうな結果。出典は"Issues for fair comparison of PAM4 and DMT"
DMTだと、出力を上げるとなぜかBERが増えるという結果となっているが、それでも116G DMTでもBERの目標は達成できそうという結果となった

 ただ、審議はこの後も続き、最終的に2015年の9月のミーティングで技術的な仕様策定作業がほぼ完了したときにはDMTが落ち、56G PAM-4で行くという方針が決まったのは、先のEye Diagramを見ると非常に納得できるものがある。

 この2015年9月時点での決定事項に基づいてDraft 1.0が策定され、以後はDraftの改定作業が続くこととなる。新機能の提案は2016年5月のミーティングが最終期限だったが、ミーティングのレポートを見る限りは特に新提案はなかったようで、これを基に2016年7月にDraft 2.0がリリースされた。このDraft 2.0がIEEE 802.3cd-2018の100GBASE-DRに影響を与えた、という話はこちらに書いた通りだ。

nは400GBASE-FR8/LR8が8、200GBASE-FR4/LR4が4になる。出典はIEEE 802.3-2018のFigure 122-2

 さて、その400GBASE-FR8/400GBASE-LR8であるが、レーンそのものは8本ながら、実際の光ファイバーそのものはWDMを利用して1対2本に集約されている。これはそもそもが既存の敷設されたファイバーの再利用を考えている以上、8対なんて論外という話であるし、距離が遠ければWDMを入れるコストよりファイバーの方が高く付くから、方式としては妥当であろう(200GBASE-FR4/LR4の場合は4波長のWDM)。

 そして400GBASE-FR8/LR8の場合は、光源の波長として以下の8つを利用している。

レーン400GBASE-FR8400GBASE-LR8
L01273.54nm(1272.55~1274.54nm)
L11277.89nm(1276.89~1278.89nm)
L21282.26nm(1281.25~1283.27nm)
L31286.66nm(1285.65~1287.68nm)
L41295.56nm(1294.53~1296.59nm)
L51300.05nm(1299.02~1301.09nm)
L61304.58nm(1303.54~1305.63nm)
L71309.14nm(1308.09~1310.19nm)

 一方、これを半分に減らした200GBASE-FR4/LR4の場合、200GBASE-LR4は400GBASE-LR8のL4~L7をそのまま使っているのに対し、なぜか200GBASE-FR4は微妙にずらした別の周波数ちなっている。

レーン200GBASE-FR4200GBASE-LR4
L01271nm(1264.5~1277.5nm)1295.56nm(1294.53~1296.59nm)
L11291nm(1284.5~1297.5nm)1300.05nm(1299.02~1301.09nm)
L21311nm(1304.5~1317.5nm)1304.58nm(1303.54~1305.63nm)
L31331nm(1324.5~1337.5nm)1309.14nm(1308.09~1310.19nm)

 いずれの場合も、信号速度は26.5265±100ppm(GBd)である。上に書いたように、ファイバーは1対2本のSMFで、200GBASE-FR4と400GBASE-FR8が2m~2km、200GBASE-LR4と400GBASE-LR8が2m~10kmの到達距離となっている。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/