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1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年5月26日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
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- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
1000BASE-Xの帯域不足をにらみ、10Gbps対応MIIの規格策定が開始、2.5G/5Gオプションの必要性も
さて、今回からは10G Ethernetである。10G Ethernetに関するCFI(Call for Interest)の検討を行うミーティングは、1999年3月にオースチンで開催された。1999年3月といえば、「IEEE 802.3ba-1999」の標準化がまだ終わっていないタイミングではあるのだが、既にこのミーティングの中で「おそらく2~3年後には1000BASE-Xでは(帯域が)足りなくなり、ポートアグリゲーションが必要になる」という主張がなされている。
また、1000BASE-X自身の使われ方を鑑みて、今から仕様策定を開始しないと間に合わない(さもないと膨大な数の1000BASE-Xをポートアグリゲーションさせて使うことになってしまう)、と言うわけだ。
もっとも、当初の仕様案を見ると、そもそも10Gbpsを一発で実現できるか分からないということから、2.5Gbps×4レーンの案も出ていた。これは主に送信側の光源の問題であり、10GだとSiGeが必要となるが、2.5GならCMOS/Bipolarで実現でき、大量生産になるとコストが下げられる。
また、最初のミーティングでは、基本的に光が前提で銅配線に関しては考慮されなかったが、それでも2.5Gなら銅配線でも可能性があるため、移行がしやすい点もメリットとされた。
用途としては、長距離向け、大規模施設のバックボーン、建物内のバックボーン、それからサーバールーム内(というか、ラック内またはラック間)などが考えられ、それぞれに適したソリューションが必要とされた。また、2.5G/5Gオプションの必要性についても議論が必要という話であった。
転送速度10Gbpsの「IEEE 802.3ae」が標準化、5種類のメディアが仕様化
そんなわけで、議論の叩き台としては、10GbpsのMIIは、以下のように4種類の接続が考慮されるのが好ましいという話で、2.5G/5Gbpsについては、さらにもう少し議論を進めようというあたりに落ち着いた。
このCIF Meetingを経て、まず「IEEE 802.3 HSSG(Higher Speed Study Group)」が結成される。最初のミーティングは1999年6月で、その後7・9・11月にもStudy Groupのミーティングが行われ、最終的に2000年1月のミーティングでPAR(Project Authorization Request)が承認。これを受けて2000年3月、以下左のようにTask Forceとして「TGae」が構成された。その半年後に最初のドラフトが出たのだが、その時点での10GBASE-Xのスペックは、以下右のように銅配線に関しては全て落ちることとなった。
以前に掲載した本連載の【10GBASE-T、ついに普及?】の第1回の最後にも少し書いたが、まず4レーンの銅配線に関しては「TGak」として、ツイストペアに関しては「TGan」として、それぞれ別のワーキンググループに引き継がれることとなり、TGaeは光ファイバーを用いるものだけとなっている。その転送速度は10Gbpsであるが、メディアとしては、以下の5種類が仕様化されることになった。
- 既存の敷設済MMFで最低300m
- MMFを利用した65m
- SMFを利用した2km以上
- SMFを利用した10km以上
- SMFを利用した40km以上
この後は、ドラフトのRevisionを上げながら投票を繰り返して、最終的には2002年6月に承認され、「IEEE 802.3ae-2002」として2002年8月に標準化が完了した。
1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格、「10GBASE-LX4」のみ4波長の「WDM」を採用
さてこのIEEE 802.3aeで標準化されたのが、以下の6つである。
規格 | 光源 | 到達距離 |
10GBASE-LX4 | 1269.0~1282.4nm | 300m(OM2)/10km(OS2) |
1293.5~1306.9nm | ||
1318.0~1331.4nm | ||
1342.5~1355.9nm | ||
10GBASE-SW | 850nm | 33m(OM1) |
82m(OM2) | ||
300m(OM3) | ||
400m(OM4) | ||
10GBASE-LW | 1310nm | 10km(OS2) |
10GBASE-EW | 1550nm | 40kmないし80km(OS2) |
10GBASE-SR | 850nm | 33m(OM1) |
82m(OM2) | ||
300m(OM3) | ||
400m(OM4) | ||
10GBASE-LR | 1310nm | 10km(OS2) |
10GBASE-ER | 1550nm | 40kmないし80km(OS2) |
このうち、「10GBASE-LX4」のみ、4波長を使った「WDM」を採用したため、1波長あたり2.5Gbpsの速度となったが、ほかの規格はいずれも1波長で10Gbpsになった。
また、「10GBASE-SW/LW/EW」(10GBASE-W)と「10GBASE-SR/LR/ER」(10GBASE-R)の違いについてだが、前者は「SONET」との互換性を保った規格である。先のスライドのおける、"A WAN PHY, operating at a data rate compatible with the payload rate of OC-192c/SDH VC-4-64c"という項目がそれだ。
これは、既存の「OC-192」の置き換えを狙ったもので、このためラインレートが9.5846Gbpsに設定されている。これにより、OC-192のデータストリームを、そのまま速度変換なしで10GBASE-Wへ載せられることになる。
ただしこのために、10GBASE-Wでは「WIS(WAN Interface Sublayer)」という層が「PMA(Physical Medium Attachment)」層の上に入ることになるため、ほかの10GBASE-Xとは互換性がないという、やや特殊な構成である。一方、「10GBASE-R」はWISを持たない構成だ。
そのように特殊な用途の10GBASE-Wを脇に置くと、10GBASE-Rと10GBASE-LX4がIEEE 802.3aeで定められたことになる。SR/LR/ERはそれぞれShort Range/Long Range/Extra long Rangeの意味で、それぞれの到達距離に対応する波長の光源+ファイバーが必須となるかたちだ。
ちなみに、この先の10GBASE-W/Rの構図は、10GBASE-LX4でも同じだ。10GBASE-LX4の存在意義は、シングルモードとマルチモードのどちらのファイバーでも利用できる(OM2とOS2)ことだろう。
しかも、OM2を使った場合に、10GBASE-SRの82mに対して300mの到達距離が確保できた(SRでは300mにOM3が必要)。これは、1波長あたり2.5Gbps相当と速度が低いために到達距離が伸ばせるメリットがあるためで、そういう意味で最も柔軟性に富んでいたという事情もある。
その一方で、WDMにすることで4波長を合成/分離する仕組みが必要になり、モジュールがやや高くなるというデメリットもあった。それもあって、本格的に10GBASE-Rが普及し始めると、10GBASE-LX4はどんどん使われなくなっていったと記憶している。
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