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1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

1000BASE-Xの帯域不足をにらみ、10Gbps対応MIIの規格策定が開始、2.5G/5Gオプションの必要性も

この前のスライドには、Ethernetにもムーアの法則が適用されると書いており、2002年頃には10Gbpsが必要、としていた。出典は3comのBruce Tolley氏による"Market Requirements for 10 GbE"

 さて、今回からは10G Ethernetである。10G Ethernetに関するCFI(Call for Interest)の検討を行うミーティングは、1999年3月にオースチンで開催された。1999年3月といえば、「IEEE 802.3ba-1999」の標準化がまだ終わっていないタイミングではあるのだが、既にこのミーティングの中で「おそらく2~3年後には1000BASE-Xでは(帯域が)足りなくなり、ポートアグリゲーションが必要になる」という主張がなされている。

 また、1000BASE-X自身の使われ方を鑑みて、今から仕様策定を開始しないと間に合わない(さもないと膨大な数の1000BASE-Xをポートアグリゲーションさせて使うことになってしまう)、と言うわけだ。

1000BASE-Tの話はとりあえずおいて、ファイバー系での議論となっている。出典は3comのBruce Tolley氏による"Market Requirements for 10 GbE"
コストの目安が「1Gポート×10より安い」ことというのは、なかなか分かりやすい。逆に言えば、これは相当に高いということでもあるが、当初はそれでもよしとしたわけだ

 もっとも、当初の仕様案を見ると、そもそも10Gbpsを一発で実現できるか分からないということから、2.5Gbps×4レーンの案も出ていた。これは主に送信側の光源の問題であり、10GだとSiGeが必要となるが、2.5GならCMOS/Bipolarで実現でき、大量生産になるとコストが下げられる。

 また、最初のミーティングでは、基本的に光が前提で銅配線に関しては考慮されなかったが、それでも2.5Gなら銅配線でも可能性があるため、移行がしやすい点もメリットとされた。

SiGeの場合、別基板としての製造が必要で、高コスト化が避けられない。出典はHPのDaniel Dove氏による"10 Gigabit Ethernet Concepts & Concerns"
2.5G×4も決して問題がないわけではないが、それを加味しても10Gより安い、という点がポイントだろう

 用途としては、長距離向け、大規模施設のバックボーン、建物内のバックボーン、それからサーバールーム内(というか、ラック内またはラック間)などが考えられ、それぞれに適したソリューションが必要とされた。また、2.5G/5Gオプションの必要性についても議論が必要という話であった。

Long Haulでは、いよいよSONETの置き換えが視野に入ってきた。出典はHPのDaniel Dove氏による"10 Gigabit Ethernet Concepts & Concerns"
今から思えば、2.5GBASE-Tや5GBASE-Tは、この頃の議論があればこそ生まれたのかもしれない

転送速度10Gbpsの「IEEE 802.3ae」が標準化、5種類のメディアが仕様化

4×2.5Gbpsは「WWDM(Wide Wavelength Division Multiplexing)」、つまり波長分割多重のことだ

 そんなわけで、議論の叩き台としては、10GbpsのMIIは、以下のように4種類の接続が考慮されるのが好ましいという話で、2.5G/5Gbpsについては、さらにもう少し議論を進めようというあたりに落ち着いた。

 このCIF Meetingを経て、まず「IEEE 802.3 HSSG(Higher Speed Study Group)」が結成される。最初のミーティングは1999年6月で、その後7・9・11月にもStudy Groupのミーティングが行われ、最終的に2000年1月のミーティングでPAR(Project Authorization Request)が承認。これを受けて2000年3月、以下左のようにTask Forceとして「TGae」が構成された。その半年後に最初のドラフトが出たのだが、その時点での10GBASE-Xのスペックは、以下右のように銅配線に関しては全て落ちることとなった。

当時のロードマップでは、2000年9月にはDraft 1がリリースされ、2002年3月の標準化完了が予定されていた
半年でここまでなら、順調に作業が進んだと言えるだろう。出典はJonathan Thatcher氏による"P802.3ae Meeting Nov 6-7,2000"

 以前に掲載した本連載の【10GBASE-T、ついに普及?】の第1回の最後にも少し書いたが、まず4レーンの銅配線に関しては「TGak」として、ツイストペアに関しては「TGan」として、それぞれ別のワーキンググループに引き継がれることとなり、TGaeは光ファイバーを用いるものだけとなっている。その転送速度は10Gbpsであるが、メディアとしては、以下の5種類が仕様化されることになった。

  • 既存の敷設済MMFで最低300m
  • MMFを利用した65m
  • SMFを利用した2km以上
  • SMFを利用した10km以上
  • SMFを利用した40km以上

 この後は、ドラフトのRevisionを上げながら投票を繰り返して、最終的には2002年6月に承認され、「IEEE 802.3ae-2002」として2002年8月に標準化が完了した。

1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格、「10GBASE-LX4」のみ4波長の「WDM」を採用

 さてこのIEEE 802.3aeで標準化されたのが、以下の6つである。

規格光源到達距離
10GBASE-LX41269.0~1282.4nm300m(OM2)/10km(OS2)
1293.5~1306.9nm
1318.0~1331.4nm
1342.5~1355.9nm
10GBASE-SW850nm33m(OM1)
82m(OM2)
300m(OM3)
400m(OM4)
10GBASE-LW1310nm10km(OS2)
10GBASE-EW1550nm40kmないし80km(OS2)
10GBASE-SR850nm33m(OM1)
82m(OM2)
300m(OM3)
400m(OM4)
10GBASE-LR1310nm10km(OS2)
10GBASE-ER1550nm40kmないし80km(OS2)

 このうち、「10GBASE-LX4」のみ、4波長を使った「WDM」を採用したため、1波長あたり2.5Gbpsの速度となったが、ほかの規格はいずれも1波長で10Gbpsになった。

 また、「10GBASE-SW/LW/EW」(10GBASE-W)と「10GBASE-SR/LR/ER」(10GBASE-R)の違いについてだが、前者は「SONET」との互換性を保った規格である。先のスライドのおける、"A WAN PHY, operating at a data rate compatible with the payload rate of OC-192c/SDH VC-4-64c"という項目がそれだ。

 これは、既存の「OC-192」の置き換えを狙ったもので、このためラインレートが9.5846Gbpsに設定されている。これにより、OC-192のデータストリームを、そのまま速度変換なしで10GBASE-Wへ載せられることになる。

「10GBASE-R」は「PCS」と「PMA」が直接繋がるが、「10GBASE-W」では間に「WIS」が挟まっているのが分かる。出典は「IEEE 802.3-2018」のFigure 52-1

 ただしこのために、10GBASE-Wでは「WIS(WAN Interface Sublayer)」という層が「PMA(Physical Medium Attachment)」層の上に入ることになるため、ほかの10GBASE-Xとは互換性がないという、やや特殊な構成である。一方、「10GBASE-R」はWISを持たない構成だ。

 そのように特殊な用途の10GBASE-Wを脇に置くと、10GBASE-Rと10GBASE-LX4がIEEE 802.3aeで定められたことになる。SR/LR/ERはそれぞれShort Range/Long Range/Extra long Rangeの意味で、それぞれの到達距離に対応する波長の光源+ファイバーが必須となるかたちだ。

LX4に関しては、「WIS」を入れたスペックは存在しない。ちなみに「IEEE 802.3ae」策定時点では、まだ「10GBASE-CX4」の策定が終わっていなかったが、仕組みとしてはLX4と同じく銅配線という点から、ここにまとめられている。出典はIEEE 802.3-2018のFigure 48-1

 ちなみに、この先の10GBASE-W/Rの構図は、10GBASE-LX4でも同じだ。10GBASE-LX4の存在意義は、シングルモードとマルチモードのどちらのファイバーでも利用できる(OM2とOS2)ことだろう。

 しかも、OM2を使った場合に、10GBASE-SRの82mに対して300mの到達距離が確保できた(SRでは300mにOM3が必要)。これは、1波長あたり2.5Gbps相当と速度が低いために到達距離が伸ばせるメリットがあるためで、そういう意味で最も柔軟性に富んでいたという事情もある。

 その一方で、WDMにすることで4波長を合成/分離する仕組みが必要になり、モジュールがやや高くなるというデメリットもあった。それもあって、本格的に10GBASE-Rが普及し始めると、10GBASE-LX4はどんどん使われなくなっていったと記憶している。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/