期待のネット新技術

実効1Gbpsに到達、「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」が1998年に策定

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

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1995年の「IEEE 802.3u」登場直後から、さらなる高速化のニーズが

 前回は100Mbpsだったが、その100BASE-TXが普及し始めてすぐに「もっと帯域を」という声が出始めた。これは、このころから急速にCPUの性能が上がり始めたことと、無縁ではないだろう。

 「IEEE 802.3u」が出た1995年といえば、IntelがPentium Proを発売した年だが、この直後からクライアント向けのCPUは急速に性能を上げていく。

 そのPentium Proはもちろんサーバー向けCPUでもあったが、CPU性能の向上は単位時間あたりに処理できるデータ量増大につながり、必然的にネットワークを流れるデータ量も増えることになる。ここから、より高速なEthernetが必要になることは火を見るより明らかであった。

 これはある意味、十分に予想可能な話であり、これを受けてIEEEは1995年11月、「HSSG(Higher Speed Study Group)」を立ち上げる。

 余談だが、IEEEは新しいEthernetの規格を策定する際に、このHSSGという名称をほぼ毎回のように使うようで、HSSGというだけでは、どの規格を指すのか分からないという面倒くささはある。しかし、逆に毎回変えていたら名前を付けるのに困りそうな気もするので、これはこれで賢明なのかもしれない。

 さて、この1995年に立ち上げられたHSSGのその後の進展は、以下の通りだ。

実際は1998年6月25日に、「IEEE 802.3z」がIEEE-SA Standards Boardで承認されたので、ここから4カ月ほど遅れはあるものの、ほぼスケジュールに近い日程で進展した

 上段は100BASE-X、つまりIEEE 802.3uのタイムラインで、下段が1000BASE-XであるIEEE 802.3zのタイムラインとなる。これは1996年9月におけるもので、それ以降は“予定”であり、最終的にはIEEE 802.3uとほぼ変わらないものとなった。ただ、逆に言えば、それなりに順調に標準化が進んだという言い方もできる。

1999年に標準化された1000BASE-X、当初1000BASE-Tは含まれず

 さて、このIEEE 802.3zのObjectives、つまり目標は以下のようになっていた。

MIIの話は後ほど。出典はCoeur d'Alene氏の"IEEE 802.3z Gigabit Task Force"

 これを見ると面白いことが分かる。1~8については、100Mbps時代との互換性を保とう、という話で特に不思議でもないのだが、9が「光ファイバーメディアがメインで、可能なら銅配線」となっていたあたり、1Gbpsはもう光ファイバーがメインだったことが分かる。

 実際11では、マルチモードファイバーで最低500m、シングルモードファイバーで最低2kmの到達距離となっていた一方、銅ケーブルは25m以上(できれば100m)だったことが分かる。そして、ここには全くツイストペアの話が出てこない。だが実は、1GbpsのEthernetの仕様策定からはとりあえず除外する決断が、割と早い時期になされていたらしい。

 もちろん“やらない”ということではなく、こちらは別のTask Forceで標準化作業を行うとの話であり、「P802.3ab」としてのPAR(Project Authorization Request)が1997年1月31日付で出されている。最終的にはIEEE 802.3zの1年遅れとなる1999年7月、「IEEE 802.3ba-1999」として標準化が完了した。だが、1000BASE-Xには当初、1000BASE-Tは含まれていなかった。

同じ1Gbpsながら物理層が異なる「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」

 策定されたのは1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CXの3種類だ。1000BASE-Tに関してはとりあえず次回以降においておくが、あまり大きな問題はないまま、最終的に1998年6月に承認されている。100BASE-Xまでは、光ファイバーを使う規格は(標準規格のみならず、独自規格も)名称に"Fiber"のFを利用することが多かったが、1000BASE-Xからはこれが廃止になった。この3種類の通信規格は基本的に以下の点が共通している。

  • 信号速度は1.25Gbps
  • 8B10Bエンコードを採用(実効転送速度は1Gbps)

 ただし、以下のように物理層には違いがある。

  • 1000BASE-SX(Short Range)
    770~860nmの光源を利用。光ファイバーはマルチモードファイバーを利用し、2本で1対。到達距離は220/275/500/550m
  • 1000BASE-LX(Long Range)
    1270~1355nmの光源を利用。光ファイバーはマルチモードファイバーまたはシングルモードファイバーを利用し、2本で1対。到達距離はマルチモードファイバーで440m、シングルモードファイバーで5km
  • 1000BASE-CX(Coaxial:同軸ケーブル)
    インピーダンス150Ωの2芯平衡型同軸ケーブル(STP:Shielded Twisted Pair)が2本で1対。到達距離は最大25m

 1000BASE-SXの到達距離に違いがあるのは、複数の種類が定義されているためだ。IEEE 802.3zの仕様では、ファイバーのコア径として62.5μmと50μmの2種類が定義されている。

多分この当時は50μm MMFに400MHz・kmのファイバーが流通していたのだろう。出典は「IEEE 802.3-2018」のTable 38-5

 クラッド径はどちらも125μmで同じだが、材質の違いから、以下の4種類となる。


    62.5μm MMF 160MHz・km:FDDIケーブル(FDDIに利用されていたもの)
    62.5μm MMF 200MHz・km:OM1
    50μm MMF 400MHz・km:不明
    50μm MMF 500MHz・km:OM2

 OM1/OM2といった呼称は、「ISO/IEC 11801:2002」(現在はISO/IEC 11801-1:2017へ置き換えられている)で定義されているファイバーの呼称であり、その後TIAでも、「ANSI/TIA-568.3-D」でこの名称を使うことを決め、一般的になっている。だが、IEEE 802.3z策定当時はなかったものなので、Specificationにはこの名称はない。

 さて、上の表にある"Modal bandwidth as measured at 850nm"という数字は、要するに保証される到達距離だ。単位はMHz×kmであり、例えば信号が1MHzならFDDIケーブルなら160km、160MHzなら到達距離は1km届くことになる。これに従えば、信号の速度そのものは1250MHzだから、到達距離は160÷1250=128mということになるが、実際に検討したところ、もう少し到達距離は伸ばせる、という計算になったようだ。

 ちなみにISO/IEC 11801では、ファイバーに関して以下のような定義となっている。

マルチモードファイバーの定義
コア径Modal Bandwidth光源
OM162.5μm200MHz・km850nm
OM250μm500MHz・km850nm
OM350μm2000MHz・km850nm
OM450μm4700MHz・km850nm
OM550μm4700MHz・km850nm
2470MHz・km953nm
シングルモードファイバーの定義
Modal Bandwidth光源
OS11.0dB/km1310/1550nm
OS1a1.0dB/km1310/1383/1550nm
OS20.4dB/km1310/1383/1550nm

 シングルモードファイバーのOS1/1a/2の方は、純粋に光の減衰率で規定されるかたちだ。ただ、この定義と先の図がいまいち一致していないのは、IEEE 802.3z策定当時には広く使われていたFDDI用のマルチモードファイバーや、400MHz・kmの50μmマルチモードファイバーが、2002年のISO/IEC 11801策定当時には既に使われなくなっていた、ということだ。そんなわけでSpecificationにはまだ残っているが、現実問題としてはOM1とOM2が広く使われている状況である。

 同様に1000BASE-LXも、以下の表のようにファイバーの種類で到達距離が変わる。さすがにこちらはFDDIケーブルの利用は不可で、OM1とOM2、それとOS1/OS1a/OS2が利用可能となっている。

SMFに関しては、Specificationでは1310nmで0.5dB/kmと規定されており、そのままではOS1/OS1a/OS2とマッチしない(「IEEE 802.3-2018」のTable38-12)。ただ、現実問題としてOS1/OS1a/OS2のどれでも利用可能というかたちだ。出典は「IEEE 802.3-2018」のTable 38-9

 ちなみに、これはSpecificationに記載されている話ではないが、より高性能なファイバーを利用すれば到達距離は伸びる。実際、1000BASE-SXの場合、OM3を利用すると到達距離が1kmに達するとの情報もある。もっとも、こうした長距離では、本来1000BASE-LXで利用すべきで、1000BASE-SXのまま伸ばすことにどの程度意味があるのか、やや疑問ではある。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/