期待のネット新技術
「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年12月14日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「IEEE 802.3cn」を前身とする「IEEE 802.3ct」が2021年に標準化
今回は「IEEE 802.3cw」の話。とはいえ、まだTask Forceの段階なので、IEEE P802.3cwという扱いだ。
このIEEE P802.3cwにまつわる話はこちらで紹介したが、要するに当初は「IEEE P802.3ct」として検討されていた規格の中から、「400GBASE-ZR」だけを分離した格好になる。
元々IEEE P802.3cwの前身は、前回紹介した「IEEE 802.3cn-2019」である。
このIEEE 802.3cn、Study Groupの名称は"IEEE 802.3 Beyond 10 km Optical PHYs Study Group"で、ここから50G/200G/400Gの規格の標準化を行うという話になったが、いずれも到達距離が80kmで、100GのDWDM、および400GのDWDMの2つについてはIEEE 802.3cnから落とされた。
これらが落とされた行く先となったのが、2018年11月に形成されたIEEE P802.3ct Task Forceである。ちなみに以前の記事の際はまだTask Forceの作業が完了していなかった。
しかしながら、その後も順調に作業が進み、2021年5月の電話会議をもってTask Forceの作業はすべて終了。6月にはIEEE 802.3ct-2021として標準化が完了している。
「IEEE 802.3cn」から分割された「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」、「IEEE P802.3cw」として2023年8月に標準化が完了?
ということで、分離されたIEEE P802.3cwについて。Task Forceの結成は2020年4月であるが、実際は3月に最初のミーティングが開催されている。
といっても元々IEEE P802.3ctである程度作業が進んでおり、オマケにTask Forceのメンバーもほとんどど同じということもあって、確かにTask Forceは分かれたがものの、実質的な作業はあんまり変わらないのでは? という感じになっていた。実際、3月のミーティングで示された電話会議のスケジュールは以下のようなものだった。
ただし実際は、IEEE P802.3cwの事実上最初のミーティングは2020年6月まで伸びた。その最初に示されたTimelineが以下だ。
この案がそのまま通れば、2022年6月には標準化が完了するはずだったが、もちろんそんなスケジュールで進むはずもなかった。
以下が現時点でのTimelineであるが、2022年1月にLast Featureの提案が、2022年9月に技術的な変更がそれぞれ締め切られ、うまくいけば2023年8月に標準化が完了するはずだ。ということで見込みから1年遅れになっている。当初が楽観的過ぎた、という気もしなくもない。
OIFの400ZRをベースにPMDの仕様を定義した400G DWDM規格
スケジュールの話をおいておけば、以前も説明したように「400BASE-ZR」として策定予定になっている400G DWDM規格は、基本、OIFの400ZRをベースにしたものを使うが、ここで細かい仕様を見直すとともに、400ZRには含まれていないPMDの仕様を定義する必要がある。
もっともPMDの仕様より先に紛糾し始めた、というか検討が始まったのはむしろクロストークに関する議論だ。こちらでも触れたが、元となるOIFの400ZRの場合、DWDMの波長間隔として75GHzと100GHzの両方が検討された結果、75GHz帯はFuture Workとして見送りになったが、こちらで以前触れているように、400GBASE-ZRではこれも利用する方向で議論が行われた。
さて、75GHz間隔で64本の場合、何が問題になるかと言えば、WDM MUX/DEMUXをどう開発する(できる)のか? いう話が大きい。だが、これは、仕様を作る側からすれば、実はあまり問題にはならない。
もちろん、あまりに現実離れした仕様を作ってしまえば、実現できなくなってその規格が使われなくなるので、現実的に可能な仕様を定めなければ意味がなく、その意味で現実への歩み寄りが必要なのは間違いない。だからといって実際の量産コストについて、あまり真剣に考えても仕方がないわけで、このあたりは割り切りが必要だ。
PMDを75GHz幅にしたことで信号のCrosstalkの影響は?
話を戻すと、今回問題となったのは、むしろ75GHz幅にしたことによる信号のCrosstalkの影響である。このスライドなどが分かりやすいと思うが、チャネルの幅が狭まった結果として、ある波長の信号が75GHzの帯域に収まり切らずに、ほかのチャネルまで信号が広がることがあり、この結果として受信した信号が劣化する、という問題である。
この例で言うなら、WDMのMUXの手前にpre-mux Filterを入れてやることで、チャネルの範囲外に信号が広がらないように工夫すればCrosstalkは防げるという話だが、この信号が広がるという要因は、何もMUX部だけではなく、80kmものファイバーとなれば、ファイバー内の色分散もあるだろうし、もし途中にActive Ampが入った場合、そこでも発生し得る可能性がある。
単にMUXにFilterを入れましょうで話が終わるわけではなく、さまざまな要因でCrosstalkが発生し得るわけだ。もちろん対策を考える必要もあるが、その前にCrosstalkを定義するとともに、そのCrosstalkの強さ(というか、影響の大きさ)を評価するための物差しが必要という話が、Task Force内で出てきた。
ちなみに、このスライドは2020年12月2日に開催されたAdHoc Meetingでのスライドである。このAdHoc Meetingでは初めて、"IEEE P802.3cw Physical Layer Specification Optical Crosstalk Ad hoc"というPMDに関するプレゼンテーションも行われた。
ただ、この時点では「(PMDを含む)物理層を定義する必要がある」という話が出てきただけで、具体的な話はなされていない。まずはCrosstalk問題を話し合うのが先、というあたりだろうか。
「400GBASE-ZR」が方式としてきちんと固まるのは2022年の今頃か
さて、そのCrosstalkに関する物差しとして利用されることになったのが「EVM(Error Vector Magnitude)」である。そもそも400GBASE-ZRの場合、信号変調方式はDP-16QAMとなっている。このため信号は2次元配列になる格好であり、クロストークそのほかの影響で信号が歪んだ場合、2次元の本来あるべき位置と異なるところに信号が出現することになる。
もう少し分かりやすくしたのが以下で、理論上は左のように、データが出現する位置が、4つの象限にそれぞれ4カ所ずつ置かれることになる。
理想的な伝達状態であれば、中央の図のように理論値に近い場所にデータが集中して出現するが、伝達特性が悪いと右図のように信号が分散することになる。そこで、そのずれ具合(本来出現する場所と、実際の位置の距離を利用し、分散を取ったもの)をEVMとして取り扱うことで、うまく信号の劣化状況を取り扱える、という話だ。
このEVMとOSNRの関係、あるいはOSNとBERの関係なども示され、なのでOSNRやBERから目標となるEVMが算出でき、あとは具体的にEVMのターゲットをどの程度に設定すれば400GBASE-ZRの目標が達成できるか、そしてそのEVMターゲットを実現するためにどんなパラメーターを与えるべきか、といった議論が可能になったわけだ。
現在もTask Forceでは、こうしたパラメーターを設定する作業が行われている。最新のミーティング(2021年11月15日)では、Draft 1.2をベースに、細かな抜けの確認やパラメーターに関する討議(EVMのReference Model構築に関するものも含まれる)が続いている。
Featureに関してはもうあまり出てきていないので、2022年1月に最後のFeatureに関する議論が締め括られ、これをベースに2022年3月にDraft 2.0がリリースされる予定だが、このパラメーターに関しては、Technical Changeの期限である2022年9月までもつれ込みそうで、おそらくはスケジュールギリギリまで作業が続きそうだ。
また、現状はPMDに関する議論が全然見当たらないのも気になるところだ。2021年9月付の"802.3cw D1.2 missing baselines and TBDs"を見る限り、PMDに抜けがあるという記述は見当たらないので、何かしらが埋まって入るようだ。
ただ、そんなわけで、400GBASE-ZRに関して方式としてきちんと固まるのは2022年の今頃になりそうな感じである。逆にここで固まっていなければ、標準化そのものが廃止になりそうだ。
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