期待のネット新技術
400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年2月2日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
前回、「落ちている」と書いたCWDM8 MSAのサイトは、引き続き落ちっぱなしだ。その結果、CWDM8 MSAで策定した2kmと10kmのSpecificationそのものが入手できず、紹介するのが困難な状況だ。
ただ幸いにも、Internet Archiveで「CWDM8 2km」の初版であるRevision 1.0(最新はRevision 1.1)を入手できたので、これを元に規格について解説したい。ちなみに最新版ではないので、若干の違いはあるかもしれない(何しろ1.1が入手できないので、違いが判断できない)。
8波長のCWDMを利用し、1対のSMFで接続する「CWDM8 2km」
さてCWDM8 2kmのケースであるが、基本的な構成は前回説明した通り、8波長のCWDMを利用した伝送で、8:1と1:8のMux/Demuxを挟んで1対のSMFで接続する形態となる。
利用する波長は、以下のように20nm刻みとなっている。CWDMだから20nm刻みというのは仕様(というか、CWDMの定義)に沿ったものだが、結果的にO-band(中心波長が1271~1351nm)をはみ出してE-band(中心波長が1371~1451nm)にはみ出しているのは致し方ないところか。
レーン | 波長(nm) |
L0 | 1271(1264.5~1277.5) |
L1 | 1291(1284.5~1297.5) |
L2 | 1311(1304.5~1317.5) |
L3 | 1331(1324.5~1337.5) |
L4 | 1351(1344.5~1357.5) |
L5 | 1371(1364.5~1377.5) |
L6 | 1391(1384.5~1397.5) |
L7 | 1411(1404.5~1417.5) |
『レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格』で紹介した「400GBASE-FR8/LR8」は、同じように8波長で400Gの伝送を可能にする規格で、DWDMに分類される波長の狭さであるが、『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』でも説明したように、1385nm付近では急激に伝達特性が悪化する。
もっとも、このときのグラフは「1990年までに敷設されたSMF」の特性のもので、最近ではかなり改善している。とはいえ、減衰を全くなくすのは難しい。
1385nm付近の波長を吸収するOH基を排し、損失のピークがなくなるよう工夫
やや寄り道をすると、なぜ1385nm付近で急速に特性が劣化するのかといえば、光ファイバーに含まれるOH基(水酸基というのが筆者には馴染みがあるが、正式にはヒドロキシ基と呼ぶそうだ)が、ちょうど1385nm付近の波長の光を吸収してしまうためで、このあたりで急速に減衰が高くなる。
ということは、要するにOH基を含まない材料で光ファイバーを構成すればいいのだが、実際には水素が侵入し、これが光ファイバーの中の微細な欠陥部などと結合してOH基が発生してしまう。
そのため、そもそもOH基の少ない(1ppm未満)の材料を利用するとともに、クラッドやコーティング、サポートなどの材質や構造を工夫し、外部から水素の侵入などの影響を受けないようにされている。
以下の図は、住友電工の「PureBand」と呼ばれる光ファイバーの特性を示したものだ。OH基の影響を極力排することで、1385nm付近の損失のピークをなくそうと工夫しているのが分かるだろう。
もっとも、OH基の添加は悪い面ばかりではない。OH基濃度が1ppm以下の光ファイバーの場合、近赤外線(750~2150nm)の損失は少ないが、ガラス構造の欠陥が発生しやすい。このために深紫外領域(~300nm)や可視領域(400nm~750nm)での損失が多くなるという欠点があり、あえて高濃度(600ppm以上)のOH基濃度を持つ光ファイバーを使ったりしている。要するに用途に応じて光ファイバーの組成が変わる、という話である。
話を戻すと、CWDM8 MSAではこのあたりを割り切り、低OH濃度の光ファイバーを利用することを前提に規格を決めている。実際、Fiber Optic CablingのCharasteristicsに関しては、以下いずれかの使用を定めている。つまり、現在敷設しているSMFが必ずしも使えるとは限らないわけだ。
- IEC 60793-2-50 type B1.3 SMF、もしくはこれと等価なITU-T G.652 type Cおよびtype D(低OH基濃度SMF)
- IEC 60793-2-50 type B6_a1およびtype B6_a2 SMF、もしくはこれと等価なITU-T G.657 type A1およびtype A2(曲げ不感の低OH基濃度SMF)
低OH濃度SMFで波長の選択が楽に、分離は難しく
ただ、こうした低OH濃度SMFの使用を前提にしたことで、波長の選択が非常に楽になった。CWDMの最大の欠点は、非常に波長が接近しているために分離が難しく(うまく分離できないことが多く、きっちり分離しようとすると損失も増える。おまけにそもそも波長の差が小さいため、きちんと分離できるフィルターは高コストになる)、CWDMの利用によってコストの引き下げに目途が立ったかたちだ。
この結果、送受信パラメーターは穏当というか、割と普通のものと言える。以下左の表が送信側パラメーターなのだが、レーンあたりの最大出力は2.5dBm、ダイナミックレンジは8dBほどでしかない。全レーン合わせての最大出力も8.5dBmと非常に小さく、これであれば12W以下に収めるのも難しくはないだろうし、放熱もそう困難ではないだろう。
同様に以下右の表が受信側パラメーターであるが、レーンあたりのAverage receive powerは-9.5~2.5dBmでダイナミックレンジ12dBほど。Receiver sensitivityは-8dBmで、信号伝達の難易度は『最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」』で説明した「400G-FR4」と大差ないレベルだ。これはもちろん、低損失光ファイバーの影響も少なくないだろう。
10kmの方のSpecificationは、ケーブルの損失がもう少し増える分、おそらく若干送信出力を引き上げるとともに、受信感度を高めることで対応していると思われるが、Specificationがまだ入手できていないので、このあたり断言はできないところだ。
これが20~40kmともなると、いろいろと大変だとは思うが、10kmであればまだ技術的にそれほどトリッキーなことをしなくても済む範疇だけに、そうトンデモない規格にはなっていないと思われる。
そんなわけで、2017年には既にSpecificationがリリースされている「CWDM8 400G」であるが、さっぱり市場にモジュールが出ていないのが不思議である。前回も書いたように、Intelはモジュールの試作こそ行ったものの、いまだに発売していない。
もっとも、この当時IntelはInfiniBandなども手を出しつつ、最終的にOmniPath Fabricを本命に据えていたあたり、これがあくまでバックアップとしての開発計画だった可能性もある。
その後、IntelのOmniPath Fabricの第2世代がキャンセルとなってBarefoot Networksを急遽買収しているあたり、あるいはCWDM8 400Gを再び生き返らせる可能性もあるのだが、今のところ目立った動きは全くない。
そして、そのほかのメーカーからも、やはり製品はさっぱり出てこない。互換モジュールでお馴染みであるFSの「QSFP-DD Transceiver Types Overview」を見ても、「IEEE 802.3bs/802.3cd」と「100G Lambda」のモジュール、「400GBASE-XDR4」(400GBASE-DR4をベースに到達距離を2kmまで伸ばしたベンダー独自規格)のモジュールがあるだけで、CWDM8 400Gのモジュールは影もかたちもない。
ここまで採用事例がないと、CWDM8 MSAそのものの存在がもう終わっていることも疑う必要がある。あるいはサーバーに繋がらないのは、それが理由なのかもしれない。
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