期待のネット新技術
800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年11月16日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
OTT Service providerが800G Coherentを検討
800G(と1.6T) Ethernetの話も大詰めになってきた。9月のミーティングは4回が予定され、うち1回がキャンセルされて都合3回開催された。
その9月のミーティングでは、基本的にPARやCSDを含むProject DocumentのUpdateがメインで、その内容もここまで説明してきた話の延長にあった。つまり、まずは順調にDocumentの検討が進んでいるというかたちだ。
そんな中で唯一新しい話としては、HiSilicon OptoelectronicsのHuijian Zhang氏らによる"Feasibility study of coherent 800Gb/s for 10km & 40km"というプレゼンテーションが行われたことだろうか。これによれば、OTT Service providerが800G Coherentへ非常に興味を示しているそうで、これに向けての検討を行ってみた、としている。
さて、以下は信号速度とSNRの関係である。緑は800Gbps、青は1.6Tbpsでのシャノン限界(理論上の最大通信路容量)で、赤が利用可能なSNRの上限となっている。なので、この赤と緑、もしくは赤と青の2本の曲線に挟まれた領域が、現実問題として使える信号速度とSNRの範囲ということになる。
この範囲に入る有望な信号の候補として、PDM-32QAMで96G/192GBaud、もしくはPDM-16QAMで120G/240GBaudがリストアップされた。
PDM-32QAMで消費電力を下げるか、PDM-16QAMでSNRをやや低くするか
ここでとりあえずは800Gに注目した上で、PDM-32QAMとPDM-16QAMのメリットとデメリットを挙げたのが以下のスライドだ。
Zhang氏によれば、既にPDM-32QAMは実験室レベルでの動作を確認しており、また送信速度が96GBaudと(PDM-16QAMに比べて)低いがゆえにサンプリングレートを下げられ、結果として消費電力も下げられるとする。
一方で、信号速度とSNRの関係を示したグラフにあるように必要となるSNRはやや高くなる(これは16QAMと32QAMの違いに起因する)ため、マージンはやや厳しくなる、としている。
PDM-16QAMでは、このメリットとデメリットは当然ながら逆となる。SNRはやや低くてもよくなるが、その分通信速度が引き上がる欠点があることになる。そこで、96GBaud PDM-32QAM環境での感度とOSNRを実際にテストしてみたとする。
まずは、ROP(Received Optical Power)とBERの関係である。BERを1.25E-2と設定したのは、OIFの「400ZR」が1.25E-2のCFEC(Concatenated FEC)を採用しているからで、これと同等であれば、9.5dBのマージンがあるとされる。
また、4.5E-3 FEC(Stairecase FEC)を利用した場合、当然マージンは減って7.2dBほどになるが、これは10kmファイバーのLink Loss+1.2dBほどのマージンになる、としている。
もっとも、10kmならこれでもいいが、40kmのERに関してはどう考えてもこれでは厳しい気がするのだが、これに関しては"Performance can be further improved by optimizing the constellation"(コンスタレーションの最適化によって、さらに性能を改善できる)で済ませているのは、今回はまだ厳密な検討ではないから、ということだろう。
Stairecase FECを利用してBERを4.5E-3に抑えて実装できそう
同様にOSNRバジェットに関する検討が以下だ。BERには新たに2E-2が加わり、こちらだと8.4dB、1.25E-2で7.3dB、4.5E-3で5.2dBとなっている。CFEC(BER=1.25E-2)で7.3dBというSNRは、受信側として十分か? と問われると微妙なところだが、対応はできる範疇だと思われる。
ただ、こちらも10kmの到達距離には十分でも、40kmだとちょっと厳しい気がする。そこは"The gap between the theoretical limit and measured result indicates potential space for further improvement."(実験結果と理論値の差は、今後まだまだ特性の改良の余地があることを示している)という楽観的な姿勢で押し通すつもりのようだ。
結論として、少なくとも96GBaud PDM-32QAMは簡単な実験で有望そうなことが確認されており、Stairecase FECを利用してBERを4.5E-3に抑えて実装できそう、という話になっている。
120GBaud PDM-16QAMは検討されていないが、FEC周りで言えば、信号速度とSNRの関係を示した「Capacity analysis」のグラフでも分かるように、BERにはマージンがあるので、さらに実装は容易、という判断であろうかと思う。
さて、このプレゼンテーションはStraw PollもMotionもないものなので、あくまでも参考意見というか今後の議論のたたき台という格好になるかと思うが、上の「Comparison of two candidates for 800 Gb/s」のスライド末尾にある"120GBaud PDM-16QAM will be studied in the near future."の一文について少し触れておこう。
この意見はあくまでHiSilicon Optoelectronicsとしての見解かと思われる。では他社の見解は? ということでちょっと調べてみると、例えばNeoPhotonicsの2019年第3四半期のCompany Overviewでは、800Gの120GBaud 16QAMが2021年に提供予定、96GBaud 32QAMは2022年提供予定となっている。
もう少し最近の資料だと、2021年9月付の"Trends and Technology: Coherent Pluggable Modules Unleashed"に「800G-ZR+」のテスト結果が掲載されているが、その試験構成を見ると、AWG(Arrayed Waveguide Grating)からCDM(Coherent Driver Modulator)に120GSamples/sの速度で接続されており、これは16QAMで120GBaud構成のように見える。
Arista Networkは、120GBaud 16QAMも実現可能と主張
あるいは、Arista Networkの会長兼CDO(Chief Development Officer)であるAndreas Bechtolsheim氏が2019年に示した"400G and 800G Ethernet and Optics"のスライドによれば、既に同社は120GBaud 16QAMの実現可能性を検証済としている。
そんなわけで、変調方式に関しては、Task Forceに昇格した段階でもう少し細かく議論が行われそうな予感だ。
さて、これに続く10月のミーティングは、10月14日の分がなぜか非公開(URLは示されているがアクセスできず)、10月21日がキャンセルになり、10月28日にProject Documentの完成版が公開された。
内容的にはここまで説明してきた内容の集大成といったもので、逆に言えば何か新しいものが入ったというわけではない。
この先の議論はTask Forceに持ち越しといった格好で、それもあって26もの方式全てを含んだものとなった。このProject Documentが11月16日にIEEEのPlenary Electronic Meetingで説明され、ここで問題がなければ2022年1月のTask Force結成に向け、IEEE内の事務作業が回り始めることになると予想される。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
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