期待のネット新技術
50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年8月18日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
1レーンあたり50Gbps、2レーンで100Gbps、4レーンで200Gbpsを目指す「P802.3cd」
2016年5月に「P802.3cc」のTask Forceが結成されたと前回書いたが、これと並行して「P802.3cd」というTask Forceも、やはり2016年5月に結成された。こちらは"50Gb/s, 100Gb/s, and 200Gb/s Ethernet Task Force"という名称である。
もともと25G Ethernet Consortiumでは25Gだけでなく50Gも視野に入れていたが、これを両方同じTask Forceで審議してしまうと25Gの仕様策定が無駄に遅くなりかねない。技術的な面でも、基本的には既存のものそのままの25Gと、新しい方式を策定する50Gでは当然やるべき内容が異なってくる。いや、やるべきことそのものは同じでも手間がけた違い、というべきか。いずれにしても、分離して標準化作業を行ったのは賢明というべきだろう。
そのP802.3cd Task ForceのObjectiveが以下となる。要するに、1レーンあたり50Gbpsとし、2レーンで100Gbps、4レーンで200Gbpsを目指すというものだ。
200GbpsでBERが「10^-13」となっているのは、そろそろBERが「10^-12」では厳しくなってきた、という話である。そもそも100GbpsでBERが10^-12というのは、エラーが1000Gbit送信時に1bit、つまり10秒に1回はエラーが発生していることになるので、さすがに頻度としてやや多すぎるという話になったのだと思う。ただ、その分難しくなったのも間違いない。
また、銅配線で3m、MMFで100mというのも、考え方によってはかなり厳しい。これをクリアするのは25Gbpsですら大変だったわけで、速度が倍増すると当然より厳しくなる。これを実現するための方策が「PAM4」の採用だ。
2bitずつにしてデータ送信を効率化する「PAM4」
PAM4については、ご存じの方が多いかもしれない。ここまでに説明してきたEthernetの信号は、基本的に「NRZ(Non-Return-to-Zero)」という方式で実装されている。これは名前の通り「0に復帰しない信号方式」だ。要するに信号線に流れている電圧で0か1かのデータが一意に決まり、「データがない」という状態がない(考慮しない)通信方式である。
これは「PAM-2(Pulse Amplitude Modulation 2-Level)」という言い方もされる。パルスの振幅で、0か1かの2つのレベルを表すからだ。PAM-4はこれの応用で、電圧レベルに応じて0~3(00/01/10/11)までの4つの値を示すことになる。図で示すと以下の上がNRZ、下がPAM-4の場合だ。
例えば、"00 10 01 10 11 10"という12bit分のデータを伝送する場合、NRZだと12cycleで1と0を表現することになる。ところがPAM-4では、これを2bitずつ区切って6回の転送で伝送できることになる。それだけ効率がいいわけだ。
もっとも、効率は確かにいいものの、技術的な難易度は上がる。以下はいわゆるSignal Eyeの図だ。信号の流れをオシロスコープなどで観察した際の、信号の収束具合を見るものだが、いわゆるPHYはこの図でグリーンの期間(Eye Mask)に信号の電圧を取得し、そこから値が00~11のどれかを判断することになる。
このEye Maskの期間では、信号がきれいに分離してくれることが望ましい。ただ、何せ相手はアナログ信号の、しかも25GHzとかいう高周波なので、この間隔(目が開いているように見えることから“Eye Pattern”と呼ばれる)が短く、つまりEye Maskの期間が十分に取れない。上下方向の間隔も不十分で信号がきれいに分離していないため、電圧の読み取りでミスが起こりがちになる。
余談だが、この図そのものは「CEI-56G-MR(28G)」におけるPAM-4のSpecificationをベースにしたものだ。これは、OIF(Optical Internetworking Forum)という団体が100G Ethernetを実装するにあたり、基板上に通す信号を規定したものである。従って、光ファイバーそのものにPAM-4を通す場合とは、また多少勝手が違ってくる点には注意されたい。
FECを標準で利用する5つの50Gbps対応規格
話を戻そう。PAM-4そのものは、当時はやや目新しかったが、それは目立つところではあまり使われてこなかったということであり、目立たないところでは利用されていた。
実際、Credo Semiconductorは、2016年の1月に16nmで動作する56G PAM-4のIPをDesignConでデモ展示し、さらに続く3月にはIPの提供を開始、そして5月にはTSMCの16FFC向けのIPの提供も開始している。
これは、先のCEI-56G-MRに準拠したものなので、例えばこの先端にレーザー光源を付ければ完成、という話にはもちろんならない(電圧レベルからして全然違う)。だが、PAM-4という技法そのものは、2016年にはもう十分に利用可能だったことはお分かりいただけるだろう。
それもあってか、2016年10月には早くもDraft 1.0がリリースされている。その後はDraft 1.1/1.2/1.3と進み、2017年5月にはDraft 2.0へ、2017年11月にはDraft 3.0へ移行しており、これは本来のタイムライン(2018年1月の予定)よりも早かった。
ただ、当初のスケジュールではDraft 3.3までに完了予定だったが、実際にはDraft 3.5までもつれ込むことになり、これもあって標準化が完了したのは、当初のスケジュールである2018年9月からやや遅れ、2018年末となった。
さて「IEEE 802.3cd-2018」で定められた規格のうち、まず50Gbpsについて以下の5つが標準化された。
規格 | 最大到達距離 | 用途など |
50GBASE-KR | 1m[*1] | バックプレーン用 |
50GBASE-CR | 3m | 同軸配線 |
50GBASE-SR | 70m(OM3) | 850±10nmの光源を利用、信号速度は26.5625Gbps、PAM4 |
100m(OM4/OM5) | ||
50GBASE-FR | 2km(OS2) | 1311±6.5nmの光源を利用。信号速度は26.5625Gbps、PAM4 |
50GBASE-LR | 10km(OS2) | 1311±6.5nmの光源を利用。信号速度は26.5625Gbps、PAM4 |
[*1]……厳密にはMaximum Delay constraintsが40.96nsと定められているが、ここには20ns分のオーバーヘッドが含まれるので、実質は21nsほど。銅配線では信号速度がおおむね1nsあたり10cmほどなので、往復で2m以内、実質では1mほどという計算になる模様だ
ちなみに、最大40kmまでとなる「50GBASE-ER」は、後の「IEEE 802.3cn-2019」へ送られることとなった。
実は2016年のTask Force結成直後から、50GBASE-LRに加えて50GBASE-FRの提案が出ているのだが、この"FR"が何の意味なのか説明したドキュメントがさっぱり見つからない。
スペックはSRとLRのちょうど中間あたりに位置しており、SMFを使うものの出力が小さめ(例えばTotal Average Launch Power Maxは、50GBASE-LRの4.2dBmに対して50GBASE-FRでは3.0dBm)という以上に違いが特に見当たらない。
例えば、大規模なデータセンターになれば、床下配線などを行ったときに100mでは足りなくなることも珍しくないが、こうしたケースでは、50GBASE-LRのスペックだとスイッチの消費電力が高くなりがちになるので、これを抑えた50GBASE-FRを用意する、というあたりだろうか?
50Gbpsの各規格の特徴は、FECが標準で入る点にある。上に挙げた5つの規格は、いずれもFEC(正確にはRS-FEC)が標準で利用される。この記事でも触れたように、25GのときはFECを使わないというオプションが用意されたが、50Gではそうしたオプションはなくなった。
ちなみに、このFECは25Gのものと異なっており、3%ほどのオーバーヘッドがある。これを加味した結果が、26.5625Gbpsという信号速度となっているわけだ。
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