期待のネット新技術

50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

1レーンあたり50Gbps、2レーンで100Gbps、4レーンで200Gbpsを目指す「P802.3cd」

 2016年5月に「P802.3cc」のTask Forceが結成されたと前回書いたが、これと並行して「P802.3cd」というTask Forceも、やはり2016年5月に結成された。こちらは"50Gb/s, 100Gb/s, and 200Gb/s Ethernet Task Force"という名称である。

 もともと25G Ethernet Consortiumでは25Gだけでなく50Gも視野に入れていたが、これを両方同じTask Forceで審議してしまうと25Gの仕様策定が無駄に遅くなりかねない。技術的な面でも、基本的には既存のものそのままの25Gと、新しい方式を策定する50Gでは当然やるべき内容が異なってくる。いや、やるべきことそのものは同じでも手間がけた違い、というべきか。いずれにしても、分離して標準化作業を行ったのは賢明というべきだろう。

 そのP802.3cd Task ForceのObjectiveが以下となる。要するに、1レーンあたり50Gbpsとし、2レーンで100Gbps、4レーンで200Gbpsを目指すというものだ。

最終的な仕様には含まれている、100/200GbpsでのSMFに関する規定が含まれていないのが少し謎だ。出典は"IEEE 802.3cd 50Gb/s Ethernet over a Single Lane and Next Generation 100Gb/s and 200Gb/s Ethernet Task Force Objectives (Updated)"

 200GbpsでBERが「10^-13」となっているのは、そろそろBERが「10^-12」では厳しくなってきた、という話である。そもそも100GbpsでBERが10^-12というのは、エラーが1000Gbit送信時に1bit、つまり10秒に1回はエラーが発生していることになるので、さすがに頻度としてやや多すぎるという話になったのだと思う。ただ、その分難しくなったのも間違いない。

 また、銅配線で3m、MMFで100mというのも、考え方によってはかなり厳しい。これをクリアするのは25Gbpsですら大変だったわけで、速度が倍増すると当然より厳しくなる。これを実現するための方策が「PAM4」の採用だ。

幸い、業界では25Gあたりから「PAM4」が使われ始めているので、これを用いれば(容易とは言わないが)可能性は高い、と見られていた。出典は"50 Gb/s per lane MMF baseline proposals"

2bitずつにしてデータ送信を効率化する「PAM4」

 PAM4については、ご存じの方が多いかもしれない。ここまでに説明してきたEthernetの信号は、基本的に「NRZ(Non-Return-to-Zero)」という方式で実装されている。これは名前の通り「0に復帰しない信号方式」だ。要するに信号線に流れている電圧で0か1かのデータが一意に決まり、「データがない」という状態がない(考慮しない)通信方式である。

 これは「PAM-2(Pulse Amplitude Modulation 2-Level)」という言い方もされる。パルスの振幅で、0か1かの2つのレベルを表すからだ。PAM-4はこれの応用で、電圧レベルに応じて0~3(00/01/10/11)までの4つの値を示すことになる。図で示すと以下の上がNRZ、下がPAM-4の場合だ。

何故、1Wordが12bitになっているのかは謎だ。出典は"AN 835: PAM4 Signaling Fundamentals"のFigure 1

 例えば、"00 10 01 10 11 10"という12bit分のデータを伝送する場合、NRZだと12cycleで1と0を表現することになる。ところがPAM-4では、これを2bitずつ区切って6回の転送で伝送できることになる。それだけ効率がいいわけだ。

 もっとも、効率は確かにいいものの、技術的な難易度は上がる。以下はいわゆるSignal Eyeの図だ。信号の流れをオシロスコープなどで観察した際の、信号の収束具合を見るものだが、いわゆるPHYはこの図でグリーンの期間(Eye Mask)に信号の電圧を取得し、そこから値が00~11のどれかを判断することになる。

ここでは3つのEyeがほぼ同じサイズだが、中にはこれが同じでない場合もある。出典は"AN 835: PAM4 Signaling Fundamentals"のFigure 11

 このEye Maskの期間では、信号がきれいに分離してくれることが望ましい。ただ、何せ相手はアナログ信号の、しかも25GHzとかいう高周波なので、この間隔(目が開いているように見えることから“Eye Pattern”と呼ばれる)が短く、つまりEye Maskの期間が十分に取れない。上下方向の間隔も不十分で信号がきれいに分離していないため、電圧の読み取りでミスが起こりがちになる。

 余談だが、この図そのものは「CEI-56G-MR(28G)」におけるPAM-4のSpecificationをベースにしたものだ。これは、OIF(Optical Internetworking Forum)という団体が100G Ethernetを実装するにあたり、基板上に通す信号を規定したものである。従って、光ファイバーそのものにPAM-4を通す場合とは、また多少勝手が違ってくる点には注意されたい。

FECを標準で利用する5つの50Gbps対応規格

 話を戻そう。PAM-4そのものは、当時はやや目新しかったが、それは目立つところではあまり使われてこなかったということであり、目立たないところでは利用されていた。

 実際、Credo Semiconductorは、2016年の1月に16nmで動作する56G PAM-4のIPをDesignConでデモ展示し、さらに続く3月にはIPの提供を開始、そして5月にはTSMCの16FFC向けのIPの提供も開始している。

 これは、先のCEI-56G-MRに準拠したものなので、例えばこの先端にレーザー光源を付ければ完成、という話にはもちろんならない(電圧レベルからして全然違う)。だが、PAM-4という技法そのものは、2016年にはもう十分に利用可能だったことはお分かりいただけるだろう。

 それもあってか、2016年10月には早くもDraft 1.0がリリースされている。その後はDraft 1.1/1.2/1.3と進み、2017年5月にはDraft 2.0へ、2017年11月にはDraft 3.0へ移行しており、これは本来のタイムライン(2018年1月の予定)よりも早かった。

 ただ、当初のスケジュールではDraft 3.3までに完了予定だったが、実際にはDraft 3.5までもつれ込むことになり、これもあって標準化が完了したのは、当初のスケジュールである2018年9月からやや遅れ、2018年末となった。

 さて「IEEE 802.3cd-2018」で定められた規格のうち、まず50Gbpsについて以下の5つが標準化された。

規格最大到達距離用途など
50GBASE-KR1m[*1]バックプレーン用
50GBASE-CR3m同軸配線
50GBASE-SR70m(OM3)850±10nmの光源を利用、信号速度は26.5625Gbps、PAM4
100m(OM4/OM5)
50GBASE-FR2km(OS2)1311±6.5nmの光源を利用。信号速度は26.5625Gbps、PAM4
50GBASE-LR10km(OS2)1311±6.5nmの光源を利用。信号速度は26.5625Gbps、PAM4

[*1]……厳密にはMaximum Delay constraintsが40.96nsと定められているが、ここには20ns分のオーバーヘッドが含まれるので、実質は21nsほど。銅配線では信号速度がおおむね1nsあたり10cmほどなので、往復で2m以内、実質では1mほどという計算になる模様だ

 ちなみに、最大40kmまでとなる「50GBASE-ER」は、後の「IEEE 802.3cn-2019」へ送られることとなった。

 実は2016年のTask Force結成直後から、50GBASE-LRに加えて50GBASE-FRの提案が出ているのだが、この"FR"が何の意味なのか説明したドキュメントがさっぱり見つからない。

 スペックはSRとLRのちょうど中間あたりに位置しており、SMFを使うものの出力が小さめ(例えばTotal Average Launch Power Maxは、50GBASE-LRの4.2dBmに対して50GBASE-FRでは3.0dBm)という以上に違いが特に見当たらない。

 例えば、大規模なデータセンターになれば、床下配線などを行ったときに100mでは足りなくなることも珍しくないが、こうしたケースでは、50GBASE-LRのスペックだとスイッチの消費電力が高くなりがちになるので、これを抑えた50GBASE-FRを用意する、というあたりだろうか?

 50Gbpsの各規格の特徴は、FECが標準で入る点にある。上に挙げた5つの規格は、いずれもFEC(正確にはRS-FEC)が標準で利用される。この記事でも触れたように、25GのときはFECを使わないというオプションが用意されたが、50Gではそうしたオプションはなくなった。

PAM-4を使う時点でFECは必須ではある。出典はIEEE 802.3cd-2018のFigure 133-1

 ちなみに、このFECは25Gのものと異なっており、3%ほどのオーバーヘッドがある。これを加味した結果が、26.5625Gbpsという信号速度となっているわけだ。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/