期待のネット新技術
25Gbps×4をSMF1本に集約し100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」と、10/20/40kmの「4WDM MSA」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年12月8日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
25Gbps×4レーンを1本のSMFに集約最大100Gbpsで到達距離2kmのインターフェース構築が目的の「CWDM4 MSA」
今回紹介する「CWDM4 MSA」は、2014年3月にAvago Technologies、Finisar、JDSU、Oclaroと住友電工の5社をFounder Memberとして設立された。
その後急速にメンバー企業が増え、2014年9月にRevision 1.0のSpecificationを公開した時点で10社(Brocade、ColorChip、日立金属、Juniper Networks、Kaiam、三菱電機、NeoPhotonics、Oplink、Skorpios Technologies、SiFotonics)が加わった(JDSUがLumentumへ、FinisarがII-VI Incorporateへ変わっているが、JDSUは会社分割、Finisarは買収に起因)。現時点では、さらにHiLight Semiconductor Ltdが加わって16社となっている。
CWDM4 MSAの目的は、データセンター内での利用を想定し、最大100Gbpsで2kmの到達距離を持つ安価なインターフェースを構築することだ。
2kmというのは、1つのビル内で利用するにはちょっと余る距離ではあるのだが、例えばある場所にデータセンターを構築し、需要が増えて隣へデータセンターの建屋をもう1つ建設し、機材を拡充する、といったケースがしばしばあったりする。
こうなると、配線長は簡単に1kmくらいは超えてしまう。一例をあげると、Googleが2006年にオレゴン州ダラスへ開設したデータセンターは3つの建屋からなる(こちらのGoogleマップで確認できる)が、仮に左右に分かれた2つの建屋の間を直接接続したいなら、中央の建屋をぶち抜いて糸電話のように配線するわけにはいかないため、どうしても迂回する経路を通すかたちになる。
すると、500mというのはかなりギリギリで、もう少しゆとりが欲しいわけだ。そうでなくても、建屋内ではしばしば迂回した配線を余儀なくされるから、500mを超える距離を到達できるニーズがある(かといって100GBASE-LRのように10kmは要らない)のは、それなりに理解できる。
これを実現するために、CWDM4を利用して25Gbps×4レーンを1本のSMFに集約することで、1対のSMFで2kmまでの到達距離を実現する、というのが基本的な構成である。CWDMについては『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』でも少し触れたが、要するにWDMを実現するにあたり、その波長というか周波数の分布が比較的疎な規格を指す。
CWDM4で利用する波長は、実は『レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格』で紹介した「200GBASE-FR4」と全く同じだ。ただし、200GBASE-FR4が56GのPAM-4変調を利用しているのに対し、100G CWDM4は普通のNRZであり、信号レートは25.78125GBdである。
そもそも仕様策定時の2014年の段階では、56GのPAM-4変調は、まだ高コストなどというレベルですらなく、技術的に難易度が高すぎたため、当然選択肢に上がっていない。時系列で言えば「IEEE 802.3bs」に先立って100G CWDM4 MSAが立ち上がっているわけで、その意味では100G CWDM4の実装が200GBASE-FR4の参考になった、と言うべきだろう。
「IEEE 802.3bj-2014」策定の「KR4 RS FEC」を採用
ちなみに2kmもの到達距離ともなると当然「FEC」が必要であるが、これについては「IEEE 802.3bj-2014」で策定された「KR4 RS FEC」が採用されている。なお、IEEE 802.3bj-2014では、「100GBASE-KR4」がRS(528,514)、「100GBASE-KP4」がRS(544,514)という2種類のRS FECの仕様が定められていて、このうち前者を利用した格好だ。
なお、この両者ともバックプレーン用の銅配線(到達距離は最大1m)のもので、光ファイバーを念頭に置いたものではない。だが、低コストを念頭に置いて流用してみたら結果として十分だったので、そのまま仕様に含めた、というあたりではないかと想像する。
ちょっと順序が逆になってしまったが、上が100G CWDM4 MSAの構成図だ。そして、利用する波長と周波数が以下となる。
波長(nm) | 周波数(THz) | |
L0 | 1271(1264.5~1277.5) | 236.03 |
L1 | 1291(1284.5~1297.5) | 232.38 |
L2 | 1311(1304.5~1317.5) | 228.83 |
L3 | 1331(1324.5~1337.5) | 225.39 |
こちらで紹介した通り、DWDMが800GHz間隔できれいにそろっていた(ただし波長の差は均一ではない)のに対し、CWDMでは波長の差を均一にした分、周波数の差は3.44~3.65THzと少しバラつきがある。
1対のSMFで最大100Gbps、10/20/40kmの到達距離を実現する「4WDM MSA」
ちなみに100G CWDM4 MSAは、このRevision 1.1を持って仕様策定作業は完了しているのだが、ほぼ同じメンバーが次に立ち上げたのが「4WDM MSA」である。
2016年9月結成時の創業メンバーはBroadcom、Brocade、Ciena、ColorChip、Dell、Finisar、Foxconn、Huawei Technology、Intel、Juniper Networks、Kaiam、Lumentum、MACOM、Oclaro、Skorpios Technologies、Source Photonics、住友電工の17社。CWDM4 MSAの創業メンバーが全て含まれているあたり、別のMSAと言いながら、実質的にはCWDM4 MSAの延長にある。
この4WDM MSAの目的は、100Gbpsを1対のSMFで接続でき、到達距離が10/20/40kmというものである。このうち10kmに関してはCWDM4 MSAの延長となることを想定しており、一方20/40kmに関しては「LAN-WDM wavelength grid」を利用する、としている。
要するに光源の波長を変更することを念頭に置いたわけだ。おそらくは、CWDM4 MSAが仕様策定作業を完了させ、実際に市場に製品が出てきた段階で「これをもっと長距離届くようにして欲しい」という声が寄せられるようになり、それに対応するのにCWDM4 MSAのままだと混乱するので、新たにMSAを作った、というあたりではないかと思う。
10kmの仕様に関しては、2017年3月に「100G 4WDM-10 MSA Technical Specification」のRelease 1.0が既に出ている。これを先の100G CWDM4 Specificationと見比べると非常に面白い。というのは当然波長も同じだし、送受信のパラメーターもほぼ同じとなっているからだ。
以下にCWDM4と4WDMのtransmit characteristicsを並べたので比べてみて欲しいが、送信出力も同じだし、ほとんどのパラメーターもそのままだ。異なるのはTransmitter reflectanceが小さくなっていることと、新たにDifference in launch power between any two lanesというパラメーターが追加された程度で、基本同じ規格のままである。
ただ、同じ規格のままだと到達距離は当然同じ2kmにしかならない。これをカバーすべく、受信側の感度を引き上げるというかたちで10kmの接続を可能にしたのが「100G 4WDM-10」である(続く)。
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