期待のネット新技術

25Gbps×4をSMF1本に集約し100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」と、10/20/40kmの「4WDM MSA」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/640GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

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25Gbps×4レーンを1本のSMFに集約最大100Gbpsで到達距離2kmのインターフェース構築が目的の「CWDM4 MSA」

 今回紹介する「CWDM4 MSA」は、2014年3月にAvago Technologies、Finisar、JDSU、Oclaroと住友電工の5社をFounder Memberとして設立された。

 その後急速にメンバー企業が増え、2014年9月にRevision 1.0のSpecificationを公開した時点で10社(Brocade、ColorChip、日立金属、Juniper Networks、Kaiam、三菱電機、NeoPhotonics、Oplink、Skorpios Technologies、SiFotonics)が加わった(JDSUがLumentumへ、FinisarがII-VI Incorporateへ変わっているが、JDSUは会社分割、Finisarは買収に起因)。現時点では、さらにHiLight Semiconductor Ltdが加わって16社となっている。

 CWDM4 MSAの目的は、データセンター内での利用を想定し、最大100Gbpsで2kmの到達距離を持つ安価なインターフェースを構築することだ。

 2kmというのは、1つのビル内で利用するにはちょっと余る距離ではあるのだが、例えばある場所にデータセンターを構築し、需要が増えて隣へデータセンターの建屋をもう1つ建設し、機材を拡充する、といったケースがしばしばあったりする。

 こうなると、配線長は簡単に1kmくらいは超えてしまう。一例をあげると、Googleが2006年にオレゴン州ダラスへ開設したデータセンターは3つの建屋からなる(こちらのGoogleマップで確認できる)が、仮に左右に分かれた2つの建屋の間を直接接続したいなら、中央の建屋をぶち抜いて糸電話のように配線するわけにはいかないため、どうしても迂回する経路を通すかたちになる。

 すると、500mというのはかなりギリギリで、もう少しゆとりが欲しいわけだ。そうでなくても、建屋内ではしばしば迂回した配線を余儀なくされるから、500mを超える距離を到達できるニーズがある(かといって100GBASE-LRのように10kmは要らない)のは、それなりに理解できる。

 これを実現するために、CWDM4を利用して25Gbps×4レーンを1本のSMFに集約することで、1対のSMFで2kmまでの到達距離を実現する、というのが基本的な構成である。CWDMについては『位相変調した光信号を復号するコヒーレント光と、波長分離多重「DWDM」を併用する「400ZR」』でも少し触れたが、要するにWDMを実現するにあたり、その波長というか周波数の分布が比較的疎な規格を指す。

 CWDM4で利用する波長は、実は『レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格』で紹介した「200GBASE-FR4」と全く同じだ。ただし、200GBASE-FR4が56GのPAM-4変調を利用しているのに対し、100G CWDM4は普通のNRZであり、信号レートは25.78125GBdである。

 そもそも仕様策定時の2014年の段階では、56GのPAM-4変調は、まだ高コストなどというレベルですらなく、技術的に難易度が高すぎたため、当然選択肢に上がっていない。時系列で言えば「IEEE 802.3bs」に先立って100G CWDM4 MSAが立ち上がっているわけで、その意味では100G CWDM4の実装が200GBASE-FR4の参考になった、と言うべきだろう。

「IEEE 802.3bj-2014」策定の「KR4 RS FEC」を採用

 ちなみに2kmもの到達距離ともなると当然「FEC」が必要であるが、これについては「IEEE 802.3bj-2014」で策定された「KR4 RS FEC」が採用されている。なお、IEEE 802.3bj-2014では、「100GBASE-KR4」がRS(528,514)、「100GBASE-KP4」がRS(544,514)という2種類のRS FECの仕様が定められていて、このうち前者を利用した格好だ。

 なお、この両者ともバックプレーン用の銅配線(到達距離は最大1m)のもので、光ファイバーを念頭に置いたものではない。だが、低コストを念頭に置いて流用してみたら結果として十分だったので、そのまま仕様に含めた、というあたりではないかと想像する。

WDMによってケーブルの本数を減らせるのが低コスト化につながる、というわけだ。出典は"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"のFigure 1-1

 ちょっと順序が逆になってしまったが、上が100G CWDM4 MSAの構成図だ。そして、利用する波長と周波数が以下となる。

波長(nm)周波数(THz)
L01271(1264.5~1277.5)236.03
L11291(1284.5~1297.5)232.38
L21311(1304.5~1317.5)228.83
L31331(1324.5~1337.5)225.39

 こちらで紹介した通り、DWDMが800GHz間隔できれいにそろっていた(ただし波長の差は均一ではない)のに対し、CWDMでは波長の差を均一にした分、周波数の差は3.44~3.65THzと少しバラつきがある。

1対のSMFで最大100Gbps、10/20/40kmの到達距離を実現する「4WDM MSA」

 ちなみに100G CWDM4 MSAは、このRevision 1.1を持って仕様策定作業は完了しているのだが、ほぼ同じメンバーが次に立ち上げたのが「4WDM MSA」である。

 2016年9月結成時の創業メンバーはBroadcom、Brocade、Ciena、ColorChip、Dell、Finisar、Foxconn、Huawei Technology、Intel、Juniper Networks、Kaiam、Lumentum、MACOM、Oclaro、Skorpios Technologies、Source Photonics、住友電工の17社。CWDM4 MSAの創業メンバーが全て含まれているあたり、別のMSAと言いながら、実質的にはCWDM4 MSAの延長にある。

 この4WDM MSAの目的は、100Gbpsを1対のSMFで接続でき、到達距離が10/20/40kmというものである。このうち10kmに関してはCWDM4 MSAの延長となることを想定しており、一方20/40kmに関しては「LAN-WDM wavelength grid」を利用する、としている。

 要するに光源の波長を変更することを念頭に置いたわけだ。おそらくは、CWDM4 MSAが仕様策定作業を完了させ、実際に市場に製品が出てきた段階で「これをもっと長距離届くようにして欲しい」という声が寄せられるようになり、それに対応するのにCWDM4 MSAのままだと混乱するので、新たにMSAを作った、というあたりではないかと思う。

 10kmの仕様に関しては、2017年3月に「100G 4WDM-10 MSA Technical Specification」のRelease 1.0が既に出ている。これを先の100G CWDM4 Specificationと見比べると非常に面白い。というのは当然波長も同じだし、送受信のパラメーターもほぼ同じとなっているからだ。

 以下にCWDM4と4WDMのtransmit characteristicsを並べたので比べてみて欲しいが、送信出力も同じだし、ほとんどのパラメーターもそのままだ。異なるのはTransmitter reflectanceが小さくなっていることと、新たにDifference in launch power between any two lanesというパラメーターが追加された程度で、基本同じ規格のままである。

送信側はほぼ手付かずで受信側で何とかした、という感じ。CWDM4 MSA結成から2年経ち、より感度のいい受光素子が登場して10km到達の目途が立ったのかもしれない。出典は"100G CWDM4 MSA Technical Specifications Revision 1.1"と"100G 4WDM-10 MSA Technical Specification Release 1.0"のTable 2-3同士

 ただ、同じ規格のままだと到達距離は当然同じ2kmにしかならない。これをカバーすべく、受信側の感度を引き上げるというかたちで10kmの接続を可能にしたのが「100G 4WDM-10」である(続く)。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/