期待のネット新技術
800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年10月26日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「800Gbps/10km Reach SMF」の課題に対する諸提案
前回に続き、「800Gbps/10km Reach SMF」では、SiFotonicsのRang Chen Yu氏とSource PhotonicsのFrank Changによる、"Feasibility of 800G LR4 and 800G ER8 with PAM4 IMDD"というプレゼンテーションも行われた。
まず、冒頭に出てきたCDペナルティに関するグラフが、上の図だ。これは、5月のミーティングでHuaweiが示したものの再掲であるが、色分散は-21.5ps/nm(これは波長1270nmの場合)から11ps/nm(これは1330nm)で、トータル32.5ps/nmほどになると推定される。
この分散を、波長を横軸にとって改めて示したのが以下の図。この色分散をどこまで許容できるかが最大の技術的課題だとしている。
4波長を用いて色分散を抑える
さて、まず提案の1つ目は以下の通り。「LR4」向けには、1304.58/1306.85/1309.14/1311.43nmの4波長を使うことで、色分散をトータル31ps/nm程度に抑えられるというものだ。
これは、分類としてはLWDMに属することになるが、実際はLWDMとDWDMの中間くらいだろうか? 波長が接近しているため、WDMで利用するMUX/DeMUXがコスト面ではやや厳しいことにはなるが、CWDMを使った場合に比べれば遥かにマシ、という判断であろう。
この3つの、DSP側から見ての判断が以下の図。LWDMの場合でも21タップ以上のFFEをDSPで構成しないといけないので、そもそも実現可能性があるかどうか分からないとし、現実問題として今回の提案が(コストは掛かるにしても)最も実現可能性が高いとしている。
800G DSPを新規に起こすのではなく、既存の400G向けDSPを2つ並列
次が受信感度、というか送信出力側の問題。以下の図は『200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?』で紹介した、Huaweiによる200GレーンのPAM4とPAM6の比較からの抜粋結果である。
そこでの内容は、EMLとMZMという2種類の発光素子での比較を示したものだが、ここで送信出力を1dB引き上げることで、受信感度側のマージンを増やすという提案が行われた。
到達距離40kmとなる「ER8」への提案
ここまでの提案は、到達距離10kmのLR4に関するものだが、これとは別に到達距離40kmとなる「ER8」についても提案が行われた。
面白いのはDSPに関しては、新規の800G DSPを起こすのではなく、既存の(400G対応)DSPをPiggyback方式、要するに400G向けDSP×2構成にすることで、開発コストを抑えることを想定しているあたりだろうか。100G×4はもう標準化に向かって進んでいるから、これを流用することでコストを抑えたいという動機は理解できる。
以下の図は、IEEE P802.3cu Task Forceの2019年5月のミーティングで行われたプレゼンテーション"Further study of 400G with 4*100G PAM4"からの抜粋であるが、チャープ効果(ここでも触れたように、時間経過で周波数が変化する現象)が起きると、急速に色分散のペナルティ(というか、TDECQペナルティ)が増加する点が問題としている。
MZMを採用すれば40kmの距離もカバーできる
これに関して、実際のシリコンでの結果は? というのがOFC 2021で発表された論文"Silicon Photonics Applications for 5G and Data Centers"のデータとなる以下の図。
その内容はタイトルにもあるように、400GのトランシーバーをSilicon Photonicsを利用して製造し、その特性を調べてみたというものだ。
比較の条件は、片方(Sample #1)がSilicon Photonicsを利用したMZM方式の100G ER1のトランシーバー、比較対象用のSample #2が100G Lambda MSAで規定された「100G ER1-40」のスペックに準拠した従来型トランシーバーである。
グラフ中にあるEYE Patternは、そのSilicon Opticsを使って「400G-DR4」を実装し、PAM4変調を行った後の波形を示したものであり、きちんとEye Heightが取れていることがアピールされている。
論文中には細かな記載がないが、上のグラフの説明には"We have also tested transmission dispersion tolerance with our internal developed silicon photonics MZ modulators PIC, as shown in Fig. 2, which show good margin vs. 100G ER1-40 specification by 100G Lambda MSA."とあり、100G Lambda MSAの100G ER1-40と比較しても、MZMを利用した場合にはマージンが多い(分散ペナルティが低い)とされ、MZMを使う限りにおいては40kmの伝達距離も十分にカバーできる、というのがグラフで意図したところだろう。
ただ、先ほども出てきたように、ITUで定められた色分散の計算式を利用した場合、-60~-37ps/nmというと、実際には1308~1310nmということになり、ここに8波長を通すとなるとおよそ0.29nmおきとなる。
これは、DWDMの0.8nmおきを超える波長密度であり、さすがに実現可能性が低すぎる。そこでもう少し色分散のリミットを広げ、1302~1310nmの間に8波長というかたちとすることで、現実的な実装ができるとしている。
「Link Budget」その有効性は?
Link Budgetについては、100G Lambda MSAの「100G-ER1-40」をそのまま流用する、という方針が示されている。
もっとも、「100G-ER1-30/40」の場合は周波数帯として1308.09~1310.19nmを使うとされ、今回の800G LR8では1302nmあたりまでカバーする必要があるので、発光素子的にこれに対応できるのか? というところはやや疑問だ。
さらに、WDMのMUX/DEMUXは1.2nmごとの波長を扱う必要があるため、かなり高価になりそうだ。もともと40kmという長い距離に対応する製品は高価になりがちなので、それでも許容範囲と判断されたのかもしれない。
ちなみに、このプレゼンテーションに関するStraw Poll/Motionは特に実施されていない。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
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