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「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

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4対のファイバーを並べて転送するだけの「100G PSM4 MSA」

 今回紹介する「100G PSM4 MSA」は2014年1月21日、AVAGO Technologies、Brocade、JDSU、Luxtera、Oclaro、Panduitの6社によって立ち上げられた。その後、Delta Electronics。Finisar、Juniper Networks、MACOM、Microsoft、US Conecが加わり、現在は12社がメンバーとなっている。

 「PSM4(Parallel Single Mode 4-lane)」という技法自体は、「400GBASE-DR4」の際に説明をしている。要するに4対のファイバーを並べて伝送する「だけ」のものだ。

 なぜこんな規格が生まれたのかと言えば、100G PSM4 MSA立ち上げ時のプレスリリースでは"The joint efforts of the PSM4 consortium will address the gap between 100G 10 km single-mode multiwavelength solutions and 100G short reach multimode, multi-fiber solutions."とされていた。

 そして、100G PSM MSAによればキーカスタマーから、500mの到達距離を持つ規格が欲しいとされた、としている。これが誰なのかは不明だが、GoogleやFacebookなどが2014年当時に建設していたデータセンターが、このクラスの距離をちょうど必要としていた。また、MicrosoftがMSAに加盟しているあたりから、同社も似たようなニーズを抱えていたように思われる。

「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める規格策定を目指す

 これに先立つ2010年には、長距離向けに「100GBASE-LR4/ER4」が、単距離向けに「100GBASE-SR10」が、いずれも「IEEE 802.3ba-2010」で策定されている。

 ただし、前者はSMF×4の構成で10または40kmの到達距離を目指し、それなりの光源出力が必要となるので、安価とは言えず短距離接続へ用いるのに無駄が多い。後者はMMF×10なので1本あたりのファイバーは安価だが、10本も束ねるとそれなりになってしまうし、OM3では100m、OM4でも150mしか届かない。これは小規模なデータセンターや、少し大規模なマシンルームであればカバーできるが、ある程度本格的なデータセンター向けには距離の面で全然足りないのだ。

 ちなみにこの時期は、「100GBASE-SR4」を含む「IEEE 802.3bm-2015」の策定作業も進んでいたが、その100GBASE-SR4でも到達距離はOM4で100mだったから、やはり不足に変わりはない。

 そして、100GBASE-LR4と100GBASE-SR10/SR4の間を埋める規格を策定することが100G PSM4 MSAの目的となった。

 MSA結成の3カ月後となる2014年3月5日には、早くも100G PSM4 Specification 1.0がリリースされる。基本的な構造は以下の通りで、もう本当に4対のSMFを並べて送り出しているだけだ。このレーンは25.78125GBdのNRZ変調信号を通しているだけで、その意味では100GBASE-SR4とほぼ同じ。相違点はSMFを利用することで、このために波長1310nmの光源を利用している。

4つのレーン間の同期などについては、上位層にお任せである。出典は"100G PSM4 Specification"のFigure 2

 ただしBERは5×10^-5未満、と規定されている。これは100GBASE-SR4の生のBERと同じで、このままでは利用できない。そこで100GBASE-SR4と同様、「RS-FEC」が利用されることになっている。以下は「P802.bm Task Force」で2013年7月に開催されたミーティングに100G PSM4 MSEが呼ばれて状況を説明したときの資料だ。

斜線の部分が100G PSM4で新規に策定する部分。出典は"500 m SMF PSM4 Draft text update"

 要するに、標準化の作業はMSA成立前からずっと進んでいた格好だ。話を戻すと、このFECについては100G PSM4 MSAの対象範囲外になっている。Specificationでも明示的に「"IEEE 802.3bj Clause 91(RS-FEC)"に準ずる」とされ、FECに関しては100GBASE-SR4と同じ仕組みが採用されることになった。

間口を広くして低コストに、「OIF CEI-28G VSR」や「InfiniBand EDR」へも対応

 100G PSM4 MSAのターゲットは、先に書いた100GBASE-LR4と100GBASE-SR10/SR4のギャップを埋めることがメインではあるが、「OIF CEI-28G VSR」や「InfiniBand EDR」などにも対応できるとしている。前者は純粋にプリント基板上における電気的インターフェースの話であり、以下の図で言えばホストICとモジュールの間の規格となるが、ここにCEI-28Gを採用しても問題ないという話である。

100G PSM4モジュールそのものは、確かにどれでも簡単に対応できそうだ。出典は"100G PSM4 Specification"のFigure 1

 一方のInfiniBand EDRは、やはりレーンあたり25Gbpsで、x4構成ならば“理論上は”100G PSM4との置き換えが可能だ。もっとも、InfiniBandで(Mellanox製モジュールの代わりに)100G PSM4が採用されたという話は、筆者が知らないだけという可能性はあるが、全く聞いたことがない。

 100G PSMがなぜこんなに応用範囲を広く取ったかと言えば、間口を広く取った方がさまざまな顧客に対応でき、出荷量が伸びる目途が立てやすいという話のほかに、値段を下げやすいというメリットもあったからだ。

 そもそも100G PSM4 MSA設立の動機の1つに、もともと日立研究所とOpnextが共同開発していた「LISEL(Lens Integrated Surface Emitting Laser)」という光源技術がある。LISELは、以下左のようにレーザー光源とレンズを一体化した構造を採用していて、コストだけでなく効率の面でも非常に有利としている。

レンズ一体型で、しかも4チャンネル分の光源がワンパッケージになっているので、実装コストが大幅に下げられる
従来型構造(EELD)に比べ、光源とレンズの距離が近くできるのも効率向上の一因。出典は"PSM4 Technology & Relative Cost Analysis Update"

 実際のところ100GBASE-SR10/SR4では、例えば大規模データセンター内での接続において、100mという到達距離に不足がある。さらに言えば、出力を上げて最大200mまで伸ばした非標準の「100GBASE-XSR4」について、Aristaのデータシートを確認すると、OM3で150m、OM4で300mとしているモジュールも存在はするものの中途半端だ。

 結局、利用できるのは「100G MSR4」か、次回説明する「100G CWDM4」ということになる。「100GBASE-CWDM4」は到達距離最大2kmと長い割にファイバーは送受信1本ずつで計2本で済むメリットがある。配線コストを考えると、敷設コストそのものは変わらないが、ファイバー代そのものは100GBASE-CWDM4では4分の1で済む計算だ。

 他方で、トランシーバーはこの当時、圧倒的に100G MSR4の方が安価だ。100G MSA用の光ケーブルはそのまま400GBASE-DR4にアップグレード可能なので、将来400Gの帯域が必要になったとしても、モジュールの入れ替えだけで済む点もメリットとされた。

 ちなみにFSなどでは、100G to 100Gだけでなく、まだ片方が25Gスイッチの場合、シームレスに移行できるオプションを提供しているが、これはちょっと特殊な例という気もする。

100Gの1:1接続。ごく当たり前の話だ。出典は「QSFP 100G PSM4光モジュールについて」(FS)
25Gスイッチ側に25G SFP28 LRモジュール×4を入れ、100Gポートへ接続。あくまで移行途中でしか役に立たない気はする

 ちなみにここでの価格は2014年頃の話であり、現状では100G CWDM4モジュールの価格も大分こなれてきた結果、100G MSA4と大差ないレベルになっているそうだ。あとはデータセンター内の配線や、パッチパネルの構成などを勘案して選択されるという格好になっているという。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/