期待のネット新技術
最大400Gbpsながら高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年3月9日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「400GBASE-SR4.2」が製品化されない理由は技術面よりコスト
「400GBASE-SR4.2」については、2020年の標準化完了から1年以上が経過しているのにもかかわらず、今のところモジュールが製品化された、という話が全くない。
2019年9月にダブリンで開催されたECOC 2019においてFinisarが行った相互接続デモの様子を、Finisarを買収したII-VIがYouTubeへアップロードしているが、このときはFinisarとFOIT(Foxconn Optical Interconnect Technology)がそれぞれ400GBASE-SR4.2のモジュールを用意し、間を100mのMMFで繋いてエラーレートが十分低いことを示していた。
にもかかわらず、Finisar(現II-VI)にしてもFOIT(現在はBoradcomのOptical Systems Division)にしても、400GBASE-SR4.2のモジュールをリリースしていない。II-VIのウェブページでOptical Transceivers(光トランシーバー)を確認しても、MMFで400Gbpsの製品を1つもラインアップされていない。
これはBroadcomでも同様だし、CiscoやAristaでは「400GBASE-SR8」対応製品こそラインアップしているが、400GBASE-SR4.2に関しては全く何もない。
こうした大手メーカーが出さなければ、互換メーカーからも何も出てこないのは当然であり、FSなどからも400GBASE-SR4.2対応製品は全くラインアップされていない。
その理由については当然ながら明らかにされていないが、やはり最大の理由は技術面より商品としての問題であり、要するにコストが思ったほど下がらなかったようだ。
400GBASE-SR4.2で利用する光ファイバーの本数は、400GBASE-SR8の半分で済む。最近はデータセンターでラックを借りて運用する場合、光ファイバーの本数に応じた追加費用が必要になるとの話もある(ラック間接続の場合)ので、長期的に運用するならTOCを低減できる、という話は、400G BiDi MSAが元々発していたメッセージでもある。
とはいえ、そもそも10年も20年も400Gで運用するわけではなく、もし仮に将来、より高速な規格が出てくれば更新される可能性がある。このため、せいぜい数年、それも5年未満で差額を償却できなければいけない。
ところが、トランシーバーモジュールの初期コストが、この償却分を埋め切れないほど高価ならば、誰も400GBASE-SR4.2に目を向けないだろう。なぜそんなに高コストになったのかは不明だが、BiDiを構成するためのMux/Demuxを入れるのがそれだけ厳しかった、ということだろうか。PAM-4に関しては、400GBASE-SR8も似たようなものだからだ。
標準化が完了後からまだ1年なので、もう少し待てば市場に出てくる可能性がゼロではないが、少なくとも400GBASE-SR8にやや遅れを取っているのは間違いない。
26.5625GHzのPAM-4で50Gbpsを通す「50GBASE-SR/100GBASE-SR2/200GBASE-SR4/400GBASE-SR8」の各規格
ついでに、その400GBASE-SR8というか「50GBASE-SR/100GBASE-SR2/200GBASE-SR4/400GBASE-SR8」についてもまとめて紹介しよう。50GBASE-SRそのものは『50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」』で説明した通り、840~860nmの光源を利用し、26.5625GHzのPAM-4で50Gbpsを通す規格だ。
ただ、BiDiと異なり、送受信で1本ずつ、トータル2本の光ファイバーを利用する。OM3での到達距離は70m、OM4/5は100mである。4規格のレイヤー構成が右の図で、外から見ればPCSへのインターフェースが50GMII/CGMII/200GMII/400GMIIと、どんどん広がっているだけで、その先は同じに見える。
その中身にしても、以下のTransmit/Receive Pathの図は、単にレーン数が増えるだけで、構造そのものは全く同じだ。
Transmit Parameter(以下左)に至っては「IEEE 802.3cd-2018」の定義そのままで、Receive Parameter(以下右)に目を転じても、違いはTableの下の脚注gが"Only applies to 100GBASE-SR2 and 200GBASE-SR4."から"Only applies to 100GBASE-SR2, 200GBASE-SR4, and 400GBASE-SR8."に変わっているだけだ。
50GBASE-SRから400GBASE-SR8までの違いはレーン数とMPOコネクタ形状のみ
要するに50GBASE-SRから400GBASE-SR8まで、個々のレーンについては特性などに一切変更がなく、純粋に数だけが違う。
一方で、明確に違うのがPMD Receptacleである。要するにMPO光コネクタの形状なのだが、1対2本の50GBASE-SRから4対8本の200GBASE-SR4までは12ピンのMPO(以下左)でカバーできるが、8対16本の400GBASE-SR8の場合は12ピンのMPOではカバーできない。そこで16ピンないし24ピンのMPO光コネクタ(以下右)を使うこととなっている。
そんなわけで、仕様として明確に異なるのは、レーン数そのものとMPOコネクタの機械的形状くらいであり、電気光学的特性に関して言えば完全に一致していることになる。このためか、IEEE P802.3cm Task Forceでも(400GBASE-SR8に関しては)あっさり仕様策定が完了している。
実際、400GBASE-SR8に関しては初回になる2018年5月のミーティングでは、MPO光コネクタでサポートするのは16ピンと24ピンのどちらかと、24ピンの割り当てに関して議論があっただけだ。その決着がついた後は、そもそも400GBASE-SR8ではほとんど議論らしい議論はなかったようだ。それだけスムーズに決まったというのは喜ばしいことではある。
そして、400GBASE-SR8はコストも手ごろだ。国内の例で言えば、例えばFSのQSFP-DDモジュール一覧を見ると、400GBASE-SR8互換モジュールは唯一10万円台で入手できるし、FiberJP.comのQSFP-DDモジュール一覧を見ても似たようなものだ。
とはいえ、ほかの規格はSMF対応で到達距離が500m~10kmのものばかりで、MMF対応で100mの400GBASE-SR8とは市場が違うため、価格そのものにはあまり意味がないのだが、かなりお手頃感はある。
ただそれでもまだ「相対的に高い」感じは否めない。例えばFSで100GBASE-SR4対応のモジュールを検索すると1万円そこそこであり、これ4つを並べた方が初期投資では安い、ということになる。
もちろん、慢性的に帯域不足に悩まされていて、「100G×4では絶対的に足りない」(そもそも400Gの×2や×4構成が前提で、100G×8とか×16は非現実的)といった場所はともかく、通常のラック内接続で考えれば100G×4でも十分では?という議論は当然起こりえるからだ。
その意味では400GBASE-SR8は現状ではまだ高価な部類で、もう少し価格が下がらないと本格的な普及には至らない気がする。なるほど、さらにに高価になりそうな400GBASE-SR4.2のモジュールがさっぱり出てこないのも、致し方ないところであろう。
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