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10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

ベンダー独自の10Gbps規格「10GBASE-ZW/ZR」や「10GBASE-SRL」

 今週からは、いよいよ100Gbpsの規格を紹介していこう。厳密に言えば、10G Ethenetでもまだ「10GBASE-ZW/ZR」や「10GBASE-SRL」といった規格は存在するのだが、これはIEEEで標準化されていないベンダーの独自規格である。

 10GBASE-ZW/ZRは、「SMF」を使って最大80kmまでの到達距離を確保した規格で、Ciscoをはじめ複数のベンダーから出荷されているが、ベンダー間での互換性が取れておらず、同一ベンダーの製品間でのみ利用可能とされている。

 一方の10GBASE-SRLは、Arista Networkからモジュールが提供されているものだが、10GBASE-SRと同じで、到達距離だけが100m(10GBASE-SRは300m)に伸びたというものだ。LはLiteの意味らしいが、何をLiteにしたのかは少し調べたが分からなかった。こちらは独自規格ということなので、本連載では詳細の解説は割愛したい。

「IEEE 802.3ae」で定義された“10GbEの次”

これは予測値で、実際はもう少し10Gポートの増え方は大きいが、スイッチの出荷台数が増えて嬉しいという単純な話でもない

 さて、100Gである。もともと「IEEE 802.3ae」のTask Groupは、2001年中にほぼ作業を完了しており、後は「IEEE 802.3ap」(10GBASE-T以外の銅配線)の作業が2007年ころまであったものの、HSSG(High Speed Study Group)の関心が、10GbEの次へと注がれていたのは当然だろう。

 HSSGによる「10GbEの次」に関する最初のミーティング(Call for interest)は、2006年7月18日に行われた。ただし、マーケット向けでは、Bandwidth Aggregationが既に広く行われていて、このままではグラフのように、ポートが爆発的に増える方向となる雲行きだった。

 その背景として、コンテンツプロバイダーのバックエンドは2006年の時点で全く足りておらず、この後もさらなる不足が予測されていた。

10GbEポートを6本と4本で束ねていたというあたり、既に10Gでは全然足りていなかったことになる
現在ではインターネットトラフィックの9割強が動画系で占められている。ビデオオンデマンドが市場を牽引するとの予測は非常に正しかったわけだ。なお、2006年の時点で、既にセクションあたり70Gbpsのリンクが必要とされていた

 既にサービスプロバイダーでもコアネットワークでは10GbEを束ねて使っており、この調子で行けば2010年にはバックボーンに10GbEを100本束ねる必要が出てくるといった、インフレ著しいような予測も述べられていた。もっとも、この当時から見てややインフレ気味だったこれらの数字は、結果から見てほぼこれに沿って帯域が増えていったので、大げさでも何でもなかったわけだ。

 余談だが、この時のミーティングでは、当時の日本におけるトラフィックも紹介されている。アメリカだけでなく2006年当時の日本においても、もう10Gbpsの帯域では足りなくなるという感触となっていたわけだ。

さすがに100本束ねるとなると、スイッチの側も相当なものが必要となる。データセンターがサーバーではなくスイッチで満ち溢れてしまうのは流石にどうか、という気がする
「AMS-IX」における2006年までの実測値を基に2012年までを推定した左下のグラフも地味に恐ろしい

 ここまでがマーケットニーズ編となるが、ではシーズの方は?というと、既存の10GbEが90~130nmプロセスで製造されているのに対し、次の世代では45~65nmプロセスが利用可能になるから、より多数のデータパスを、より高い動作周波数で利用できるだろう、という見通しが語られている。

これが富士通のASICプロセスというところが、今から考えると泣ける。結果から言えば富士通での製造プロセスは45/40nm止まりとなり、この先はTSMCに移っていく
これはあくまでMux/Demuxやフィルター、導光経路をSiliconで作るという話であり、Silicon Photonicsではない

 また、レーザーダイオードについても、右上のようにSilicon Opticalの進展が示され、左下のように既に10波長の10G DWDM(Dense Wavelength-Division Multiplexing:高密度波長分割多重)の動作サンプルがあることや、40Gbpsに関しては既に商用可能な製品もあり、右下のように10Gbps×12も視野に入っていることなどが語られた。

1526~1542nmの間で、波長ではほぼ2nmおきに10本の信号を同時に生成可能としている
SNAP12はReflexPhotonicsの製品で、この後75Gbpsのものも追加されている。ただ、送受信はSiGeでそれほど安価にならない点が問題か。ここまでのスライドの出典は"Higher Speed Study Group Call-For-Interest"
2006年中は100Gが議論の中心だったが、2006年末あたりから、40Gと100Gの二本立てという方向性に変わってきた。出典は"HSSG Objectives"

 というわけで、より高速な100Gに向けたニーズとシーズの両方がある以上はやるべきだ、というのがこのミーティングの結論であり、実際このあとIEEEはWorking Group結成に向けてHSSGでのミーティングを積み重ねていくが、実はここからが長かった。

 そして最終的にHSSGのObjectiveが定まったのは、1年後となる2007年7月のミーティングのことだ。

 その理由を端的に言えば、いきなり100Gに行くの無理だったから、ということになる。2007年1月のミーティングでは、100Gの実現可能性に関しての評価結果が出ているが、2×50Gbpsですらかなり厳しいとされ、実際に実現できそうなのは、10×10Gbps/5×20Gbps/4×25Gbpsあたりという状況だった。

技術的可能性をまとめたものだが、2×50Gbpsに関しては、DML(Directly Modulated Laser:直接変調レーザー)の利用はもう無理、となっていた。出典は"Technical Feasibility of SMF & MMF 100GE Transceivers"
コスト面での比較はいずれもlow~midで、辛うじて2×50GbpsでEML(Electro-absorption Modulator integrated with DFB Laser:電気吸収変調レーザー)を1310nmで使うものだけが比較的マシとされた

 このあたりを受け、「100Gbpsはもちろん狙うが、それとは別に40Gbpsも追加しない?」という議論が出てきた。もっとも当初は紛糾しており、2007年4月に発表されたアンケート(PDF)では、以下のような結果となっていた。

YesNo棄権
HSSGのMAC/PLSに40Gbpsをいれるべき?222424
40Gbpsにはマーケットがあると思う?242426
40Gbpsにはマーケットがあると思う?233236

 否定派がやや優勢ではあるのだが、棄権が最大多数というあたり、そうそう判断が付くものではないことが分かる。ただ、この40Gbpsに関しては、以下のような試算が示されるなど、徐々に外堀を埋めていくかたちで、標準化に向けて進展していった。

  • 2015年には40GbEのコントローラーは10GbEのものと同等のコストなら1.7倍の消費電力で実現できる
  • 2015年には40GbEのコントローラーは100GbEのものの0.6倍のコストなら、0.5倍の消費電力を実現できる
  • 40GのPMDの価格(ケーブル含む)は、2011年には100GbEのおよそ0.4倍のコストで実現できる

 ただ、2007年5月のミーティングに際して行われたディベートの結論は、以下左のスライドのようにいったんは否定されている。ただ、その後の2007年6月にはITUがこの40GbEをサポートすることを通告しており、結果的に一部を修正したかたちで40GbEを100GbEとともに標準化する案が通り、これが先のHSSG Objectivesに繋がったわけだ。これを受けて、2007年12月にIEEE P802.3ba Task ForceのPARが承認され、2008年1月から作業が始まることになる。

"HSSGは40GのPARを進めるべきではない。(100Gとの)差別化も、投資を正当化するだけの理由も不十分で、何より業界を混乱させる"というのがディベートの結論であった。出典は"40G, 100G Ethernet or Both…How do we proceed?"
2007年7月のミーティングのオープニングの挨拶から。この後100Gと40Gは、よく似た規格ながら別々に標準化に向けて進むことになる。出典は"IEEE 802.3 Higher Speed Study Group Opening Plenary Report San Francisco, Ca July 16, 2007"

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/