期待のネット新技術
10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年6月23日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
ベンダー独自の10Gbps規格「10GBASE-ZW/ZR」や「10GBASE-SRL」
今週からは、いよいよ100Gbpsの規格を紹介していこう。厳密に言えば、10G Ethenetでもまだ「10GBASE-ZW/ZR」や「10GBASE-SRL」といった規格は存在するのだが、これはIEEEで標準化されていないベンダーの独自規格である。
10GBASE-ZW/ZRは、「SMF」を使って最大80kmまでの到達距離を確保した規格で、Ciscoをはじめ複数のベンダーから出荷されているが、ベンダー間での互換性が取れておらず、同一ベンダーの製品間でのみ利用可能とされている。
一方の10GBASE-SRLは、Arista Networkからモジュールが提供されているものだが、10GBASE-SRと同じで、到達距離だけが100m(10GBASE-SRは300m)に伸びたというものだ。LはLiteの意味らしいが、何をLiteにしたのかは少し調べたが分からなかった。こちらは独自規格ということなので、本連載では詳細の解説は割愛したい。
「IEEE 802.3ae」で定義された“10GbEの次”
さて、100Gである。もともと「IEEE 802.3ae」のTask Groupは、2001年中にほぼ作業を完了しており、後は「IEEE 802.3ap」(10GBASE-T以外の銅配線)の作業が2007年ころまであったものの、HSSG(High Speed Study Group)の関心が、10GbEの次へと注がれていたのは当然だろう。
HSSGによる「10GbEの次」に関する最初のミーティング(Call for interest)は、2006年7月18日に行われた。ただし、マーケット向けでは、Bandwidth Aggregationが既に広く行われていて、このままではグラフのように、ポートが爆発的に増える方向となる雲行きだった。
その背景として、コンテンツプロバイダーのバックエンドは2006年の時点で全く足りておらず、この後もさらなる不足が予測されていた。
既にサービスプロバイダーでもコアネットワークでは10GbEを束ねて使っており、この調子で行けば2010年にはバックボーンに10GbEを100本束ねる必要が出てくるといった、インフレ著しいような予測も述べられていた。もっとも、この当時から見てややインフレ気味だったこれらの数字は、結果から見てほぼこれに沿って帯域が増えていったので、大げさでも何でもなかったわけだ。
余談だが、この時のミーティングでは、当時の日本におけるトラフィックも紹介されている。アメリカだけでなく2006年当時の日本においても、もう10Gbpsの帯域では足りなくなるという感触となっていたわけだ。
ここまでがマーケットニーズ編となるが、ではシーズの方は?というと、既存の10GbEが90~130nmプロセスで製造されているのに対し、次の世代では45~65nmプロセスが利用可能になるから、より多数のデータパスを、より高い動作周波数で利用できるだろう、という見通しが語られている。
また、レーザーダイオードについても、右上のようにSilicon Opticalの進展が示され、左下のように既に10波長の10G DWDM(Dense Wavelength-Division Multiplexing:高密度波長分割多重)の動作サンプルがあることや、40Gbpsに関しては既に商用可能な製品もあり、右下のように10Gbps×12も視野に入っていることなどが語られた。
というわけで、より高速な100Gに向けたニーズとシーズの両方がある以上はやるべきだ、というのがこのミーティングの結論であり、実際このあとIEEEはWorking Group結成に向けてHSSGでのミーティングを積み重ねていくが、実はここからが長かった。
そして最終的にHSSGのObjectiveが定まったのは、1年後となる2007年7月のミーティングのことだ。
その理由を端的に言えば、いきなり100Gに行くの無理だったから、ということになる。2007年1月のミーティングでは、100Gの実現可能性に関しての評価結果が出ているが、2×50Gbpsですらかなり厳しいとされ、実際に実現できそうなのは、10×10Gbps/5×20Gbps/4×25Gbpsあたりという状況だった。
このあたりを受け、「100Gbpsはもちろん狙うが、それとは別に40Gbpsも追加しない?」という議論が出てきた。もっとも当初は紛糾しており、2007年4月に発表されたアンケート(PDF)では、以下のような結果となっていた。
Yes | No | 棄権 | |
HSSGのMAC/PLSに40Gbpsをいれるべき? | 22 | 24 | 24 |
40Gbpsにはマーケットがあると思う? | 24 | 24 | 26 |
40Gbpsにはマーケットがあると思う? | 23 | 32 | 36 |
否定派がやや優勢ではあるのだが、棄権が最大多数というあたり、そうそう判断が付くものではないことが分かる。ただ、この40Gbpsに関しては、以下のような試算が示されるなど、徐々に外堀を埋めていくかたちで、標準化に向けて進展していった。
- 2015年には40GbEのコントローラーは10GbEのものと同等のコストなら1.7倍の消費電力で実現できる
- 2015年には40GbEのコントローラーは100GbEのものの0.6倍のコストなら、0.5倍の消費電力を実現できる
- 40GのPMDの価格(ケーブル含む)は、2011年には100GbEのおよそ0.4倍のコストで実現できる
ただ、2007年5月のミーティングに際して行われたディベートの結論は、以下左のスライドのようにいったんは否定されている。ただ、その後の2007年6月にはITUがこの40GbEをサポートすることを通告しており、結果的に一部を修正したかたちで40GbEを100GbEとともに標準化する案が通り、これが先のHSSG Objectivesに繋がったわけだ。これを受けて、2007年12月にIEEE P802.3ba Task ForceのPARが承認され、2008年1月から作業が始まることになる。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
- 622Mbpsを32台のONUで分割、ATMがベースの「ITU G.983.1」仕様
- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
- XG-PON後継、上りも10Gbpsの「XGS-PON」と「NG-PON2」
- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
- 最大100Gbpsの「100G-EPON」、2020年に標準化完了
- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー