期待のネット新技術
400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、IEEEの「400GBASE-SR8」を先行で規格化
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年2月9日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
『IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場』で説明した400Gの規格のうち「CWDM8 MSA」は前回説明した通りだ。
「100G Lambda MSA」については『SMF1対で最大100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」と、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」』と『最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」』で解説しているので、今回は「400G BiDi MSA」をご紹介したい。
と言いつつ、現時点ではなぜか筆者宅から400G BiDi MSAのサイトにアクセスできない(というか、こちらもサーバー落ちてる?)ので、Internet Archiveに保存された内容をベースに紹介したい。
光ファイバー1本で最大400Gを双方向通信する規格を策定する「400G BiDi MSA」
2017年7月17日、400G BiDi MSAが設立される。この時点での設立メンバーは、Alibaba、Broadcom、Cisco、Corning、FIT(Foxconn Interconnect Technology)、InnoLight Technology、Inphi Corporation、住友電工の8社。これに、加盟時期は不明だがFinisarを加えた9社が2020年におけるMSAのメンバー企業だ。
もっとも、FinisarもFounding Members扱いになっているし、P802.3cmの動向を見ていると、早いタイミングでFinisarも参加しているあたり、Finisarもほぼ当初からのメンバーと考えていいのかもしれない。
さて、400G BiDiについては『1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」』でも少し名前が出てきたが、このBiDiは"Bi-Directional"の略で、1本のファイバーでWDMを使って双方向通信を行う規格である。
ここで言う「1本のFiber」は、上り下りで1本の光ファイバーを共用するという意味で、Ethernetで言えばPON向け(例えば「10G-EPON」)などでは多用されてきたが、データセンター向けとしてはやや珍しい。
100GBASE-SR4の光ファイバーで400G通信を可能に、「400GBASE-SR8」に先んじて規格化
というのは、PONはFTTH向けなど配線距離が異様に長く、さらに多い場面で使われるので、WDMを入れるコストを考えても配線を減らした方が安く付く。一方、データセンター向けではWDMを入れる方が通常は高くなる。にもかかわらず、400G BiDi MSAではWDMを入れてまで配線数を減らしたのは、やや特殊なニーズを想定したものだったのだろう。
そのニーズとは、以下の仕様に基づく、データセンターあるいはラック内ないしラック間の低価格な400Gソリューションに向けたものだ。
- MMFを利用
- 配線長100m以上
- トータルで400Gbps
まずMMFというのがポイントで、これは要するに「100GBASE-SR4」向けの光ファイバーを再利用して400Gを通したい、というニーズに応えたものだ。
100GBASE-SR4を利用し、すでにラック内ないしラック間接続を行っている用途向けに、400Gへのアップグレードパスを安価で提供することを目標としているわけだ。このため、配線長は100GBASE-SR4と同様、100m以上あればいいことになる。
ちなみに、この400G BiDi MSAが結成されて間もない時期に、IEEEは"802.3 Next-generation 200 Gb/s and 400 Gb/s MMF PHYs Study Group"を結成していた。その最初のミーティングは2018年1月に行われており、同年5月にはStudy Groupから"IEEE P802.3cm 400 Gb/s over Multimode Fiber Task Force"へ昇格している。
実はこのP802.3cm Task Forceと400G BiDi MSAのメンバーはかなり重なっており、Task Forceの最初のミーティングでは、叩き台であるBaseline ProposalをFITのJonathan Ingham氏が出しているのだが、それ自体が400G BiDi MSAからプレスリリースされている。
その意味では、400G BiDi MSAはIEEE 802.3cmで標準化された「400GBASE-SR8」を、標準化に先んじて規格化したものと言えなくもない。なぜこのように二重の手間を掛けたのかが以下のようにFAQで触れられている。
FAQ 4:Why does the industry need another 400 Gbps optical specification?
The successful industry adoption of MMF BiDi technology is based on its ability to support the commonly installed fiber infrastructure at new, higher speeds. While there is a robust series of 400G optical interfaces being specified for single mode fiber solutions, the only 400 GbE multimode standard that has been defined by the IEEE is 400GBASE-SR16 (Clause 123 of IEEE Std 802.3-2018) using 16+16 optical fiber. The IEEE has begun standardization of 400GBASE-SR8 (expected to be an amendment to Clause 138 of P802.3cd) using 8+8 optical fiber, but this solution is not compatible with existing and commonly deployed 4+4 optical fiber infrastructure (such as used with 100GBASE-SR4 and 40GBASE-SR4). The 400G BiDi specification provides a solution for 4+4 optical fiber.FAQ 4の訳:なぜ業界には400Gbpsに対応した新たな光ファイバーの仕様が必要なのか?
MMF BiDi技術が業界に受け入れられているのは、広く敷設されている光ファイバー上で、より高速に転送できることに拠ります。SMF用の400G光インターフェースは堅実な選択がなされている一方、IEEE唯一の400GbE対応MMF規格は16+16光ファイバーを使用する「400GBASE-SR16」だけです。IEEEは、8+8光ファイバーを用いた「400GBASE-SR8」の標準化を開始していますが、このソリューションは既存の一般的に利用されている(「100GBASE-SR4」や「40GBASE-SR4」で使用されているような)4+4光ファイバーとは互換性がありません。400G BiDi仕様では、4+4光ファイバー用のソリューションを提供します。このようにFAQの4では、40GBASE-SR4や100GBASE-SR4が既に利用されている環境でのアップグレードを狙っていることが明らかにされている。
FAQ 8:What about the IEEE ? Why has the MSA formed rather than doing this in the IEEE?
The MSA members recognize the value having optical interfaces being defined in IEEE specifications for their long term utility and adoption by the industry. The MSA members, seeing the short term industry need to establish some industry specifications quickly, decided to work together to enable rapid dissemination of common specs across the industry. The members expect that the IEEE will progress on these important industry specifications and therefore the MSA members have chosen to very closely follow IEEE methodologies in their technical work with the hope that when the IEEE initiates its work, they will be able to strongly leverage the work of the MSA.FAQ 8の訳:IEEEはどうなんでしょう? IEEEでこれを行わず、MSAが結成されたのは?
MSAのメンバーは、長期的な有用性と業界での採用のために、IEEEにおける標準化の価値は認識しています。その上でMSAのメンバーは、業界において仕様の確立を迅速に行うことが短期的に必要であると考え、(MSAを通して)共通の仕様を普及させるために協力することを決定しました。このような重要な業界仕様については、今後IEEEでの作業が進展することが予想されるため、MSAのメンバーはIEEEの方法論に沿って技術的な作業を行うことを選択しました。FAQの8では、要するに後追いでIEEEにより標準化がなされることを前提に、これ(つまり400GBASE-SR8)と互換性を持たせる格好(というか400GBASE-SR8と同じスペックにしつつ、ただし標準化が完了するまではあくまでもMSAとしてのスペックとして作業を行う)で標準化作業を行おう、というわけだ。
余談になるが、当然のごとくIEEEでは話題がさまざまに広がった結果、「IEEE 802.3cm-2020」では50GBASE-SR/100GBASE-SR2/200GBASE-SR4/400GBASE-SR8の4つの規格が制定されることになった。
しかし、400G BiDi MSAは400Gのものだけしか定義されていない。MSAとしては、こうした幅広い規格の制定の重要さは理解しつつも、「とにかく400Gを早く」となるわけで、その結果がこのようにリリースが先行するかたちになったと考えれば、理解できる動きではある。
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