期待のネット新技術
最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年4月27日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「中国系企業のネットワークの課題解決」のため、2019年9月に結成された「800G Pluggable MSA」
今回は最後の800G向けMSAである「800G Pluggable MSA」について。ETC(Ethernet Technology Consortium)やQSFP-DD800 MSAよりも情報が豊富に出ている上、800GのPMDに関する仕様も一応は出ており、もう少し前向きとは言えるかもしれない。まずは、MSA結成時のプレゼンテーションをベースに紹介しよう。
800G Pluggable MSAは、2019年9月6日に結成された。当初のメンバー企業は、Accelink、CTTL(China Telecommunication Technology Labs)、H3C、Hisense Broadband、Huawei、Inphi、Luxshare、住友電工、Tencent、山一電機の10社だ。
その後、Baidu、CIG、富士通、Lumentumも加わり、現在14社がPromotorとなっているほか、Contributorが26社で合計40社という、MSAにしては大規模なものになっている。なお結成時のリリースの日付が9月10日になっているが、これは中国語から英語への翻訳に手間取ったようで、オリジナルのリリースは9月6日付だ。
さて、この2019年9月6日のMSA結成発表会は、当時深圳コンベンションセンターで開催されていた「CIOE(China International Optoelectronics Expo) 2019」にあわせて発表された格好だ。最初の10社もそうだが、そもそも大半が中国系企業というあたりからも、このMSAの性格が「中国系企業のネットワークの課題に対する解決案を出す」という方向性であることが見て取れる。
2年で倍に増えるスイッチング容量、必然的に回線速度にも高速化のニーズが
さて、MSAの説明であるが、なぜ800Gなのか? に対する回答が以下左の図だ。スイッチは、おおむね2年に倍という早いペースでスイッチング容量が増えており、回線速度も必然的に高速化が求められるわけだ。
一方でトランシーバモジュールのマーケット(以下右)を見ると、今はまだ100Gが圧倒的で、200/400Gがゆっくり立ち上がる状況だが、2021年あたりから次第に立ち上がるとの動向とされる2×400Gのマーケットは、潜在的には800Gモジュールのマーケットと重なるため、早めに立ち上げれば上手くマーケットがつかめる、というわけだ。
こうしたマーケットをつかむため、光側のインターフェースを早めに策定するとともに、基本的なコンポーネントをMSAベースでそろえることで、早期にマーケットへトランシーバーモジュールを提供でしようというのが、800G Pluggable MSAの目的とされる。
その800G Pluggable MSAのターゲットは、案外に欲張りというか、100m以下のラック内接続から、2kmのデータセンター内接続まで、幅広い範囲でカバーしたいとしている。
短距離はPSM8ないしPSM4、長距離はCWDM4と、3つの変調方式を採用
変調方式も短距離はPSM8ないしPSM4、長距離はCWDM4を使う方向で検討するとされ、実際、モジュールの例として、この3つが示された。要するに方式は1種類ではないわけだ。
ホストへのインターフェースで言えば、8×100Gないし4×200Gとなるのでいいのだが、問題は光インターフェースの方だ。200GのPSM4ということは、要するに『53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbpsを実現する「400GBASE-DR4」』で紹介した「400GBASE-DR4」の2倍の速度(つまりクロック112GのPAM4)ということになる。さすがにこれは敷居が高そうに見える。
そして、これは誰しもが思うことなのだろう、Technical Feasibilityが次のスライドできちんと示された。
残念ながらこのときデモとして実行された内容や、その環境などは既に不明なのだが、224G PAM4であっても、ROP(Received Optical Power)が-6dBm以上あればBERは2×10^-4以下に落ちるという実験結果が示されている。このエラー率は、適切なFECを組み合わせることでカバーできるものであり、技術的には不可能ではない、というわけだ。
最後が、そもそもモジュール構造にするかどうかという話だ。少し話が長くなるが、電気信号の場合は、112Gを通すのも結構大変である。10年くらい前は、10Gは何とか通るが28Gが通らないという状況で、それ以前だと10Gも厳しいという話だったことを考えれば、この間の技術の進歩は凄まじいという気になるが、それはそれだ。
チップとコネクタを結ぶスイッチの内部配線に高速信号を通す各種の規格
さて、そのスイッチ内部では、数10cmの配線がどうしても必要となる。比較的シンプルなスイッチの内部構造は、以下の図のようになっているが、要するに中央にスイッチチップが鎮座し、そこにコネクタからの配線が繋がる格好となる。
ここで基板中央のコネクタの場合、配線の距離は10cm未満で収まるが、一番端のコネクタだとざっくり30cm近い距離になることが珍しくない。こうした「長い」配線を基板上で通す事そのものは別に難しくないが、ここで高速信号を通すのは非常に難易度が高い。
こうしたスイッチの上で高速信号を通すための規格は、OIF(The Optical Internetworking. Forum)でいろいろ審議された上で標準化が完了しており、例えば56Gに関しては2017年12月に「OIF CIE 4.0」として標準化が行われている。ちなみにこの56Gでは、以下の6種類が規定されている。
- CEI-56G-VSR(Very Short Reach)-PAM4
基板上の配線は125mm以内、モジュール内で25mm - CEI-56G-MR(Medium Reach)-PAM4
基板上の配線が500mm以内 - CEI-56G-USR(Ultra Short Reach)-NRZ
ICのパッケージ内での接続で最大10mm以内 - CEI-56G-XSR(eXtra Short Reach)-NRZ
基板上の配線で50mm以内 - CEI-56G-LR(Long Reach)-PAM4
基板上の配線で1000mm以内 - CEI-56G-LR-ENRZ
CEI-56G-LR-PAM4と同じく1000mm以内だが、変調方式がNRZの派生型であるEnsemble NRZ
これに続くのが、112Gに対応した「CEI-112G」であるが、こちらはまだ現時点では仕様(というかImplementation Agreements)が完成していない(現時点ではドラフトが出ているだけ)。一応こちらも以下のように仕様がまとまる予定だ。
- 112G-MCM(Multi Chip Module)
CEI-56G-USRに相当。パッケージ内のダイ同士の接続(10mm以内) - 112G-XSR
CEI-56G-XSR-NRZに相当。パッケージ内のダイ同士、およびダイとOE(Optical Engine)を接続するもの - 112G-VSR(Very Short Reach)
チップとモジュールを接続するもの。これもおそらくCEI-56G-XSR-NRZに相当 - 112G-MR
CEI-56G-MR-PAM4に相当。500mm以内の配線に対応 - 112G-LR
CEI-56G-LR-PAM4/ENRZに相当。1000mm以内のPCBないしケーブルを用いた配線に対応
ちなみに、この先に関しても、「CEI-224G」の開発が行われることが2020年8月に承認されたが、何しろまだ始まったばかりで、これがいつ現実的に利用できるかは不明だ。
さて話を先のスライドに戻すと、200Gはさすがに非現実的なので、112G-MRあたりを利用し、スイッチチップとモジュールを基板で繋ぐかたちとなる。ただ、これには信号伝達特性がいい基板を利用する必要があり、しかもRetimerを間に挟むのが必須になるため、コストの面からも厳しいとは予測されている。
しかし、MSAによれば、それでもこの世代(800G)に関しては、まだモジュールで利用可能であるとしている。ただし、次の世代(1600G?)では、もうモジュールでは厳しくなるので、基板上、もしくはスイッチチップの上に光モジュールを置く必要が出てくるとしている
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