期待のネット新技術

最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」

【光Ethernetの歴史と発展】

 Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。

 【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

50GbpsのPAM-4または25GbpsのNRZが8本で400G/200G Ethernetがターゲットの「OSFP」

 前回の「CFP8」「QSFP-DD」に続き、今回は「OSFP」「CDFP」を解説したい。

 そのOSFP MSAは2016年11月に立ち上げられた。創立メンバーは、Arista Networks、Acacia Communications、Accelink、Adva Optical Networking、Amphenol、AppliedMicro、Applied Optoelectronics、Barefoot Networks、Broadcom、Cavium、ClariPhy Communications、ColorChip、Coriant、Corning、Dell EMC、Finisar、Foxconn Interconnect Technology、富士通オプティカルコンポーネンツ、Google、Hewlett Packard Enterprise、日立電線、Huawei Technologies、Infinera、Innolight、Innovium、Inphi、Intel、Ixia、Juniper Networks、Kaiam、Lorom、Lumentum、Luxtera、Macom、Marvell、Mellanox Technologies、Molex、MultiLane、NeoPhotonics、NEL America、Nokia、Oclaro、PHY-SI、SAE、Senko、Source Photonics、住友電工、TE Connectivity、山一電機と、49社もの企業が集まっている。

 MSAの場合、普通はもう少し絞ったかたちで審議を進め、パパッと標準化を済ませるものだが、ここまでメンバー企業が多いとやや紛糾しそうな気もする。実際、Specification Revision 1.0がリリースされたのは半年後の2017年5月で、この手のものとしてはちょっと時間が掛かった印象を受ける。ちなみにOSFPは、Octal Small Form factor Pluggableの略だそうである。

 さてそのOSFPモジュール、Optical/Copperの両対応であるが、特徴はモジュールの上に背は低いがヒートシンクが一体化されていることだろうか? 外形寸法(幅×奥行×高さ)の22.58×100.40×13.00mm(最大)というのは、CFP4より少し大きいという程度である。

OSFPモジュール。出典はOSFP MSAのトップページ
ヒートシンクのフィンは貫通式で、フロントパネル側からシャーシ内部に冷却風を流すような形状。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 3-1

 ただ、モジュール側にヒートシンクを装着した例はあまりない(通常はケージ側と接触させるかたちでケージに熱を逃がし、そこにヒートシンクを取り付ける)。ちなみに右上の図ではヒートシンクに上蓋が載っているが、規格上は左下のように、これがなくても構わない。

 もっとも、この程度(最大でも3.80mm)のフィンで放熱できる能力には当然限界があるわけで、ケージ側に放熱フィンを取り付けるケースも想定されている。

あくまでも外形寸法が規格内(つまり高さ13.00mm以内)なら、放熱用フィンがそのまま見えていても問題ないとのこと。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 3-14
このケージ側のフィンの寸法の規定を探したが見つからなかった。採用側がシャーシ内のレイアウトなどと考慮しながら決める話なので、ここで上限を定めても意味がないのかもしれない。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 9-2
むしろなぜRevision 3.0まで定義されなかったのか、ちょっと不思議である。ちなみにこれは2x1タイプだが、Specificationには2x4/2x6タイプのものも定義されている。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 5-1

 ちなみに当初のSpecificationにはケージにスタック式のものは定義されておらず、横一列のものだけが用意されていた。これはRevision 3.0で右の図として定義されている。

 さてこのOSFPだが、左下のように400G Ethernetとなる「400GBASE-DR4」「400GBASE-SR8」「400GBASE-SR4.2」「400GBASE-FT4」「400GBASE-FR8」「400GBASE-LR8」あたりを主なターゲットとしている。しかし、400G Ethernetに加え、右下のように200GBASE-FR4×2や、CWDM4×2(こちらはまた後ほど)などもカバーしている。

400GBASE-SR8の場合のブロック図。ホスト側とは「400GAUI-8」で接続する。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 10-2
CWDM4はCWDM4 MSAの策定する100G Ethernet規格。こちらはもう少し後に取り上げる予定だ。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 10-7
Vccは全部でわずか4本。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のFigure 11-1

 コネクタ部そのものは、右のように60ピンで、ここに8対の送受信信号を通すことになる。

 その信号としては、25GbpsのNRZ、もしくは50GbpsのPAM-4を念頭に置いてはいるものの、400G以外にも、使おうと思えば以下のように200GBASE-SR4×2などに利用することは可能だ。

一番下の構成だと、1つのOSFPモジュールから25GBASE-SR×8(NRZ)ないし50GBASE-SR×8(PAM-4)を出すことも技術的には可能。ただ、そうしたモジュールは見たことも聞いたこともない。出典は"OSFP OCTAL SMALL FORM FACTOR PLUGGABLE MODULE Rev 3.0"のTable 11-3

 OSFPが、ほかのモジュールと異なるもう1つの点は電源にある。先に書いたようにVccピンは4本、電源電圧は3.3Vなのだが、何とピンあたり1.6Aを許容するため、最大構成だと3.3V×6.4A≒21.1Wで、ここまで紹介してきたモジュールよりも高い消費電力に耐えられる構成となっている。

OSFPの方がQSFPよりもサイズが大きいので、アダプターを介してOSFPのケージにQSFPモジュールを搭載できる。もっとも、スイッチ側が対応した信号を出していなければ意味はないが。出典は"OSFP to QSFP adapter for backward compatibility"

 Power Classは1~8まで、それぞれ1.5/3.5W/7W/8W/10W/12W/14W/>14Wが定義されている。Class 3から妙に細かく刻んでいる気がしなくはないが、放熱のことも考えると、むやみに消費電力枠を引き上げても自らの首が締まるだけなので、できれば14Wまでで抑えたいのだと思われる。

 ちなみに、OSFPで面白いのは、右のようなQSFP用のアダプターがあることだ。これにより、OSFP対応のケージ(というかスイッチ)に、QSFPのモジュールを装着して利用できる。もっとも筆者は、このアダプターが使われているのを実際に見たことはないのだが。

2枚のカードを重ねた16対で最大400Gbpsを送受信可能な「CDFP」

 最後の「CDFP」は、("CDFP"がどこから来たのか少し調べたが分からなかった)。実はCDFP MSAの結成は2013年9月と、ほかのMSAに比べてもかなり古い。Founder MemberはAvago、Brocade、IBM、JDSU、Juniper Networks、Molex、TE Connectivityの7社である。

 その目的は、やはり400GbpsのPluggable Moduleの規格を策定することで、2014年3月にはMechanical Specification 1.0を早くもリリースしている。ただし、規格策定の時期が古い、ということは最新の伝送に対応していないという意味でもあり、実際Specification(最新版は2015年3月のRevision 3.0)のタイトルは"CDFP - 400Gb/s(16X 25Gb/s)Pluggable Transceiver"である。

やや分かりにくいが、右側で緑色の方がUpper Card(端子C/D)、その下の紫色のものがLower Card(端子A/B)となる。出典は"400 Gb/s (16 X 25 GB/s) PLUGGABLE TRANSCEIVER Rev 3.0"のFigure 12

 実際のモジュール形状は、挿入部が短いStyle 1(右図)と、挿入部がずっと長いStyle 2/3がある。挿入部のサイズ(幅×奥行×高さ)は、Style 1が27.06×26.05×9.81mmで、Style 2/3は奥行きが46.55mmとなる。外形のサイズは最大で29.71×90×17.47mmとなり、両方を足せば結構な大きさとなる。

 ちなみに外側の長さには、右の図で"x16"と書かれたラッチ部(プラスチック製の丸い輪の部分で、指を掛けて手前に引っ張るとラッチが解除される)も含まれるので、モジュール分の長さは50mm程度と思われるが、それでも挿入部と併せると、Style 2/3の場合で100mm前後となり、幅、高さとともに、かなり大きなものだ。

Style 1/2の分け方がやや変な気もするが、これは400Gbpsを200Gbps×2として使うための配慮だろうか? 出典は"400 Gb/s (16 X 25 GB/s) PLUGGABLE TRANSCEIVER Rev 3.0"のFigure 1およびFigure 2

 この大きさには、実は致し方ない理由がある。CDFPの場合、内部は2枚のカードから構成される。右の図は、この2枚の役割をまとめたものだが、要するにカード1枚には8対分の送受信がまとめられ、これを2枚重ねて実装することで、16対の送受信を可能にする、というわけだ。

 コネクタは、1枚のカード片面あたり30ピンで、両面では60ピン、2枚では120ピンとなる。16対もの信号を送受信するので、そのくらいのピン数は当然必要なのだ。

ザ・力技。2014~2015年のタイムフレームでは、確実なところを狙うとこんな感じになるのは致し方ないところかもしれない。出典は"400 Gb/s (16 X 25 GB/s) PLUGGABLE TRANSCEIVER Rev 3.0"のFigure 21

 これをSFP-DDのように前後へずらすといった細工を施せば、さらに高さを減らせたのだろうが、左のように素直に2枚を重ねて装着するようにした結果、それなりの高さが必要になってしまった。

 ちなみに消費電力は、カードあたり最大6Wが上限である。一応Power Classは1~5まで、モジュール全体で言えば、それぞれ6W/8W/10W/12W/>12Wが定義されている。電源電圧はやはり3.3Vで、電源ピンはカードあたり3ピン(モジュール全体で6ピン)なので、12Wだとピンあたり0.6Aほどと、まだ多少ゆとりがあるように思われる。

Style 3向けヒートシンクの例。もっとも、Style 2向けとは見分けが付かない。出典は"400 Gb/s (16 X 25 GB/s) PLUGGABLE TRANSCEIVER Rev 3.0"のFigure 37

 2015年というと、TSMCが16FF(16nm FinFET)プロセスの量産を始めたあたり。これは当時最先端のプロセスだが、ネットワーク機器などには一般に28~40nmあたりを使うことがまだ多かった。このため、12Wというのは結構厳しかったかもしれない。実際には、もう少し消費電力が増えることを前提として、右の図のようにケージへのヒートシンクの装着も想定されていた。

 ところで、このCDFPのターゲットというか仮想敵は、CFP4やQSFP28であった。CDFPのFAQを見ると、CFP4やQSFP28と比べて、遥かに少ないポート数でより大きな帯域を提供できることがメリットとして挙げられていた。

まぁ2013年の段階ではこれは正しかったのだろうけど。出典は"CDFP MSA Frequently Asked Questions December 2013"

 これそのものは間違っていないのだが、実際には400G Ethernetはもっと高密度なモジュールを利用して普及を始めてしまい、CDFPはあまりお呼びが掛からなかったというのが不幸なところだろうか? あと、CDFPのコネクタはMolexが特許を保有していたので、コネクタはライセンス料込みで買わなければならなかったあたりが嫌われた可能性もある。

 ということで、前回と今回でようやくモジュールの説明が一通り終わったので、次回からは規格の話に戻りたい。

大原 雄介

フリーのテクニカルライター。CPUやメモリ、チップセットから通信関係、OS、データベース、医療関係まで得意分野は多岐に渡る。ホームページはhttp://www.yusuke-ohara.com/