インタビュー

インターネットが壊れずに動き続けるように、みんなが頑張って連携している――巨大インフラを支える人々が集う“巨大オフ会”いよいよ開幕

11月25日~27日、都内で「Internet Week 2025」カンファレンス

 インターネット技術を語るイベント「Internet Week 2025」が開催中だ。オンライン配信で11月18日~20日に行われた「オンラインWeek」のセミナーに引き続き、11月25日~27日は「カンファレンスWeek」として、リアル会場のKFC Hall & Rooms(東京都墨田区横網1-6-1)において、インターネットに関する最新動向の情報共有・議論が行われる。

 Internet Weekは「インターネットに関する技術の研究・開発、構築・運用・サービスに関わる人々が一堂に会し、主にインターネットの基盤技術の基礎知識や最新動向を学び、議論し理解と交流を深めるためのイベント」。毎年この時期に開催されている恒例のイベントとなっており、日本のインターネット運用を支えている人たちの“巨大オフ会”とも称される。いわば、いつでもオンラインで自在にコミュニケーションできる業界だからこそ、逆にリアルで集い、交流を深められる年に一度の場として重要な役割を担っている。

 では、そこでいったい何が行われているのか? そもそも、誰が、どういった目的で集まっているのか? セミナー/カンファレンスのプログラムを企画した「Internet Week 2025プログラム委員会」のメンバーおよびイベントの主催者であるJPNIC(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)のメンバーに話を聞いた。



──そもそも「Internet Week」とは、どのような領域を扱うイベントなのでしょうか? また、どのような方々が集まるのですか?

吉浜氏:一言で言えば「インターネットに関わることを全て扱う」イベントです。

 扱う領域は非常に幅広く、インターネットの根幹を支えるネットワーク基盤やDNS(Domain Name System)といった運用技術はもちろんのこと、近年ではセキュリティ回りの話題もかなり増えています。

 さらに、技術そのものだけでなく、法律や社会動向の変化、そして今年で言えば「AI」のような新しいキーワードを含んだトピックまで、多岐にわたるプログラムで構成しています。

Internet Week 2025プログラム委員会・委員長の吉浜丈広氏

武井氏:私たちが意識しているのは「広い意味でのインターネット」という視点です。

 「狭い意味でのインターネット」は、ネットワークとネットワークの繋がりだけを指しますが、皆さんが普段の生活で感じている「広い意味でのインターネット」は、もっと層が重なり合っています。具体的には、物理的なネットワークの線を繋げるところから始まり、ネットワーク同士を接続し、その上でサーバーが動き、さらにクラウドがあり、その上でアプリケーションが動いて、最終的に皆さんのスマートフォンなどの画面に表示される――この、下から上までの層、そしてそれらを横につなぐプロトコルまで全てが、Internet Weekで扱う「インターネット技術」の範疇です。

 また、Internet Weekの最大の特徴として「技術色が非常に強い」という点も挙げられます。一般的なセミナーでは、ベンダーの製品紹介などのビジネス色が強くなりがちですが、Internet Weekはそこが非常に薄い。「純粋に技術について知りたい、語りたい」という、現場でインターネットを支えている技術者たちが中心になっています。営業職の方の参加もありますが、ベンダー色抜きの中立的な技術動向を学ぶことを目的に参加されていることが多いのではないでしょうか。

Internet Week 2025プログラム委員会・副委員長の武井滋紀氏

吉浜氏:そのため、参加者の層も非常に幅広い。ざっくり言うとインターネットに関わるビジネスをしている方々ということになりますが、ネットワーク管理者はもちろん、大学関係者、SIer、ISP、そしてゲームやSNSなどのコンテンツサービス企業のエンジニアなど、多様な方々が集まります。

石原氏:ネットワーク専業の人だけでなく、運用担当、開発者、あるいは新入社員からベテランまで、様々な立場の人が「インターネット」という共通項で集まるのがこのイベントです。最近では、学生の参加も少しずつ増えています。就職活動のためというよりは、純粋に技術に興味があって参加している層が多いと感じています。

──今年の注目テーマ/トピックについて教えてください。

吉浜氏:DNSのようなインターネット基盤技術は毎年扱いますが、先ほど述べたように今年は「AI」というキーワードを含んだプログラムも取り入れていますし、新しい無線規格「Wi-Fi 7」の話題も注目です。

武井氏:未来に向けた話題としては、やはり「AI」と「6G」が挙げられます。最終日11月27日の「IP Meeting」では、今のブームであるAIとインターネットの関係を俯瞰し、AIインフラの最前線や今後の関係性について議論します。

石原氏:6Gについては、同じく11月27日の「電話からデータへ、そして未来へ:モバイルネットワークとインターネットの歩みと挑戦」において、国内キャリアの方々をお招きして、6Gに向けた研究開発の話をしていただきます。普段は競合関係にあるキャリアの方々が、これからのモバイルネットワークを良くするために技術開発の方向性について腹を割ってディスカッションする。さらに、会場からの「ぶっちゃけ、6Gってどうなるの?」という疑問にも答えるような、非常に前向きなセッションを用意しています。

 また、IPv6関連で「IPv6-Mostly」も注目です。長年議論されているIPv4からIPv6への移行に関連する技術の1つで、「IPv6が使える環境であれば、もうIPv6だけで(サービスや通信を)提供しましょう」というアプローチです。今回、11月25日の「IPv6-Mostly Networkで変わる運用のカタチ - 標準化と実証から見える現在地 -」では、単なる技術・規格の解説にとどまらず、「実際に現場で運用してみた人たち」が登壇し、リアルな知見を共有できると考えています。

Internet Week 2025プログラム委員会・副委員長の石原匠氏

武井氏:セキュリティ分野では、IPv6のチームとやり取りする中で企画されたプログラムが増えています。「SASE(Secure Access Service Edge)」やゼロトラストの話題など、セキュリティ専門の人のためのセキュリティというのではなく、分野がクロスオーバーしているセッションが増えているのも今年の面白い点です。
(※11月25日の「ゼロトラストのその後とこの後 ~アフターコロナの行先」および「サイバーセキュリティとSASEとIPv6」

──現在のインターネットが抱えている問題・課題についての議論はどうでしょうか?

武井氏:「技術者みんなで考えなければならない社会的な課題」にも大きくフォーカスしており、その象徴的なテーマが、11月27日の「DNSDAY」の後半で取り上げる「ドメイン名の終活」です。ドメイン名は登録して終わりではありません。使い終わったドメイン名が管理されずに放置されることで悪用されてしまうなど、近年、その弊害が大きくなっています。これは技術的な課題ではないのかもしれませんが、技術者みんなで考えなければならない社会的な問題です。

吉浜氏:セキュリティの分野でも同様です。フィッシング対策などは、単純な技術論だけでは解決できません。社会的な要請も含めてどう対処すべきか、Abuse(※インターネット上での迷惑行為や不正行為を通報する窓口)とどう連携して仕組みを作っていくかという、運用や人間同士の連携の話が重要になっています。

根津氏:法制度で言えば、欧州のCRA(サイバーレジリエンス法)に関する議論も重要です。これは製品のセキュリティに関する規則ですが、「製品のセキュリティなんて、ネットワーク屋には関係ない」と思ってはいけません。 今の時代、製品やアプリは単体で動くものではなく、ネットワークの上に乗って機能します。こうした法制度が製品開発やネットワーク運用にどう影響し、どこに不具合が出る可能性があるのか、そうした危機感を共有し、視野を広げてもらうことも今年の重要なテーマの1つです 。

──11月25日の「スナックまさこ」は、ここ数年恒例となっているプログラムですが、Internet Weekの中では異色のプログラムです。

根津氏:「スナックまさこ5.0 Independence Day~プラットフォーム規制を決めるのは彼ら?我々?」は、朝日新聞の編集委員である若江雅子さんが中心となり、デジタル分野のルールメイキングやプラットフォーマー規制などの問題意識を、専門家の方々と議論するプログラムです。

武井氏:ニュース報道だけでは見えない裏側を、多様な登壇者がそれぞれの立場から語るのがポイントです。登壇者が多いのも、多角的な意見を聞くためです。

──コロナ禍以降で一般的になったオンライン開催方式をInternet Weekでも取り入れる一方で、従来からのリアル開催も継続しています。リアル会場で現地参加する良さとは?

武井氏:現地に来ると「隣で何をやっているのかな」と、他の分野に触れる機会があります。オンラインだと自分が見たいものしか見ませんが、オフラインなら、ふらっと入った部屋で「実は自分に関係のある話だった」という気付きが得られる。そういう「ごった煮」感を楽しんでほしいですね。

石原氏:休憩時間や懇親会での雑談も重要です。現地でなければ話せない方と交流する中で、新しいアイデアや目標が生まれることもあります。そうした対面ならではの価値をぜひ活用していただきたいです。

吉浜氏:オンラインは人数制限もなく、参加もしやすいのがメリットですが、一方で、現状のInternet Weekとしてはオフラインでの議論に重きを置いています。現地に来る最大のメリットは、講演者や他の参加者と「ぶっちゃけ話」ができること。講演では話せないような裏話や生の声を聞けるのが醍醐味です。

──ありがとうございました。

「Internet Week」は、一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が主催する、インターネットの技術や最新動向を語るイベント。29回目となる今年は「挑戦×経験×世代 ~フルスタックで“不確実”の先へ」をテーマに開催される。

11月18日~20日が「オンラインWeek」としてオンライン配信、11月25日~27日が「カンファレンスWeek」としてKFC Hall & Rooms(東京都墨田区横網1-6-1)でのリアル開催となっており、基本料金1万6500円で全てのプログラムに参加可能(懇親会を除く)。参加申し込みは、同イベントの公式サイトで受け付けている。

なお、30歳以下の学生は基本料金が無料。また、今年初めてInternet Weekに参加する人を対象に、オンラインWeekの全プログラムとカンファレンスWeekの1つのプログラムに参加できる、4950円のお試し料金も設定されている。

INTERNET Watchでこれまで掲載したInternet Week関連記事のバックナンバー(2009年以降)は、下記ページにまとめている。