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世界初、1Gbpsによる100mの超高速海中光ワイヤレス通信に成功。ALANコンソーシアムが活動報告

2022年から社会実装ワーキンググループの新設も

 水中光無線技術によって、新たな市場創出や社会課題の解決を目指すALANコンソーシアム(Aqua Local Area Network Consortium)が活動報告を実施。2021年11月に、相模湾の水深1000mにおいて、世界で初めて1Gbpsによる100mの超高速海中光ワイヤレス通信に成功したことなどを報告した。

 さらに、2022年度から、社会実装ワーキンググループを新設することを明らかにし、今後、社会実装に向けてさまざまな産業からの企業や団体の参加を募る考えを示した。

 ALANコンソーシアムの島田雄史代表(トリマティス代表取締役CEO)は、「音波などの限られた手段しか使えないため、最後のデジタルデバイド領域となっているのが水中である。水中環境をひとつの生活圏と考えた場合、陸上や空間に準じた光無線技術の駆使が不可欠である。海に囲まれた日本が、海中光技術で世界をリードし、新たな市場創出や社会課題の解決を目指す」と述べ、「実証成果を受けて、社会実装の実現に最初の一歩を踏み出す段階に入ってきた。水中無線を利用した水中ドローンの実用化などにより、将来的には、水中構造物点検、養殖場管理、水質調査、災害調査への応用が見込まれる。海洋プラスチックのセンシングなどにも利用できる」などと語った。

ALANコンソーシアムの島田雄史代表(トリマティス代表取締役CEO)

 ALANコンソーシアムは、2018年6月に設立。現在、26社/団体(3研究所、11大学/高校、12企業)が参加している。

 海中をはじめとした水中環境をLocal Area Network(LAN)のひとつに位置づけるとともに、水中環境を次世代の新経済圏として捉え、民需に特化した材料、デバイス、機器、システム、ネットワークの開発を推進する活動に取り組んでいる。

 一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、2018年度からスタートしている「JEITA共創プログラム」の第1号案件として、より広範な社会課題の解決に向けて、業界の枠を超えた共創を実現したり、新たなビジネス創出を目的とした支援を実施。日本が海中光技術で世界をリードすることを目指すとともに、新たな産業の可能性を探るための技術リサーチや研究開発などを展開している。

 この1年間においては、2021年6月に第1回目となるALANフォーラムを開催し、186人が参加。CEATEC 2021への出展では、1500人以上にリーチした。また、2021年12月に開催された「海のアバターの社会実装を進める会」では、福島県の福島イノベーション・コースト構想推進機構と連携して、水中ロボットを中心に実演形式で関連技術を紹介することができたという。

 さらに、2022年1月に開催した一般社団法人レーザー学会の学術講演会年次大会でのシンポジウムでは、「開発が進む光水中無線技術への期待」と題して、4セッション11講演を実施。ALANコンソーシアムに参加している企業や団体が、水中無線技術の最新動向などについての説明を行った。

 2020年度から「水中無線通信ワーキンググループ」「水中LiDARワーキンググループ」「水中光無線給電ワーキンググループ」を本格的に始動。今回の会見では、それぞれの進捗状況について説明した。

水中無線通信WG、世界初となる超高速海中光ワイヤレス通信の成果を報告

 「水中無線通信ワーキンググループ」では、9社3団体が参加。設立時に伝送速度で1Gbps、伝送距離で1m~100mの実現を目標に掲げて活動してきたが、2021年11月に行われた相模湾の水深1000mでの、1Gbpsによる100m間の超高速海中光ワイヤレス通信に世界で初めて成功したことで、この目標を達成することができたという。

 1Gbpsでの100m伝送の水中通信実験は、トリマティスと海洋研究開発機構(JAMSTEC)が共同で行ったもので、まずはJAMSTECの多目的プールにおいて実験を開始し、その成果をもとに相模湾深海での実験を行った。

 ロスバジェット50dB以上の水中光無線通信装置を開発。「確実にビームを飛ばすことを目的に、高出力のドライバーと、4チャンネルによるマルチビーム化を行い、感度を高めた受信機と、4チャンネルのアレイを配置した装置になっている」(ALANコンソーシアムの島田代表)という。1000mの深海試験を行うことから、ジュラルミンによる耐圧容器に光ワイヤレス通信装置を収容している。

 まずは、試作装置を用いた室内試験を実施し、発信した波形を受信できていることを確認。その後、JAMSTECが持つ多目的プールおよび多目的水槽において、光学ミラーでビームを折り返す仕組みにより、長距離水中光無線通信実験を実施した。

 「多目的プールでは長さが20mのため、5回のパスにより、100mを目指す実験を行った。青色レーザーを使用して実施した最初の実験では、一度の折り返しによる40m間を、1Gbpsの通信が可能であることが確認できた。続いて、青色レーザーと緑色レーザーの波長多重により、21mの双方向通信を確認。さらにパケット受信により青、緑の双方向WDM水中光ワイヤレス通信を実現したことも確認。最終的にはプール内を5回折り返して108mの距離での1Gbpsの水中通信を確認した」(ALANコンソーシアムの島田代表)という。

 この成果をもとに、2021年11月27日~30日を試験日として、相模湾の推進1000mでの水中無線通信の深海試験を実施。JAMSTECの無人探査機「かいこう」により、光無線送受信装置を沈め、カメラで確認しながら光軸を合わせ、1Gbpsでの100m間の超高速海中光ワイヤレス通信に成功した。

 なお、これらの実験は、防衛装備庁が実施する「安全保障技術研究推進制度JPJ004596」の支援のもと行われている。

 さらに、同ワーキンググループでは、東海大学と山梨大学で研究助成金を獲得したことも報告した。

水中LiDARの大幅な小型化と高速化を実現、2022年には本格的な実験を予定

 「水中LiDARワーキンググループ」は、距離レンジ1~50m、分解能は1cm以下の水中LiDARの実現を目標に活動しているが、ALANコンソーシアムの森雅彦幹事(国立研究開発法人産業技術総合研究所)は、「コロナ禍で開発はやや遅れている。本格的な実験は2022年度を予定している」と、同ワーキンググループでの進捗を説明した。

ALANコンソーシアムの森雅彦幹事(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

 水中LiDARで活用しているのは、送った光と戻って来る光の時間差で距離を計算するTOF(Time of Flight)方式であり、青と緑の可視光を用いることで水中計測を実現。電波やカメラに比べて暗闇に強く、細かい物も測ることができ、対象物の形も判断できるのが特徴だ。

 2019年に開発した初期モデルでは、ガルバノスキャン方式を用いていたが、2022年の開発モデルではMEMSスキャン方式を採用。メカが不要になることから、耐圧容器容量は55%減となる6.6Lへと大幅に縮小。さらに8万ポイント/秒のスキャン速度を実現し、計測点数は20倍に進化させている。

 「大幅な小型化と高速化を実現することができた。2019年時点では、原理確認実験の段階であり、多目的プールを使い、多くの時間をかけてスキャンを行い、データ分析にも時間がかかった。2020年には、水中の魚を対象に実施し、スキャンスピードは120秒/フレーム、距離分解能は5cmの性能を実現した。2022年の開発モデルは、まだ実験を行っていないが、スキャンスピードはさらに4倍以上となり、距離分解能は5mmを目指し、高速化、高精細化が進んでいる」とした。

水中光無線給電WG、2022年に水中光無線給電システムのデモ実施を目指す

 「水中光無線給電ワーキンググループ」では、伝送距離1〜10m、伝送電力10W以上の水中光給電の実現を目指した活動を行っている。現在、東工大や千葉工大での基礎実験の実施に加えて、アプリケーションを仮定した水中光無線給電システムの検討を開始し、2022年度にはデモの実施を目指すという。

 今後の社会実装の方向性についても言及した。

 水中ドローンは、現時点では、陸上から光ファイバーがつながれている状態であり、行動範囲が限られるという課題がある。水中光無線通信によって、まずは、空中ドローンから空中と海表面間の光無線通信を行うことで、ブイの光中継機を通じて、光ファイバーにつながれた水中ドローンを操作し、岸や船舶などからの拘束を解放することができることを目指すという。

 次のステップでは、無線中継ブイや海中光中継機を通じてドローンと水中光通信を行うことで、水中ドローンを光ファイバーテザーから解放し、複数の水中ドローンが無線通信環境で接続され、利用できるという。

 そして、第3ステップでは、無線中継用の洋上ロボットと水中の光中継機を結び、その先で水中ドローンが稼働することになる。水中ドローンは洋上ロボットの移動可能範囲で自由に行動できるようになるのが特徴だ。複数の水中ドローンが光信号を受けながらセンシングを行い、水中での作業性を高めることができるというわけだ。

 ALANコンソーシアムの島田代表は、「複数の水中ドローンを活用することで、水中の見える化、リアルタイム化が進展。同時にそれらの情報を共有して活用するといった動きも出てくるだろう。水中構造物点検のデータを災害調査に生かすといったことができるように、相互の水中ドローンが連携して水中光リングを実現したり、双方向でも利用できる水中光スターによるネットワークを実現することで、地上のWi-Fiのように多くの人が利用できる環境が整う」と述べ、「ALANコンソーシアムを、いままで以上に未来を語り、未来像を見える化する場にしていきたい。光技術を持っていない企業にも積極的に参加をしてもらい、用途の観点からも議論をしたい。2022年度には、ALANの実現につながる姿を見せたい」と述べている。

 2022年5月〜6月には、第2回ALANフォーラムを開催する予定であるほか、2022年10月に開催予定のCEATEC 2022では、幕張メッセ会場でのリアル展示において本格的なデモを予定しているという。