イベントレポート
海のアバターの社会実装を進める会
水中ドローン/水中ロボットを操縦体験!福島ロボットテストフィールドの屋内水槽試験棟
「第2回 海のアバターの社会実装を進める会」ロボット実演会場レポート
2020年12月22日 09:40
水中ドローンや水中ロボットに関するイベント「第2回 海のアバターの社会実装を進める会」が、2020年12月4日~6日に開催された。
12月4日にはシンポジウムが、12月5日と6日には水中ロボットのデモや体験操縦などの実演が行われた。シンポジウムは福島ロボットテストフィールド カンファレンスホール、実演は福島ロボットテストフィールド 屋内水槽試験棟で開催され、それぞれオンラインでもリアルタイム配信が行われた。
シンポジウムの内容については、すでにレポートが掲載されているのでそちらをご覧いただきたい。ここでは、12月5日に行われた水中ロボット実演の様子を実際に現地に行くことができたので、紹介したい。
福島ロボットテストフィールド(以下福島RTF)については、*前述のレポートにも詳しく紹介されているが、東日本大震災とそれに伴う原子力災害からの浜通りの産業回復を目的とした国家プロジェクトである「福島イノベーション・コースト構想」の一環として作られた、陸・海・空フィールドロボットのための実証フィールドであり、研究開発から実証までの範囲をカバーする。
福島RTFは、東西約1000m、南北約500mという広大な敷地内に「無人航空機エリア」、「インフラ点検・災害対応エリア」、「水中・水上ロボットエリア」、「開発基盤エリア」の4つのエリアが設けられているほか、浪江町・棚塩産業団地内に長距離飛行試験のための滑走路も整備している。筆者も初めて訪れたが、とにかく広大で圧倒された。
大小2つの水槽が用意されている屋内水槽試験棟
今回、水中ロボット実演が行われた屋内水槽試験棟は、30×12×水深7mの大水槽と5×3×水深1.7mの小水槽の2つの水槽があり、実演は主に大水槽を使って行われた。屋内水槽試験棟の中は、保護帽(ヘルメット)着用が義務づけられており、大水槽の周りを囲っているコーンバーの中に入るには救命胴衣の着用が必要である。
各社が水中ドローンや水中ロボット、関連製品を展示
まず、開会式が行われたあと、各社が水中ドローンや水中ロボットの展示やデモなどをそれぞれのブースで開始した。会場にブースを出展していたのは、株式会社スペースワン、広和株式会社、ミサゴ株式会社、コスモス商事株式会社の4社である。
株式会社スペースワンは、大手水中ドローンメーカーChasing社の正規パートナーであり、Chasing製の水中ドローンを多数展示していた。その主力機となるのが「CHASING M2」である。
CHASING M2は、スラスターを8機搭載し、水中での移動自由度が高く、機動性に優れている。4Kカメラを搭載するほか、オプションでロボットアームなどを搭載することも可能だ。コントローラーに専用アプリをインストールしたスマートフォンを装着することで、4Kカメラの映像をスマートフォンの画面で確認できる。
本体サイズは380×267×165mmで、重量は約4.5kg、最大深度は100mである。価格は100mのテザーケーブルが付属するタイプが328,000円(税込)、200mのテザーケーブルが付属するタイプが348,000円(税込)である。
「GLADIUS MINI」は、よりコンパクトな水中ドローンであり、5基のスラスターを搭載するほか、F1.6の4Kカメラを搭載する。
Chasing製水中ドローンの中でも、最も小さく低価格な製品が「CHASING DORY」である。本体重量はわずか1.3kgで、最大深度は15mだが、価格も59,800円(税込)と手頃なので、個人でも気軽に購入できそうだ。カメラの画素数は200万画素で、動画撮影はフルHD解像度となる。
また、「FIFISH V6s」は、ロボットアームを搭載しており、水中での作業が可能である。
広和株式会社のブースでは、同社が開発した水深500m仕様のROV「ROV-500」のデモを行っていた。こちらはやや大型の水中ロボットであり、サイズは1036×720×603mm、重量は約75kgと重い。10倍光学ズームレンズを搭載したHDカメラを搭載しており、フルHD解像度での動画撮影が可能だ。また、オプションとして音響ソナーやマニピュレータを搭載することもできる。
ミサゴ株式会社のブースでは、海洋機材を吊り上げるための「SEA-Lift」や「SEA-Snap」、イリジウムビーコン、LEDフラッシャーなど、海洋機材のサポート製品を展示していた。
SEA-Liftは、最大100トンまでの吊り上げに対応しており、先端を海洋機器の穴の中に投げ入れるだけで、ほぼ瞬時に中で爪が開き吊り上げが可能になる。また、カラビナ「SEA-Snap」も簡単にロックされ、解除もダイバーが片手で行える。
イリジウムビーコンは、イリジウム衛星を利用して現在位置を知らせるビーコンであり、高輝度LEDが点滅するLEDフラッシャーとあわせて、海面上に浮かぶ海洋機器の追跡・発見に役立つ。さらに、水中で音を録音し、信号処理を行うためのパッケージ「PORPOISE」も展示していた。
コスモス商事株式会社のブースでは、Boxfish Research製の水中ロボット「Boxfish ROV」の展示とデモを行っていた。
Boxfish ROVは、4K動画の撮影が可能で、8つのスラスターを搭載した高性能機である。最大深度も300m/600m/1000mの3モデルが用意されている。カメラはメインの4Kカメラを前方と後方に搭載し、後方の撮影も可能なほか、180度操作が可能なカメラも搭載している。
また、Box Research製の水中360度カメラ「Boxfish 360」も展示していた。Boxfish 360は、3台のカメラを搭載しており、それらで撮影した映像をつなぎ合わせることにより、5K解像度の360度動画を撮影することが可能だ。ブースでは、Boxfish 360で撮影された海中の360度動画をHMDで見る体験も行われていた。
併催の「水中ロボットコンベンション in JAMSTEC 2020」のセミナーが中継される
今回の「第2回 海のアバターの社会実装を進める会」は、日本水中ロボネット主催の「水中ロボットコンベンション in JAMSTEC 2020」(以下水中ロボコン)と併催という形をとっており、水中ロボコンの水中ロボットセミナーやロボコン出場者によるプレゼン(ワークショップ)が、リアルタイムで中継され、会場内のスクリーンに映し出されていた。
水中ロボットセミナーでは、3つの講演が行われた。
最初の講演のタイトルは、「無人探査技術が切り拓く極域科学の新たな展開」で、国立極地研究所の野木義史氏が、極域での実地AUV体験や南極と北極の現在の課題、南極の磁場と現在の取り組みについて語った。
講演の中で同氏は、地球温暖化は北極や南極といった極域において顕著であり、北極温暖化による海氷減少が、自然と社会に大きな影響を与える可能性があること、また、南極の氷床融解加速が、気候の大変化を引き起こす可能性があることを指摘した。その影響を予測するには、極域での海氷下の探査が重要になり、そのために極域探査用AUV「MONACA」を開発し、2019年から海域試験を開始したと語った。
2つめの講演のタイトルは、「海のアバターの社会実装を進める会」で、国立研究法人海洋研究開発機構の吉田弘氏が、この会を開催した目的や日本における大きな社会課題、ものづくりをデザインするときの風土的課題について語った。
吉田氏は、海洋ビジネスに注目しているが、参入ハードルが高いと思われている方が多いため、海中ロボットの実際を知っていただく機会を提供するために、この会を立ち上げたと説明した。
また、日本の大きな社会課題が少子高齢化であり、ロボットやIT技術を使って生産性を上げることが重要であると語った。
さらに、ものづくりをデザインするときの課題として、「技術的課題」と「社会的課題」の2つはすぐに思いつくが、3つめの課題「風土的課題」が重要だと指摘した。風土的課題とは、自分達の思想や哲学、文化、歴史、教育、精神などを理解し、ものづくりに反映することであり、人は自然の中で生かされ、自然の恵みをいただいているという考えをシステムデザインに入れ込むべきだと語った。
3つめの講演のタイトルは、「画像処理用畳み込みニューラルネットワークの実時間処理及びロボット応用」で、防衛装備庁の丹羽雄一郎氏がロボットに搭載するための画像処理用CNNのFPGAでの実装例について講演を行った。
丹羽氏はまず、ロボティクスにおいて、DNNを活用した画像処理は重要であり、生命進化におけるカンブリア爆発にもたとえられると語った。また、画像処理の方法もさまざまだが、移動ロボットの行動生成という目的には、セマンティックセグメンテーション(意味的領域分割)が最も有効であること、今回の目的が偵察監視ロボットであるため、一般的なLIDARなどの自ら光などを発する外界センサが利用できないことを説明し、代わりに完全パッシブな外界センサである遠赤外線カメラを用いた意味的領域分割にチャレンジしたと語った。
学習済みの親のニューラルネットワークから子のニューラルネットワークにその学習した知識を伝える知識蒸留という手法を採用し、自立移動ロボットへの適用実験を行ったところ、人や壁を検知して適切に回避することができたこと、またFPGA上に移植したものでも実時間処理が可能なことを実証したことを明らかにした。
水中ドローンや水中ロボットの見事な実演デモが行われた
昼の休憩を挟んで、午後にはブースを出展している各企業による、水中ドローンや水中ロボットの実演デモや操縦体験が行われた。
広和は、同社のROV「ROV-500」の実演を行い、機動力が高いことをデモしていた。また、人間との力比べ(テザーの引っ張り合い)も行っており、パワフルさもアピールしていた。
コスモス商事は、Boxfish Research製の水中ロボット「Boxfish ROV」の実演を行い、斜め45度に傾けたまま平行移動が可能なことや、搭載カメラの水中での色再現性の高さなどをアピールしていた。
スペースワンは、Chasing製の水中ドローン「CHASING M2」のデモを行い、8スラスターによる機動力、移動自由度の高さをアピールしていた。また、体験操縦も積極的に行っていたので、筆者も実際に操縦させてもらったが、空のドローンでいうモード2と操縦の仕方がほぼ同じなので、空のドローンを操縦したことがある人なら、自由に操ることができるだろう。もちろん、空のドローンより速度は遅いので、より簡単だ。
また、スペースワンは、周りから中を観察できる小水槽を使って、ロボットアームを搭載した「FIFISH V6s」のデモも行った。見事に、水槽の床に沈められたテープをロボットアームで拾い上げ、水上まで運ぶことに成功し、拍手を浴びていた。
また、ロボット実演会場には、福島県内の複数の高校からの見学者が来ており、会場内のブースでの説明や水中ロボコンのプレゼンなどを真剣に聞いていたほか、水中ドローンの操縦体験にも挑戦していた。