イベントレポート

海のアバターの社会実装を進める会

「水中LAN」で海底や魚の3Dデータを取得、ALANコンソーシアムが研究開発を計画

「水中は最後のデジタルデバイド領域」

 水中ドローン/水中ロボットに関するイベント「第2回 海のアバターの社会実装を進める会」が12月4日~6日に開催された。4日にはシンポジウムが、5日と6日にはROV(Remotely operated vehicle)のデモや操縦体験などの実演が行われた。会場は福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールドで、オフラインおよびオンラインで参加する形式がとられた。

 本稿ではシンポジウムの中から、ALANコンソーシアムの講演をレポートする。講演では、水中光通信のALAN(Aqua LAN、読みは「エーラン」)の概念や、ALANコンソーシアムの活動内容が紹介された。なお、ALANコンソーシアム 代表の島田雄史氏(株式会社トリマティス 代表取締役CEO)が登壇する予定だったが、都合により野田健太氏(株式会社トリマティス 執行役員技術統括)が代理を務めた。

「水中は最後のデジタルデバイド領域」

ALANコンソーシアム 野田健太氏(株式会社トリマティス 執行役員技術統括)

 野田氏はALANコンソーシアムのコンセプトを「海中を代表とする水中環境を一つのLANと位置付けて通信する」ものだと説明した。氏は水中環境を「最後のデジタルデバイド領域」として、そこを開拓していくと語る。まずは、水中LiDARの技術をブラッシュアップしていく。

 通信の手段として、これまで音波の通信はあったが、それでは速度は出ないため、青色LEDレーザーを用いる。光は水中で拡散して減衰するが、赤より青のほうが減衰率が低く、これについて野田氏は「水の中は青いことから、なんとなくわかる」と説明した。

ALANコンソーシアムのコンセプト

 ALANコンソーシアムは、2018年5月にJEITA「共創プログラム」の第1弾に採択されたことから6月に設立。同年10月にはCEATEC JAPAN 2018に出展した。2019年にもCEATEC 2019に出展したほか、第1回の「海のアバターの社会実装を進める会」でも講演した。

ALANコンソーシアムのこれまでの歩み

 2020年にも、オンライン開催となったCEATEC 2020に出展した。その中で「海の中の未来を語ろう」コンテストも開いた。12歳~30歳未満を対象に、「海中で将来こんなことが出来たらいいなと思う夢」を募集するもので、受賞作品も発表した。

「海の中の未来を語ろう」コンテスト

水中LiDARで測量、レーザーで水中通信、そして無線給電

 ALANコンソーシアムが目指す3年後のイメージとしては、「海中で魚を見たり、構造物を見たりを目指す」という。その3本柱となるのが、測量する水中LiDAR、レーザーによる通信、無線による給電だ。

ALANコンソーシアムが目指す3年後のイメージ

 ALANコンソーシアムの体制としては、LiDAR、通信、ロボティクス、プラットフォームのテーマごとにワーキンググループが設けられている。「単体では何もできないので、全体のプラットフォームを作る」(野田氏)ということで、ワーキンググループは独立した存在ではなく関連しているという。位置づけとしては、LiDARで地形を調べ、通信がそのデータを伝え、無線で給電し、ロボティクスがROVを動かすということになる。

ALANコンソーシアムの体制
ワーキンググループ間の連携

 水中LiDARでは、高精細な3Dデータを取得することを目的とする。その狙いとしては、海底の地形や海底構造物の調査に、資源探査、あるいは養殖場の魚の大きさを測ることなどが挙げられた。「見るだけならカメラでいいが、拡大するとのっぺりとして凹凸がわからない。そこでLiDARで正確な3Dデータを実現する」と野田氏は説明した。

水中LiDARの必要性
カメラでは凹凸がわからない

 水中光通信で想定する利用分野としては、観光・レジャーや、港湾設備などの点検、水産業、災害や資源などの各種調査が挙げられた。より具体的な応用例としては、水産業ではいけす監視が、点検では橋脚の点検が、調査では海底の震災被害などの調査やプラスチックゴミの調査が、観光・レジャーでは深海のダイオウイカの観察やVR深海遺跡探査が、想定として語られた。

水中光通信の主な用途
水中通信の想定応用例

 ALANコンソーシアムの今後の方向性としては、直近では、今ある技術で何ができるかをわかりやすい形で見せることを追求しているという。また、3年後を視野に、諸技術や製品の開発も加速させるという。

ALANコンソーシアムの今後の方向性

 最後に野田氏は、CEATEC 2020のトリマティスブースで配信した、水中LiDAR実験動画も紹介した。LiDARによるスキャンで、置物の姿をとらえたり、魚(の置物)のサイズを測ったりしてみせたという。そのうえで氏は、「水中LiDARが可能なら、水中光通信に進める」と語った。

LiDARによる3Dスキャンで置物の姿をとらえる実験
LiDERで魚(の置物)のサイズを測る実験
「水中LiDARが可能なら、水中光通信に進める」