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水中LiDARで3Dスキャン! 自動航行や光無線など、様々な開発を展開するALANコンソーシアムとは

日本初の「水中LiDAR」実験にも成功

水中環境を次世代の新経済圏と捉えるALANコンソーシアム

ALAN(Aqua Local Area Network)コンソーシアムは、水中LiDARによるデータ収集実験の成果を報告するとともに、今後の活動内容などについて説明した。

 ALANコンソーシアムは、2018年6月に設立。水中環境を次世代の新経済圏と捉え、民需に特化した材料、デバイス、機器、システム、ネットワークなどの開発を推進することを目的に設立したもので、日本が海中光技術で世界をリードすることを目指し、新たな産業の可能性やニーズを探るための技術リサーチや研究開発を展開することになる。現在、23団体が参加している。

 業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、2018年に、社会課題の解決に向けて、あらゆる産業や業種の企業およびベンチャー企業との「共創」推進と、新たな市場創出を促進するために、「JEITA共創プログラム」を設置。ALANコンソーシアムは、同プログラムの第1弾に位置づけられる。

水中LiDARや光無線技術を駆使することで水中環境の改善へ

 ALANコンソーシアムの島田雄史代表(=トリマティス代表取締役CEO)は、「音波などの限られた手段しか使えない最後のデジタルデバイド領域が水中環境であり、ここをひとつの生活圏と考えた場合に、陸上や空間に準じた光無線技術を駆使することが不可欠になる。

   ALANコンソーシアムの島田雄史代表(トリマティス代表取締役CEO)

 四方を海に囲まれた恵まれた環境にある日本が、海中光技術で世界をリードし、新たな市場創出や社会課題の解決を図る」とし、「すべてを光無線で行うのではなく、音波や有線技術などと棲み分けて、より柔軟性のあるネットワークを目指し、青色を中心とした光無線技術の研究開発を基礎レベルから行う。まずは、水中LiDARでの送受信技術のブラッシュアップから開始している」とした。

 また、水中LiDARの有用性についても言及。「海中の3Dデータセンシングは、近距離はカメラ、遠距離は音波で行うが、その中間を埋める技術がない。また、カメラで撮影した画像データは、つなぎめなどを加工せざるを得なかったり、拡大するとぼけてしまったりという課題があった。水中LiDARによってこれを埋めたり、音波やカメラの組み合わせにより、細かい部分を捕捉でき、水中から高精細な3Dデータを取り込むことができるようになる」とする。

 これらのデータを活用することで、海底地形・水中構造物の調査や点検、海沿岸施設や海岸線の監視、養殖施設での養殖魚の成長管理などの水中モニタリング、海中エネルギー資源の探査効率の改善などによる海洋エネルギー調査などへの活用のほか、VRを活用した深海水族館や深海遺跡探索などの観光・レジャー用途、海洋プラスチックごみをはじめとする環境対策などに利用できるとしている。

日本初の水中LiDARとROVによる実験、課題が浮き彫りに

 水中LiDARの実験は、2019年8月14日に、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が持つ神奈川県追浜の施設を利用して実施。水中LiDARを小型のROV(Remotely Operated Vehicle)に搭載し、水中に投下し、水槽内に設置した測定対象物に対して3Dスキャンを行い、水中での3D測距画像の取得に成功したという。

 青色LDを搭載した水中LiDARとROVによる実験は、日本では初めてだという。「海外でも論文は見かけるが、具体的なデータは見あたらない。実験では、小型ROVに、耐圧容器に収容した水中LiDARを搭載し、航行しながらのスキャンを実施。測定距離約1m、精度3cmのラスタースキャン方式により、対象物を測定。いままでの光だけで水中照射した部分実験から、実環境での測距画像取得に成功し、実サービス提供にむけた課題出しを行うことができた」とした。

 実験では、耐圧容器にアクリル板を利用したことで、これが想定以上に近端反射を招いたこと、スキャンの高速化に課題があったこと、今後、水中構造物などのデータ解析のために、それに最適化したノイズ除去や特徴点検出などのアルゴリズム開発が必要なことなどが浮き彫りになったという。

       実験に使用した耐圧容器に収容した水中LiDAR

様々な事業の展開、顧客に測定データを約100万円で提供など

 今後は、実践的な水中LiDAR技術の開発にむけて、2019年10月後半に、大型水槽を常設し、特性改善を行える環境を整備。水中LiDARの小型化や、水中ロボットの高性能化、自動航行アルゴリズムの開発などを進めるほか、将来的には、産業化やアミューズメント化にむけて、長期間探索ロボットや群行動ロボットなどによる次世代水中ロボティクスの実現にもつなげるという。

「水中LiDAR実験が成功したことで、水中3Dデータの取得を、新たな事業として展開したい。水中橋脚点検、海底マッピング、養殖場のモニタリング、配管内の亀裂調査、ダムや発電所施設の点検などにニーズがあると考えている」としたほか、「Aqua Pulsar Featuresの名称で、『データ取得』だけに留まらず、陸上への『データ転送』、収集および蓄積したデータ群をAI処理し、5Gの高速ネットワークで転送する『データ蓄積』、データを用いて新たな市場を創出する『データ利用』の4つの観点から、水中データ事業を推進する」とした。

 具体的には、水中LiDARを用いて、顧客が計測したいターゲットを計測し、測定データを、1回あたり約100万円で提供。海中や施設といった実環境データの取得に加えて、ターゲットにあわせたハードやソフトのカスタマイズの実施などにより、約1000億円の事業を創出。水中LiDARとロボット、通信、ネットワークを複合化したAqua Pulsar製品群によるリアルタイム水中データ取得事業により、複数年に渡って億単位の事業を推進。さらに、全自動水中モニタリングシステム「Aqua Pulsar Series」の提案により、AIを搭載した自律型ロボット(AUV)などの開発、導入にも取り組む。

「外部予算の活用で技術開発を加速させたい」

 さらに、2019年度からは、外部予算を活用して、水中光無線通信および水中監視プラットフォームの研究も進めているほか、ローカル5Gとの連携で特定エリアや特定目的でのネットワーク化にも取り組むという。

 「今後は、アミューズメントやエンターテイメント、教育といった身近なテーマで、水中での光無線技術の応用例を示すことが大切である。また、各テーマごとに外部予算の獲得を進めており、これらを活用することで、3年後をめどにした各種技術開発、製品化を加速していきたい」と述べた。

 ALANコンソーシアムでは、3年後のイメージとして、可視光波長を用いたレーザースキャニングによる水中LiDARでは、50mの距離で、1cm以下の分解能を実現。水中光無線通信では、1m~100mの距離で、数10M~1Gbpsの通信速度を実現。水中光無線給電では、非接触方式で、伝送距離1~10m、伝送電力で10W以上を目指している。

 なお、ALANコンソーシアムの活動内容は、2019年10月15日から開催するCEATEC 2019にブース展示を行うほか、会期中の特別シンポジウムにおいても説明を行う予定だ。