これでスマートテレビの姿も見えてきた NTT西日本 Android搭載STB「光BOX+」


 NTT西日本からOSとしてAndroidを採用したSTB「光BOX+」が発売された。HuluやYouTube、radikoなどのサービスを家庭用のテレビで気軽に楽しめるSTBだ。スマートフォンを席巻したAndroidはテレビの覇者ともなれるのだろうか?

身につきつつあるAndroidの作法

 「光BOX+」を触ってみると、自分の身にいかにAndroidの作法が染みついているかがよくわかる。

 若干デザインは異なるものの、見慣れたアイコン、アプリという概念、迷わずに使える各種設定、リモコンに並ぶ「ホーム」「メニュー」「戻る」のボタンと、はじめて使う端末でも、直感的に、サクサク使えてしまう。

NTT西日本から発売されたAndroid搭載STB「光BOX+」

 もちろん、コストの安さ、アプリの流用なども含めた開発の容易さなどのメリットも当然あるだろうが、テレビというこれまでメーカー個別の世界観が色濃く採用されてきたデバイスに、Androidの文脈と言うか、世界観を持ち込むことに、こういった効果があることを改めて実感した。

 テレビという幅広い世代が利用するプラットフォームを考えると、すべての人が同じ体験をするかどうかはわからないが、スマートフォンやタブレットが普及したおかげで、家電の世界にAndoridが進出するための足がかりは、すでに整っていると考えて良さそうだ。

 それにしても、以前に本コラムで取り上げたN-TRANSFERもそうだが、世の中の半歩先ならなぬ、世の中の0.75歩先をいくような機器のリリースに前向きなNTT西日本というのは、実に面白い会社だ。成果が出るのかがわからない面もあるが、ぜひ、この大股で半歩先を歩む精神を続けてほしいところだ。


Android 2.3搭載のメリットとは?

 それでは、製品について見ていこう。「光BOX+」は、HuluやYouTube、radikoなどのネットサービスを手軽に利用することができるSTBだ。

 STBと言っても、CATVや映像配信サービスなどの端末と比べると小型で、幅122×奥行き100×高さ27.2mmほどとなっている。競合製品となるのはApple TVとなりそうだが、若干、幅と高さが長いサイズとなっている。

正面側面背面

 インターフェイスは、背面に10BASE-T/100BASE-TXのLAN×1、HDMI、USB2.0×2、側面にSDカードスロットを搭載。IEEE802.11n/b/gの無線LANも搭載し、ワイヤレスでインターネットに接続することが可能となっている。

 そして、なんと言っても注目なのがOSにAndroidを搭載している点だ。Cortex A8(1GHz)、512MB RAM、4GBフラッシュメモリ(ストレージ)というスマートフォン(CPUとRAMはNexus Sと同等)と同等のハードウェアに、現行のスマートフォンでも多く採用されているAndroid 2.3.5(カーネルバージョン2.6.35.7-tcc)を搭載している。

AndroidをOSとして採用している

 Androidを搭載するメリットは、前述したように開発面にも存在するが、ユーザー視点では、大きく以下の3つの要素が考えられる。

・操作性
・アプリ
・パフォーマンス

 まずは操作性だが、これは冒頭で述べた通りだ。テレビに接続する以上、画面をタッチできず、リモコンでの操作になるのは仕方がないが、たとえば「ホーム」ボタンでホーム画面を表示し、「インターネット」アイコンを選択してブラウザを起動、「メニュー」ボタンでメニューからブックマークを表示し、上下ボタンで画面をスクロール、「戻る」ボタンでブラウザを終了するといったように、まさにAndoridの作法で利用できる。

 iOSユーザーには通じない作法かもしれないし、ソニーのXperiaシリーズ愛用者はリモコンの「戻る」の位置が左右逆なのが気になるかもしれないが、こういった使い方が違和感なくできてしまう。このメリットはやはり大きい。

専用のリモコン。Android搭載スマートフォンと同じボタン配列。リモコンにはジャイロセンサーが搭載され、向ける方向で画面上のカーソルの操作も可能

 続いてのアプリだが、光BOX+ではGoogle Playが利用できないようになっており、アプリは「光アプリ市場」というNTT西日本が提供するサイトからのダウンロードのみとなっているのだが(メールなどでAPKを転送してもインストール不可)、基本的にOSは同じとなるため、画面の解像度などの若干の手直しをするだけで、Andoroidの豊富なアプリを利用できる可能性が高くなっている。

 使えるアプリは、ビデオ、写真、音楽、メディア共有(Twonky)、YouTube、インターネット(ブラウザ)、マップ、Hulu、K-9 Mail、radiko.jp、ニュース&ラジオチャンネル、ベルメゾンネット、ePrint、映画情報、動画チャンネル、と限られているが、アプリが提供される環境は整っているので、「光アプリ市場」の判断次第で、豊富なアプリが提供されそうだ。

標準搭載のアプリアプリは専用のマーケット「光アプリ市場」からダウンロード可能

 現状、CATVやインターネット上の映像配信サービスは、それぞれ個別のSTBを使っているが、アプリでさまざまな機能が実現できるようになれば、STBは共通で、アプリのみで多彩なサービスが利用できるようになることも考えられる。

 実際、光BOX+の提供予定サービスには、将来の予定としてNTTぷららの「ひかりTV」が含まれている。いよいよ家電もオープンな世界が身近に迫ってきたという印象だ。

 最後のパフォーマンスだが、これはゲーム機には及ばないものの、既存のSTBやテレビ搭載のインターネット機能などとは、比べものにならないほど快適だ。

 テレビで映像配信サービスやブラウザなどを利用すると、機能を起動するのに十数秒待たされ、画面の描画が目に見えるほどゆっくりでスクロールは遅く、カーソルを移動すればワンテンポ遅れ、画面はなかなか切り替わらず、文字入力はストレスがたまる一方となり、サービスを使う前に離脱したくなるが、そういったストレスは一切ない。

 アイコンを選択すれば瞬間にアプリが起動し(初回起動や起動時にデータ読み込む場合は若干時間がかかる場合もある)、ブラウザでWebにアクセスすれば、無線LAN経由でスマートフォンからアクセスした場合と同等の速さでページが表示され、画面をスーとスクロールさせつつ、別のページへと瞬時に移動できてしまう。

 唯一の課題は文字入力で、リモコンの「ポインター切替」を押して、画面上にカーソルを表示し、画面上のボタンを押す必要があるのだが、画面上のポインターは、リモコンに搭載されているセンサーで反応するしくみになっており、カーソルを動かしたい方向にリモコンの先端を向けることで、スムーズに移動させることができるようになっている。

 慣れれば操作は難しくないが、手がブレると、画面上の細かな位置を指定できずに、ボタンを押し間違えることがあるので、Apple TVのようにスマートフォンをリモコンとして使えるような工夫があるとよさそうだ。

文字入力など、一部の操作は、カーソルモードで操作する。画面上のカーソルをリモコンのジャイロセンサーで動かし、画面上のボタンを押す



値下げされたHulu端末として最適

 実際の使い方について見ていこう。設定は非常にカンタンで、有線LANで接続する場合であれば、LANポートにケーブルを接続後、HDMIでテレビに接続するだけでいい。初回のみ、本体とリモコンをペアリングする作業が必要となるため、リモコンのIR部分を本体に向けながら、「決定」と「ホーム」ボタンを同時に3秒ほど押す必要があるのだが、これでホーム画面から機器の操作が可能となる。

 無線LANを利用する場合は、設定画面から無線LANを有効にし、接続先を設定する。SSIDを検索して手動で設定することもできるが、WPSでの設定も用意されており、ボタン設定に対応した無線LANアクセスポイントを利用している場合は手軽に設定可能だ。基本的に必要な設定は以上で、あとはアプリを起動して、それぞれの機能を利用すればいい。

無線LANの設定はWPSでも可能

 最大の注目は、先日、月額980円に利用料金が値下げされたHuluを利用できる点だろう。Huluは、一部のゲーム機やテレビ、レコーダーなど、幅広い機種に機能が搭載されるようになってきたが、それでも数年前に購入したテレビなどでは対応していない。しかし、この光BOX+を使えば、非対応のテレビでも手軽にHuluが楽しめるようになるわけだ。

 Huluは、当初は海外のドラマや映画が主なラインナップだったが、最近になって邦画や日本のテレビドラマが増えてきた。アニメのラインナップが少ないことを欠点に上げる人も少なくないが、値下げされたこともあって、かなり魅力的なサービスになってきている。

Huluに対応。テレビで手軽にHuluを楽しめるようになる

 筆者も、試しに使ってみようとサービス開始時にHuluに加入し、WALKING DEADなどのドラマにハマった口だが、このサービスがテレビで手軽に使えるようになるメリットは大きい。これまで、筆者宅では、リビングのテレビでは、接続しているパナソニックのレコーダーしかHuluが使えなかったため、いちいちレコーダーを起動して、リモコンから深い階層まで画面を操作していくことに抵抗があったが、これで、手軽に楽しめるようになった。

 Huluの画面のレイアウトは、テレビやレコーダーなどに搭載されているものとほとんど同じで、いろいろなタイトルを並べて、どれを見ようかと考えるのには向いていないのだが、マイリストを使って、PCから見たいタイトルを放り込んでおいて、光BOX+で再生するという使い方をすれば、リモコンで文字入力する必要もないので、ストレスなく利用できる。

 サムネイルを見ながら再生バーで再生地点を選べたり、再生終了後、メニューから次ぎのストーリーを選ぶのも手軽にできるので、操作性は快適だ。

 ちなみに、話はそれるが、こういった端末ができるのであれば、Hulu自らがもっと手軽なSTBを提供しても良さそうな気もする。HDMI直結の小型ハードウェアにAndroidを搭載し、Huluアプリのみが起動するようにして、スマートフォンから再生操作できるような機器があってもよさそうだ。多機能なAndroid STBも面白いが、思い切って単機能、専用のAndroid STBというのもニーズがあるのではないだろうか。


ホーム画面切り替えでDLNAクライアントなども利用可能

 このほか、アプリを利用することで、ニュースサイトのRSSを見ながらradikoでラジオを再生したり、YouTubeのニュース映像をテレビ放送のように、リモコンの左右ボタンで切り替えながら再生できる「動画チャンネル」などを利用できる。

 また、ブラウザもスマートフォン向けのサイトを表示できるため、ニュースサイトなどを閲覧したり、動画配信サービスなどを利用することも可能となっている。場合によっては、美容室や飲食店などの店舗で、ニュースと音楽の再生、動画によるテレビの代わりなどに使うというニーズもありそうだ。

「ニュース&ラジオチャンネル」。文字情報のニュースとradikoを同時に楽しめるテレビのチャンネルのように動画ニュースを楽しめる「動画チャンネル」


ネットワーク対応プリンタがあればePrintで印刷もできるブラウザを使ってスマートフォン向けサイトにアクセス可能


DLNAクライアントでネットワーク上のメディアサーバーを利用可能マップも利用可能。ただし、ルート検索やストリートビューには非対応

 さらに、標準のホーム画面として設定されている「光おてがるナビ」では表示されないのだが、通常のランチャーに切り替えることで、「メディア共有」などの機能が使えるようになる。このメディア共有はTwonkyベースのDLNAクライアント(DTCP-IP非対応)となっており、ネットワーク上のDLNAサーバーの動画、写真、音楽を再生することが可能だ。

 マップも利用可能となっており、地図を表示したり、地点を検索することはできるが、ルートを検索したり、スターを利用したり、ストリートビューを利用することはできない。基本的に、Android端末と同じ感覚で利用できるが、アプリ側は、それなりにカスタマイズされたものが搭載されているため、すべての機能が使えるわけではないようだ。


スマートテレビが待ち遠しい

 以上、NTT西日本の「光BOX+」を実際に試してみたが、ネットワーク家電の進化を体験できる非常に面白い端末だ。筆者はNTT東日本のエリアに居住しているが、NTT西日本のサイトから購入できるうえ(9240円)、利用する回線も問わず、試してみたところauひかりでも問題なく利用できたので、試してみる価値は十分にあるだろう。少なくとも、Hulu端末として購入しても、まったく損はない。

 ただ、この使い勝手の良さを見てしまうと、スマートテレビの登場が待ち遠しくなってしまう。もちろん、頻繁にテレビは買い換えるわけにはいかないので、光BOX+が単体のSTBとして存在することの価値は変わらないのだが、できればAndroidベースのスマートテレビという単体で完成された状態で使いたいと感じさせられる。

 そうなると、ますます国内の電機メーカーのテレビ事業は苦境に陥りそうだが、とにかく、今後は、Androidが家電にどう浸透していくのかも見物になりそうだ。



関連情報

2012/4/17 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。