これから始める「Windows 8」 Part 1:パッケージの種類とアップグレード方法


 これからWindows 8を利用しようと考えている人に向けて、今回から3回に渡って3日連続でWindows 8の概要を解説していく。初回は、Windows 8の利用に避けては通れないインストールの話題だ。パッケージの種類やアップグレード方法を整理して、自分に合った方法でWindows 8を導入しよう。

パッケージの種類をおさらい

 まずは、パッケージの種類についておさらいしていこう。以下は、現状、販売されているWindows 8のパッケージの種類とその概要だ。

【表1】Windows 8の種類
エディション販売形態流通形態価格
(円)
32/64
bit
インストール
Upgrade新規
Windows 8
Pro
パッケージ
DVD6,090同梱×
(*2)
ダウンロード3,300
(*3)

(*5)
×
(*2)
ダウンロード
(優待)
1,200
(*1)(*3)

(*5)
×
(*2)
Windows 8
Pro Pack
パッケージ
DVD6,090
(*9)
同梱
(*4)
×
Windows 8
無印
DSP版(*8)DVD10,800
(*6)

(*7)
(*4)
Windows 8
Pro
DVD15,800
(*6)

(*7)
(*4)
(*1)2012/6/2~2013/1/31までにWindows 7搭載PCまたはDSP版を購入し、登録サイトからプロモーションコードを入手
(*2)インストールは可能だが、「プロダクトキー使用不可」と表示されライセンス認証不可
(*3)別途1589円でDVDメディア購入可能(ダウンロードしたISOから自分で作成すれば無料)
(*4)Windows 8(無印)からWindows 8 Proへのアップグレード用
(*5)アップグレードアシスタントを起動したOSのアーキテクチャと同じものをダウンロード
(*6)別パッケージとして提供(購入時にユーザーが選択)
(*7)アップグレードインストールは可能だが、ライセンス的にNG
(*8)価格は店頭の実売価格
(*9)オンライン購入の場合は5,800円

 OSのエディションとして、無印とPro、無印からProにアップグレードするためのPro Packが存在し、その販売形態としてパッケージ版とDSP版が、流通形態としてDVDメディアとダウンロードが存在する。

 エディションによる機能の違いについては、マイクロソフトの公式サイト(http://windows.microsoft.com/ja-JP/windows/compare)を参照してもらうとして、実際に購入するときに注意したいのが販売形態だ。

 Windows 8では、従来のOSと異なり、いわゆるパッケージとして提供されるのは、既存のWindows XP/Vista/7からのアップグレードを対象としたアップグレード版のみとなった。OSを単体で購入するユーザー層が狭まったというのがその理由だろう。

 その代わりに、秋葉原などのショップを中心として自作ユーザー向けに販売されてきたDSP版が拡充され、パーツやPCとのセットだけでなく、単体での購入が可能となった。

DSP版のWindows 8 Pro。新規インストール向けの製品。32bit版と64bit版は個別に提供される

 注目したいのは、インストール方法の違いだ。それぞれが対応するインストール方法を図式化したのが以下の画像だ。基本的に、DSP版は新規インストールのみに、アップグレード版はアップグレードのみに対応する。

【図1】パッケージ版とDSP版の違い。パッケージ版はアップグレード専用になった点に注意が必要

 アップグレード版も、後述する32bit版から64bit版を考慮して、新規インストールを実行することは可能となっているが、アップグレード対象の旧OSが存在しないPCにインストールすると、Windows 8の起動後にプロダクトキーが無効化され(入力されていない状態になる)、ライセンス認証が実行できない状態になる。

 Windows 8では、Windows 7と異なり、プロダクトキーなしでのインストールが不可能となったが、図らずも、これと同じ状態になるわけだ。

アップグレード版を、アップグレード対象のOSがないHDDにインストールすると、プロダクトキーが使用不可になる

 このため、しばらくの間はそのまま利用することもできるが、数時間もするとアクションセンターに警告が表示されるようになり、さらに経過するとライセンス認証の実行が毎回起動時に表示されるようになる。このため、継続して利用するには、新規インストールに対応したプロダクトキーを入手して、ライセンス認証を受けなければならない。

 ただし、詳しくは後述するが、この現象は、空のHDDにWindows 8をインストールした場合の動作だ。HDD内にWindowsが存在する、もしくは存在すると判断できる状況になっている場合は動作が異なる。こういった点は実に興味深い。

 一方、DSP版だが、こちらは基本的に新規インストール向けとなる。インストール方法としてアップグレードインストールも実行することはできるが、パッケージに、「このパッケージ内のソフトウェアは以下の場合にはご利用いただけません」として、「既存のWindowsオペレーティングシステムのアップグレードライセンスとしてご使用になる場合」と記載されている。前述したアップグレード版のように、インストール方法の違いによるライセンス認証の制限は設けられていないが、あくまでも新規インストールが前提の製品となる

 つまり、前述したように、アップグレード版はアップグレード用、DSP版は新規インストール用と、明確に棲み分けがなされていることになる。

DSP版のパッケージの写真。デュアルブートと仮想環境での利用はOKとなっているが、アップグレードライセンスには使えないとされている


優待購入プログラムの適用範囲は柔軟

 というわけで、DSP版と違い、インストール方法に注意しないとライセンス認証ができなくなるアップグレード版だが、本来の用途であるアップグレードに関しては、なかなか柔軟な対応となっている。

 まず、アップグレード対象のOSが、XP、Vista、7と幅広く設定されている。もちろん、以降できるデータの種類などは限られているが、少なくともデータを保持した状態でのアップグレードは、どのルートでも可能だ。念のため、各組み合わせで実際にテストしてみたのが以下の表だ。

【表2】アップグレードパス

Windows 8(無印)Windows 8 Pro
Windows 7Home Premium
Professional
Ultimate
Windows Vista全エディション
Windows XP全エディション
◎:個人ファイル、Windows設定、アプリを移行可能
○:個人ファイル、Windows設定
△:個人ファイルのみ移行可能
※32bit→32bit、64bit→64bitへの移行の場合


 続いては、アップグレード対象のPCだ。アップグレード版には、オンラインからダウンロードで購入できるダウンロード版が存在するうえ、さらに2012年6月2日から2013年1月31日までの間に、アップグレード対象のWindows 7搭載機やWindows 7 DSP版を購入したユーザー向けの優待購入プログラムも用意されている。

 この優待購入プログラムは、1200円でアップグレード版のWindows 8を購入できるお得なものだが、このプログラムのFAQ(http://www.windowsupgradeoffer.com/ja-JP/Home/Faq)が、なかなか興味深い。

 具体的には、購入対象のPC以外へのインストールが可能とされているうえ、さらにクリーンインストールも可能と明記されている。また、通常のダウンロード版(3000円)のFAQも見てみると、後述する32bit→64bitのアップグレード方法も明記されている。

 購入対象のPC以外へのインストールが可能というのは、以下のようなしくみのことだ。

【図2】優待対象のPCでなくても、対象となる正規版(DSP版)Windowsからクリーンインストールすれば、Windows 8へアップグレード可能

 本来であれば、購入対象のPC(2012年6月2日から2013年1月31日購入のPC)でアップグレードアシスタントを実行し、Windows 8のプログラムのダウンロードとアップグレードを実行するという流れになる。

 しかしながら、FAQから判断すると、下のように、購入対象のPCとインストール対象のPCは別と考えてかまわないことになる。また、インストール対象のPCに関しては、「有効な正規のWindows」がインストールされていることがアップグレード版のFAQに明記されている。

 この「有効な正規のWindows」というのは広く解釈できてしまう可能性もあるが、それはさておき、優待対象のPCはそのままに、別のPCにアップグレード対象となるWindows XPやWindows 7などをインストールし、そこからアップグレードすることも可能というわけだ。

 筆者もそうだが、新しいOSをインストールする際は、なるべくクリーンな環境にインストールしたいと考える人も少なくない。その点、この方法であれば、クリーンな旧OSにクリーンなWindows 8を上書きすることができる。購入対象のPCやDSP版を所有していることが前提になるものの、アップグレード版でも、1200円で、極めてクリーンインストールに近い環境を手に入れられることになる。


パーティション削除でも扱いはアップグレード

 続いて、32bitから64bitへのアップグレードについて検証してみた。Windows XP、Vistaで64bit版を利用しているユーザーは、ほとんどいないと考えてかまわないので、既存のOSからのアップグレードとなると、32bitから64bitへの移行となる。

 当初、このアップグレードは不可能であると言われていたが、これはアップグレードアシスタント(アップグレード前の環境検証やアップグレードを実行するプログラム)からのアップグレードが不可能であるという意味で、ライセンス的には問題ないうえ、DVDやUSBメモリなどのメディアを利用すれば「一応」アップグレードできるようになっている。

 「一応」としたのは、条件によって、動作が異なるからだ。このあたりの32bit→64bitの移行例を以下に図解した。

【図3】32bitから64bitへのアップグレードの可否

 アップグレードアシスタントによる移行が一番上の例で、これは実行しようとすると警告が表示される。

32bit版OSからアップグレードアシスタンス経由でアップグレードしようとすると警告が表示され中止される

 2番目のケースは、DVD、もしくはUSBメモリからインストールを実行した場合だ。インストール時の選択で「アップグレード」を選ぶと旧OS上で実行せよと振り出しに戻されるが、「カスタム」を選択し、既存のパーティションに対してインストールを実行すれば、従来のOSのデータが「Windows.old」に保存された状態でインストールされる。

 これをアップグレードと呼ぶかどうかは微妙なところではあるが、「ドキュメント」などにデータがコピーされないだけで、データそのものを保持したままインストールできることになる。

既存OSの領域を保持したままアップグレードすると、従来のデータがWindows.oldフォルダに保存される

 しかしながら、ここで注意したいのが、データを保持するということは、Windows 8をUEFI環境で利用できないということだ。以前、本コラムで解説したように、Windows 8はUEFI環境にインストールすることで、非常に高速に起動させることができる

 しかし、UEFIでは、GPT環境へのインストールが必須となるため、既存のデータを保持するためにMBR環境のままでは、このメリットを活かせないだけでなく、インストールすらできない状況となってしまう。

 では、どうすればいいのかというと、インストール先の選択画面で、既存のHDD領域をすべて削除すればいい。既存領域にそのままインストールする場合と異なり、Windows.oldでデータを保持することは不可能になるが、自分でバックアップしておけば済む話なので、特に問題ないだろう。

 データの移行やアプリのインストール、設定が面倒なら、何も考えずにアップグレードすることも止めはしないが、正直、非UEFI環境へのインストールは、Windows 8の高速ブートというメリットを放棄することになる。

 PCがUEFIに対応していなければ、そのままアップグレードすればいいが、せっかく対応しているのに、MBRのままアップグレードするのはもったいない話だ。

 ちなみに、前述したように、最初からまっさらなHDDにアップグレード版のプロダクトキーでインストールした場合はライセンス認証が不可能になるが、ここで紹介したようにインストール時にHDDの内容を消去した場合はライセンス認証は可能だ。

 このことから、アップグレード版では、インストーラーが起動時に旧OSがHDD上に存在すると判断すれば、新規インストールでもライセンス認証が可能であると推測できる。

 なお、ダウンロード版でUEFI環境からインストーラーを起動する場合は、DVDではなく、USBメモリにメディアを作成することを推奨する。DVDにもUEFI用のモジュールが含まれているのだが、今回のテストではどうしてもUEFIでブートさせることができなかった。


ライセンス認証に猶予を

 以上、Windows 8の提供方法の違いやアップグレード版を利用したインストールを実際に検証してみたが、新規インストールにしろ、アップグレードにしろ、利用できる製品やその条件に違いがあることがわかった。

 どのような方法でインストールすると、どうなるのか、その際に何を失うのかをきちんと理解していれば、安いアップグレード版を買ってもかまわないが、そうでないと新規インストールができなかったり、UEFI環境を利用できなかったりと、利用環境が制限されてしまう。

 基本的に、アップグレードにはアップグレード版を、新規インストールにはDSP版をというルールに従うのが確実だが、どちらかというとDSP版の方が制限が緩く、使い道も広いと言えそうだ。なお、仮想環境での利用に関しても、このルールが適用される。仮想環境でWindows 8を使いたい場合も、アップグレード版とDSP版をインストール方法に合わせて購入すべきだろう。迷ったら、事前にマイクロソフトのカスタマーサービスにと問い合わせてみることをおすすめする(http://support.microsoft.com/contactus/?ln=ja)。

 それにしても、Windows 8のライセンス認証の時間的猶予の無さは何とかならないものだろうか。テストでインストールしたくても、ネットワークに繋がっていれば、即座にライセンス認証されてしまうので、まったく気が抜けない。

 というわけで、Windows 8をインストールするときは、問題なく動作することを確認できるまで、インターネットからは切り離した状態でセットアップを進めることも、個人的にはおすすめしたい。そうでないと、即座にライセンス認証が実行され、せっかくのライセンスキーを復活させるまでに、手間も時間もかかることになる。



関連情報



2012/11/6 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。