EMOBILE LTE対応の長時間駆動モバイルルーター「Pocket WiFi LTE GL04P」


 イー・モバイルの「Pocket WiFi LTE GL04P」は、この夏に発売されたLTE対応のモバイルルーターだ。3000mAhのバッテリーを搭載し、LTEによる高速な通信環境を長時間利用することができる。その実力を検証してみた。

長時間駆動だけでいいのでは?

 現段階で、未対応で対応の予定も決まっていない「UE Category4(20MHz幅で下り最大150Mbpsを実現する規格)」をわざわざ訴求する必要があるのか?

 そんな第一印象を持ったのがイー・モバイルのモバイルルーター「Pocker WiFi LTE GL04P」だが、詳細をよく見ると、確かに、この規格を訴求せざるを得ないのも納得だ。

 イー・モバイルでは、LTEサービス向けのルーターとして、これまで同じくHUAWEI製のGL01Pを提供していたが、サイズやバッテリー容量など、基本スペックがほぼ同等となるため、明確な違いと言える部分が前述した「UE Category4」くらいしかないのだ。

イー・モバイルのLTE対応モバイルルーター「Pocket WiFi LTE GL04P」

 従来モデルのGL01Pを考慮しなければ、3000mAhのバッテリーを搭載し、最大9時間の連続通信ができるLTEモバイルルーターとして、十分価値がある製品だが、明確な違いを見せるとなると、確かに難しいところだ。

 とは言え、現状、LTE対応のモバイルルーターとしては、最長といってもいい連続通信時間を持つ製品となるだけに、やはりその実力が気になるところだ。再編の渦中にあることも気にはなるが、純粋にサービスや製品として契約する価値があるかどうかに迫ってみよう。

 

サイズは許容範囲

 まずは、外観から見ていこう。本体のサイズは、幅102mm×高さ66mm×厚さ14.5mmと、許容範囲と言って良いサイズだ。

 最近では、3G向けの製品を中心に小型のモバイルルーターも存在するため、それと比べると若干大きく、重いものの、他の通信事業者のLTE対応モバイルルーターの中には、さらに大きい(主に厚さ)製品もあるため、それと比べれば十分実用範囲と言える。

正面側面背面

 デザインはシンプルで、前面中央に大きめのディスプレイを搭載し、その横に電源ボタンが配置されている。HUAWEI製のモバイルルーターは、このディスプレイの情報量の多さが魅力で、現在の通信状況はもちろんのこと、WPSでボタンを押す時間が表示されるなど、「使いやすさ」がかなり意識されている点は高く評価したいところだ。

見やすいディスプレイは大きな魅力

 側面は、下側に充電およびUSB接続での通信用のminiUSBポート、WPS接続用のボタンが廃止され、上側にUSIMカードスロットとmicroSDカードスロットが用意されており、こちらはごく一般的だ。
 背面カバーは固定されており、バッテリーの取り外しはできない仕様になっている。最近は限られたスペースにバッテリーを収める必要があることから、固定式になっている製品が多くなっている。長期間の利用を考えると、交換式のメリットもあるが、2年前後の利用を前提とすれば、固定式でも問題ないだろう。

 

WPS設定にクセあり

 続いて、使い勝手について見ていこう。前述した通り、本製品にはWPSボタンが搭載されているが、これは若干クセがある。

 試してみたところ、Android 4.0以降を搭載したスマートフォンからであれば、Wi-Fiの詳細設定を表示してWPSのプッシュボタン方式を選ぶことで接続できたが、Windowsの場合、Windows 7では先にGL04PをWPSモードにしておかないと接続できなかったうえ、Windows 8に関してはGL04P側では接続成功のマークが表示されるもののWindows 8側では失敗のメッセージが表示され、接続できなかった。

Windows 8からはWPSの接続に失敗する。Windows 7では、先にGL04PをWPSモードにすれば接続可

 利用シーンを考えると、PCで利用する機会が多いだけに、WPSでうまく接続できない点は、若干マイナスのイメージだ。Windows 8に関しては無線LANの仕様が若干変更されているのか、他の製品でも問題が発生することがあるが、速やかな改善を望みたいところだ。

 なお、無線LANは、IEEE802.11n/b/gに準拠しており、最大で300Mbpsでの通信に対応しているものの、実際に接続される速度は設定モードと電源の接続状況によって異なる。以下は、GL04Pの取扱説明書に記載されている通信速度の表だ。

表1:無線LAN速度
周波数帯域幅充電時内蔵電池動作時
20144Mbps72Mbps
40300Mbps150Mbps

 標準では20MHz幅となっているため、最大で144Mbpsでしか通信できないが、この速度が実現できるのは充電時のみで、バッテリー駆動時は72Mbpsが最大速度となる。

 実質的には72Mbpsのリンクで何の問題もないのだが、こういった制限があることを考えると、冒頭で紹介した「UE Category4」対応に、※印で「USB接続を推奨」とでも注を追加した方がいいのではないかと思える。

 設定画面については、シンプルなものの、必要最低限の項目を適切に設定できるうえ、スマートフォンなどのモバイル機器に最適化された設定ページも用意されているので、使いやすさとしては悪くない印象だ。

通常は最大72Mbpsでの接続だが、充電中であれば144Mbpsで通信可能。40MHz幅を有効にすれば最大300Mbpsが可能になる設定画面はシンプルな構成となっている

 

優秀な連続通信時間

 気になる連続通信時間だが、これは非常に優秀だ。LTEで通信できる環境で、PCから一定時間おきにPingとHTTP GETを実行するバッチファイルを稼働させ続けたところ、14:40から23:14まで、8時間34分連続で通信することができた。

 現状、サービスが異なるため、直接比較するのは公平ではないものの、他の通信事業者向けのLTE対応のモバイルルーターは5~6時間程度となっているケースが多く、「LTEはバッテリーが持たない」というイメージがある。

 しかしながら、本製品では、カタログスペックの9時間には届かなかったものの、8.5時間の連続通信が可能になっている。これくらい通信できれば、会社や学校などの通勤時はもちろんのこと、日中に利用しても、十分にバッテリーがもつことになる。このスタミナは、かなり心強いところだ。

 省電力機能に関しては、通信が10分ない場合に自動的に無線LANをオフにし、電源ボタンを押すことで無線LANを復帰させることができる。理想は端末からの接続を検知して自動的に復帰してほしいところだが、簡単な操作で復帰できるので、実用上は問題ないだろう。

無線LANの設定画面。周波数帯域幅や省電力時の自動オフ時間などを設定できる


LTE対応エリアと速度に注意

 このように外出先でバッテリーを気にせずに利用できるGL04Pだが、このときに考慮しなければならないのはエリアだ。イー・モバイルが公表しているエリアマップを見ると、東京であればほぼ全域がLTEエリアとしてカバーされているが、都市部を少し外れると、LTEでは通信できなくなってしまう。出張などでの利用を検討しているのであれば、地方での利用や移動中などに、その実力を発揮させるのは難しそうだ。

 また、都内の場合でも、周辺の環境によってはLTEで通信できない場合もある。今回、小田急線の世田谷区内の駅、渋谷、品川で、速度を計測してみたのが以下の表だ。

表2:通信速度
世田谷区渋谷駅品川駅
EMOBILE LTE接続方式LTE3GLTE
速度(下り/上り)22.30 / 9.504.05 / 1.851.52 / 6.98
au LTE接続方式LTELTELTE
速度(下り/上り)7.88 / 6.098.78 / 6.597.33 / 7.24
※iPhone5からRBBTODAYを使用して計測

 残念ながら、今回のテストでは渋谷の駅構内でLTEでは接続できず、3Gでしか繋がらなかった。また、品川に関しては、利用者が多かった影響か、LTEで接続されるものの、実際の通信は下りが1Mbps強とかなり制限されてしまった。

 参考として、au版iPhone 5のLTEでも同時にテストしてみたが、LTEで接続される可能性としては、auの方が上となった。このあたりは、エリアの整備状況を待つしか無いだろう。

 一方、高速だったのは、世田谷区の小田急線の駅で、下りで20Mbpsを超える実効速度をマークし、かなり快適な通信ができた。

今回のテストでは世田谷区の小田急線の駅で20Mbpsを超える速度を実現できた

 モバイル通信サービスの場合、周辺環境や利用者の数によって速度がかなり変化するため、一概には言えないが、環境次第ではLTEの恩恵を受けられそうだ。

 ただし、速度に関しては、1つ注意点がある。イー・モバイルのLTEは、規格上、下り最大75Mbps、上り最大25Mbpsでの通信に対応しているが、この速度での通信が可能なエリアは、現状、かなり限られている。

 同社が公開している2012年9月14日の情報では、関東では高萩駅周辺、日光市の一部、館山駅周辺、旭駅周辺、勝浦市の一部、舞浜駅周辺、お台場周辺、相模原市緑区の一部、二宮駅周辺、箱根湯本駅周辺、足柄下郡湯河原町の一部で、東京ではお台場周辺のみとなる(http://emobile.jp/area/lte/index.html)。

 つまり、実質的な速度は下り最大37.5Mbps、上り最大12.5Mbpsでの通信になる。同社のEMOBILE 4Gの速度が、下り最大42Mbps、上り最大5.8Mbpsなので、「LTEの恩恵」をどう考えるかは、結構、難しい判断になりそうだ。

 

9時間以上使える高速通信環境と考える

 以上、イー・モバイルのLTEサービスと、モバイルルーター「Pocket WiFi LTE GL04P」を実際に使ってみたが、サービスの内容をきちんと理解して使えば、首都圏であれば問題なく接続できるうえ、実効で8.5時間という連続通信ができるので、悪くない選択肢と言える。

 前述した「UE Category4」という表記もそうだが、イー・モバイルのサービスに限らず、最近の通信サービスは注記が多すぎるうえ、むしろ、注記にこそ重要な情報が書かれているケースが多い。単純に、首都圏で9時間連続通信できる高速モバイル通信サービスと考えれば、良い選択肢と言えるのだから、もっとわかりやすくしてもよさそうなものだ。

 


関連情報

2012/10/30 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。