清水理史の「イニシャルB」
予算1万円台前半で狙う無線LAN実用モデル
バッファロー「WZR-900DHP」
(2013/4/23 06:00)
IEEE802.11acは興味があるものの、Draftが取れて、クライアントが出そろうまでは様子見。そんな人の候補になりそうなのが、バッファローの「WZR-900DHP」だ。450Mbps+450Mbpsで1万円台前半の普及機の実力を試してみた。
価格差をどう考えるか?
単体の実売価格で比べると、フラッグシップのWZR-1750DHPが1万9800円、Draft11ac対応ながらMIMOが2×2となるWZR-1166DHPが1万5800円、そして今回取り上げるIEEE802.11n対応のWZR-900DHPが1万3600円。
WZR-900DHP | WZR-1166DHP | WZR-1750DHP | |
実売価格 | 13800円 | 15800円 | 19800円 |
対応規格 | IEEE802.11n/a/b/g | IEEE802.11ac(draft)/a/b/g | IEEE802.11ac(draft)/n/a/b/g |
速度(2.4GHz+5GHz) | 450Mbps+450Mbps | 300Mbps+866Mbps | 450Mbps+1300Mbps |
有線LAN | 1000Mbps | 1000Mbps | 1000Mbps |
USB | USB3.0×1 | USB3.0×1 | USB2.0×1/USB3.0×1 |
サイズ(幅×高さ×奥行き) | 28×185×196mm | 34×212×183mm | 34×212×183mm |
消費電力 | 23W | 15.1W | 18.2W |
中継機能 | バージョンアップ対応予定 | ○ | ○ |
スマホ設定(Wi-Fiリモコン) | × | ○ | ○ |
アドバンスドQoS | × | ○ | ○ |
AOSS2 | ○ | ○ | ○ |
USBデバイスサーバー | バージョンアップ対応予定 | ○ | ○ |
パフォーマンスを重視するならWZR-1750DHPがベストだが、規格の正式策定前となるうえ、実力を100%享受できる対応クライアントも少ない。しかも、価格が……。
もちろん、若干価格が安いWZR-1166DHPも選択可能だが、Draft11acという状況は同じなうえ、MIMOが2ストリームまでの対応となるおかげで、速度が抑えられているところが、むしろ悩ましいところだろう。
そこで、注目したいのが、今回取り上げるWZR-900DHPだ。現状のメインストリームとなるIEEE802.11n/a/b/gに準拠した無線LANルーターで、2.4GHz帯、5GHz帯ともに3x3 MIMOの450Mbpsで同時に通信することが可能となっており、しかも、価格は実売で1万円台前半とリースナブルな設定になっている。
将来的にIEEE802.11acの時代が到来すれば、1300Mbps対応製品の価格も恐らくもっと下がってくるはずなので、今は無理をせず、WZR-1750DHP比6000円、WZR-1166DHP比2000円の費用を節約するというのも悪くない選択と言えるだろう。
同系統のデザインでも若干コンパクト
では、製品を見ていこう。本体は、11ac技術を先取りした600Mbps対応のWZR-D1100Hからの統一されたイメージを踏襲したものとなっており、角に丸みを帯びた長方形のデザインとなっている。
アンテナは、前述したようにIEEE802.11nの450Mbps(2.4/5GHzとも)に対応していることから、送受信ともに3本となっているが、すべて本体に内蔵されており、スッキリとしている。
サイズは、幅28×高さ185×奥行き196mmと、無線LANルーターとしては決して小さくないが、Draft 11ac対応製品に比べると、幅、高さともに若干コンパクトになっている。設置面積は大きく変わらないが、側面のパネルの膨らみが少ないせいか、見た目は若干スッキリとしている印象だ。
インターフェイスは、背面にすべて1000BASE-T対応のLAN×4、WAN×1を搭載しているほか、外付けHDDを利用した簡易NASや複合機などをネットワーク経由で利用できるデバイスサーバー機能(バージョンアップ対応予定)に利用可能なUSBポート×1を備えている。
現状は明確なアドバンテージとまでは言えないものの(詳しくは後述)、他社製の無線LANルーターにはないUSB3.0を搭載しているのは、本製品ならではの特徴と言えるだろう。
また、背面上部には、セットアップ用の引き出し式のカードが格納されている。WZR-1750DHPなどでは、底面のフレーム部分に格納されていたが、利便性を考慮して、位置が変更されたと考えられる。WZR-1750DHPなどでは、このカードが抜けやすく、本体を移動させたときに落ちてしまうことがあったが、カチリと差し込むことで抜けにくくロックされるように工夫されている。細かな点だが、こういった配慮はなかなかうれしい。
ソフトウェアは旧モデルと同等
一方、ソフトウェアに関しては、一新されたDraft 11ac世代の製品と異なり、従来モデルと同じ構成だ。
設定画面のデザインは、上部の「Internet/LAN」や「無線設定」などのタブから、さらにその下に並んだ「基本(11n/a)」などのサブ項目を選んでいくという方式となっている。そのため、Draft 11ac対応機に搭載されているスマートフォン向けの設定ページなどは搭載されない(AOSS2は搭載しているため初期設定は簡単に可能)。
とは言え、ゲストポートをこまめに有効/無効にする可能性はあるものの、一般的には、無線LANルーターの設定画面にアクセスする機会はあまりない。この違いについては、あまり気にする必要はないだろう。
また、USB関連の機能も、現状は最適化が行なわれておらず、以下のようにUSB3.0のHDDを接続して、簡易NAS機能を有効にした場合でも、USB2.0と明確な差が出るわけではない。
バッファローによると、チューニングを進めている最中で、今後、ファオームウェアのアップデートによって、パフォーマンスを向上させる予定とのことなので、現状はUSB3.0のパフォーマンスに過度な期待はしない方がいいだろう。
一般的な利用では不満のないパフォーマンス
気になるパフォーマンスだが、さすがにDraft 11acにはかなわないと言える。以下は、木造3階建ての筆者において、1階にWZR-900DHPを設置し、FTPによる速度を計測した結果だ。
450Mbpsでの通信が可能なクライアントが手元になかったため、バッファローから発売されているWLI-H4-D600(11ac技術採用の600Mbps対応イーサネットコンバーター)を子機として利用している。また、参考として、以前に本コラムでレビューしたWZR-1750DHPの結果も掲載しておく。
親機 | 子機 | 使用周波数帯・速度 | GET | PUT | |
WZR-900DHP | WLI-H4-D600 | 5GHz(600Mbps) | 1F | 154.25 | 267.29 |
2F | 154.06 | 236.02 | |||
3F | 116.26 | 127.26 | |||
WLI-H4-D600 | 2.4GHz(450Mbps) | 1F | 81.02 | 138.22 | |
2F | 74.95 | 98.97 | |||
3F | 20.56 | 29.48 | |||
WZR-1750DHP | 5GHz-1000BASE-T中継 | 5GHz(1300Mbps) | 1F | 190.69 | 500.37 |
2F | 169.72 | 364.7 | |||
3F | 154.25 | 283.29 |
- クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
- FTPサーバー:Synology 1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ1GB)
- 100MBのZIPファイルを転送
- 2.4GHz帯は標準で20MHz幅に設定されているため20/40MHz自動選択に変更して計測
結果を見ると、さすがにWZR-1750DHPにはかなわないが、1階の同一フロアで実行で200Mbpsを越えているうえ、3階でも5GHz帯の利用で実効100Mbpsを実現できている。正直、ここまでのパフォーマンスが出れば、一般的な利用であれば、文句はない印象だ。複数台の無線クライアントで同時に大量の通信が発生するようなケースではい限り、パフォーマンスに不満が出ることはないだろう。
続いて、ノートPC内蔵の無線LAN(VAIO Z、IEEE802.11n 300Mbps)を利用して、同じくFTPの速度を計測したのが以下のグラフだ。
親機 | 子機 | 使用周波数帯・速度 | GET | PUT | |
WZR-900DHP | Intel Advanced-N 6250AGN | 5GHz(300Mbps) | 1F | 98.97 | 163.73 |
2F | 76.37 | 111.39 | |||
3F | 67.99 | 59.4 | |||
2.4GHz(300Mbps) | 1F | 74.24 | 119.59 | ||
2F | 58.54 | 81.1 | |||
3F | 46.62 | 69.73 | |||
WZR-1750DHP | Intel Advanced-N 6250AGN | 5GHz(300Mbps) | 1F | 117.9 | 200.47 |
2F | 82.68 | 119.59 | |||
3F | 58.95 | 83.51 | |||
2.4GHz(300Mbps) | 1F | 90.12 | 148.57 | ||
2F | 56.07 | 91.11 | |||
3F | 54.18 | 67.95 |
- クライアント:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
- FTPサーバー:Synology 1512+(3TB HDD×5 RAID6、メモリ1GB)
- 100MBのZIPファイルを転送
- 2.4GHz帯は標準で20MHz幅に設定されているため20/40MHz自動選択に変更して計測
こちらは、クライアント側が300Mbpsまでとなるため、WZR-1750DHPとWZR-900DHPで大きな差は無い。最新チップ搭載による処理性能の向上などで、若干、WZR-1750DHPの値が高いが、この程度の差であれば、実用上はほとんど問題ないだろう。
最後に、ノートPC内蔵の無線LAN(VAIO Z、IEEE802.11n 300Mbps)で、iPerfの値も計測してみた。おそらく計測タイミングが異なる影響で、同一フロアで180Mbps、3階で60Mbps前後と、FTPに比べて若干低いが、こちらも、実用上十分な速度が確保できていると言えそうだ。
親機 | 子機 | 使用周波数帯・速度 | PC2→PC1 | PC1→PC2 | |
WZR-900DHP | Intel Advanced-N 6250AGN | 5GHz(300Mbps) | 1F | 182 | 185 |
2F | 150 | 134 | |||
3F | 58 | 60 | |||
2.4GHz(300Mbps) | 1F | 136 | 153 | ||
2F | 105 | 112 | |||
3F | 52 | 41.3 |
- PC1:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
- PC2:Intel DC3217IYE NUC(Core i3、128GB SSD、メモリ4GB)
- サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t10 -i1 -fm -r
今はこれで十分
以上、バッファローの無線LANルーター「WZR-900DHP」を実際にテストしてみたが、Draft 11acのような驚きこそないものの、汎用クライアントを手軽に接続できるうえ、必要十分なパフォーマンスを発揮できるため、ミドルレンジクラスの良い選択肢となりそうだ。
個人的にも、ビデオ伝送でどうしても大容量の帯域を確保したいといったような特別な使い方をしなければDraft 11acをオススメするが、そうでなく、PCやスマートフォン、タブレット、家電など、汎用的なクライアントをたくさん接続するという用途であれば、リーズナブルな本製品をおすすめしたいところだ。通信事業者などからレンタルしていたり、無料で配布された2.4GHz対応の無線LANルーターで十分なパフォーマンスが出ない状況を改善するための機器としても適しているだろう。
おそらく、今後、1~2年もすれば、ギガ対応の無線LANルーターが、よりリーズナブルな価格になってくるはずだ。それまでの間、本製品のような製品で、当面の間つなぐというのも良い選択と言えそうだ。