清水理史の「イニシャルB」
写真や動画の保存先にちょうどイイ 初めてのNASに最適なSynology「DS215j」
(2014/12/15 06:00)
Synologyから、2ベイのエントリー向けNAS「Diskstation DS215j」(以下、DS215j)が発売された。エントリー向けとは言え、ハイエンドモデルと同等のDSM 5.1搭載で豊富な機能を備えるほか、強化されたCPUによる高速な処理を実現しているのが特徴だ。「初めてのNAS」としての使い心地を検証してみた。
「そろそろNASを」と考えている人に
Synologyから新たに登場した「DS215j」は、そろそろNASを導入しようかと考えている人にうってつけの製品だ。
3万円前後(HDD別)とリーズナブルな価格ながら、CPUの強化によって高いパフォーマンス(詳しくは後述)を実現できるようになったうえ、上位モデルと同じファームウェア(DSM 5.1)を搭載することで、家庭向けながら、監視カメラソリューションやVPNサーバー、各種クラウドストレージとの同期などの多彩な用途にも対応できる製品となっている。
現状、多くの人は、写真や動画、音楽などのデータをデバイス内に保管したり、デバイスに付帯するクラウドサービスと同期させているケースが多いと思われるが、身の回りにデバイスが増え、クラウドサービスも乱立する今の状況を考えると、データが各所に散在する今の状況は、決して好ましくはない。
そこで再注目されているのがNASだ。NASと言うと、今でも、「PC向け」「ローカル向け」というイメージを持っている人が少なくないかもしれないが、最近のNAS、中でもSynologyのNASは、iOSやAndroidなどのデバイスに対応する、完成度の高いアプリが無料で提供されるうえ、OneDriveやGoogle Drive、Dropboxなどのクラウドサービスとの連携機能も搭載しており、マルチデバイス、マルチサービスの世界を統括する中心として存在感を高めつつある。
そんなSynologyのNASを、初心者でも簡単に、しかもリーズナブルな価格で導入できるのが、この「DS215j」というわけだ。
HDDを組み込みも迷わずできる
それでは、製品を見ていこう。まず、外観だが、デザインは、従来モデルのDS213jとほぼ同じで、シンプルでありながら、清潔感があり、好感が持てる。
前面にはSTATUSやHDD、LANの状態を示すLEDと、電源ボタンが配置されており、背面には冷却用の9cmファン、USB 2.0×1、USB 3.0×1、1000BASE-T対応のLAN、電源ポートが備えられている。
従来モデルのDS213jでは、背面のUSBポートがUSB 2.0×2だったが、今回のDS215jでは1ポートがUSB 3.0対応となったのが違いとなる。バックアップ用の外付けHDDを装着したり、外付けHDDに保存されたデータを高速に取り込むのに便利だ。
実際に利用するには、本体へのHDDの組み込みが必要となるが、初めてでも簡単だ。ケースを前後にスライドさせると、ケースが分割され、内部のHDDベイが姿を現す。ここにHDDをスライドさせるようにして入れ込み、背面パネル側のSATAポートに直結し、HDDの側面からネジ留めすればいい。
2ベイのDS215jの場合、基本的には2台のHDDに同じデータを保存するRAID1のミラーリングで利用することになる。このため、今回は4TBのHDDを2本装着したが、実際に利用できる容量としては、1本分の4TBとなる。
サポートされているHDDは同社のWebサイト(https://www.synology.com/ja-jp/compatibility/hd)から参照可能で、最大で6TBのHDDまで対応しているが、価格を考えると1本あたり1万円前後の3TBのHDDで構成するのがおすすめだ。
PCレスでも簡単にセットアップ
初期設定も迷うことなく実行可能だ。NASを初めて利用する人の中には、設定が難しいのではないかと心配する人もいるかもしれないが、SynologyのNASでは、PCだけでなく、タブレットなどからも設定が可能となっているうえ、設定も丁寧でわかりやすい。
例えば、iPadから設定する例を見てみよう。
1. iPadをWi-Fi接続
iPadをWi-FiでDS215jと同一ネットワークに接続する。
2. Safariからアクセス
Safariから「http://find.synology.com」にアクセスすると、ネットワーク上のDS215jが自動的に検出されるので、「接続」をタップ。
3. DSMをインストール
DS215jを動作させるためのファームウェア(DSM)をインストールする。装着したHDDのデータは削除されるので注意。
4. デスクトップ版表示に切り替え
インストールが完了すると、設定画面が表示される。モバイル版の表示では初期設定ができないので、デスクトップ版表示に切り替える。
5. アカウントを設定
DS215jを利用するためのアカウントを登録する。ここで登録したアカウントを使って、データにアクセスしたり、設定画面を表示できる。
6. 推奨パッケージをインストール
写真や動画の共有などが可能になる推奨パッケージをインストールする。インストールすると共有フォルダも自動的に作成される。
7. 利用開始
デスクトップのような設定画面が表示され、すべての準備が完了。これで使い始めることができる。
このように、SynologyのNASでは、タブレットなどを利用し、PCレスで簡単に設定することができる。もちろん、タブレットからデータの参照も可能で、「File Station」という機能を利用して、NAS上のファイルを開いたり、iPadから写真などをアップロードすることも可能だ。この手軽さは、初めてNASを利用する人には、うれしいポイントだ。
アプリを使って写真や動画を手軽に閲覧
SynologyのNASの特徴は、このようなセットアップの手軽さに加えて、ファームウェアの迅速なアップデート(新機能追加が頻繁で脆弱性対策が万全)、同価格帯のNASによりも高いパフォーマンスなどがあるが、個人的にはモバイルデバイス向けのアプリの完成度が高いことも挙げておきたい。
モバイル向けのアプリは、現状、以下の9つがある。
・DS note 文字や写真などを記録できるメモアプリ
・DS video ビデオをストリーミング再生できる
・DS audio 音楽を再生できる
・DS photo+ 写真の表示や共有ができる
・DS file ファイルの参照・アップロードができる
・DS cloud ファイルの同期ができる
・DS cam 監視カメラの映像を表示できる
・DS download ファイルのダウンロードを実行できる
・DS finder 起動やシャットダウン・監視ができる
例えば、スマートフォンやタブレットなどでは、写真を扱う機会が多いが、こういった場合はDS photo+を利用すると便利だ。
DS215jの「Photo」フォルダに保存した写真を表示したり、写真を共有したり(外部からアクセス可能なURLを送信)できるだけでなく、DS photo+をインストールしたデバイスの写真を自動的にバックアップすることが可能となっており、iPadで撮影した写真をWi-Fi経由で自動的にDS215j上にアップロードできる。
スマートフォンやタブレットの容量不足を解消するために、写真などのデータをどこかに保管しておきたいという場合、その有力な候補になるだろう。
もちろん、外出先からのアクセスも可能となっている。SynologyのNASには、「QuickConnect」と呼ばれる機能が搭載されており、あらかじめ設定した文字列を指定するだけで、外出先からアクセス先の自宅のNASを特定できる機能が搭載されている。
以前は、自宅のNASにアクセスする環境を整えるために、Dynamic DNSやルーターなどの設定が必要だったが、本製品では、これらの設定をほぼ自動的に実行できるのがメリットだ。
このほか、DS videoを利用してNASに保存された動画を再生したり、DS fileを利用してOffice文書を表示したり、DS audioで音楽を再生するといったことが、タブレットなどでも簡単にできる。
これらの機能を利用すれば、自宅内、外出先、場所を問わず、さまざまなデータを、PC、スマートフォン、タブレットなどの複数のデバイスから自在に扱えるようになる。あたかも自宅のNASをクラウドサービスのように活用できるというわけだ。
また、詳しくはDS415+のレビュー記事(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/20141028_671513.html)を参照してほしいが、DS Noteを利用することで、Evernote的にさまざまな情報をDS215j上にメモすることができる。こういったほかのNASにはない先進的な取り組みをいち早く提供してくれるのも、SynologyのNASならではのメリットだ。
マルチメディアがもっと身近に
このほか、前述したスマートフォン・タブレット向けのアプリは、ChromecastやApple TV、DLNA対応のテレビやゲーム機などと連携させることもできる。
例えば、Chromecastがセットアップされた状態のiPadで、DS audioを起動すると、「プレーヤーを選択」という画面が表示され、iPad本体で再生するか、Chromecastで再生するかを選択できる。この状態で、DS215j上の音楽を再生すれば、Chromecastを接続したテレビで音楽を楽しむことが可能だ。
また、DS photo+では、Apple TV(Chromecastは未対応)への再生に対応しており、iPadなどのデバイス上で選択した写真をAirPlayでテレビに表示することができる。
同様に、DS videoでも再生先として、Chromecast、Apple TV、DLNA対応デバイス(テレビやゲーム機)などを選択可能となっており、DS215jに保存したビデオカメラの映像などを大画面のテレビで手軽に楽しむことができる。
家族や仲間など、たくさんの人が集まったときに、音楽をBGMとしてかけたり、会話のネタに写真を見たり、ビデオをみんなで楽しめるのは大きなメリットだ。
また、マルチメディアという点では、インターネットを介した写真によるコミュニケーションも楽しめるようになっている。写真管理用の「Photo Station 6」を利用すると、ブラウザを利用してDS215j上の写真を手軽に参照できる。
撮影した写真を表示したり、タグを付けて管理したり、音楽付きのスライドショーで楽しむことができるのはもちろんだが、以下のような方法で、ほかの人に写真を受け渡しする用途にも利用できる。
a)URLを生成して送信する
写真にアクセスするためのURLを生成しメールに貼り付けたり、SNSに投稿する
b)インターネット上にアップロードする
Facebook、Picasa、Flickrなどにアップロードする
もしかすると、プライバシーが心配だという人もいるかもしれないが、写真の公開範囲は細かく設定可能となっており、DS215j上に登録したユーザーごとに自分専用のPhoto Stationを個別に利用できるほか、フォルダごとに共有するか、プライベートにするか、パスワードで保護するかを設定できる。また、設定により、管理権限を持たないユーザーにGPS情報を見せない設定も可能で、安心して利用できる。
なお、この共有に設定したフォルダは、Photo Stationにサインインしていない状態でも表示され、LAN上のユーザーはもちろんのこと、外部に公開していればインターネット上からも自由に参照できるようになっており、まるで写真用の独自Webサイトのように活用可能だ。写真を公開するだけでなく、コメントを付けてもらうことができるうえ、ブログまで公開可能となっており、DS215jの写真を起点としたコミュニケーションツールとして活用できるだろう。
パフォーマンスは予想以上
気になるパフォーマンスについてだが、2ベイの家庭向けNASとしては優秀だ。以下は、有線LANで接続したPCから、共有フォルダに対してCrystal Disk Mark 3.0.3aを実行した値だ。
シーケンシャルリードは74MB/s前後だが、ライトは100MB/sを越えており、4ベイモデルなどと遜色(そんしょく)ない値となっている。
従来モデルのDS213jで採用されていたMARVELL Armada 370(88F6707)から、デュアルコアのMARVELL Armada 375(88F6720)へとCPUが変更された恩恵と言えそうだ。
CPU強化の恩恵は、ファイルアクセスだけでなく、設定画面の表示などでも現れている。例えば、File Stationで写真をサムネイル表示する場合、処理能力が低いと表示がもたつくが、DS215jでは、枚数次第の面もあるが、比較的スムーズに表示される印象だ。
ちなみに、MARVELL Armada 375のクロックは800MHzで、DS213jの1.2GHzから低くなっている。このおかげで、パフォーマンスが向上しているにもかかわらず、消費電力はDS213jの19.82W(アクセス時)から、13.42W(アクセス時)に減っている。地味ながら、常時稼働を前提としたNASでは、この恩恵も大きいだろう。
NASでデータを整理しよう
以上、Synologyから新たに発売されたDiskStation DS215jを実際に使ってみたが、上位モデルと同じ使いやすさや豊富な機能を備えながら、エントリーモデルらしからぬパフォーマンスを実現できる優秀な製品と言えそうだ。
企業で利用するならば、RAID 5/6にも対応できるDS415+などをおすすめしたいが、個人で使うのであれば2ベイの本モデルで十分と言える。今後、4~6TBクラスのHDDが低価格化してくれば、将来的により多くの容量が必要になっても対応できる。
しかし、いつもながら同社のソフトウェアの開発能力の高さには感心させられる。ファームも、バグ対応も、追加アプリも、モバイルアプリも、常に迅速に開発され、その完成度も高い。ほかのNASにはない機能をいち早く使えるのも、Synology製品ならではの魅力だろう。