10代のネット利用を追う

これからの時代に必要なスキル――保護者がロボットスクールを選ぶわけ

 株式会社イー・ラーニング研究所が、ロボットプログラミング実習教室を展開する「ロボ団」と業務提携して運営する「フォルスロボットスクール」が開校した。レゴ社とマサチューセッツ工科大学が共同開発したロボット教育の世界標準モデル「マインドストームEV3」を使った、小学生を対象としたプログラミングスクールだ。授業の様子をレポートするとともに、保護者がこの習い事を選んだ理由を聞いた。

集中してレゴでロボット作成

 低学年コースである「J★club」の第1回レッスンの日。定員10名中、就学前の年長児が4名ほど、残りは1、2年生だ。女の子は1名で、大半を男子が占める。体験会で初めてトライして以来2回目という子のほか、全く初めて参加という子もいる。

 1回のレッスンは3時間という長丁場。最初の1時間は、レゴでロボットの担当部分を作成する。子供たちは作り方を見ながら無言で集中して作っていく。その後、2人の作ったパーツ同士を合体させる。さすが、小学生は作るのが速い。動きを進めるための「Lモーター」、壁との距離を測るための「超音波センサー」、色を見分けたり光の強さを図る「カラーセンサー」などを取り付け、ロボットの完成となる。

最適な数値を考えてプログラミング

 後半の2時間では、プログラミングを行っていく。まず、チームごとにパソコンが渡される。部屋の中央には、紙でできたコースが用意されている。コース内にはところどころ紙でできた壁があり、数回曲がらないとゴールできない迷路となっている。入り口は青、ゴールは赤、壁の前は一部黄色になっている。今回のテーマは「巨大迷路を脱出せよ!」。ロボットを迷路から脱出させるプログラムを作成することが目的だ。

 EV3プログラミングアプリを開き、画面上でプログラミングブロックをドラッグ&ドロップすることでプログラミングができる仕組みだ。プログラミングブロックには、さまざまなものが用意されている。

 プログラミングレッスンは、講師が目的に応じたプログラミングブロックをスクリーンに映し出して説明しながらドラッグ&ドロップしていき、その後、子供たちが同様に作業していくという手順を取る。プログラムが完成したらUSBケーブルでロボットに接続し、ダウンロードする。最後にコースで走らせてみて、自分たちのプログラムの成果を確かめるという流れだ。

 まずは超音波センサーを使い、「直進して壁の手前でストップする」というプログラムを組む。全体が100cmなのでそれより短い数字を入力し、壁の何cm手前で止まるのかを決める。決めるのは子供たち自身。チームの入力した数値によって、止まれずに壁を踏み越えてしまったり、壁に遠くたどり着かないチームもあった。チームのメンバーは結果を見て、数値を話し合って変更していく。

 次にカラーセンサーを使い、壁の手前で曲がれるようプログラムを組む。これらを組み合わせることで、迷路を最後まで進むプログラムが完成するというわけだ。

トライ&エラーで見事ゴール!

 完成したプログラムをダウンロードしたロボットにコースを走らせると、ほとんどのロボットがその場で回ってしまったり、止まれずに壁を乗り越えてしまったりなど、ゴールまではたどり着かない。失敗して「くそー、くそー」と悔しがっている子もいた。その後は、講師のアドバイスに従ってプログラムを修正、再ダウンロードしてまたトライ。それでも失敗したらまた修正してトライ。そうするうちに、多くのチームのロボットに進展が見えてきた。

 このときが一番盛り上がり、子供たちは「じゃあこうすればいいんじゃない?」と積極的に直してはまたトライしに行っていた。最後には大半のチームが迷路を途中までは進むことができるようになり、そのうち2チームがゴールできた。ゴールできた時には会場で拍手が湧き起こった。さすがにうれしそうな子供たちの顔が印象に残った。

これからの時代に必要な、できて損のないスキル

 参加者の保護者に、習い事としてロボットスクールを選んだ理由について聞いてみたところ、年長児の保護者は「子供がロボットを作る人になりたいと言っているから」という。ロボットを作る人に興味を持ったきっかけは「ヒーロー物が好きだからかも」とのことだが、「レゴも好きだし、(プログラミングは)できて損のないスキル。これからの時代に必要」と考えて決めた。この習い事で身に付けさせたい力は、「集中力と理系的考え方」だ。「自分が作ったものが動くとうれしそうだし、年上の子たちはうまいのでそれが刺激になるのもいい」。

 1年生の保護者は、「習い事を考えていた時に体験会のチラシを見て、なかなかない体験ができると思って参加を決めた」という。「モノにあまり執着がない子なのに、レゴも集中してやっていた。作るのは嫌いじゃない子だし、PCはゲームで使っているので」。プログラミングについては、「世の中にどんなことがあるのか知ってもらいたい。なんでもやってみて好きなものを見つける手助けをしてやりたい。子供が好きなら続けさせたい」と考えている。

 小学校で2020年度からプログラミング教育を必修化し、新学習指導要領に教える内容を盛り込むという報道がある。すでに中学校では、「技術・家庭」でプログラミングについて教えている。世の中全体がこのような流れになってきており、保護者にも「これからの時代はプログラミング」という熱意が感じられる。

ニーズが多く募集定員オーバー

株式会社イー・ラーニング研究所取締役営業本部本部長の和田直晴氏

 ロボットスクールは、対象学年で「J★club」と「S★club」に分けられる。J★clubは小学1~2年生が目安で、定員は10名。S★clubは小学3~6年生目安で、同じく定員は10名。レッスンは月2回(第1・3日曜日)で、1回につき3時間。J★clubとS★clubは、対象学年のほか、S★clubの方が難易度の高い追加課題があり、プレゼンテーション指導を行うという違いがある。J★clubは月額1万1800円、テキスト代は毎月1000円。S★clubは月額1万2800円、テキスト代は毎月1000円(価格はすべて税別)。

 カリキュラムは、1年につき24コマ72時間。ブロックの色によってロボットに指示をするプログラミング内容が異なり、上級になればなるほど、数種類のカラーブロックを組み合わせてプログラミングを行う。3、4年目ではJavaを学ぶ予定となっている。各クラス間で昇級試験があるが、定期的に補講レッスンがあり、フォロー体制が整っている。長期休みを中心にキャンプや体験イベントなどの限定イベントも予定している。

 イー・ラーニング研究所がロボットスクールを開校した理由は、「将来、社会に出てすぐに活躍できる子供たちを育てたい」(イー・ラーニング研究所取締役営業本部本部長の和田直晴氏)のが大きな理由だ。中でもロボットを選んだのは、「子供はもともとレゴに親しんでおり、作る楽しみと動く興味付けがしやすい」と考えたためだ。

 もともとの教材であるレゴマインドストームEV3は10歳以上を対象としているが、フォルスロボットスクールでは分かりやすいオリジナルテキストを用意したため、小学生1、2年生以上を対象とし、就学前の年長児も受け入れている。体験会は2日で合計4コマ開催したが、「定員40名のところ67名の応募があり、後半は断らねばならないほど」人気だったという。年齢層としては、年長児から小学校高学年までまんべんなく参加。体験会にはもう少し女子もいたそうだ。

 「これからITのリテラシーが必要だから」「面白そうなので子供がやりたがった」という保護者が多く、「ロボットプログラミング教室を探していた」という保護者もいた。「徐々に都内に出てきており、メディアなどでも取り上げられていて、そういうニーズがあることは事前調査で分かっていた」と和田氏。体験会での満足度は高く、保護者にとったアンケートでは、5点満点で「子供の様子」は4.55点、「授業内容」は4.32点だったという。

 実際に開講しての感想は、「思ったよりも子供たちの習熟が早く、意欲が高い」。一方で、時間内に終わらないことが現在の課題だ。「遅い子・早い子がいるので間に合わない時に手伝うなどして時間内に終わらせ、できるだけ多くのチームを完成に導きたい」。

 ロボットプログラミングは、プログラミングがうまくいったかどうかが分かりやすいため、子供には思った以上に取り組みやすそうだ。また、保護者におけるプログラミング教育熱が高まっていることを改めて感じた。学校でのプログラミング必修化が決定すれば、さらにプログラミング教室が登場してくることは間違いないだろう。

高橋 暁子

小学校教員、ウェブ編集者を経てITジャーナリストに。Facebook、Twitter、mixi などのSNSに詳しく、「Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本」(日本実業出版社)、「Facebook+Twitter販促の教科書」(翔泳社)など著作多数。PCとケータイを含めたウェブサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持ってる。http://akiakatsuki.com/