10代のネット利用を追う
リアル――10代向けサービス成功の鍵は「なるべく早い後追い」
「Chip!!ブログ」を運営するピーネストに聞く
10代の間に流行しているという「リアル」が、マスコミなどでも取り上げられるようになった。リアルとは、自分の現在の状況を一言コメントや画像などで身近な人たちに報告するサービスだ。特定のサービスではなく、プロフやブログなどと同様にサービスの一形式を指す。
ピーネストは、リアル専用モードを搭載した「Chip!!ブログ」や、10代に人気のホムペ作成サイト「@peps!」などを運営する会社だ。代表取締役社長の村田泰氏、プランニング事業部マネージャーの佐藤竜史氏に、リアルとは何か、その使われ方や特徴を聞いた。
●リアル=メッセンジャーのステータス?
ピーネスト代表取締役社長の村田泰氏 |
「Chip!!ブログは、ブログとしてより、リアルとして利用されるケースが多い」と村田氏は話す。Chip!!ブログはもともと、日記、リアル、ブログの3パターンから形式を選べるようになっている。サービスを始めた当初はブログが一番多いと思っていたが、実際はリアルとして使われることがほとんどだという。機能が大きく変わるわけではないが、「専用」とうたうことで、よりユーザーに使いやすくなっているのだ。
リアル専用サービスは、「ユーザーから『リアルが使いたい』という意見があり、それがもとになって生まれた」と村田氏。@peps!はさまざまな機能を持つ総合的なサービスだが、ユーザーの意見に従い、ブログだけ、リアルだけと機能を切り出したのがChip!!ブログだ。
「リアル」という言葉は、「リアルタイム中継」から生まれた。掲示板で言葉をリアルタイムに投げていくことを、ユーザーが「リアル」と名付けたのだ。「はやる前も、ユーザーは掲示板で似たようなことをしていたが、『リアル』という名称が生まれたことでより浸透したのかもしれない」と村田氏は考える。
Twitterと似ているようだが、別物だ。Twitterはフォローしている人たちのコメントが次々と連なっていくが、リアルは基本的に自分のコメントを連ねていく。また、Twitterは不特定多数に対するメッセージだが、リアルは自分の仲間内だけに対するメッセージであり、コメントは投げっぱなしでコミュニケーションはほとんどしない。いわば、メッセンジャーのステータスをこまめに「仕事中」「食事中」などと書き換えるようなものなのだ。
●メールするまでもないことをリアルに投稿
リアルの使われ方としては、「カラオケで今これを歌ってます」「テスト勉強しんどいよぉ」など、リアルタイムで状況が書かれる。中には「誰も見ていなくてもいい」という子もいる。テレビを見ながらM-1グランプリの実況中継をしている子がいて、それを見て「今△△ちゃんが暇そうだな」と電話やメールをすることにつながる場合もある。ユーザーにとってリアルは、本人の状況を記録し、知らせるツールとなっているのだ。
「メールするほどでもないことをアップしているのかもしれない」と村田氏は推測する。メールは人の時間を奪ってしまうが、リアルなら見たい人が見ればいいし、迷惑はかからない。リアルは、能動的にアクセスすれば見られる、迷惑のかからないコミュニケーションツールなのだ。
「Chip!!ブログ」(リアルとしての利用例) | 「Chip!!ブログ」(ブログとしての利用例) | 「Chip!!プロフ」 |
●ユーザーの8、9割は女子
「Chip!!」サービス紹介サイト |
Chip!!ブログのユーザーの8、9割は女子だ。そのうち7割強が10代で、メインは中・高生。中学生対高校生の割合は4対6ぐらいで、若干高校生が多い。最近は小学生も増加傾向にある。
重複があるため実数ではないが、@peps!を含めたホムペ作成サービス全般でユーザー数は1000万ID以上になる。女子中高生の総数は400万人弱といわれるため、同社のサービスのユーザー数はそれを軽く超える。村田氏は「感覚値では、他社のサービスも含めると、携帯電話を持っている女子中高生の半数以上はリアルを使っているのではないか」という。「ユーザーの利用するサービスはほとんど重なっており、2、3社のサービス間でくるくる回っているようだ」。
同社のユーザーには、ファッション誌で言えば「ポップティーン」「セブンティーン」などを読んでいたり、普段はクラブ活動をしているような普通の子が多い。部活の仲間やカップルでブログを運営しているユーザーもいる。
ユーザーは、面倒くさいことやわからないことは嫌いという傾向にある。文字はあまり読まないため、感覚でわかること、ビジュアルで訴えることが大事なのだ。そこで、サイトの作りも、感覚でわかり、ビジュアル的であることを重視している。また、ユーザーは一般的に、高校を卒業したらリアルも卒業してしまう傾向にある。「大学生やOLになると、ホムペのような限られた友だちとのコミュニケーションでは満足できなくなり、mixiなどのように不特定多数とのコミュニケーションや、より広範囲の情報を求める傾向にあるではないか」と村田氏は推測する。
ちなみに、サービスの利用はほとんどが携帯電話から。夏休みや春休みなど学校が休みの期間はアクセスが増え、ページビューは月間で40億PVに上る。テスト期間などには減る傾向にある。
●HTMLタグを利用するユーザーが増加
他社のサービスとChip!!ブログを並行して使うことも可能だ。多いのは、楽天の「前略プロフィール」とピーネストの「Chip!!ブログ」の組み合わせだ。ユーザーは、みんなが使っているものを使いたいからだ。ただし、それぞれのサービスをきちんと区別しているわけではなく、「前略をピーネストのサービスと思っていたり、逆もある。『プロフ=前略』と覚えていて、ピーネストのサービスを使っていてもプロフは『前略』と呼んでいたりする」。
一方、「ユーザーは賢くなっている」と村田氏は言う。HTMLタグを入れられる子が増えてきたというのだ。しかし、HTMLタグがわかるというより、「これをコピペすれば画像を入れたりラインを入れたりできる」ということらしい。ユーザーは「○○ちゃんがやっているから」「かっこよくしたいから」という理由で習得していくという。
●「女性向け」サービスの理由
「@peps!」サービス紹介サイト |
ピーネストが2002年に@peps!の提供を開始たころは、まだ高校生の携帯電話所持率はそれほど高くはなかった。その後、年を追うごとに少しずつ女子高生の割合が増えてきたという。ユーザーのページに飛ぶと、「黒にピンクにピカピカといった女子っぽいデザインが増えてきた」。
それまでは、女性向けアイテムを作ったら同時に男性向けアイテムも作っていたが、2005年ごろになると、日記を書く割合は女子高生の方が多くなっていた。「広告型収益のため、日記などを作ってもらわなければ収益も伸びない。そこで、日ごろから更新してくれて、時間もある10代女子に特化すべきではないかと考えた」。
@peps!を女子高生向けにリニューアルし、トップページデザインも女性向けにしたところ、男子ユーザーから「トップに『女性向け』と書かないでくれ」という意見も寄せられたという。
@peps!やChip!!ブログでは、デコメ絵文字もアップできる。デコメ絵文字はいわば小さい画像の連続なので大人は普通利用しないが、女子中高生にとっては普通の絵文字やテキストメールと変わらないのだ。「女子中高生に感覚を合わせて運営するのは難しい」と村田氏は語る。
同社のサービスは口コミで広がっており、宣伝はしていない。どのサービスを使うかは、学校の友だち同士(グループ)の核になる子が選んでいるようだという。グループのリーダー的存在の子が使っているサービスが、グループの中に浸透していくのだ。
●見に来てほしいが、見に来てほしくない子どもたち
リアルは、インターネット上のサービスのため、基本は誰でも見られるようになっている。しかしユーザーは「誰からも見られてしまう」ことがわかってないという。
「ユーザーは、リアルをアップすることに抵抗はないが、個人情報を企業に渡すことの恐怖心は持っている」と村田氏は指摘する。ホームページやリアルの上などでは簡単に個人情報を出してしまう一方で、入会する時にサイトに個人情報を登録することは怖いと感じているのだ。そして、「メールアドレスがわかると名前がわかるんだよ」といったデマを信じている子もいる。
ユーザーが退会する理由には、「誰も来ないから」「変な人が来るから」の両方があるという。好きな人には来てほしいけれど、特定の人には来てほしくないというジレンマがあるのだ。そこで、ユーザーの要望によりパスワードで閲覧者制限ができる「閲覧パス機能」を用意した。最近は、この機能を利用してパスワードをかけている子は多い。
リアルにはコミュニティ要素がないため、知らない人とつながるケースは少ない。「トップページでは年齢や性別で検索がかけられるようになっているが、あまりアクセスはない」という。「ユーザー自身には、(知らない人の情報を)知り合いたいというニーズ自体が少ないのかもしれない。現実(リアル世界)の友だちと、つながっていたいという気持ちの方が強いのかもしれない」。
●ご意見箱の意見を大事に
プランニング事業部マネージャーの佐藤竜史氏 |
ピーネストの「ご意見箱」には、ユーザーから1日300件あまりの意見や感想が寄せられてくる。「使い方を教えてほしい」という要望や機能のリクエスト、感想が大半だ。しかし、同社ではこの意見を大切にしている。例えばユーザーから「吹奏楽部なのでトランペットの壁紙を作って」という要望が来たことがあり、こうしたリクエストをなるべく反映させるようにしているという。リアルというサービスにしても、ユーザーからご意見箱に寄せられた意見から生まれた。
「ユーザーは2005、2006年ぐらいから『ホムペ』という言葉を使っていた」と村田氏は言う。@peps!が生まれたのは2002年。それまでは「ホームページ作成サービス」とうたっていたが、ユーザーが「ホムペ」と言うので「ホムペ作成サービス」とうたうようになった。その結果、いつの間にか「@peps!=ホムペを作るサービス」として浸透していったというわけだ。これも、ユーザーの声を聞いた例の1つと言えるだろう。
●フィルタリングの影響とその対応
未成年者の利用する携帯電話は原則フィルタリング加入となったが、村田氏いわく「影響は若干あるように感じる」。
フィルタリングの対象サイトにならないための対策も進めている。禁止ワードはハード的なシステムで入力できないようにし、文脈によって意味が変わるグレーな言葉は目視で判断している。「リアルタイム削除は無理なので、書き込みから12時間以内には削除できるよう対応していきたい」。
「何をもって10代の健全性を守ることになるかにポイントを置きたい」と村田氏は語る。通常の会話から生まれる冗談まじりの「バカ」という発言であれば問題はないが、本当に心を傷つけるような誹謗中傷や、自殺に追い込むようなイジメ的なことは絶対になくさなければいけないと考えているのだ。そのためには禁止ワードを削除するだけではなく、それが続くならユーザーのページ自体を閉鎖する措置も行っているという。「閉鎖してもまた作られるいたちごっこになることが考えられるが、繰り返すことでユーザーがそのような行動に飽きてくれれば」。
●「なるべく早い後追い」が成功の秘訣
ピーネストが運営する主なサービス(同社エントランス) |
「今後はポータル化を考えている」と村田氏。ユーザーが高校を卒業するとともに同社のサービスからも卒業してしまっているからだ。そこで検索サイトやポータルサイトとして情報提供もしたいと考えているが、そこには同社ならではのこだわりがある。ユーザー層がはっきりしている同社では、検索ひとつとっても、あたりまえな検索結果を表示するのではなく、女子が求めるような検索結果を表示するように考えている。
そのほかには、Wikipediaの女子版「女子pedia」的な構想もある。女子が疑問に思うことに、男性や年上が答えるのではなく、女子が同じ目線で答えを返してくれるようなものを作りたいという。「女の子が過ごしやすい、携帯電話で楽しむ場の提供をしていきたい。女の子の会員を多く抱えているというのがピーネストの強み。ピーネストだけで実現できないようなことは、その分野を得意とする他社さんと協力して実現していければいい」。
村田氏は「HTMLタグを使ったり、入力するスピードが速くなったりと、ユーザーは今後もっと賢くなる」とみている。現に大人が考えている以上に、子どもたちのモバイルリテラシーは向上しているのではないかという。ネットに対する危険意識などにも理解が高まっているようだ。
佐藤氏は「リアルの次はまだ出ていない」と語る。1000個の好きなものをひたすら書いていく「1000 love」が流行ったこともあるが、「1000 loveを機能に追加してくれ」という要望があったのは一瞬だったという。「リアルで済むことなので、なくてよかったのかもしれない」。このほか、「歌詞画」が流行ったこともある。写真に歌詞を書き込むもので、2008年の夏ごろにブームが来ていた。歌詞画コンテストにはたくさんの応募があったという。
流行のサイクルは短い。その中でリアルが生き残り、全国に広まり、1つの機能として追加されるまでになった。「リアルを機能として取り込んだのはピーネストが最初だったかもしれない。いいタイミングだった」と村田氏は語る。一度作った機能を消すことはできないため、機能として取り入れるタイミングは難しい。今後も“なるべく早い後追い”を目指す」。
リアルは、短い流行で終わるのだろうか。それとも、今後も続く女子中高生におけるTwitter的存在になるのか。少なくとも、ユーザーのコミュニケーションの形が、時とともに少しずつ変化していることを感じる。今後も、ユーザーの子どもたちの声の中から新しいコミュニケーションが生まれてくるのかもしれない。
関連情報
2009/6/18 11:00
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