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10代のネット利用を追う

携帯フィルタリングは「ホワイトリスト」推奨〜警視庁に聞く


 4月1日、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(青少年ネット環境整備法)」が施行されたが、法律が成立するまでの騒ぎに比べ、施行時には特に大きな動きが見られなかった。そんな中、警視庁は都内の公立学校の入学式に合わせて子どもの携帯電話利用に関して注意喚起を行ったり、その後も携帯電話事業者や大手コミュニティサイトに対して協力依頼するなど積極的な活動を展開している。

 警視庁生活安全部少年育成課少年相談係の岡部享市主査、生活安全部管理官・少年育成課課長代理(少年育成担当)の篠田耕治警視、生活安全部少年育成課少年規範係長の高橋渡警部に、実際に寄せられている子どもの携帯電話利用に関する被害・相談事例や、安全・安心なインターネットの使い方についての同庁の考えを聞いた。

携帯からのネット利用がきっかけで、子どもが性的被害に

警視庁

 警視庁がまとめた報告書「出会い系サイト等を利用した福祉犯事件の検挙状況等」によると、2008年中における福祉犯事件(性的被害事件)の検挙件数・人員は158件・157人で、前年と比べて5件・2人減少。被害に遭った子どものうち、出会い系サイトなどインターネットサイトの利用がきっかけで被害に遭ったのは130人に上り、そのうち128人(98.5%)が携帯電話からインターネットを使っていたことがわかっている。

 その中には、携帯電話の出会い系サイトで知り合った14歳の女子中学生とわいせつな行為をし、その様子をビデオで撮影した上、後日「金を払わなければビデオをネットにばらまく」とメールを送り付け、現金2万円を脅し取った警備員を、児童買春・児童ポルノ禁止法違反および恐喝で検挙した事件などがある。

 ちなみに、出会い系サイトの利用によって引き起こされる児童買春などの犯罪から児童を保護する目的で制定された「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律(出会い系サイト規制法)」は、2003年に施行された。

警視庁に寄せられる少年問題の相談、最近では携帯絡みのトラブルも

 岡部氏は、少年問題についての相談を受ける心理の専門職だ。相談は、面接のほか、警視庁のWebサイトや電話による「ヤング・テレホン・コーナー」経由で寄せられる。相談は中高生やその保護者からが多く、最近では非行や不登校、いじめなどの相談に混じって、携帯電話絡みの相談も寄せられるようになってきた。

 少年育成課と都内8カ所にある各少年センターで受けた面接相談は、2008年中は638件。相談は、各警察署の少年係でも受け付けており、それも合わせると1916件に上る。そのうち、携帯電話絡みの相談は218件だった。

 一方、「ヤング・テレホン・コーナー」で受理したのは6095件で、そのうち携帯電話絡みは270件。電話での相談は、不正請求に関するものが多く、270件のうち112件が不正請求に関する相談だった。そのほか、誹謗・中傷が55件、チェーンメールが14件あった。チェーンメールには流行り・廃りがあり、多い時にはまとめて相談が寄せられるという。

 ちなみに不正請求とは、登録した覚えの無いサイトや無料と思って利用していたサイトから料金を請求されたり、有料と認識していたが不当に高い料金を請求されるトラブルを指す。岡部氏は、こうした不正請求に関する相談に対しては、どのような行動をしたら請求が来たのかを必ず確認しているという。無視していいものがほとんどだが、中には契約が成立してしまっているものもあるからだ。不正請求の相談者に多い中高生の男子は性への関心が高く、年齢などを偽ってアダルトサイトに登録してしまっている場合もある。「アダルトサイトにアクセスできてしまうのは、フィルタリングに入っていないから。身を守る上でフィルタリングは大事」と岡部氏は言う。

ネットでの出会いに対して警戒心が薄い子どもたち

警視庁生活安全部少年育成課少年相談係の岡部享市主査

 最近は、出会い系サイトがきっかけとなった被害よりも、コミュニティサイトやプロフィールサイト、ゲームサイトなどで知り合い、福祉犯罪(性犯罪)被害に遭うケースが目立つという。出会い系サイトは、出会い系サイト規制法によって買春交渉などの書き込みが削除・規制されている一方、コミュニティサイトやゲームサイトなどではメールや掲示板でのやりとりが見えにくいからだ。

 岡部氏は、「子どもたちは、コミュニティサイトやゲームの中で話が合う人と直接会っている。バーチャルな世界の友達と現実世界の友達の区別がなかなかできない」と説明する。子どもは「知らない人は危険」という意識が弱く、メールのやりとりだけで信用してしまう傾向にあるためだ。保護者が子どもの行動に気付いて相談に来たり、子ども本人から「ネットで出会った人に脅されている」などの相談も寄せられるという。

 警視庁が2008年7月、携帯電話を保有している中学生2256人に意識調査した結果よると、「ネット上の見知らぬ人にメールを送る」経験があったとした中学生が7.1%いたほか、「悩み事相談をする」が4.2%、「異性の友達を作る」が2.9%、「実際に会う」が2.6%いた。このほか、「ネットで知らない人と知り合えるのは楽しい」が19.2%、「メールでやりとりをすれば相手が信用できることがわかる」が10.9%、「気が合えば実際に会ってみたい」が8.6%、「学校の友達よりネットの方が話しやすい」が6.5%となっている。

 「見知らぬ人への警戒心を教えることが大切。ネットの書き込みは簡単に信じないこと、知らない人のメールは相手にしないこと、他人を傷付けることは書かないこと、パスワード管理に注意することなど、情報リテラシーを身に付けさせる必要がある。」(岡部氏)

 岡部氏はまた、「他人とリアルなコミュニケーションがとれている子はネットでの見知らぬ人への接触に気を付けているが、そうではない子は警戒心が薄い」とも指摘する。親子でコミュニケーションがとれていれば、「見知らぬ人は簡単に信用してはいけない」と教えることができる。保護者や先生たちは子どもとできるだけコミュニケーションを深め、大人の考え方や常識を教えることが大事なのだ。

現実世界でコミュニケーションの場がない子が危険

「ヤング・テレホン・コーナー」の案内ページ

 世間を騒がせたネット上の犯行予告が実は子どもによるものだったケースもよくあるが、岡部氏によると、「犯行予告は周りに友達が少ない子がやっていることが多いように思われる」という。誰もがストレスを抱えているものだが、実生活で表現する場があれば、そこで発散できてしまうものだ。しかし、現実世界で表現の場がない子の場合、ネットの中で犯行予告などをしてしまうというのだ。「そのような子たちには、現実世界で人との関係を作ったり訓練したりすることが必要。実生活の中でコミュニケーションが持てる対象や場がない子は危険」(岡部氏)。

 また、「最近は友達と遊ばない子が増えており、コミュニケーション能力が低くなってきている」と岡部氏は指摘する。いわゆる“ギャングエイジ”である小学生のころに、子どもは仲間と遊ぶことでコミュニケーションに必要な多くのことを学ぶものだ。しかし、最近の子どもたちはその時期に友達と遊んでおらず、ゲームをしたりテレビを見て過ごしている。気持ちを伝えたり、仲間意識を持つということを学ばないまま、中学生や高校生になってしまっている。人は殴ってはダメといったことを理解したり、殴ると痛い、約束を破ると嫌な気持ちになる――などの経験が、以前と比べると圧倒的に少ないのだ。

 「相手に気を遣いながら生活することはつらくて苦しいこともあるが、バーチャルな世界では相手を気にしないでいられるため、ネットは楽なコミュニケーションツールとなる。ネットでの誹謗・中傷問題の背景にも、そういうことがあるのかもしれない。」(岡部氏)

携帯キャリアやSNS運営会社へ「協力依頼」

 警視庁は4月17日、携帯電話キャリア5社と、この5社などが加盟する社団法人電気通信事業者協会に対し、子どもの携帯インターネット利用に関して協力を依頼した。出会い系以外のコミュニティサイトにおいて、運営者の監視の目をくぐり抜け、子どもの福祉犯罪被害が多く発生していることに留意してほしいということ。また、青少年ネット環境整備法の施行を受け、携帯電話の販売時に18歳未満が使用するとの申し出があった場合は、フィルタリングについて保護者への説明を徹底してほしいといった内容だ。

 さらに4月30日には、SNSの「mixi」や「モバゲータウン」など、会員数が公称100万人以上いる影響力の大きい大手コミュニティサイト事業者8社に対しても協力依頼を行った。こうしたサイトの運営者は、青少年ネット環境整備法でいうところの「特定サーバー管理者」に該当するとして、年齢確認の厳格化などで、子どもが有害情報を閲覧できない措置をとるようお願いした。

 青少年ネット環境整備法では、特定サーバー管理者は、「青少年に有害な情報の発信が行われたことを知ったとき、または自ら青少年に有害な情報の発信を行う場合には、青少年による閲覧ができないようにするための措置をとることが努力義務」と規定されている。警視庁では8社に対して、この点を十分に確認するよう「念押し」したのだ。「協力を依頼した事業者からは、今後の取り組みについて中間報告を受けている」という。

 「出会い系サイトに対しては、出会い系サイト規制法があるために取り締まりができるが、青少年ネット環境整備法には罰則がないため、同法に基づいて特定サーバー管理者を取り締まることはできない」(篠田氏)。そこで警視庁としては、あくまで「努力義務」という点を訴えることで啓発活動に励んでいるのだ。

携帯フィルタリング、警視庁は「ホワイトリスト」推奨

 警視庁では2006年暮れ、「2007年はフィルタリング元年であり、フィルタリングの普及・徹底が最重要課題」という認識をいち早く示し、2007年1月には全国に先駆け、フィルタリングの推進に関する通達を各警察署長に出した。その際、フィルタリングの必要性を保護者らに説明するために制作したのが、「携帯電話と子ども達」というパンフレットだ。企業が作るパンフレットとは違い、実際の有害サイトの画面を掲載しているのが特徴で、その後も毎年改訂している(2009年版は「ケータイ・インターネットと子供たち」という名称)。


警視庁が制作しているパンフレット(左から2007年版、2008年版、2009年版)

 さらに2009年4月、青少年ネット環境整備法の施行を受け、警視庁と内閣府はフィルタリングを浸透させるための取り組みとして、学校の新学期開始に合わせ、保護者らに注意喚起する計画を立てた。警視庁、東京都、東京都教育委員会の3機関連名で「保護者の皆さん、子供の携帯にフィルタリングはついていますか!」と題したチラシを作成。都内のほとんどの公立学校で入学式が行われた4月7日、約2000校あるうち60校へ出向き、チラシを配布して説明した。このチラシは、そのほかの公立学校や私立学校でも保護者会などの場で配布しているという。

 このチラシでは、携帯電話が本当に子どもに必要なのか問いかけるとともに、それでも使う場合には、購入時にフィルタリングを適用するよう呼び掛けている。また、フィルタリングには、「ホワイトリスト」方式と「ブラックリスト」方式があることも解説。学習サイトなどの優良サイトのみにアクセスできる「ホワイトリスト」方式は安心だが、「ブラックリスト」方式は、子どもにとって危険性のあるプロフィールサイトやコミュニティサイト、ゲームサイトなどにもアクセス可能であると解説している。

 「保護者は2つの方式があるのをよく知らずに、フィルタリングのかかった携帯電話を子どもに渡して安心している。ブラックリスト方式は、フィルタリングをかけない状態とイコールではないが、危険性のあるサイトにアクセスしてしまう可能性があるという点では同じなのだということを伝えたい。警視庁、東京都、東京都教育委員会は一致してホワイトリスト方式を推奨している。」(高橋氏)


警視庁、東京都、東京都教育委員会の3機関連名で作成・配布しているチラシ「保護者の皆さん、子供の携帯にフィルタリングはついていますか!」より 警視庁のサイトにも「ケータイ・インターネットと子とも達」というページがあり、統計データや有害サイトの画面写真など交えて詳しく説明している

 高橋氏によると、数日前にも「フィルタリングって何ですか?」という問い合わせの電話が保護者からあったとし、「まだまだ浸透していないのを感じる」という。

 「子どもにも、保護者にも、先生にも、事業者にも、警察はモノを言うべきところには全部言う。直接の許認可主管官庁かどうかに関係なく、危険が予想されるところにはすべて首を突っ込んで『危ない』と言う。学校の先生が言いづらかったり、知らなかったりするなら、警察が代わりに保護者に対して説明するので、その場を提供してほしい」(高橋氏)。最近は知識のある先生も増えてきたが、被害の実態や取り締まり現場のことはわからない。しかし警視庁であれば、「そういう被害が増えているらしい」ではなく、「実際にそういう被害があった」と言えるため、説明をする効果が高いのだ。

公立校に出向いて実施する「セーフティー教室」でも携帯問題の波

 警視庁では、非行・犯罪被害防止教育の一環として「セーフティー教室」というものを、2004年から公立の小・中・高等学校で実施している。2008年には1576件実施し、68万7000人が受講した。

 「セーフティー教室」には、保護者も参加することになっている。まず子ども向けの授業を見てもらい、その後に保護者向けの第2部を開催する流れだ。ちなみに、「セーフティー教室」に決まったテーマはなく、学校ごとにテーマを決めている。小学校では連れ去り防止をテーマにすることが多いが、中学・高校ではインターネットや携帯電話の使い方や危険性を教えてほしいという要望が多く、そのようなテーマが主流になってきているという。

 警視庁のスタンスは「携帯電話は学用品ではないので、子どもに買い与える必要はない」というものだ。携帯電話は防犯グッズであるという認識があるが、「携帯電話では被害は防止できない」ためだ。

フィルタリングをかける大切さ、外すことの危険性

 最後に、岡部氏に、携帯電話の安全・安心な使い方について保護者へのアドバイスを聞いた。

 「フィルタリングをかけることが大切。子どもが外してほしいと言っても、大人が危険であるという知識を持ち、子どもに示すことが重要。フィルタリングをかけることは自分を守ることだと説明してほしい。」

 このほか、インターネット上に出てしまったデータは消えることがなく、回収できないといったことも、大人が知っていることが大切だという。また、家庭の中で携帯電話の利用ルールが決まっていないところが多いが、何時まで使ってよいか、個人情報は書き込まない、人を傷付けるようなメールは送らないなどのルールを決めることも大切だとした。

 携帯電話は楽しいが、危険も多く、扱いが難しいものだ。フィルタリングをかけるということは、子どもの身を守る1つの方法なのは間違いない。対策がきちんとできなければ、今後、規制は増えていくだけだろう。そうならないためには、周囲の大人の意識や関心が重要であると感じた。


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2009/7/16 11:00


高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人” が関わるネット全般に興味を持っている。
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